2020(03)

■自慢の友達

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「わ、サキ君!」
「あ、彩人」
「知ってる人がいて安心したぁー。ここに来てるってことはサキ君も定例会だよね、よろしく!」
「よろしく」

 インターフェイスの定例会が代替わりだということで、俺とすがやんはL先輩とハナ先輩に連れられて花栄にある大きなビルにやってきた。ガラス張りのエレベーターで6階まで上って、中会議室という部屋に入るとそれらしい人が何人かいた。
 会議は6時から始まるそうだけど、遅刻したらいけないからいつもより少し早めに到着するように来たとのこと。代替わりの回だから特別なんだろうね。そう言えば、定例会になったってことは、過去の議事録とかも読ませてもらっていいのかなあ。
 部屋に入るなり俺に話しかけて来たのは星ヶ丘の彩人。彩人とは初心者講習会でシノから強引に挨拶をさせられて以来、夏合宿で少し話して現在に至る。緑メッシュの髪やピアスで見た目が派手だし、顔がとにかく美形。普通だったらまず知り合わないタイプだよね。

「えっと、そっちの子は」
「ああ、ウチのすがやん。アナウンサーだよ。すがやん、星ヶ丘の彩人」
「すがやんこと菅谷徹平っす」
「自分、星ヶ丘の谷本彩人っす。つか緑ヶ丘は2人も定例会に出るんだ」
「俺はすがやんのおまけっていう感じで」
「何言ってんだよサキ、お前にはインターフェイスの機材環境の保守保全っていう大事な仕事があるだろ? サキはウチでもMDストックのミュージックライブラリ化を勉強してて、ゆくゆくはインターフェイスでもその辺いい感じにしてくれる予定なんだ」
「サキ君、全然おまけじゃないじゃん!」
「だろ? なのにコイツ基本自分下げだからさー。サキはすげーのになあ」

 俺は本当に自分なんてそんなにって思ってるんだけどな。すがやんは向島に遊びに行ったときとかもそうだけど、他の人に俺のことを盛って紹介しがちなんだよね。そうやって期待値が上げられるんだけど、すがやんが言ってるほどでもなくないって失望されても俺のせいじゃないよね?

「あっ! おーすすがやん!」
「カノンおっす!」
「サキ君、すがやんってコミュ強な感じ?」
「だね。それを買われて定例会に選ばれてるし、向島に留学もしてるんだよ」
「留学?」
「向島の昼放送の枠を1つもらって、向こうで番組をやってるんだ。向島ならではの技法とか番組作りのノウハウなんかを持ち帰るのも仕事的な」
「へー。やっぱ、活動の仕方が似てるから出来るんだろうな」
「あと、すがやんだから出来るんだよ。すがやんは周りの人の様子を見て自分の立ち振る舞い方を変えられるから、どこででも、誰とでも馴染んで仲良くなるんだ」

 今も、向島のカノンと挨拶したのを皮切りに、先輩たちや他の1年生とも挨拶や自己紹介をしている。その輪の中に入りそびれた俺と彩人は、その様子を少し外から眺めながら、すがやんはすごいなあと感心している。
 こんなナリだけど元々口数はそこまで多い方じゃなかったんだよ、と彩人がぽつりと切り出した。見た目を派手にしたのは典型的な大学デビューで、それまではよくいる感じで目立つこともなかったと。表舞台に立つよりは、裏方の方が好きなんだそうだ。

「何か、俺の大学デビューって結局付け焼刃的なトコがあるし、すがやんみたいな人を見てるとやっぱ違うなーって思っちまう」
「でも、デビューはしてるんだから。彩人は彩人なりにやっていけばいいんじゃない」
「ありがとねサキ君。サキ君に言われるとじわっと沁みてくよ」
「なにそれ。大袈裟なんだけど」
「大袈裟じゃないよ。サキ君は芯があって優しい子だって認識だし」
「やめてよ、恥ずかしい。彩人にそんな良く言われる覚えもないよ」
「夏合宿のミキサーテストの後、俺に絡んでたシノに「彩人が困ってるよ」って窘めてたっしょ」
「そんなの覚えてないよ」
「それに、ちゃんと友達を叱ってあげるって、意外に出来ないからね」

 確かに、ミキサーテストの後にちょっと話したのは覚えてたけど、内容までは覚えてなかったな。それでも、彩人にとっては俺という人間を印象付ける出来事だったのかもしれない。でも、芯があって優しいという風にはならないと思うな。

「ああ、すがやんの言ってることがわかってきたな」
「何が?」
「サキ君はいい奴なんだぞってこと。すがやんにとってサキ君は自慢の友達なんだろうな。いいなあ。俺もサキ君ともっと仲良くなりたいな」
「それは別にいいけど」
「えっ、いいの!? そしたら今日これ終わったらご飯食べにいこ!」
「ああ、うん、いいよ」
「やった! そうだよ、道はやっぱり自分で切り開くものなんだよ! リクを頼ってたんじゃダメだ! 俺が自分でサキ君と仲良くならないと!」
「えっと、ササに何か言ってたの?」
「サキ君紹介してって。何度言っても「今度な」の繰り返しで全然会わせてくれないし!」
「へえ、そんな話全然聞いたことなかったよ」
「マジかよ! リク~…! そんなに俺がサキ君と会うのが嫌だったのかー! マジでぶっ飛ばす!」

 ササが俺を彩人に紹介しない理由がよくわからないんだけど、彩人がそこまで俺を紹介してって言ってたのにも驚いた。

「おーい! サキー、彩人ー、1年はこっちだってー! もう会議始まるぞー」
「はーい。彩人、行こう」
「うん」


end.


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1年生が定例会デビューしました。今回はすがやんとサキと彩人がお話をしているという感じですが、他の1年生は今後チラ見せ出来るか
彩人は見た目が派手だしきゃっきゃも出来るけど、元々は地味系で隅っこで本を読んでるタイプ。黙ってるのが実は楽。
どうやらササが彩人とサキを会わせないようにしてたのがバレたようです。仕方ないね、彩人のサキ君大好きっぷりを見てたら心配にもなるさ

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