2020(03)
■片手で足りる将来のイメージ
++++
「うーす。よう宮ちゃん」
「あっ、高崎クンおはよ。どうしたの、学生課なんかに」
「フィールドワークで遠出しようと思ってんだけど、さすがにビッグスクーターじゃ間に合わない距離でよ。新幹線使うのに学割貰いに来た」
「箱物嫌いの高崎クンが、とうとう観念したか」
「火曜日には絶対こっちに戻って来なきゃいけねえのがなかなかしんどいな。二輪で一筆書きとか結構夢だったんだけど」
秋も深まり、俺は卒論も追い込みの時期を迎えていた。本格的な冬を迎えると二輪で行けない場所の方が増えてくるし、その頃にはフィールドワークではなく論文をまとめなければならない。遠出するのは精々今月一杯だと決めていた。
フィールドワークをするに当たり、FMにしうみでの番組がある火曜日には必ず戻らなければならないというのがネックになっていた。俺は本来旅行も兼ねてもっとゆっくり現地にいたかったのだが、ラジオも実証実験の一環だしサボれない。
そこで俺は、乗り物酔いをするというリスクを抱えた上でとうとう新幹線を使うことに決めた。俺自身の体調と引き替えに時間を金で買うという感覚でいいだろう。大学生であれば学割を使うことも出来るし、金ならある。
「そっか、学割か。うちイベントで遠出する割にあんま使わないや、車あるから」
「そうだよな。つかお前はこんなトコで何やってんだ」
「やらなきゃいけない手続きっていうのがありまして、その書類を貰いに来たの」
「手続き?」
「ふっふーん。この度、私宮林慧梨夏は正式に伊東慧梨夏になりまして」
「マジで籍入れたか!」
「そう、記念日にね。だけど大学生活はあと何ヶ月とかでしょ? 大学に関してはあらゆる物の名字を変える手続きより旧姓を使いますって手続きの方が簡単だから、そっちにしようと思って。免許とかはすぐ伊東慧梨夏にしてきたんだけどね」
「へえ、そんな制度もあるんだな。おい、時間あるか。カフェでも行こうぜ」
「話を聞きたいと見た」
近くのカフェに移動して、話の続きを始める。伊東と宮ちゃんが正式に籍を入れて結婚した、というところからだ。まあ、どうせ結婚するなら就職してからよりも在学中の方がいろいろ手続きがめんどくさくないとは聞いたこともある。
「て言うか高崎クン、ホントに高いケーキ頼んじゃったよ。いいの?」
「ささやかだけど、仮の結婚祝いな」
「ありがと」
「記念日に籍を入れるっつーのは決めてたのか?」
「プロポーズ自体は去年の記念日で、そしたら来年籍入れようかって話し合って。そこからはもう、水面下でいろいろ準備してたんですよ! もーう、趣味と就活と準備の両立が忙しい忙しい!」
「つかお前まだ単位全部取ってねえんだから学業もあるんじゃねえのかよ」
「まあ、そこはほどほどにやりつつね?」
「誰にも言わずに準備してたのか」
「友達レベルで今年入籍って知ってたのは浅浦クンだけじゃないかなあ」
「まあ、納得の人選だ」
伊東は地に足をつけた奴だから、結婚に向けた準備も現実的な目線で淡々と、しっかりやっていたのだろう。お互いの収入がどれくらいで、どんな家に住んで、保険だとか、その他必要な支出がどれだけだからどうで、みたいな計算も細かそうだ。
人生に関わるマジで大事なことだから、あまり人に言うことはしなかったようだ。まあ、結婚するってあのバカップルが言ってても周りは冷やかすだけだし。本当に信頼出来る人間……家族同然の付き合いがある浅浦にしか言わないってのは正解だろう。
「式はやるのか」
「本当にこぢんまりね。お金もないし。身内とお互い片手で足りるレベルの友達だけ呼ぶって感じで。あっ、高崎クンはご招待しますので後日正式にお返事いただければと」
「了解した。つか呼ばれるのか」
「呼ぶでしょう! 浅浦クンの次に名前が挙がった共通の友人枠だからね!」
「浅浦の次とか、実質最初じゃねえか」
「そうね」
そうか、結婚式に呼ばれるのか。結婚式に着る礼服なんか持ってねえし、そういう用意も要るんだな。あと、祝儀か。何気にいろいろな支度が必要なのかもしれない。今度のフィールドワークが終わったらバイト詰めるか。
「結婚のことは周りに報告したのか?」
「ううん、正式にはまだだね。高崎クンには今会ったから言ったけど。別に、聞かれなきゃ言う必要もないかなとは。自分から言おうと思ってるのはよっぽど付き合いある子だけ」
「まあ、お前の交友関係だったら報告だけでも一苦労だしな」
「ホントに。あっでも、就職友達で来年から同じ会社に入る子がいるんだけど、その子には結婚のこと話してたから「名字変わりましたドヤぁあああ」ってLINEしたよね」
「ただただウゼえ」
正式な同居は宮ちゃんの卒業が確定して今の家を引き払ってからだそうだ。伊東は自分の城……もとい水回りという名の要塞を再び持つことに今からテンション爆上げしていて、新居を探すときも水回りを特に重視していたとか。想像には難くない。
高校から知ってる奴らが結婚をするようなレベルにまで行ってたかと思うと同時に、自分の将来のことも少し考えてみる。結婚はまだイメージにないが、どう仕事をして、あの街で暮らすのか。年が明けた頃にはもっと具体的になるだろうか。
「春休みには新婚旅行ですよ」
「学生ならではの時間の使い方か。場所は決まってんのか」
「花粉の少ない場所というのが旦那さんのリクエストですね」
「……時期的な問題な」
end.
++++
いちえりちゃんがしれっと結婚してました。フェーズ1の頃から言われてたけど、とうとう本当に籍を入れたのね。おめでとさん
この2人の結婚云々で浅浦雅弘を人数にカウントしないと誰が報告対象になったり式に呼ぶ対象だったりっていうのを考えた場合、やっぱりこの人かと。
大学生で冠婚葬祭の礼服を持ってるかどうかって言ったらなかなかどうかな。レンタルとかもあるけどそろそろ1着持っててもいい年頃なのかな
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「うーす。よう宮ちゃん」
「あっ、高崎クンおはよ。どうしたの、学生課なんかに」
「フィールドワークで遠出しようと思ってんだけど、さすがにビッグスクーターじゃ間に合わない距離でよ。新幹線使うのに学割貰いに来た」
「箱物嫌いの高崎クンが、とうとう観念したか」
「火曜日には絶対こっちに戻って来なきゃいけねえのがなかなかしんどいな。二輪で一筆書きとか結構夢だったんだけど」
秋も深まり、俺は卒論も追い込みの時期を迎えていた。本格的な冬を迎えると二輪で行けない場所の方が増えてくるし、その頃にはフィールドワークではなく論文をまとめなければならない。遠出するのは精々今月一杯だと決めていた。
フィールドワークをするに当たり、FMにしうみでの番組がある火曜日には必ず戻らなければならないというのがネックになっていた。俺は本来旅行も兼ねてもっとゆっくり現地にいたかったのだが、ラジオも実証実験の一環だしサボれない。
そこで俺は、乗り物酔いをするというリスクを抱えた上でとうとう新幹線を使うことに決めた。俺自身の体調と引き替えに時間を金で買うという感覚でいいだろう。大学生であれば学割を使うことも出来るし、金ならある。
「そっか、学割か。うちイベントで遠出する割にあんま使わないや、車あるから」
「そうだよな。つかお前はこんなトコで何やってんだ」
「やらなきゃいけない手続きっていうのがありまして、その書類を貰いに来たの」
「手続き?」
「ふっふーん。この度、私宮林慧梨夏は正式に伊東慧梨夏になりまして」
「マジで籍入れたか!」
「そう、記念日にね。だけど大学生活はあと何ヶ月とかでしょ? 大学に関してはあらゆる物の名字を変える手続きより旧姓を使いますって手続きの方が簡単だから、そっちにしようと思って。免許とかはすぐ伊東慧梨夏にしてきたんだけどね」
「へえ、そんな制度もあるんだな。おい、時間あるか。カフェでも行こうぜ」
「話を聞きたいと見た」
近くのカフェに移動して、話の続きを始める。伊東と宮ちゃんが正式に籍を入れて結婚した、というところからだ。まあ、どうせ結婚するなら就職してからよりも在学中の方がいろいろ手続きがめんどくさくないとは聞いたこともある。
「て言うか高崎クン、ホントに高いケーキ頼んじゃったよ。いいの?」
「ささやかだけど、仮の結婚祝いな」
「ありがと」
「記念日に籍を入れるっつーのは決めてたのか?」
「プロポーズ自体は去年の記念日で、そしたら来年籍入れようかって話し合って。そこからはもう、水面下でいろいろ準備してたんですよ! もーう、趣味と就活と準備の両立が忙しい忙しい!」
「つかお前まだ単位全部取ってねえんだから学業もあるんじゃねえのかよ」
「まあ、そこはほどほどにやりつつね?」
「誰にも言わずに準備してたのか」
「友達レベルで今年入籍って知ってたのは浅浦クンだけじゃないかなあ」
「まあ、納得の人選だ」
伊東は地に足をつけた奴だから、結婚に向けた準備も現実的な目線で淡々と、しっかりやっていたのだろう。お互いの収入がどれくらいで、どんな家に住んで、保険だとか、その他必要な支出がどれだけだからどうで、みたいな計算も細かそうだ。
人生に関わるマジで大事なことだから、あまり人に言うことはしなかったようだ。まあ、結婚するってあのバカップルが言ってても周りは冷やかすだけだし。本当に信頼出来る人間……家族同然の付き合いがある浅浦にしか言わないってのは正解だろう。
「式はやるのか」
「本当にこぢんまりね。お金もないし。身内とお互い片手で足りるレベルの友達だけ呼ぶって感じで。あっ、高崎クンはご招待しますので後日正式にお返事いただければと」
「了解した。つか呼ばれるのか」
「呼ぶでしょう! 浅浦クンの次に名前が挙がった共通の友人枠だからね!」
「浅浦の次とか、実質最初じゃねえか」
「そうね」
そうか、結婚式に呼ばれるのか。結婚式に着る礼服なんか持ってねえし、そういう用意も要るんだな。あと、祝儀か。何気にいろいろな支度が必要なのかもしれない。今度のフィールドワークが終わったらバイト詰めるか。
「結婚のことは周りに報告したのか?」
「ううん、正式にはまだだね。高崎クンには今会ったから言ったけど。別に、聞かれなきゃ言う必要もないかなとは。自分から言おうと思ってるのはよっぽど付き合いある子だけ」
「まあ、お前の交友関係だったら報告だけでも一苦労だしな」
「ホントに。あっでも、就職友達で来年から同じ会社に入る子がいるんだけど、その子には結婚のこと話してたから「名字変わりましたドヤぁあああ」ってLINEしたよね」
「ただただウゼえ」
正式な同居は宮ちゃんの卒業が確定して今の家を引き払ってからだそうだ。伊東は自分の城……もとい水回りという名の要塞を再び持つことに今からテンション爆上げしていて、新居を探すときも水回りを特に重視していたとか。想像には難くない。
高校から知ってる奴らが結婚をするようなレベルにまで行ってたかと思うと同時に、自分の将来のことも少し考えてみる。結婚はまだイメージにないが、どう仕事をして、あの街で暮らすのか。年が明けた頃にはもっと具体的になるだろうか。
「春休みには新婚旅行ですよ」
「学生ならではの時間の使い方か。場所は決まってんのか」
「花粉の少ない場所というのが旦那さんのリクエストですね」
「……時期的な問題な」
end.
++++
いちえりちゃんがしれっと結婚してました。フェーズ1の頃から言われてたけど、とうとう本当に籍を入れたのね。おめでとさん
この2人の結婚云々で浅浦雅弘を人数にカウントしないと誰が報告対象になったり式に呼ぶ対象だったりっていうのを考えた場合、やっぱりこの人かと。
大学生で冠婚葬祭の礼服を持ってるかどうかって言ったらなかなかどうかな。レンタルとかもあるけどそろそろ1着持っててもいい年頃なのかな
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