2020(03)
■まったりごはんの梅通り
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いよいよ大学祭が始まって、俺はMBCCのブースと佐藤ゼミのブースの往復で忙しくなる。2日目は果林先輩とゼミのラジオブースで丸1日生放送をやってる予定だし(MBCCのラジオ的には迷惑だとシノがキレ散らかしてたけど)、ゆっくり出来るのは実質的に今日くらいかな。
学内の通りはそれぞれ松竹梅になぞらえて良い方から松通り、竹通り、梅通りと大学祭限定で名付けられている。MBCCは大学祭実行委員との密約と交換条件で松通りの一等地にブースを構えさせてもらっているけど、佐藤ゼミは人もまばらな梅通りでのまったり運営だ。
「やっぱスタートの梅通りは閑古鳥だね」
「大丈夫、8号館の中ほどじゃないから」
「そう言えばお米同好会のごはんブースって8号館の教室でやってるもんね。呼び込みとか行かないの?」
「あんまり行かないね。動くのが億劫になるって言うか。だから今年は外からスタートですごく新鮮」
「そっか。俺はこっちは静かだなーと思ってたけど、中はもっと人がいないんだ」
食品ブースの店長を務めているのは米福くん。彼が所属するお米同好会というサークルは、去年の大学祭で突然名前が売れたように思う。ゼミのブースでも、リーダーが米福くんならご飯もののメニューにしようって炊き込みご飯と豚汁を販売することになったよね。
「高木君、MBCCの方は大丈夫なの?」
「タイムテーブルは決まってるからね。ゼミの方にはMBCCの仕事が入ってない時間帯にいるって感じ」
「よろしくお願いします」
「いえいえ」
「あ、唐揚げいい匂い」
「ホントだね」
ゼミのみんなにもそれぞれ自分のサークルなどでの持ち場がある。実際、鵠さんはGREENsの方で唐揚げを揚げているし。まあ、そのGREENsのブースは佐藤ゼミ2年生のブースと隣り合ってるから、鵠さんはこっちとそっちを行ったり来たり自由なんだけど。
「ご飯に合う唐揚げっていうのがあってさ。下味で醤油と生姜を利かせたのが、最高に美味しいんだよ」
「あ~、米福くん、それはダメだよ。テロだよ」
「高木は学食でも揚げ鶏丼ばっか食ってるもんな。飯と唐揚げの組み合わせは好きじゃん?」
「そうだよ! 揚げ鶏丼ってまさに唐揚げとご飯なんだよ! でも、秋はサンマも食べてたよ」
「でも基本揚げ鶏丼紅ショウガ抜きじゃんな」
佐藤ゼミ2年ブースはゆっくり食べるご飯ものだから、ブース営業が始まったばかりの時間帯の売り上げはそこまで見込んでない。だからこその雑談でゆるゆるっとした時間なんだけど。でも一応表には「お米同好会監修」とは書いてるし、何かの間違いで評判にならないかな。
「うーす。高木、やってるか」
「おはようタカティ」
「あっ、高崎先輩岡崎先輩、おはようございます。どうしたんですか?」
「俺は毎年GREENsのタダ券もらってるからよ、それを引き換えに来た。引き換えた唐揚げを喫煙所で岡崎と食うっつーのが学祭のルーティンだ」
「そうなんですね」
4年生の先輩も大学祭には遊びに来てるみたいだ。さすがに去年までのようにガッツリとは参加しないけど、MBCCの売り上げや各賞の投票には協力してくれるみたい。……まあ、売り上げが多くなればなるほど打ち上げの後の積立金も増えるから、卒コンのグレードが上がるもんね。
「それ、佐藤ゼミのブースだろ。お前らは何やってんだ?」
「炊き込みご飯と豚汁です。単品でも食べられます」
「普通に飯じゃねえか」
「梅通りにはあまり人が来ないことを逆手に取って、ステージ前のベンチでゆっくり食べれる物でもいいんじゃないかって」
「なるほどな。賢いかもしれねえ」
「高崎先輩、食べてってみませんか? 先輩ならお腹の容量的にも全然行けると思いますし。炊き込みご飯はあのお米同好会の監修ですから美味しいですよ」
「ふーん、そいつは興味深い。そしたら、飯と豚汁のセットで」
「ありがとうございます」
「GREENsには金を落とさねえが、佐藤ゼミは例年の感じを見ててもさほど脅威じゃねえし、普通に美味そうだから食ってく」
そう言うや、高崎先輩はステージ用のベンチに腰掛けて普通に食事を始めた。岡崎先輩も一口二口分けてもらっているような感じ。俺もブースの営業が始まる前の味見っていう体で食べたけど、炊き込みご飯が本当に美味しいんだよね。豚汁も具だくさんで。
「ごちそうさん。確かに美味かったけど、ブース位置が良けりゃもっと売れたかもな」
「ブース位置が良かったらこのメニューにはならなかったと思います」
「ああ、そうか。ま、隠れた名所っつーことで、腹が減ったらまた来る」
「お待ちしてます。あ、MBCCの焼きそばもよろしくお願いします」
「焼きそばは普通に晩飯として持ち帰る予定だ」
「あ、そうなんですね」
「GREENsの唐揚げもお願いします!」
「GREENsにはびた一文も落とさねえ。美味いが故にだ」
そう言って高崎先輩は唐揚げの紙コップ片手に行ってしまった。でも、高崎先輩が美味しいって言ってくれたしクオリティはお墨付きを得たんだ。問題は、需要の点だけど……「前年度緑大準ミスター絶賛」っていう張り紙を――いや、怒られるだけじゃ済まないな。まったり運営でいいんだよゼミは。
end.
++++
緑大の大学祭が始まり、各々の持ち場からスタートしました。行ったり来たりがあると気分転換が図れていいね
さて、今年も例によって唐揚げの引換券をもらった高崎はユノ先輩と一緒に大学祭巡りをしています。てかユノ先輩来るんだ。何か意外だね
佐藤ゼミは脅威じゃないからお金を出してもいいけどGREENsは脅威だからお金を出さない、と。今年も対抗意識が強い高崎であった
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いよいよ大学祭が始まって、俺はMBCCのブースと佐藤ゼミのブースの往復で忙しくなる。2日目は果林先輩とゼミのラジオブースで丸1日生放送をやってる予定だし(MBCCのラジオ的には迷惑だとシノがキレ散らかしてたけど)、ゆっくり出来るのは実質的に今日くらいかな。
学内の通りはそれぞれ松竹梅になぞらえて良い方から松通り、竹通り、梅通りと大学祭限定で名付けられている。MBCCは大学祭実行委員との密約と交換条件で松通りの一等地にブースを構えさせてもらっているけど、佐藤ゼミは人もまばらな梅通りでのまったり運営だ。
「やっぱスタートの梅通りは閑古鳥だね」
「大丈夫、8号館の中ほどじゃないから」
「そう言えばお米同好会のごはんブースって8号館の教室でやってるもんね。呼び込みとか行かないの?」
「あんまり行かないね。動くのが億劫になるって言うか。だから今年は外からスタートですごく新鮮」
「そっか。俺はこっちは静かだなーと思ってたけど、中はもっと人がいないんだ」
食品ブースの店長を務めているのは米福くん。彼が所属するお米同好会というサークルは、去年の大学祭で突然名前が売れたように思う。ゼミのブースでも、リーダーが米福くんならご飯もののメニューにしようって炊き込みご飯と豚汁を販売することになったよね。
「高木君、MBCCの方は大丈夫なの?」
「タイムテーブルは決まってるからね。ゼミの方にはMBCCの仕事が入ってない時間帯にいるって感じ」
「よろしくお願いします」
「いえいえ」
「あ、唐揚げいい匂い」
「ホントだね」
ゼミのみんなにもそれぞれ自分のサークルなどでの持ち場がある。実際、鵠さんはGREENsの方で唐揚げを揚げているし。まあ、そのGREENsのブースは佐藤ゼミ2年生のブースと隣り合ってるから、鵠さんはこっちとそっちを行ったり来たり自由なんだけど。
「ご飯に合う唐揚げっていうのがあってさ。下味で醤油と生姜を利かせたのが、最高に美味しいんだよ」
「あ~、米福くん、それはダメだよ。テロだよ」
「高木は学食でも揚げ鶏丼ばっか食ってるもんな。飯と唐揚げの組み合わせは好きじゃん?」
「そうだよ! 揚げ鶏丼ってまさに唐揚げとご飯なんだよ! でも、秋はサンマも食べてたよ」
「でも基本揚げ鶏丼紅ショウガ抜きじゃんな」
佐藤ゼミ2年ブースはゆっくり食べるご飯ものだから、ブース営業が始まったばかりの時間帯の売り上げはそこまで見込んでない。だからこその雑談でゆるゆるっとした時間なんだけど。でも一応表には「お米同好会監修」とは書いてるし、何かの間違いで評判にならないかな。
「うーす。高木、やってるか」
「おはようタカティ」
「あっ、高崎先輩岡崎先輩、おはようございます。どうしたんですか?」
「俺は毎年GREENsのタダ券もらってるからよ、それを引き換えに来た。引き換えた唐揚げを喫煙所で岡崎と食うっつーのが学祭のルーティンだ」
「そうなんですね」
4年生の先輩も大学祭には遊びに来てるみたいだ。さすがに去年までのようにガッツリとは参加しないけど、MBCCの売り上げや各賞の投票には協力してくれるみたい。……まあ、売り上げが多くなればなるほど打ち上げの後の積立金も増えるから、卒コンのグレードが上がるもんね。
「それ、佐藤ゼミのブースだろ。お前らは何やってんだ?」
「炊き込みご飯と豚汁です。単品でも食べられます」
「普通に飯じゃねえか」
「梅通りにはあまり人が来ないことを逆手に取って、ステージ前のベンチでゆっくり食べれる物でもいいんじゃないかって」
「なるほどな。賢いかもしれねえ」
「高崎先輩、食べてってみませんか? 先輩ならお腹の容量的にも全然行けると思いますし。炊き込みご飯はあのお米同好会の監修ですから美味しいですよ」
「ふーん、そいつは興味深い。そしたら、飯と豚汁のセットで」
「ありがとうございます」
「GREENsには金を落とさねえが、佐藤ゼミは例年の感じを見ててもさほど脅威じゃねえし、普通に美味そうだから食ってく」
そう言うや、高崎先輩はステージ用のベンチに腰掛けて普通に食事を始めた。岡崎先輩も一口二口分けてもらっているような感じ。俺もブースの営業が始まる前の味見っていう体で食べたけど、炊き込みご飯が本当に美味しいんだよね。豚汁も具だくさんで。
「ごちそうさん。確かに美味かったけど、ブース位置が良けりゃもっと売れたかもな」
「ブース位置が良かったらこのメニューにはならなかったと思います」
「ああ、そうか。ま、隠れた名所っつーことで、腹が減ったらまた来る」
「お待ちしてます。あ、MBCCの焼きそばもよろしくお願いします」
「焼きそばは普通に晩飯として持ち帰る予定だ」
「あ、そうなんですね」
「GREENsの唐揚げもお願いします!」
「GREENsにはびた一文も落とさねえ。美味いが故にだ」
そう言って高崎先輩は唐揚げの紙コップ片手に行ってしまった。でも、高崎先輩が美味しいって言ってくれたしクオリティはお墨付きを得たんだ。問題は、需要の点だけど……「前年度緑大準ミスター絶賛」っていう張り紙を――いや、怒られるだけじゃ済まないな。まったり運営でいいんだよゼミは。
end.
++++
緑大の大学祭が始まり、各々の持ち場からスタートしました。行ったり来たりがあると気分転換が図れていいね
さて、今年も例によって唐揚げの引換券をもらった高崎はユノ先輩と一緒に大学祭巡りをしています。てかユノ先輩来るんだ。何か意外だね
佐藤ゼミは脅威じゃないからお金を出してもいいけどGREENsは脅威だからお金を出さない、と。今年も対抗意識が強い高崎であった
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