2020(03)

■相棒の城と僕

++++

「おーい、待ったかー?」
「いや、俺もさっき来たトコ。休みにわざわざ来てくれてありがとな」
「いーってことよ!」

 豊葦市駅の改札でシノと待ち合わせ。今日はシノと一緒に遊ぼうという話になっている。遊ぶなら本当は豊葦より星港の方がいいんだろうけど、交通費もバカにならないし、豊葦でもそれなりに遊べることを豊葦市民の俺は知っている。だから今日はここで。
 星鉄の改札からとりあえず左に向かって外へ出る。待ち合わせがそれなりにいい時間だったから、次にはもう腹減ったなーとシノが呟いていた。シノは本当によく食べる。果林先輩がいるからさすがにサークルで1番ではないけど、現役の中では2番なんじゃないかとは思う。

「シノ、腹減ったなら何か食べに行くか。ちょうどランチ時だし」
「おっ、マジで! ここは地元民が美味いトコに連れてってくれるヤツだろ?」
「徒歩圏内で行けるところなんか高が知れてるけど、努力はする」
「ほら、俺って育ち盛りだからさ、美味いモンをたくさん食いたいワケよ」
「お前さ、割と真面目にまだ身長伸びてる?」
「あー、伸びてんのかもな。春の健康診断でも去年より伸びてたし。稀にいるらしいんだよな、高校卒業しても背ぇ伸びる晩熟タイプみたいなのが」
「春の頃より目線が高くなってる気がする。一緒にいる時間が割と長い俺が気付くくらいだし、絶対伸びてる」
「この調子で行ったらお前のことも抜けるかな。お前何センチだっけ」
「179」
「あー、ギリ大台には行ってないのな」

 今日入ることにしたのは、シノが普段あまり食べているイメージのない洋食屋だ。デミグラスソースのオムライスが絶品だとテレビや雑誌でもよく取り上げられていて、土日は人でごった返すらしいけど、たまたまいい具合に店内に入ることが出来た。
 メインのオムライスの他にサラダバーがあって、副菜はビュッフェスタイルで好きに取って来れるらしい。俺たちはデミグラスオムライスのサラダバーセットを注文して、副菜やスープをそれぞれで持って来る。これも、何をどう取るかで性格が出るなあと思う。

「なあササ、お前こーゆーオシャレなトコ、デートで来たりすんのか?」
「デートの時は相手が気に入りそうな店をもっと念入りに探す」
「あっ、俺相手だから手ぇ抜いたか!? ん! サラダうめーわ、許す!」
「それはどうも。でも実際俺が来てみたかったからって理由で入ったし、それは謝る」

 実際玲那や彩人相手の時だと俺はいい自分をアピールしたがるし、それはそれで素ではあるんだけど、シノといる時の素とはまたちょっと質が違うんだろうなとは思っている。恋人と相棒を天秤にかけることはしにくいし、どっちも大事。だけど現れる自分が違って来るのは何なんだろうか。

「シノ、ここは俺が出させてくれ。誕生日だろ」
「マジかよ! いや、つか誕生日は誕生日だけど、俺はお前の誕生日何もしてねーぞ!? いくら俺でもさすがに悪いとは思う」
「俺の事は気にしない。来年おめでとうって言ってくれればそれでいい。お前貯金すんのに土日はずっとバイトしてるだろ、それなのに俺の誘いに出て来てくれてありがとうって気持ちも込みだから」
「あー、だから豊葦だったのか。定期通ってるから交通費かかんねーし」
「うん」
「水臭い奴だな。相棒からの誘いだぞ、出て来るに決まってんだろ! な! それでなくてもお前もバイトとかデートとかで捕まんねーんだ、遊ぶ機会もなかなか貴重だろ」
「ところで、貯金は順調に行ってるのか?」
「あー、まあ、この感じで行けば目標金額には行けそうかな。年末とテストの後にどれだけスパート掛けれるかだな」
「1人暮らし出来るといいな」
「ホントに」

 シノが1人暮らしをしたいと親御さんに掛け合った結果、1人暮らし開始資金として2月末までに70万貯めたら家を出ていいですという条件を勝ち取った。そのために日々バイトに明け暮れているから土日は常に予定が埋まってるし、今日だって本来ならバイトしてるはずだったんだ。
 そこを出て来てもらってるし、今日はシノの誕生日だし、俺が出さない理由はない。それに、シノが1人暮らしのための貯金をしてることも知ってるし。シノが1人暮らしを始めたら、俺もシノの部屋に入り浸ったりしてみたいんだ。イメージは、高木先輩とエージ先輩のそれ。

「あっ、オムライス来た」
「おー……美味しそう。いただきます」
「ん! うめー! しかもオシャレな店のクセにガッツリ系じゃんか! 最高かよ!」
「うん、思ったより大きくてビックリした。テレビとか雑誌が盛ってるのかと思ったら」
「仮に1人暮らしが出来るとするだろ」
「うん」
「そしたらさ、俺って何食って生きてくんだと思う?」
「そりゃあ、料理を?」
「料理って言える料理が出来ないことに気付いたんだけど、どうしたらいい?」
「でも、大学祭で焼きそばは覚えただろ? 必要に駆られれば出来るようになるって」

 俺も料理らしい料理はあまり出来ないからあまり無責任なことは言えないけど、少しくらいは出来た方がいいのかな。彩人の部屋でも食べさせてもらってばっかりだし。俺も誰かに振る舞える料理を覚えてみたい。伊東さんにでも相談してみようかな。


end.


++++

シノが言ってる「お前もバイトとかデートで捕まらない」っていうのが真理で、学内以外ではさほど一緒にいない系のササシノ。
シノの身長が今もじわじわ伸びてるっていうのが個人的なポイントで、次の健康診断では今回よりもいくらか大きくなってるといいなとは
1人暮らしでもそんなに料理が出来るようになってないTKGって先輩もいるし、シノも何とかなるよ。大丈夫大丈夫

.
62/100ページ