2020(03)

■exploit a weakness

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「ありがとうございまーす! あっ、良かったらお手拭きもあるんで1枚どうぞー」
「いらっしゃいませー、ポテトMひとつですねーッ!」

 大学祭2日目。昨日は金曜日で構内にいるのはほとんど大学関係者だったけど、今日は土曜日で一般の人も数多く来る。今年のMMPは、毎年やっているDJブースを中止して3日間通して食品ブースでフライドポテトを売っている。
 試作会の結果、Sサイズを100円で、Mサイズを200円で売ることになった。各ファストフード店のポテトの量や値段を比較検討した結果の値段設定になっている。昨日1日やっていた感じでも、意外に200円でMサイズを買う人が多いなっていう印象だ。
 さて、本腰を入れて売って行くのは土曜日だ。ここでどれだけやれるかで今後のMMPの資金力が決まると言っても過言ではない。これまでの年度にはなかったガチ商魂、売り切れても追加するから時間まで終わらないし、呼び込みも例年比でちゃんとやっている。

「今年はいつにない売れ行きだな」
「正直、例年より無難なメニューですからね。それに、何だかんだポテトはあったら食べたくなります」
「りっちゃんが完全に屋台のあんちゃんじゃないか」
「調理に関しては律のありがたみが身に沁みますね」
「うちも普通に食べようかな」

 今年の大学祭は拠点設営の関係で圭斗先輩と菜月先輩にもご協力いただいている。先輩方がブースの周りでゆっくりされているのは例年通りという感じ。裏からこっそり200円と交換に菜月先輩へポテトを渡し、それを少し摘まませてもらう。
 圭斗先輩と菜月先輩宅の冷凍庫にはあらかじめ下拵えしたフライドポテトが大量に詰め込まれている。何が恐ろしいって、大量に用意したポテトの原材料であるジャガイモは譲ってもらった物で、1円も出していないということだ。
 俺たちが金を出したのはジャガイモ以外の物。例えば油や塩。他には容器やその他の備品類。それでもジャガイモには金を出していないから、売れば売るだけ稼げるという仕組みだ。少し余裕があるから現代人に配慮して紙おしぼりを用意している。

「そう言えばノサカ、昼のライブ見に行くか?」
「ライブですか? そう言えば、今年はお笑いライブではなかったのですね。菜月先輩は見に行かれるのですか?」
「そうだな、Yesterday'sとトリプルメソッドだろ、ちょっと見に行きたいなと思って」

 大学祭では毎年ゲストを呼んでのステージ企画が行われている。大体お笑い芸人が来ているような感じだけど、今年はバンドを呼んでのライブが開催されるとのこと。正直縁のないイベントだなと思ってたんだけど、菜月先輩が行きたいと仰るなら話は別だ。

「Sくーん、いるー?」
「うわっ、出た!」
「だから、そういう反応されるとショックなんだけどなー」
「そんなこと微塵とも思ってないでしょう」
「あ、樹理ちゃんやないですか」
「ヒロくんもおはよー」
「え……つかいつの間にヒロは京川さんとそんなに仲良くなって…?」

 まあ、そこはクズ同士波長が合うのかもしれないけど。と言うか、京川さんはまさか大学祭なんかに来るタイプだとは思ってなかったから、この場にいることに驚いている。しかも、何か俺を訪ねて来たみたいだったし。え~……何の用だよ。

「それより、何の用件で…?」
「ああ、トリプルメソッドの壮馬クン。ライブまでちょっと時間あるから大学構内を案内してるの」
「えっ、知り合いなんですか?」

 京川さんの隣にいる人がゼミの人っぽくはないなと思ってたんだけど、まさかのバンドマンとか。つか、京川さんとバンドマンとの繋がりも全然見えないし。でも、菜月先輩が気になるって言ってたし興味はちょっとある。

「USDXの関係だよ。チータが個人的に壮馬クンと知り合ってて、レイ君に曲を提供したりっていう音楽的な縁があってさ。あ、菜月ちゃんもいる。MMPって4年生は引退してるんじゃないの?」
「今年は手伝ってる感じで」
「あ、そうなんだ。真面目だね~。あっ壮馬クン、こないだ渡した音源の。この子がそう」
「へー! マジすか! トリプルメソッドのギターボーカルやってる長崎壮馬っす! 先行で音源聞かせてもらったっす! すげー歌声で俺も負けてらんな」
「ちょっと待て」

 菜月先輩がトリメソのボーカルをヘッドロックしているというのもなかなかな光景だけど、そのシメ方がなかなかにガチだ。相手がこれからライブ本番のあるバンドマンだということを完全に無視しているのではないかと。そんな事情が菜月先輩にあるらしい。

「次余計なこと言ったらお前の先輩に言ってシメさせるからな」
「ひっ…! 悠哉君はマジで勘弁っす! もう言わないっす! 内密にするっす!」
「わかれば良し。そういうことだから、ポテトでも買って行ってくれ。普通に美味しいから」
「あっ、小腹にちょうどいいっすね! 本番前に腹いっぱいになり過ぎないし! Mサイズくださいっす!」
「Mサイズひとつー」
「はーいッ!」

 ふう、と一息つかれた菜月先輩だけど財布の叩き方と弱点の突き方が相変わらず凶悪……いや、何でもない。しかし、謎が謎呼ぶ感じだぞ。深く突っ込まない方がいいんだろうけど、気になって仕方ないぜ!


end.


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今年は商売に全振りしたMMPですが、シフトを守って一生懸命やってても基本は出不精なので近くにみんないます。
よくよく考えたらプロ氏と壮馬はそれなりに縁があるんだろうけど、個人としての繋がりってここが初めてくらいなんじゃないかしら
悠哉君はマジ勘弁というそれから、日頃から壮馬がどれだけ高崎にボロカスにやられてるのかがよくわかりますね!

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