2020(03)

■お疲れさまのる~び~デビュー

++++

「しかしまあ、流刑地と呼ばれた班から部長が出る時代だよ。ビビるよね洋平、ゲンゴローが部長だって」
「ホント、すごいでしょでしょ~」

 大学祭が終わったその足で、戸田班6人がやって来たのは山口先輩がバイトをしているいつものお店。6人くらいだったら予約を入れなくたってすぐ入れるのがスムーズでいい。そしたら、何とお店には朝霞先輩もご飯を食べに来ていて、朝霞班と戸田班が全員集合している。
 ステージお疲れさまでしたとつばめ先輩3年間お疲れさまでしたを兼ねた乾杯をして、次につばめ先輩が山口先輩に報告してたのは俺の部長就任の件だったから、急に恥ずかしくなっちゃうよね。山口先輩も働きながら、朝霞先輩もカウンター席で声を上げて驚いてたし。

「ところでつばちゃん、班の班長はゲンゴローとマリンちゃん、どっちにしたの?」
「そこはゲンゴローだよね。一本釣りして来てから一緒にやってたし。信頼の証よ。でもアタシとしてはステージのことはマリンに、班のことはゲンゴローにって感じで負担を分けるつもりだったのに、何かアタシの知らんトコで柳井の野郎がゲンゴローに部長やれとかって話してやがるしさ!」
「ステージのことはプロデューサーの私に任せるですよゲンゴロー!」
「頼りにしてます」
「おーっとマリンさん、俺の存在も忘れてもらっちゃ困りますよ。代替わりでイキって空回ってたら俺が正プロデューサーの座を一瞬でもらってくんで、よろしくお願いします」
「キーッ! 彩人~! 生意気です!」

 マリンと彩人のプロデューサー戦争もまだまだ始まったばかり。今回のステージでは協力してたけど、やっぱり基本はライバルなのかな。でも、2人の性格的に、競う相手がいるのはいいことなのかもしれない。
 つばめ先輩から班長をやって欲しいって言われた時はビックリしたよね。まあ、部長の時ほどじゃなかったけど。でも、班のこととステージのことを俺とマリンで分担って言われて、それはすぐに納得して返事したよね。

「あれっ? てかさゲンゴロー」
「はい。何ですか?」
「アンタの誕生日って確かアタシの次の日だよね? 6月の24」
「ですね」
「アンタそれ以来、飲み屋らしい飲み屋に来た?」
「あー……そう言えば、久し振りですね」
「おーい、二十歳になってんぞー! そろそろる~び~解禁っしょ!」
「あー、そうですね。飲める年齢にはなってましたね」

 俺はお酒好きの朝霞班にあって「本当に二十歳になるまでは飲まないことに決めてるんです」と貫いてきた。先輩たちもその意向を酌んでくれていて、俺は大体コーラで乾杯させてもらってたんだ。だけど、思い起こしてみれば確かに俺は結構前に二十歳になっている。

「それじゃあ、とりあえず1杯飲んでみます」
「そうこなくっちゃ! おーい洋平ー! ゲンゴローにる~び~! アタシ持ちで~!」
「えっ!? そんな、自分で出しますよ!」
「部長就任のご祝儀って体で飲んどいてよ。それとも、アタシの酒が飲めないっての?」
「そーですよ! つばめ先輩のる~び~が飲めないですか!?」
「あ、いえ、それじゃあ、いただきます。……マリン、悪酔いしてない? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ!」

 1年生は海月がちょっと弱いのかな。俺は飲んだことがないから自分でもよくわかんないけど大丈夫かな。山口先輩が生中のジョッキを持って来てくれて、「俺も見守ろ~」とその場で待っている。

「つか洋平、生中1コ多いよ」
「ああ、そっちはつばちゃんに」
「えっ、奢り!?」
「つばちゃんへのる~び~はあっちのお客さんからで~す。1年間班長お疲れさま~だそうで~す」
「ったく相変わらず水臭せーわ。ちょっと朝霞サン! そんなトコでぼっち飯キメてないでこっち来なよ!」
「そうですよ、朝霞先輩、こっちで一緒に飲みましょうよ。みんな待ってますよ」
「えー。私は待ってないですけどー」
「マリンさんはともかく俺ら3人はウェルカムっすよ!」
「今放送部で一番偉いのゲンゴローだからね? 朝霞サンに拒否る権利ないからね」
「わかったよ」

 渋々、と言った様子だけど、朝霞先輩はカウンター席から小上がりの席に移動して来てくれた。その手には、だし巻き卵と生中のジョッキ。そうなると乾杯をしようという話になるけれど、音頭は誰が取るんだろう?

「浦和、お前音頭取れ」
「何で朝霞に言われなきゃいけないですか! お前が取れですよ!」
「現役が取るべきだろ」
「はー!? 仮にもつばめ先輩とゲンゴローの直属の先輩です!? お前が取るべきです!」
「ねー、どっちでもいいけど泡が消える~」
「そしたら俺が」
「いいぞ彩人ー!」
「コホン。戸田さん1年間班長としてマジあざっした! ゴローさん部長&班長就任おめでとうございます! マリンさんもあと1年よろしくお願いしますけど個人的には負けないっす! 海月とみちるもあと2年頑張ろうな! 朝霞さんと洋平さんも、新生・源班の土台を作ってくれた先駆者として感謝っす! っつーことで、お疲れっした&これからもよろしくー! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「……はー! うまい! ゲンゴロー、る~び~の味は?」
「えーと、よくわかんないですけど、いい思い出にはなりました」


end.


++++

結局、ゲンゴローは観念したのか諦めたのか、何か思うところがあったのか部長就任の話を承諾したようです。
戸田班の打ち上げは例によって洋平ちゃんのいる玄ですが、ぼっち飯を決め込んでる先輩もいた様子。普通にご飯食べに来る気分だったんでしょう
それはそうと、よくよく考えたらゲンゴローもハタチになってたんですね。る~び~デビューです。インターフェイスの飲み会でもコーラハイとか飲ませたい

.
56/100ページ