2020(03)

■真夜中の熱源

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「あー……俺もうダメだ。休んでいいか?」
「いいよ。あとは俺がやっとくし。鵠さんは休んでもらって」
「悪い。じゃ、寝るわ」
「おやすみー」

 大学祭が近くなってくると、ゼミの方でもその準備に奔走していた。大学祭の準備もあるし、班で作ってる社会学的なラジオ番組の制作の方も佳境に入っていて、ゼミ室で夜を明かすことも少なくなくなっていた。
 今日は大学祭の準備の方をやっていて、現在時刻は午前1時半。俺はまだまだ元気だけど、朝型の鵠さんにとってはすごく遅い時間になっている。眠いなって思ったらその辺でも寝れるのがこのスタジオのいいところだと思う。

「さて、と」

 1人になったことだし、気分転換に飲み物を買いに出た。買いに出ると言っても、すぐそこにある自販機までなんだけど。午後ティーのストレートを買って、そのまますぐスタジオへと下って行く。深夜の学内は静まり返っていて、非常口の電灯がちょっと不気味だ。

「あれ、タカちゃん。まだやってたんだ」
「果林先輩。お疲れさまです。果林先輩は今からですか?」
「そうだね。ほら、アタシたちも映像の方やんなきゃいけないからさ」
「そうだったんですね」
「タカちゃんたちは? 音声?」
「学祭の準備ですね」
「あ、そうなんだ。よくやるね」
「まあ、俺はこれくらいの時間の方が活動しやすいので」

 俺は夜型だから、これくらいの時間の方が「今からだな」って感じがする。鵠さんの部屋に泊めてもらうときはこれくらいの時間に寝てるけど、正直早寝だもんなあ。って言うか鵠さんは家も近いんだから帰って寝ても良かったんじゃないかなあ。
 果林先輩はいつものようにたくさん食糧が入っているのであろう袋を提げてやって来た。3年生にも課題はもちろん出されていて、その制作のためのスタジオ泊は日常茶飯事。それを暗黙の了解にしてもらってる守衛さんには、大学祭のブースで出す食品を差し入れるのが慣わしなんだそうだ。

「2年生って何出すの?」
「炊き込みご飯と豚汁ですね」
「えっ、美味しそう。普通に食べたい」
「佐藤ゼミのブースが毎年梅通りだって聞いて、それなら人通りが比較的少ないことを逆手にとってゆっくりご飯食べたらいいんじゃない、的な発想に至りました」
「あー、なるほど。それはいいね。でも、豚汁だったら白いご飯も食べたいなあ」
「俺も全く同じことを言ったら、白いご飯はお米同好会でお願いしますって米福くんは言ってました」
「そーじゃんお米同好会! 今年もごはんの食べ比べやるのかな」
「やるって言ってましたよ」
「やった!」
「3年生は何を出すんですか?」
「ラップサンドだね。ワンハンドで食べ歩きにも便利っていうので」
「ああ、それも美味しそうですね」
「そりゃあアタシがいるんだからマズい物が出来るはずないですよねー」
「ですよね」

 食べ物の話をしてるからか、何か食べたいなあって気持ちになってきた。実際いい時間だし。家だったら何かつまみながら飲んでるよね。炊き込みご飯と豚汁だなんて、この時間にはなかなか辛い話題だ。だけど手元には午後ティーしかない。
 冬はホットの午後ティーのボトルを握って暖を取るのが日常になる。いくら向島エリアが温暖と言っても、緑ヶ丘大学は山を切り開いた中にある。さすがにこの季節の山だとそれなりに寒いし、昼ならまだ大丈夫だけど真夜中だしまだ秋で寒さに慣れてないから。

「タカちゃん、鼻すすってるけど寒い?」
「ちょっと寒いですね」
「じゃあ中入ろっか」
「そうですね。果林先輩はその格好で大丈夫なんですか、見た目にはいつものジャージですけど」
「原付はさすがにちょっと冷えるね、この時間。って言うかタカちゃんもいつものジャケットだけど大丈夫?」
「さすがにまだ厚着をするほどではないですね。基本日中ですし、電車での移動なので」

 スタジオへと続く階段を下って、果林先輩は給湯室へ。冷蔵庫に入れる物は入れて、沸かすお湯は沸かして、レンジであっためる物はチンする。給湯室の冷蔵庫には、ゼミ生がスタジオ泊をするときの食糧やら、学祭の食品ブースの材料やらが無尽蔵に詰め込まれている。

「タカちゃんも何か食べる?」
「え、いいんですか」
「いいよ。食べなきゃあったまらないし。タカちゃんのことだからもうしばらく作業してるんでしょ?」
「そうですね。朝方までやってるつもりでした」
「なら消費するし平気平気。あれっ、って言うかタカちゃん火曜日って1限取ってなかったっけ?」
「そうですね、データベースの授業です」
「だったら朝ごはんも要るよね?」
「朝ごはんはまあ、その時間帯になれば学内の購買も空いてるでしょうし」
「そもそも起きれる?」
「鵠さんがいるので大丈夫です」
「完全に鵠さん頼みじゃん。まあいいや、食べるの取って」
「それじゃあ、カルボナーラをもらっていいですか」
「カルボナーラね。次チンしたげる」
「ありがとうございます」

 狭い給湯室でこうやって夜食を準備する。それも何だか暗躍とか、悪いことをしてる感があってとても楽しい。だからスタジオ泊がなくならないのかもしれないな。欲を言えばお風呂があればもっとよかった。家で入ると光熱費がね。


end.


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さすがに社会学部の教室にシャワーはない。体育施設だったらあっただろうけどね、緑ヶ丘大学だけに。
ただただタカりんが正義なだけの話でしたが、話の公開スケジュールを組み立てたときに順序ミスって1つの件まるっと削除したよね……もったいなす
そういや鵠さんてすぐそこに住んでるんだし家に帰ったって全然良かったね。作業中だとそのまま現場で寝泊まりしたくなるのかしら

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