2020(03)
■開かずの間に風と光を
++++
「源部長、何から始めましょうか」
「源部長はやめてよ、今まで通りでお願い」
「では……源、何から始めますか?」
「そうだね。うーん……模様替えと大掃除かなあ」
「はい?」
大学祭を境に代替わりを迎え、正式に放送部の部長に就任することになった。監査となったレオから何から始めようかと聞かれたけど、実際何から始める物なのかはわからなかった。だけど、いざ「ここが部長席です」と通された席を見て、豪勢すぎて引いた。
放送部は、部活棟のミーティングルームAという教室を借り切って活動している。この部屋を仕切って班ごとにブースを構えているんだけど、奥の方には部長席や監査席と言った特殊な幹部の個人席が設けられているんだ。その広さが部屋の4分の1はあるかなあ。
特に部長席なんかは豪勢な机にやたら飾り付けられたインテリア、無駄にだだっ広いなという感じがある。監査席の方には資料の入った戸棚があったりするし、そっちがそれなりの広さなのはわかるけど、部長席に広さは要らなくないかなって。
「こっちはいつでも手を付けれそうだけど、部室だね。部室が本当に分かりにくいし、要らない物を整理したらもうちょっとスペースを確保出来るんじゃないかな」
「確かに、使われる気配のない物はやってしまいましょう。ああ、ちょうどいいところに。星野、部室の掃除をしたいので有志を集めてもらえますか」
「わかったんだ!」
ここに部室の掃除隊が結成され、実質的な物置と化した部室にメスを入れていく。暗くて埃っぽいから少し気味悪いけど、機材がここにあるから来ざるを得なかったんだよね。戸田班になって機材を自前で持つようになってからは全然入ってなかったけど、どうなってるのかな。
「げほっげほっ! やっぱり埃っぽいね」
「窓を開けて来るんだ!」
「コーキ、足元が悪いからムチャはしないでね」
「任せるんだ!」
「機材は一時的にミーティングルームに移しましょう」
「ついでだし、ミキとDで備品類の動作チェックをしてもらおうか」
「そうしましょうか。星野、ミーティングルームに残っているミキサーとディレクターにそのように伝えてもらっていいですか。ついでに、誰かに学生課から指定のゴミ袋をもらって来てもらうよう頼めますか」
「わかったんだ!」
残った面々で通路いっぱいに溢れ返るほどの物を部室から出していく。それが何であるか、これから使うのかを判定して、使わないと判断したものは処分する印をつけて後日解体することに決めた。
やっぱり、古いステージの大道具や小道具なんかがたくさんあるようだ。だけどそれならいい方で、教科書やボードゲーム盤、それからボールといった遊び道具もたくさんある。折れたプラスチックのバットや潰れたビニールボールなんかはさすがにすぐ捨てる。
「ゲンゴロー、指定のゴミ袋もらってきたですよ」
「ああ、ありがとうマリン」
「大分派手にやってるです」
「ここのスペースを空けて、もっと有効活用したくってさ。あ、マリン、汚れるからあまり何でも触らない方がいいよ」
「わかったです。今日は汚せないので遠巻きに見学するですよ」
ここはいつから掃除してないんです、とマリンは呆れた様子で部室を覗いている。俺とレオは既に埃まみれだし、ちょっと慣れた感もあるけど。
「これは酷いですね」
「何が出て来たの?」
「性行為に用いる大人の玩具ですね。この部屋で行為に及ぶ部員は多いと聞いていましたが」
「あはは……これは処分だね」
「確認しますが浦和の所有物では」
「ないですよ! 何です!?」
「いえ。可能性がある以上。何なら現状この部の中では可能性の高い方じゃないですか、実際菅野さんと」
「あーもういいですよ! 違いますよ! 普通だったらセクハラで訴えられてるですよ!」
「俺は事実だけを率直に発したつもりでした。気分を害したなら謝ります。違うのなら処分ですね」
「と言うか、まさか覗いたりは」
「さすがにそこまで悪趣味じゃありません。ただ、それが朝霞班の人間であれば証拠の映像なり何なりを押さえていたでしょうね」
さ、引いてないで掃除の続きをしますよ。そう言ってレオは例の物をゴミ袋へとシュートした。そう言えば、日高班に所属していた当時のレオの仕事は朝霞班の監視や妨害工作だったんだよなあ。淡々と言うけどやっぱりちょっと怖いな。
それからも要る物と要らない物を仕分け続けた結果、要らない物は山のように積もり、要る物はほんの少しだけ残った。それは大学から支給された備品の学習机と椅子くらいの物で、動作チェックをしている機材を含めても本当に何も残らない。
「いっそ壁や床を掃除して、この部屋の活用法を考えますか?」
「そうだね。仮にここを書庫にして過去の台本や映像を記録したメディアを置いてもいいし、BGMや効果音も探せるようにしたり」
「それは良さそうですね。しかし、古いビデオテープなどはデジタル変換した方が良さそうですね。中古でモニターでも買いますか?」
「誰か、そういうのに強い子いないかなあ」
「有志を募りましょう」
end.
++++
源部長の最初の仕事は、わけのわからんことになっている部室の大掃除だったようです。まるでどこかのLのようだ
星ヶ丘の部室はそれこそ実質的な物置で開かずの間的な扱いもされていたので埃も備品類も年季が入っていて、パッと思い付きでやれる規模ではなさそうです
部室の隠れた使用法についても言及したレオである。そこでマリンに話を振るのは悪意があるようにしか見えないぞw
.
++++
「源部長、何から始めましょうか」
「源部長はやめてよ、今まで通りでお願い」
「では……源、何から始めますか?」
「そうだね。うーん……模様替えと大掃除かなあ」
「はい?」
大学祭を境に代替わりを迎え、正式に放送部の部長に就任することになった。監査となったレオから何から始めようかと聞かれたけど、実際何から始める物なのかはわからなかった。だけど、いざ「ここが部長席です」と通された席を見て、豪勢すぎて引いた。
放送部は、部活棟のミーティングルームAという教室を借り切って活動している。この部屋を仕切って班ごとにブースを構えているんだけど、奥の方には部長席や監査席と言った特殊な幹部の個人席が設けられているんだ。その広さが部屋の4分の1はあるかなあ。
特に部長席なんかは豪勢な机にやたら飾り付けられたインテリア、無駄にだだっ広いなという感じがある。監査席の方には資料の入った戸棚があったりするし、そっちがそれなりの広さなのはわかるけど、部長席に広さは要らなくないかなって。
「こっちはいつでも手を付けれそうだけど、部室だね。部室が本当に分かりにくいし、要らない物を整理したらもうちょっとスペースを確保出来るんじゃないかな」
「確かに、使われる気配のない物はやってしまいましょう。ああ、ちょうどいいところに。星野、部室の掃除をしたいので有志を集めてもらえますか」
「わかったんだ!」
ここに部室の掃除隊が結成され、実質的な物置と化した部室にメスを入れていく。暗くて埃っぽいから少し気味悪いけど、機材がここにあるから来ざるを得なかったんだよね。戸田班になって機材を自前で持つようになってからは全然入ってなかったけど、どうなってるのかな。
「げほっげほっ! やっぱり埃っぽいね」
「窓を開けて来るんだ!」
「コーキ、足元が悪いからムチャはしないでね」
「任せるんだ!」
「機材は一時的にミーティングルームに移しましょう」
「ついでだし、ミキとDで備品類の動作チェックをしてもらおうか」
「そうしましょうか。星野、ミーティングルームに残っているミキサーとディレクターにそのように伝えてもらっていいですか。ついでに、誰かに学生課から指定のゴミ袋をもらって来てもらうよう頼めますか」
「わかったんだ!」
残った面々で通路いっぱいに溢れ返るほどの物を部室から出していく。それが何であるか、これから使うのかを判定して、使わないと判断したものは処分する印をつけて後日解体することに決めた。
やっぱり、古いステージの大道具や小道具なんかがたくさんあるようだ。だけどそれならいい方で、教科書やボードゲーム盤、それからボールといった遊び道具もたくさんある。折れたプラスチックのバットや潰れたビニールボールなんかはさすがにすぐ捨てる。
「ゲンゴロー、指定のゴミ袋もらってきたですよ」
「ああ、ありがとうマリン」
「大分派手にやってるです」
「ここのスペースを空けて、もっと有効活用したくってさ。あ、マリン、汚れるからあまり何でも触らない方がいいよ」
「わかったです。今日は汚せないので遠巻きに見学するですよ」
ここはいつから掃除してないんです、とマリンは呆れた様子で部室を覗いている。俺とレオは既に埃まみれだし、ちょっと慣れた感もあるけど。
「これは酷いですね」
「何が出て来たの?」
「性行為に用いる大人の玩具ですね。この部屋で行為に及ぶ部員は多いと聞いていましたが」
「あはは……これは処分だね」
「確認しますが浦和の所有物では」
「ないですよ! 何です!?」
「いえ。可能性がある以上。何なら現状この部の中では可能性の高い方じゃないですか、実際菅野さんと」
「あーもういいですよ! 違いますよ! 普通だったらセクハラで訴えられてるですよ!」
「俺は事実だけを率直に発したつもりでした。気分を害したなら謝ります。違うのなら処分ですね」
「と言うか、まさか覗いたりは」
「さすがにそこまで悪趣味じゃありません。ただ、それが朝霞班の人間であれば証拠の映像なり何なりを押さえていたでしょうね」
さ、引いてないで掃除の続きをしますよ。そう言ってレオは例の物をゴミ袋へとシュートした。そう言えば、日高班に所属していた当時のレオの仕事は朝霞班の監視や妨害工作だったんだよなあ。淡々と言うけどやっぱりちょっと怖いな。
それからも要る物と要らない物を仕分け続けた結果、要らない物は山のように積もり、要る物はほんの少しだけ残った。それは大学から支給された備品の学習机と椅子くらいの物で、動作チェックをしている機材を含めても本当に何も残らない。
「いっそ壁や床を掃除して、この部屋の活用法を考えますか?」
「そうだね。仮にここを書庫にして過去の台本や映像を記録したメディアを置いてもいいし、BGMや効果音も探せるようにしたり」
「それは良さそうですね。しかし、古いビデオテープなどはデジタル変換した方が良さそうですね。中古でモニターでも買いますか?」
「誰か、そういうのに強い子いないかなあ」
「有志を募りましょう」
end.
++++
源部長の最初の仕事は、わけのわからんことになっている部室の大掃除だったようです。まるでどこかのLのようだ
星ヶ丘の部室はそれこそ実質的な物置で開かずの間的な扱いもされていたので埃も備品類も年季が入っていて、パッと思い付きでやれる規模ではなさそうです
部室の隠れた使用法についても言及したレオである。そこでマリンに話を振るのは悪意があるようにしか見えないぞw
.