2020(03)
■見通す目の圧力
++++
「みちる、これ差し入れ」
「いつもありがとう。上がって」
「お邪魔します」
ちょこちょこ互いの部屋でサシ飲みをするようになってからは、差し入れを持ち合うようになっていた。俺だったらバイト先の食パンだったり、つまみの材料だったり。みちるは農学部の先輩からの野菜をくれたりする。
……とは言えゆっくり飲むというのは何だかんだ久し振りな気がする。お互いステージの準備とかでバタバタしてたし、俺はそれが終わってからはリクと会えなかった分を埋め合わせたりしてたから。
「すっぴんで失礼します」
「いつ見てもすっぴんのが目を引く顔だよな。大学デビューってのも大変だな」
「インターフェイスの方では本性バレしてるからすっぴんでもいいんだろうけど、大学ではまだ地味で大人しい荒川さんでいられてるからね」
俺相手では気を抜くようになったのか、みちるは“大学デビュー”と称した地味で大人しい顔をサボるようになっていた。化粧で敢えて地味にしているという顔は、すっぴんだと目鼻立ちがはっきりとして、タイプ的にはレナにも近い正統派美人だ。
「しばらく見ない間に何か増えてるな。こんなクマとかいたっけ」
「それは少し前にくるみと一緒に買ったヤツ」
「ふーん。お前がそんな可愛いもの好きっていう印象もないけど、くるみに引きずられたとか?」
「実際あんまり持たないしそんな印象はないかもしれないけど、嫌いじゃないから1体くらいはまあ。それに、くるみとのお揃いだから」
「北星が妬きそうだな」
「知らないよ。自分だってくるみとデートしてるんだからおあいこじゃん。くるみってああいう子だから北星とのデートのこととか無邪気に教えてくれるけどさ、残酷だよね。この調子だといつまで経っても仲のいい友達だろうし、しばらく負けはないわ」
夏合宿以来、みちるはくるみに対して妖しい好意を見せるようになっていた。変に擦れてなくて可愛い、とのことらしいけど。いや、もしこれがガチなラブでも俺は応援するけど、北星のことも応援したいし悩ましい。
いや、女子同士の友情にはたまに過度なヤツがあるとも聞くし、その類のヤツである可能性も高い。みちるは普通の友達が欲しいって言ってたし、出来た友達を掴んで放したくないっていう思いがさせてることだろう! と思いたい。
「どこまでがガチなのかわかんなくてこえーなお前。ガチなラブなのか、モンペなのかってのがさ」
「隣で寝てるのとか見てると誰にも渡したくないとか、抱きたいとか可愛いとは思うけど、現実的に考えて、付き合えないからね。私は全然アリなんだけど。くるみは女と付き合うとか考えたこともなさそうだし」
「お前って女が好きなのか」
「女の方が好きだけど、男も好きになるよ」
「そうなんだ。……押しに押したらワンチャン、ないこともないんじゃないか?」
「さすが彩人、重みが違いますねえ」
「ん? いや。何だ重みって。別に俺はそんな恋愛マスターとかでもないしだな」
「ササと付き合ってるのは知ってる」
「は!? いやお前あー、えーとあのそのだな」
何でバレてる! つかやっぱマジでみちるこえーよ! 神出鬼没……は意味が違う、えっと、こう、あーもーわかんねーけど何でバレてんだよ! もしや高木さんのときみたくリクが何か言ったか、と思ったけどみちるとの接点はなさそうだしな。
「正直、夏の時点で気付いてはいた」
「……マジですか」
「彩人があの女に言い寄られて体調崩したときに。ササが介抱してたけど、そのときの様子がね」
「やっぱアイツわかりやすい顔してんだな」
「それに彩人も普段からリクリク言い過ぎだし」
「あー、はい。そうですね。ちなみに、他の人にもバレてるとか」
「そこまではわからないけど、前提として同性同士で付き合ってるとはそうそう思わないでしょ。私はそうかなって思ったけど」
まあ、俺がリクリク言い過ぎっていうのはそういうところもあったかもしれないけど、リクの方がわかりやすいっていう風には高木さんだって言ってるんだ。一応伏せてる付き合いだけど、バレたときの対処も考えていかないとな。
「まあ、あれだよ。誰と付き合うことになるかなんてーのは、そうなってみねーとわかんねーなっていうな! だからお前もワンチャンくるみにイケるんじゃね?」
「いやあ。くるみ本人はまだ気付いてないけど、北星でしょ。だから北星には私の影をちらつかせて、くるみを泣かせたらどうなるかって脅すくらいでいいんだよ」
「お前が言うとシャレにならねーんだよ」
「シャレじゃないからね。北星、私を恐れてるから効果覿面だよ」
「まあ、あの現場にいたミキサーは全員お前を恐れてるからな」
「だから本性バレしたくなかったのにっていう話。それなのにくるみは可愛いよ、あんなことの後でも私に懐いてきて」
「だから顔がちげーんだよお前は」
とりあえず、みちるがくるみに対して友情以上の好意を持っているらしく、北星には日頃から睨みを利かせている状態だということはわかった。人と人の付き合いだとか恋愛だとかっていうのはマジで何がどうなるかわかんねーもんな。別れもある以上、それを切り出されないようにしないと。
「そうとなったら、彩人の話も聞かせてもらおうかな」
「え、俺の話?」
「ササとの馴れ初めなど」
「マジか~…! うわっ、改めて聞かれると恥ずかしいな」
end.
++++
みちるはやっぱりなかなか侮れない存在ですね。彩人にとっては心強い味方ではあるけど、やっぱりちょっと恐ろしいですね
そういや夏合宿後にテストのご褒美でいち氏主催のタカちゃん宅食事会にもサササイとみちるがいたなあという思い出。
みちるに睨みを利かされている北星はドンマイだけど、みちるを恐れて「怖いよ~」とか言ってるのも見てみたいとは少し。
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「みちる、これ差し入れ」
「いつもありがとう。上がって」
「お邪魔します」
ちょこちょこ互いの部屋でサシ飲みをするようになってからは、差し入れを持ち合うようになっていた。俺だったらバイト先の食パンだったり、つまみの材料だったり。みちるは農学部の先輩からの野菜をくれたりする。
……とは言えゆっくり飲むというのは何だかんだ久し振りな気がする。お互いステージの準備とかでバタバタしてたし、俺はそれが終わってからはリクと会えなかった分を埋め合わせたりしてたから。
「すっぴんで失礼します」
「いつ見てもすっぴんのが目を引く顔だよな。大学デビューってのも大変だな」
「インターフェイスの方では本性バレしてるからすっぴんでもいいんだろうけど、大学ではまだ地味で大人しい荒川さんでいられてるからね」
俺相手では気を抜くようになったのか、みちるは“大学デビュー”と称した地味で大人しい顔をサボるようになっていた。化粧で敢えて地味にしているという顔は、すっぴんだと目鼻立ちがはっきりとして、タイプ的にはレナにも近い正統派美人だ。
「しばらく見ない間に何か増えてるな。こんなクマとかいたっけ」
「それは少し前にくるみと一緒に買ったヤツ」
「ふーん。お前がそんな可愛いもの好きっていう印象もないけど、くるみに引きずられたとか?」
「実際あんまり持たないしそんな印象はないかもしれないけど、嫌いじゃないから1体くらいはまあ。それに、くるみとのお揃いだから」
「北星が妬きそうだな」
「知らないよ。自分だってくるみとデートしてるんだからおあいこじゃん。くるみってああいう子だから北星とのデートのこととか無邪気に教えてくれるけどさ、残酷だよね。この調子だといつまで経っても仲のいい友達だろうし、しばらく負けはないわ」
夏合宿以来、みちるはくるみに対して妖しい好意を見せるようになっていた。変に擦れてなくて可愛い、とのことらしいけど。いや、もしこれがガチなラブでも俺は応援するけど、北星のことも応援したいし悩ましい。
いや、女子同士の友情にはたまに過度なヤツがあるとも聞くし、その類のヤツである可能性も高い。みちるは普通の友達が欲しいって言ってたし、出来た友達を掴んで放したくないっていう思いがさせてることだろう! と思いたい。
「どこまでがガチなのかわかんなくてこえーなお前。ガチなラブなのか、モンペなのかってのがさ」
「隣で寝てるのとか見てると誰にも渡したくないとか、抱きたいとか可愛いとは思うけど、現実的に考えて、付き合えないからね。私は全然アリなんだけど。くるみは女と付き合うとか考えたこともなさそうだし」
「お前って女が好きなのか」
「女の方が好きだけど、男も好きになるよ」
「そうなんだ。……押しに押したらワンチャン、ないこともないんじゃないか?」
「さすが彩人、重みが違いますねえ」
「ん? いや。何だ重みって。別に俺はそんな恋愛マスターとかでもないしだな」
「ササと付き合ってるのは知ってる」
「は!? いやお前あー、えーとあのそのだな」
何でバレてる! つかやっぱマジでみちるこえーよ! 神出鬼没……は意味が違う、えっと、こう、あーもーわかんねーけど何でバレてんだよ! もしや高木さんのときみたくリクが何か言ったか、と思ったけどみちるとの接点はなさそうだしな。
「正直、夏の時点で気付いてはいた」
「……マジですか」
「彩人があの女に言い寄られて体調崩したときに。ササが介抱してたけど、そのときの様子がね」
「やっぱアイツわかりやすい顔してんだな」
「それに彩人も普段からリクリク言い過ぎだし」
「あー、はい。そうですね。ちなみに、他の人にもバレてるとか」
「そこまではわからないけど、前提として同性同士で付き合ってるとはそうそう思わないでしょ。私はそうかなって思ったけど」
まあ、俺がリクリク言い過ぎっていうのはそういうところもあったかもしれないけど、リクの方がわかりやすいっていう風には高木さんだって言ってるんだ。一応伏せてる付き合いだけど、バレたときの対処も考えていかないとな。
「まあ、あれだよ。誰と付き合うことになるかなんてーのは、そうなってみねーとわかんねーなっていうな! だからお前もワンチャンくるみにイケるんじゃね?」
「いやあ。くるみ本人はまだ気付いてないけど、北星でしょ。だから北星には私の影をちらつかせて、くるみを泣かせたらどうなるかって脅すくらいでいいんだよ」
「お前が言うとシャレにならねーんだよ」
「シャレじゃないからね。北星、私を恐れてるから効果覿面だよ」
「まあ、あの現場にいたミキサーは全員お前を恐れてるからな」
「だから本性バレしたくなかったのにっていう話。それなのにくるみは可愛いよ、あんなことの後でも私に懐いてきて」
「だから顔がちげーんだよお前は」
とりあえず、みちるがくるみに対して友情以上の好意を持っているらしく、北星には日頃から睨みを利かせている状態だということはわかった。人と人の付き合いだとか恋愛だとかっていうのはマジで何がどうなるかわかんねーもんな。別れもある以上、それを切り出されないようにしないと。
「そうとなったら、彩人の話も聞かせてもらおうかな」
「え、俺の話?」
「ササとの馴れ初めなど」
「マジか~…! うわっ、改めて聞かれると恥ずかしいな」
end.
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みちるはやっぱりなかなか侮れない存在ですね。彩人にとっては心強い味方ではあるけど、やっぱりちょっと恐ろしいですね
そういや夏合宿後にテストのご褒美でいち氏主催のタカちゃん宅食事会にもサササイとみちるがいたなあという思い出。
みちるに睨みを利かされている北星はドンマイだけど、みちるを恐れて「怖いよ~」とか言ってるのも見てみたいとは少し。
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