2020(03)
■恋愛観のミスマッチ
++++
「ふえっ……え~…! ち~い~! うわあーん! モスコミュ~ル~…!」
「あずさ、悲しいのはわかるけどあんまり飲み過ぎないでよ」
「ぐすっ、ぐすっ」
店に駆け込むなり、あずさはぐすぐすと泣き始めた。事情を聞けば、どうやら朝霞と別れたらしい。5月末から付き合い始めたあずさと朝霞だったけど、付き合ってるのに付き合ってるような感じじゃない、友達だった頃と何ら関係が変わらないというのがあずさの悩みでもあった。
端的に言えば、あずさはよくある男女交際の、手を繋いでキスをして、その先へっていうスキンシップの段階を踏みながら関係を深めて行って、ラブラブいちゃいちゃ。……っていうのを想像してたみたいなんだよね、男の人と付き合うっていうのを。……正直、相手が悪すぎる。
「ねえちー、あたしってそんなに魅力ない?」
「そんなことはないよ。あずさは優しいし、一緒にいるとホッとするし」
「そうじゃな~い~、あの手この手を尽くしても手を出されないのはどういうこと~っていう~」
「それはあずさに魅力がないとかじゃなくて、朝霞がそういう人だってだけの話でしょ。そもそも、付き合う前にそういう人間ですって利用規約の提示はあって、それに同意した上で付き合い始めたんでしょ?」
「本当にラブラブいちゃいちゃがここまでないとは思わないじゃん!」
「いや、一般的な付き合いにおけるラブラブいちゃいちゃがないから特筆したんでしょ朝霞は」
「でも、押し倒さなきゃしてくれないって! あたしがよっぽどがっついてるみたいじゃん!」
この2人の関係を知っている人からすれば、常日頃から朝霞があずさの……と言うか女心をわからなさすぎるって言うんだけど、俺の見方は逆。確かに朝霞はあずさの気持ちには鈍い。だけど朝霞は朝霞なりにあずさのことを考えているし手は尽くしている。だけど、合致してないだけで。
……それを「わかってない」っていうのか。そもそもあずさはどんな朝霞の事が好きだったのかっていう話で。あずさの求めるラブラブいちゃいちゃっていうのをしてくる朝霞は果たしてあずさの好きな朝霞なのかっていう話ではある。絶対こんなんじゃないって気持ち悪がると思うよ。
「よう千景。今日は店番か」
「あっ、塩見さん。いらっしゃいませ」
「……どうしたあずさ、泣いてんのか」
「し~お~み~さぁ~ん! 聞いてくださいよ!」
「塩見さん、ほどほどでいいですよ」
「千景、ジントニック」
あずさは、隣に座った塩見さんにこれこれこういう……と話し始めた。朝霞と別れたことや、自分が勢いで別れると宣言してしまったことに対する後悔だったり。だけど、その宣言に対して何もなく了承されたことにもショックを受けているとのこと。振ったのは自分なのに、振られたみたいな。
その話に対してあまり口を挟むでもなく淡々と話を聞く塩見さんだ。塩見さんという人と恋愛相談というのが俺の中ではあまり結び付かないのだけど、年長者だしその分の人生経験とかで、この場はあずさの気を紛れさせてくれればと。
「別れるって言っても引き留められなかったんですよ~、あたしは好きなのに~、別れたことになっちゃって~!」
「まあ、アイツはお前から愛想尽かされたと思ったんだろ。愛想尽かされる理由に心当たりがあって、お前の気持ちを尊重した結果の返事だったんじゃねえか」
「ち~が~う~の~に~!」
「朝霞に嫌よ嫌よも好きのうちとか、そういうのは通用しないから。聞いてる話だと、結構な剣幕で別れるって言ったんでしょ? そりゃ朝霞じゃなくても「そっか……嫌だったんだな」ってなっちゃうよ」
「違うのに~」
「違わない」
「ちーが厳しい!」
「朝霞相手の恋愛ってそういうことだよ。朝霞相手じゃなくても、一般的な恋愛観や自分の思い込みだけじゃ上手くいかないよ。それをお互い話し合うなり何なりして意思を確認して、尊重し合わなきゃ。あずさたちはそれが出来なかったから上手くいかなかったの」
「千景、なかなか言うじゃねえか」
まるで説教染みちゃって、自分もそこまで経験があるワケじゃないのにいかにもらしいことを言っちゃってることには反省もしつつ、それを塩見さんに聞かれているというのはかなり恥ずかしい。まあ、会社でそういうことを話す人じゃないとは分かっているけど。
「あたし、塩見さんの恋愛の話も聞きたいです! 大人の人だし、もっといろいろ達観してるんじゃ」
「期待に沿えなくて悪いが、恋愛なんかしてる余裕のある人生じゃなかったからな」
「え、そうなんですか?」
「生きるだけで精一杯だ。身寄りを無くしてからはその日の飯にありつくのがやっとで」
「塩見さんて、だからちーに優しいんですか? ちょっと似てるから」
「そういうワケでもねえ。ただ、俺が愛だ恋だ言えるようになるのは、俺が何者であるかがはっきりしたこれからだ。ま、伴侶がどうとかっていうイメージはまだ持てないし、しばらくは1人を謳歌してるのが楽でいいな。仕事と趣味で忙しいし」
「そっか、社会人になったらまた変わるんだ」
「参考になります」
「ま、よっぽどヨリを戻したきゃそのように動けばいいし。アイツの返事に納得してやるっつーんなら、また次頑張れ」
ヨリ……戻るの? とあずさは頭を抱えている。だけどなるようにしかならないし。そうしたいって言うなら俺は応援するだけだけど。そっか、半年もたなかったか。理想と現実って難しいねと改めて思う。恋愛に限らず、人のあることだから。
end.
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ちーちゃんがどこぞの愛の伝道師サマよりそれらしいことを言っているなど。って言うか伝道師さんフェーズ1でもそんな仕事してなくね?
そんなことより朝霞Pとふしみんは上手くいかなかったようですね。この手の話でちーちゃんは自分の味方じゃないってPさんは言ってたけど、Pさんのフォローもしてますね
塩見さんの恋愛云々についてはもうしばらく先そうですね。家庭を持つより1人で趣味を楽しむ暮らしが今はピッタリなようです
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「ふえっ……え~…! ち~い~! うわあーん! モスコミュ~ル~…!」
「あずさ、悲しいのはわかるけどあんまり飲み過ぎないでよ」
「ぐすっ、ぐすっ」
店に駆け込むなり、あずさはぐすぐすと泣き始めた。事情を聞けば、どうやら朝霞と別れたらしい。5月末から付き合い始めたあずさと朝霞だったけど、付き合ってるのに付き合ってるような感じじゃない、友達だった頃と何ら関係が変わらないというのがあずさの悩みでもあった。
端的に言えば、あずさはよくある男女交際の、手を繋いでキスをして、その先へっていうスキンシップの段階を踏みながら関係を深めて行って、ラブラブいちゃいちゃ。……っていうのを想像してたみたいなんだよね、男の人と付き合うっていうのを。……正直、相手が悪すぎる。
「ねえちー、あたしってそんなに魅力ない?」
「そんなことはないよ。あずさは優しいし、一緒にいるとホッとするし」
「そうじゃな~い~、あの手この手を尽くしても手を出されないのはどういうこと~っていう~」
「それはあずさに魅力がないとかじゃなくて、朝霞がそういう人だってだけの話でしょ。そもそも、付き合う前にそういう人間ですって利用規約の提示はあって、それに同意した上で付き合い始めたんでしょ?」
「本当にラブラブいちゃいちゃがここまでないとは思わないじゃん!」
「いや、一般的な付き合いにおけるラブラブいちゃいちゃがないから特筆したんでしょ朝霞は」
「でも、押し倒さなきゃしてくれないって! あたしがよっぽどがっついてるみたいじゃん!」
この2人の関係を知っている人からすれば、常日頃から朝霞があずさの……と言うか女心をわからなさすぎるって言うんだけど、俺の見方は逆。確かに朝霞はあずさの気持ちには鈍い。だけど朝霞は朝霞なりにあずさのことを考えているし手は尽くしている。だけど、合致してないだけで。
……それを「わかってない」っていうのか。そもそもあずさはどんな朝霞の事が好きだったのかっていう話で。あずさの求めるラブラブいちゃいちゃっていうのをしてくる朝霞は果たしてあずさの好きな朝霞なのかっていう話ではある。絶対こんなんじゃないって気持ち悪がると思うよ。
「よう千景。今日は店番か」
「あっ、塩見さん。いらっしゃいませ」
「……どうしたあずさ、泣いてんのか」
「し~お~み~さぁ~ん! 聞いてくださいよ!」
「塩見さん、ほどほどでいいですよ」
「千景、ジントニック」
あずさは、隣に座った塩見さんにこれこれこういう……と話し始めた。朝霞と別れたことや、自分が勢いで別れると宣言してしまったことに対する後悔だったり。だけど、その宣言に対して何もなく了承されたことにもショックを受けているとのこと。振ったのは自分なのに、振られたみたいな。
その話に対してあまり口を挟むでもなく淡々と話を聞く塩見さんだ。塩見さんという人と恋愛相談というのが俺の中ではあまり結び付かないのだけど、年長者だしその分の人生経験とかで、この場はあずさの気を紛れさせてくれればと。
「別れるって言っても引き留められなかったんですよ~、あたしは好きなのに~、別れたことになっちゃって~!」
「まあ、アイツはお前から愛想尽かされたと思ったんだろ。愛想尽かされる理由に心当たりがあって、お前の気持ちを尊重した結果の返事だったんじゃねえか」
「ち~が~う~の~に~!」
「朝霞に嫌よ嫌よも好きのうちとか、そういうのは通用しないから。聞いてる話だと、結構な剣幕で別れるって言ったんでしょ? そりゃ朝霞じゃなくても「そっか……嫌だったんだな」ってなっちゃうよ」
「違うのに~」
「違わない」
「ちーが厳しい!」
「朝霞相手の恋愛ってそういうことだよ。朝霞相手じゃなくても、一般的な恋愛観や自分の思い込みだけじゃ上手くいかないよ。それをお互い話し合うなり何なりして意思を確認して、尊重し合わなきゃ。あずさたちはそれが出来なかったから上手くいかなかったの」
「千景、なかなか言うじゃねえか」
まるで説教染みちゃって、自分もそこまで経験があるワケじゃないのにいかにもらしいことを言っちゃってることには反省もしつつ、それを塩見さんに聞かれているというのはかなり恥ずかしい。まあ、会社でそういうことを話す人じゃないとは分かっているけど。
「あたし、塩見さんの恋愛の話も聞きたいです! 大人の人だし、もっといろいろ達観してるんじゃ」
「期待に沿えなくて悪いが、恋愛なんかしてる余裕のある人生じゃなかったからな」
「え、そうなんですか?」
「生きるだけで精一杯だ。身寄りを無くしてからはその日の飯にありつくのがやっとで」
「塩見さんて、だからちーに優しいんですか? ちょっと似てるから」
「そういうワケでもねえ。ただ、俺が愛だ恋だ言えるようになるのは、俺が何者であるかがはっきりしたこれからだ。ま、伴侶がどうとかっていうイメージはまだ持てないし、しばらくは1人を謳歌してるのが楽でいいな。仕事と趣味で忙しいし」
「そっか、社会人になったらまた変わるんだ」
「参考になります」
「ま、よっぽどヨリを戻したきゃそのように動けばいいし。アイツの返事に納得してやるっつーんなら、また次頑張れ」
ヨリ……戻るの? とあずさは頭を抱えている。だけどなるようにしかならないし。そうしたいって言うなら俺は応援するだけだけど。そっか、半年もたなかったか。理想と現実って難しいねと改めて思う。恋愛に限らず、人のあることだから。
end.
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ちーちゃんがどこぞの愛の伝道師サマよりそれらしいことを言っているなど。って言うか伝道師さんフェーズ1でもそんな仕事してなくね?
そんなことより朝霞Pとふしみんは上手くいかなかったようですね。この手の話でちーちゃんは自分の味方じゃないってPさんは言ってたけど、Pさんのフォローもしてますね
塩見さんの恋愛云々についてはもうしばらく先そうですね。家庭を持つより1人で趣味を楽しむ暮らしが今はピッタリなようです
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