2020(03)
■合格発表の舞台裏
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「佐藤久ゼミ、っと……あー、えーっと……あったー!」
「はー……よかった」
今日は社会学部1年生が次年度から所属することになるゼミの発表が行われる。その発表は社会学部棟と呼ばれる5号館の入り口側ロビーに掲示されていて、どこのゼミにどの学籍番号の学生が通ったかが書かれている。
個人面談の時点で俺とシノは先生から内定をもらっていたから通っているとはわかってたんだけど、それでも本当に自分の学籍番号を見るまでは安心出来なかった。シノはミキサーだからともかく、俺は特に面白い趣味もないアナウンサーだし。
「……何か、周り見てると佐藤ゼミに落ちたって人もいるみたいだな」
「まあ、毎年倍率は高いそうだから、こればっかりは仕方ない。俺たちもMBCCだからって驕ってたら白い目で見られるだろうし、相応の力を付けないと」
「心配しなくてもへーきへーき! ゼミがどうとか関係なく日頃からミキサーの技術を磨くのが俺! 任せとけって!」
シノに関しては本当にそうだから、また大きなことを言ってとバカにも出来ない。実際日頃から1年ミキサー陣の誰よりも練習を積んでいるし、高木先輩にもしつこいくらい技術指導を仰いでる。その姿勢は素直に見習いたいなと思う。
「そうだ。シノ、先輩たちにちゃんと受かりましたって報告しないと」
「あー、だな。果林先輩にしよ。高木先輩LINEないのがちょっと不便だわ。えーっと、佐藤ゼミに受かりましたーっと」
その報告をして間髪入れずに返信があり、ちょうど高木先輩とご飯を食べてるところだから良かったら来なよという内容だった。せっかく誘ってもらっているし、ちょうどいい具合にお腹も空いているので指定された場所に向かった。
「あっ、ササ、シノ、来た来た! おめでとう!」
「ありがとうございまーす! いやー、実質余裕だったと言えやっぱ発表はビビりますね!」
「今ね、タカちゃんともちょうどその話をしててね」
「そうだったんすね」
「結局、あの黄色いエントリーシートってどう使われたんですか?」
「あれは俺たちゼミ生が選抜する材料にするための紙だね。まず2年生が簡単に見て、次に3年生が厳しく目を光らせて、そこで残った人が先生の前に進めるっていう」
「うーわっ、こわっ」
2年生の1次選抜の時点で落とされる人は相当面白くなかったのか、適性がなかったのかっていう感じなのかな。今年は例年より募集倍率が高かったから結構粗っぽく弾いてたという裏話を聞いて背筋に寒気が走った。
「でも、俺たちは面談の時点で内定貰ってたじゃないすか、エントリーシートでおもんなって言われたらそれが覆ることもあったんすか?」
「ヒゲの決定は絶対だしないんじゃない? 実際タカちゃんはみんなから面白くないって言われてたけど通ったし」
「え、みんなから言われてたんですか」
「それをアタシがこの子は実際面白い子だしミキサーの腕は確かですよって上げまくってたの。ただちょっと自己主張は得意じゃないだけでって」
「何かすみません」
「いいってことよ。小田ちゃんも店長も今じゃタカちゃんのことお気に入りだしね。実際付き合わなきゃわかんないこともあるある」
「もしかしたら、俺のエントリーシートも面白くなくて、それを先輩たちがフォローしてくれてたとか」
「あ、逆だよササ。先生はササをエントリーシートで気に入ったって言ってた」
「えっ、本当ですか」
「ほら、アタシもタカちゃんも実技型だから。成績がいいってだけで見る目は変わるよね。そこにあのレビュー集でしょ? 君たちもこれだけ本を読みなさいっても~ううるさいうるさい」
「ここだけの話をすれば、最初先生はササをシノのついでに取ったそうなんだよ。でも、あのエントリーシートで一目置いてたから、あの勝負の仕方は大成功だったよ。ササのエントリーシートに感化されて昼のラジオに文芸のコーナーを作りたいとも言ってたね」
「はー……よかった」
佐藤ゼミに入るためのアピールに生かすべきものは何かを考えていた。その結果、俺の趣味である読書と、佐藤ゼミの研究領域であるラジオについてを組み合わせることだと辿り着き、ひたすら関連図書を探した。好きな物と学業を合わせて、字数を書けますという証明をしようと。
あのエントリーシートが目に留まったならそれは本当にありがたいことだし、やって良かったと思った。実際この作業はやっていて面白かったし、これからも密かに続けようかなとは思う。読書もラジオも好きなことだから、全く苦じゃない。
「まあ、良かったし、おめでたいんだけどね? 俺としては今以上に圧がかけられてなかなかにキツイ物があるよね」
「圧?」
「タカちゃん、それ、アタシにもかかってるからね。君の後輩は以下略」
「いつもすみません」
「え、MBCCってそんなにプレッシャーかけられるんすか!?」
「違う違う。成績の話。タカちゃんは成績度外視で採用されてるからさ。ミキサーとしては相当お気に入りなんだけど、だからこそ成績がちょっとね」
「あ、えーと……もしかして、俺もゆくゆくはヒゲさんから~……」
「ササが何とかするようにって圧をかけられるんだろうね」
「え、俺にですか?」
end.
++++
ササとシノが正式に佐藤ゼミに受かったようです。おめっとさん。そして先輩たちへの報告会と裏話です。
だけど、この裏話ではタカちゃんが佐藤ゼミに受かった背景なんかもちょこちょこ明かされてますね。ミキサーとは言えほぼ果林のおかげやんけ
座学型・ササの登場でMBCC実技型組にかかる圧がなかなか強まってしまったようですね。タカりん、それからシノはヒゲさんからの嫌味に打ち勝てるか
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「佐藤久ゼミ、っと……あー、えーっと……あったー!」
「はー……よかった」
今日は社会学部1年生が次年度から所属することになるゼミの発表が行われる。その発表は社会学部棟と呼ばれる5号館の入り口側ロビーに掲示されていて、どこのゼミにどの学籍番号の学生が通ったかが書かれている。
個人面談の時点で俺とシノは先生から内定をもらっていたから通っているとはわかってたんだけど、それでも本当に自分の学籍番号を見るまでは安心出来なかった。シノはミキサーだからともかく、俺は特に面白い趣味もないアナウンサーだし。
「……何か、周り見てると佐藤ゼミに落ちたって人もいるみたいだな」
「まあ、毎年倍率は高いそうだから、こればっかりは仕方ない。俺たちもMBCCだからって驕ってたら白い目で見られるだろうし、相応の力を付けないと」
「心配しなくてもへーきへーき! ゼミがどうとか関係なく日頃からミキサーの技術を磨くのが俺! 任せとけって!」
シノに関しては本当にそうだから、また大きなことを言ってとバカにも出来ない。実際日頃から1年ミキサー陣の誰よりも練習を積んでいるし、高木先輩にもしつこいくらい技術指導を仰いでる。その姿勢は素直に見習いたいなと思う。
「そうだ。シノ、先輩たちにちゃんと受かりましたって報告しないと」
「あー、だな。果林先輩にしよ。高木先輩LINEないのがちょっと不便だわ。えーっと、佐藤ゼミに受かりましたーっと」
その報告をして間髪入れずに返信があり、ちょうど高木先輩とご飯を食べてるところだから良かったら来なよという内容だった。せっかく誘ってもらっているし、ちょうどいい具合にお腹も空いているので指定された場所に向かった。
「あっ、ササ、シノ、来た来た! おめでとう!」
「ありがとうございまーす! いやー、実質余裕だったと言えやっぱ発表はビビりますね!」
「今ね、タカちゃんともちょうどその話をしててね」
「そうだったんすね」
「結局、あの黄色いエントリーシートってどう使われたんですか?」
「あれは俺たちゼミ生が選抜する材料にするための紙だね。まず2年生が簡単に見て、次に3年生が厳しく目を光らせて、そこで残った人が先生の前に進めるっていう」
「うーわっ、こわっ」
2年生の1次選抜の時点で落とされる人は相当面白くなかったのか、適性がなかったのかっていう感じなのかな。今年は例年より募集倍率が高かったから結構粗っぽく弾いてたという裏話を聞いて背筋に寒気が走った。
「でも、俺たちは面談の時点で内定貰ってたじゃないすか、エントリーシートでおもんなって言われたらそれが覆ることもあったんすか?」
「ヒゲの決定は絶対だしないんじゃない? 実際タカちゃんはみんなから面白くないって言われてたけど通ったし」
「え、みんなから言われてたんですか」
「それをアタシがこの子は実際面白い子だしミキサーの腕は確かですよって上げまくってたの。ただちょっと自己主張は得意じゃないだけでって」
「何かすみません」
「いいってことよ。小田ちゃんも店長も今じゃタカちゃんのことお気に入りだしね。実際付き合わなきゃわかんないこともあるある」
「もしかしたら、俺のエントリーシートも面白くなくて、それを先輩たちがフォローしてくれてたとか」
「あ、逆だよササ。先生はササをエントリーシートで気に入ったって言ってた」
「えっ、本当ですか」
「ほら、アタシもタカちゃんも実技型だから。成績がいいってだけで見る目は変わるよね。そこにあのレビュー集でしょ? 君たちもこれだけ本を読みなさいっても~ううるさいうるさい」
「ここだけの話をすれば、最初先生はササをシノのついでに取ったそうなんだよ。でも、あのエントリーシートで一目置いてたから、あの勝負の仕方は大成功だったよ。ササのエントリーシートに感化されて昼のラジオに文芸のコーナーを作りたいとも言ってたね」
「はー……よかった」
佐藤ゼミに入るためのアピールに生かすべきものは何かを考えていた。その結果、俺の趣味である読書と、佐藤ゼミの研究領域であるラジオについてを組み合わせることだと辿り着き、ひたすら関連図書を探した。好きな物と学業を合わせて、字数を書けますという証明をしようと。
あのエントリーシートが目に留まったならそれは本当にありがたいことだし、やって良かったと思った。実際この作業はやっていて面白かったし、これからも密かに続けようかなとは思う。読書もラジオも好きなことだから、全く苦じゃない。
「まあ、良かったし、おめでたいんだけどね? 俺としては今以上に圧がかけられてなかなかにキツイ物があるよね」
「圧?」
「タカちゃん、それ、アタシにもかかってるからね。君の後輩は以下略」
「いつもすみません」
「え、MBCCってそんなにプレッシャーかけられるんすか!?」
「違う違う。成績の話。タカちゃんは成績度外視で採用されてるからさ。ミキサーとしては相当お気に入りなんだけど、だからこそ成績がちょっとね」
「あ、えーと……もしかして、俺もゆくゆくはヒゲさんから~……」
「ササが何とかするようにって圧をかけられるんだろうね」
「え、俺にですか?」
end.
++++
ササとシノが正式に佐藤ゼミに受かったようです。おめっとさん。そして先輩たちへの報告会と裏話です。
だけど、この裏話ではタカちゃんが佐藤ゼミに受かった背景なんかもちょこちょこ明かされてますね。ミキサーとは言えほぼ果林のおかげやんけ
座学型・ササの登場でMBCC実技型組にかかる圧がなかなか強まってしまったようですね。タカりん、それからシノはヒゲさんからの嫌味に打ち勝てるか
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