2020(03)

■大人の事情と適性

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「はー、とうとう電車に乗り込んじまった」
「うー、緊張する。ねえシノ、あたしが対策委員でやっていけるのかな」
「大丈夫だって、俺もいるんだ。大船に乗ったつもりでいろ」
「やっぱりシノは頼りになるね!」

 今日は各大学の代替わり後初めての対策委員の会議だ。インターフェイスでも大学祭を区切りとして代替わりがある。定例会は12月の会議から1、2年生だけになるそうだ。対策委員の任期は年度末までだけど、1年生はこの段階で一緒に活動してノウハウを継承することになっている。
 緑ヶ丘からはシノとくるみを対策委員として選出した。先に聞いていた青敬さんの当麻と北星、それから無条件でカノンが出て来るとわかっている向島さん以外は誰が出て来るのか定例会での消去法でも読めないし、人数がミキサーに偏りすぎたらどうしようという心配は消えていない。

「まあ、俺らでも何とかなってたんだ、お前らも大丈夫だっていう」
「えー、俺らでもって言いますけど、エージ先輩はしっかりしてますし、高木先輩も機材管理に関してはすっごいですし、それに比べてあたしって何にもないし」
「くるみには明るさと前向きさがあるじゃない」
「えー、でもそれだけなんです」
「対策委員で活動してる時って、結構カリカリしたり重いムードになることもあって、みんなを励ましたり鼓舞するムードメーカーっていうのは案外重要なんだよ。やろうと思って急に出来ることじゃないから」
「くるみにピッタリなポジションじゃないすか」
「そうだね。俺たちも、3年生の先輩もくるみは対策委員で頑張ってもらおうって1番に決めたし、大丈夫大丈夫」

 明るく楽しく元気よくを地で行っていたくるみだけど、夏合宿以来持ち前の明るさに対して自問自答をしながら半信半疑な様子で振る舞っていたように思う。夏の出来事がちょっとしたトラウマになっているのかもしれない。
 自然体でも大丈夫だよっていうのと、周りを見た動き方が出来るように対策委員で鍛えるっていう方針にはなっている。まあ、くるみと仲のいい青敬さんから2人出て来るし、過度に構える心配もなさそうだけど。

「つか、俺的にはササが対策委員にも定例会にも出なかったのがすげー意外だったっす」
「あっホントだ! 不思議だねー。ササ、しっかりしてるからインターフェイスでもバリバリやれそうなのに」
「それなんだけど、大人の事情込みだね」
「大人の事情?」
「俺がどうしてもシノは外に出したいって先輩たちに掛け合ったんだよ。もちろんササも出そうかって話にはなったんだけど、果林先輩が「ササとシノが2人とも佐藤ゼミに入ったら同時に対策委員なのはリスキーだ」って止めてさ」
「あー、佐藤ゼミってめちゃ忙しいらしいっすもんね」
「そう。だからササとシノは一緒にしちゃダメだってなって、ササには勉強のことも含めて緑大の中で頑張ってもらおうっていう結論になったんだよ。シノが大学に残ってもササに勉学面でのフォローが出来るかって言ったら、ねえ」
「マジでそれっす! 成績! 大事っす! ひ~…! ヒゲさんから既に目ぇ付けられてるんすよ~…!」
「あー……怖いよねー」

 ササだったら、曰く“相棒”のシノの学業面でのフォローもしっかりやってくれるだろう。テスト期間も結構しっかりお世話してたみたいだしね。今言った理由も嘘じゃないし、説明としてはこれで十分かな。何か物凄く納得してもらえたし。ササのフォローは欲しいんだねシノも。

「まあ、大人の事情もありつつちゃんと適性を見て選んでるべ。すがやんとサキに関しても、定例会に必要な能力を持ってるからそっちになってるワケだし」
「サキの奴、これからインターフェイスの機材周りのことを任されるんだろ? すげーよなー」
「ね、すごいよね!」
「シノ、お前もMBCCの機材周りのことをちゃんとやんなきゃいけないんだべ」
「わかってますよ! 任せといてくださいよ!」
「大雑把じゃダメだっていう。ライブラリやアーカイブはちゃんと必要事項の入力をしなきゃ後から大変だっていう。それから、気紛れでやるんじゃなくてちゃんと順序を辿って規則性を持たせて作業しろ? あんまあっちこっち行ったり来たりしてたら漏れが出るべ」
「ぎゃー! エージ先輩マジ勘弁してください、ちゃんとやるっす!」

 エイジはちょっと神経質だから、パソコンに入ってる音楽や番組のデータ入力の仕方も統一されてないと「何か気持ち悪いっていう」ってあんまりいい顔しないんだよね。だからその辺俺も結構気を遣ってたよね。でも、実際システム上で検索するときには大事なことだったみたい。

「高木、ちゃんと教え込めよ。機材管理担当のやらかしは機材部長の責任だべ」
「そうだね、基礎からみっちり教えないとね。ミキサー……特にシノは実践で鍛えないと」
「くるみ~、お前も助けてくれるよな!」
「シノ、頑張ってね!」
「助けろよ~!」
「助けないとは言ってないけど、機材管理担当として頑張って勉強してね!」


end.


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シノくるもなかなかにかわいいなという発見。現役の対策委員と新世代のやり取りです。結局シノくるで決定した模様。
ササ云々のことはきっとMBCCの1年生たちもきゃっきゃと話してたと思うけど、今の説明をしたら多分ササも含めてみんな「あー」って納得するんやろな
ミュージックライブラリ周辺のことも、データ入力の仕方などにエイジはなかなか細かかった様子。きっと全角半角の混在とか大っ嫌いなんやろな

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