2020(03)

■1段階目の○×シュート

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「えー、大学祭お疲れさまでした。それから、今の1年生のゼミ希望届が提出されました。今年の応募は68人で、例年より少し多いです。その分選考もシビアになるので君たちの情報提供にも期待します」

 大学祭が終わって初めてのゼミだ。先生の席の前には黄色い紙の束が入った箱と、それと同じ空の箱が置かれている。黄色い紙は去年俺たちも書いた、佐藤ゼミ専用のエントリーシートだろう。佐藤ゼミを志望するときは公式のゼミ希望届の他にこれを付けないといけないんだ。
 社会学部のゼミの定員は25人。佐藤ゼミは毎年それを大きく上回り、50人以上は応募がある。だけど今年は特に多いらしい。そう考えると、ササとシノは面談の時点で早々に内定をもらってて良かったなとより強く思う。

「えー、そこで、今日はエントリーシートを君たちにも見てもらって、粗方絞り込んでもらおうと思います。この後で3年生にも見てもらうし。パッと見の印象でどんどん弾いてってね。鵠沼君、適当に回しちゃって」
「佐竹、これ後列に回して」
「はいはい了解」
「あー、それから。右上の通し番号に私の方で赤丸をしてある子は合格だからよろしくね」

 1人につき2枚か3枚のエントリーシートを手に、どんな子が応募してきたのかを見ていくことに。俺の手元には赤丸がされている物はないから、これから選抜されるのか。佐藤ゼミっぽい、かつ成績がよくて……あとは何を基準に見ていけばいいのかな。
 先生によれば自分で既に合格を決めた子が5人いるらしい。だから実質的に残り20人の枠に60人ちょっとを振り分けていくことになる。合格にしたのはササとシノのようにMBCC関係だったり、趣味の面で際立っていた子だそうだ。

「高木、そっち面白そうな奴いるか?」
「そうだね。何か、配信やってるような子もいるっぽいし、そのチャンネルを見てみようかな」

 自己PR欄にあった動画サイトのチャンネルにパソコンでアクセスしてその動画を見てみると、何と言うか……面白いポイントを探すのが難しい。チャンネル登録者数も動画再生数も伸び悩んでいるし、これからもきっと伸びることはないだろうと思う。

「えーっと、他の子はどうかな」
「お前しれっと今の奴をなかったことにしたじゃん? 不合格の箱にシュートしてるし」
「あ、この子いいんじゃない? 家庭菜園やってるって子。先生と話が合いそう。この子も家庭菜園で動画チャンネル持ってるって」

 最近の子は本当に積極的と言うか、動画公開に対するハードルが下がってるなあと思う。いや、最近の子はとは言ってるけど1つしか変わんないんだよね。例の家庭菜園チャンネルを見てみると、これはいいなと第一印象で思った。編集もそれっぽいし、内容のポイントも絞れてるし。
 それから、その子の何が凄かったのかって、自分で作ったアパレルグッズを身に着けて農作業をしているところだ。野菜をマスコットキャラクター化したイラストが描かれたTシャツだとか、トートバッグは通販でも買えるそうだ。動画ではホームセンターで買える便利グッズなんかも紹介されている。

「この子はいいね。面白いと思うよ。えーと、来須麻衣さんかな。あっ、お米同好会って書いてる! 米福くん、この子知ってる? 来須さんて」
「ああ、ごはんのおともとかよく作る子。性格もいいし、結構アクティブっていう印象。登山とかするし」
「へー、性格も良くてアクティブって、普通にいい子なんだね」
「君たち、楽しそうじゃない。えーと、5番の子だね。彼女は私もいいと思ってたんだよ。君たちが推すなら通してみようか。はい、合格」

 俺たちが家庭菜園の来須さんについて話していると先生がにゅっと現れて、右上の数字に赤丸を打ってまた去って行くからちょっと引いた。そんなことで簡単に合否って決まるのって。先生は、2年生による選抜で残り10人ほどまで絞りたいんだそうだ。で、選抜の難しいところを3年生に託す、と。

「高木、MBCC2枚回って来たし!」
「赤丸ついてるでしょ?」
「ついてるね。まあ、そうだよねって感じだし」
「次俺に回してくれる?」
「アンタは今更見なくて良くない? 知ってるんでしょ?」
「まあ、一応ね」

 安曇野さんが見終わったそれを回してくれて、俺もササとシノのエントリーシートに目を通す。中身が気になるのはシノよりもササの方。えーと。
 自己PR欄という名のフリースペース欄には、ササが独断で選んだラジオに関わる本の紹介が書かれていた。内容だけじゃなくて要点や読んだ感想が簡潔にまとめられている。小説や新書、実録本と、そのジャンルは多岐にわたる。ラジオと本に対する愛の強さがよくわかる。

「高木君、君の後輩だけどね」
「はい」
「佐々木君のエントリーシートは裏まで続いてるんだよ」
「えっ!? あっ、ホントだ! えっ、って言うか短期間でこれだけ本を読んだの…!?」
「クールに見えて熱いところがいいじゃない。本のレビューも分かりやすいし。顔がいいからシノキ君のついでに取ったつもりだったけど、このエントリーシートで気に入ったよ~。ゆくゆく昼のラジオでも文芸のコーナーを新設しようかな。佐藤ゼミは知的っていうイメージも付けたいし。彼、トーク出来るんでしょ?」

 ササは自分の得意分野でしっかりと勝負しに来たなっていう感じ。ここまで来るともう小細工なしで、ササの熱さと実直さが前面に出てる。結果、本のレビューをまとめたことの実力も認められての赤丸という解釈でいいのかな。

「ねえ、高木君。佐藤ゼミは知的っていうイメージも付けたいしねえ! 成績。君ぃ、わかってるね?」
「あ、はい~……」


end.


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いよいよ選抜する側に回った佐藤ゼミのあれこれです。自分もこうやって赤丸がついてたんだなあと思うTKGであった
今の1年生たちも合同ゼミやらゼミ合宿やらで少し絡むと思うので、少しずつモブから増やしていきたいね。キャラの立った子がちゃんと出番をもらえるナノスパ的選考。
恋愛にしても何にしても、実は小細工やまどろっこしいことが苦手なササ。何であろうと正面から勝負しに行くよ!

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