2020(03)

■あの人の空気感

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「今年の焼きそばは、去年のレシピそのままで行くことにしました」
「大学が発表してる来場者数に対する売上割合の高さや、俺たち3人で試作した結果を踏まえてこれで行くことにしました」

 大学祭の食品ブース、焼きそばチームに動きがあったようだ。リーダーのくるみ、それからサキとすがやんの3人が中心になって進めている食品ブースのことだけど、要になる焼きそばのレシピは去年の物を継続して採用することにしたそうだ。
 高崎先輩は毎年レシピを見直してより美味しい物を開発して売り上げて行かないといけないという風に言っていたけど、今年の子たちがそういう風に決めたのなら2年生以上はわかりましたとその報告を受けるだけ。そのまま行く方がいいと決断するのもまた難しいことだから。

「去年の売り上げ割合ねえ。サキ、去年の売り上げは特殊だよ? 本当に大丈夫?」
「去年の売り上げが女装ミスコンとミスターコンテストの好成績からなる物だということはわかってます。だから、今年も同じように行くとはもちろん思ってません。まさか高木先輩に今年も売り子をやってもらうわけにもいきませんし」
「ちょっ、サキ? ど~こで調べて来たのかな…?」
「こないだ遊びに行った向島の雑記帳に書いてありました。それで、少し事情を聞いたら、飲み会で開催されたじゃんけん大会の罰ゲームが発端でああなったと」

 とうとう去年の女装ミスコンの事がバレてしまったかと。まあ、いつかはバレると思ってたんだけど。彩人がうちに来たときに、事故で当時の備品が発掘されてしまって事情を話したことはあったけど、ササは知らなかったって顔をしてるから本当に黙っててくれたんだね。ありがとう。
 雑記帳が面白いからっていう理由ですがやんがサキを連れて向島さんに行ってた日は確かにあったけど、あそこでここに辿り着いてたかと思うと何だかなあ。でも、サキの調査力ならいずれはバレてたかもしれない。まあ、ここまでよく耐えた。

「サキお前どんだけ調べたんだよ」
「向島の人に事情を聞いたのと、FMにしうみで高崎先輩を出待ちして傾向と対策を聞いたりして」
「出た西海住みの荒業!」
「高ピー先輩は何か言ってた?」
「強烈な売り子がなくても味が良ければリピーターは増えるっていうのと、去年のレシピなら冷めても美味しいからテイクアウトにも対応出来るようにすること。それから、OBの人が顔を出したら金券は1000円分全部毟り取れというアドバイスをもらいました」
「さすが高ピー先輩……安定ですよねー」

 高崎先輩がレギュラー番組を持っているFMにしうみは、サキの家からもさほど遠くはないらしい。出待ちしてそのまま入ったファミレスでアドバイスをもらっていたとのこと。と言うか、サキが意外にアグレッシブに情報を取りに行ってるなって感じ。
 サキはとにかく控えめっていう印象が強い。1年生6人の中でも口数は1番少ないし、いつも隅っこの方で過去の雑記帳や各種ノートを読んでいたりする。だけどその分知識や情報量は凄まじいし、時系列と出来事をちゃんと把握してるのが凄い。まさしくブレインって感じだよね。

「サキ、高崎先輩を出待ちするの怖くなかった?」
「何も理由が無ければ少し怖かったと思いますけど、焼きそばのための情報戦ですから。それに、番組は普段から聞いてて、怖くない人だとは知ってたので」
「まあ、確かにそうなんだよね。高ピー先輩は何だかんだで話は聞いてくれる人だからね」
「チーズケーキをごちそうになっちゃって、恐縮でした」
「えーっ! サキいいなー!」
「くるみは普段から高崎先輩と甘いの食べに行ってるんでしょ」
「言うほどいつもじゃないよ!」
「そーいやすがやんも1回メシ食わしてもらったって言ってたな」
「えっ、すがやんも?」
「トンカツ食わしてもらったって聞いたっす」
「高ピー先輩とトンカツだったら“とん源”だねきっと。ごはんとキャベツおかわり自由の」
「えー! 果林先輩、その店この近くっすか!?」

 こうして話を聞いていると、今年の1年生……と言うかすがくるサキの3人は活動的と言うか、行けるところには行くっていうスタンスなのかなと思う。高崎先輩に向かって行く姿勢からしてもそうなのかなって。って言うか高崎先輩ごちそうしてばかりだなあ。
 1年生と高崎先輩は、MBCCのことやインターフェイスのこと、それから大学生活のことなどいろいろな話をしているらしい。そう聞いたら俺も久々に高崎先輩と飲みたくなってきたな。呼んだらうちにも来てくれるかなあ。

「えっと、話がちょっとそれちゃいましたけど、焼きそばのレシピはそんな感じなので、皆さんよろしくお願いします」
「高木、ワンチャン去年の準ミスの本領発揮してもいいべ。備品と衣装は残ってるだろっていう」
「嫌だよ!」
「わ、珍しい。タカちゃんの強い拒否反応」
「拒否もしますよ……さすがに今年は生身でいたいです」


end.


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合同ゼミに引き続き、タカちゃんの精神面がゴリゴリに削られてしまう事案が発生。とうとう女装ミスコンの話に1年生が辿り着いてしまった様子。
それはそうと焼きそばの方は去年のレシピを踏襲することに決まり、その方針で行くことが発表されました。純粋に味だけで勝負していくら売れるか。
高崎と1年生たちの交流については初夏の頃に少しやっていたと思うのですが、その後も見えないところでちょこちょこあったみたいですね

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