2020(03)
■会えない時間の埋め方
++++
「――というワケで、しばらくなかなか会えなくなるし、連絡がなかなか返って来なくても心配しないでもらえれば」
「はい。頑張ってください」
「えっと、1コ言っときたいのは、ステージと比べてリクのことを軽視してるとかじゃないからな。それだけはわかっといて欲しい」
10月に入って、大学祭に向けての動きがどんどん活発になっているのを感じる。特に部活ではステージの練習も始まっていて、俺は駆け出しのプロデューサーとしてマリンさんと協力しながら1つのステージを作り上げようとしている。
そうしているうちに帰りも普段よりちょっと遅くなってるし、休みの日も必要な資材の買い出しや打ち合わせ、そして練習に費やされる。その事情をわかっていないリクじゃないけど、改めて大学祭が終わるまではよろしくお願いしますという話のために呼び出していた。
「星ヶ丘ってやっぱり凄いよな。夏に見たああいうのを学祭でもやるんだろ?」
「そうらしい。大学祭のステージは1時間枠が2日分。学祭は3日あるから1日はフリーみたいなんだけど、完全に自由ってワケじゃなくてステージ運営の手伝いとかはしてなくちゃいけないとかで」
「ふーん、そうなんだ。模擬店とかはやらない感じ?」
「そんなヒマも余裕もねーな。学祭はステージ一色っつー感じ。緑ヶ丘は?」
「ウチはDJブースと食品ブースを出して、それを3日間ぶっ通しで。俺個人としては企画番組とリクエスト番組を1時間ずつやるっていう感じ」
「まあ、言って緑ヶ丘も十分ガツガツやってるよな」
緑大では代々1年生が中心となってブース運営をしているとか。食品ブースではくるみがリーダーとなって焼きそばを売るそうだ。DJブースはシノがリーダーで、リクはその補佐をしているとか。思った以上にシノがしっかりやってくれていて、今のところ出番がないとも。
「大学祭が終わるまでしばらく会えないのは納得するしかないとして、俺が時間を作って星ヶ丘に行くしかないっぽいな」
「え、来る気か!?」
「彩人と一緒に学祭めぐりとかもしたいし、ステージも見たいし」
「あー……まあ、確かに俺は大学構内から出れなさそうだもんな。でも、お前だって番組とかあるんだろ」
「番組も焼きそばの当番もあるけど、予定があるなら調整はしてもらえるから。なんなら番組のタイムテーブルに関しての権限は俺たちにある」
「うーわ、職権濫用って言うんだぜ、そーゆーの」
「彩人は俺と学祭回りたくない?」
「そーゆーコトじゃねーの」
大学の学祭は高校までのそれとは規模も全然違うし、憧れは確かにある。リクと回りたくないってワケじゃないけど、俺にもリクにもやることがある以上、回れないのは仕方ない。自分だけ良ければいいってワケにも行かないのが社会生活ってモンだろう。
ぶっちゃけ、リクは俺がステージに打ち込んでる学祭明けまでの期間、あまり会えないことを理解はしていても納得はしてないんじゃないかなと思う。何と言うか、どんな手段を使ってでも会う時間を捻出しようとするんじゃないかと。俺の欲目かもしれないけど、リクってのはそーゆートコのあるヤツだ。
「いいかリク。俺と居たいがためだけに全体の予定を動かしたりすんな。遅くなってもLINEはちゃんと返すし」
「うん」
「あーもう、そんなにしょぼくれんなよ。学祭が終わったら時間も出来るしな?」
「……彩人、こっち見て」
「ん? ――……んん~!? ちょっ、おまっ、いきなり何すんだ!」
「何って、キスだけど。これくらいさせてもらわないと会えない期間の割に合わない」
「……あの、怒ってます?」
「怒ってはない」
「そーだよ! つか俺が半ギレだったんだよ! 何淡々と「キスだけど」とか言ってんだよ! いきなりすんなよバカじゃねーの!?」
「するって宣言しても彩人は絶対させてくれないから。付き合って2ヶ月経ってるのにここまで何も手を出さなかったのを褒められて然るべきだ」
「……そーだ、お前って本来メチャクチャ手が早いんだったな」
レナによればリクは本当に慣れてるし手が早いっていうことだから……付き合って2ヶ月経ってるのに何も手を出されてないというのは、もしかしたらリクなりに俺に気を遣ってくれて――……って、でも、それっくらいが一般的じゃねーのかなあ。
「別に初めてでもないだろ?」
「はあ~!? 初めてなんだけど!? それを、はあ~!? えー、マジかよ。いや、別にいいんだけどさ」
「え、ウソだろ。彩人くらいカッコよければ恋愛経験くらいいくらでも」
「ねーよ! 外見は大学デビューだし、高校は文芸部で地味~に過ごしながら普通に学校行事を楽しんでた一般市民だぞ! 恋愛経験なんかあるワケねーだろ!」
「まあ、急にしたのは悪かった。学祭が終わったら、じっくり……な」
「それはそれで何されるかわかんなくて怖いけど」
「俺はキス以上のこともしたいけど、嫌なら拒否ってくれれば。それでなくても彩人はトラウマ持ちだし。嫌がることはしたくない」
「お気遣いどうも。まあ、それは……心の準備をさせてもらえれば」
とりあえず、学祭が終わるまでは今のキス1回で辛抱するとリクはこの話を閉じた。お互いやることをやって、時々連絡を取りながら、再びゆっくりと過ごせるその日までの辛抱ということで。
end.
++++
ステージの準備期間はそれにしっかりと集中したい派の彩人と、理解しつつもお預けを食らうササのあれこれ。
そういや彩人はPさんと同じ高校の文芸部だったんか。でもいろいろ書くと言うよりは隅っこで本とか過去の部誌とか読んでそうなタイプかな。
彩人がササの取説をちょっと理解してきている様子。目的のためには手段を選ばない方なのかもしれないね
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「――というワケで、しばらくなかなか会えなくなるし、連絡がなかなか返って来なくても心配しないでもらえれば」
「はい。頑張ってください」
「えっと、1コ言っときたいのは、ステージと比べてリクのことを軽視してるとかじゃないからな。それだけはわかっといて欲しい」
10月に入って、大学祭に向けての動きがどんどん活発になっているのを感じる。特に部活ではステージの練習も始まっていて、俺は駆け出しのプロデューサーとしてマリンさんと協力しながら1つのステージを作り上げようとしている。
そうしているうちに帰りも普段よりちょっと遅くなってるし、休みの日も必要な資材の買い出しや打ち合わせ、そして練習に費やされる。その事情をわかっていないリクじゃないけど、改めて大学祭が終わるまではよろしくお願いしますという話のために呼び出していた。
「星ヶ丘ってやっぱり凄いよな。夏に見たああいうのを学祭でもやるんだろ?」
「そうらしい。大学祭のステージは1時間枠が2日分。学祭は3日あるから1日はフリーみたいなんだけど、完全に自由ってワケじゃなくてステージ運営の手伝いとかはしてなくちゃいけないとかで」
「ふーん、そうなんだ。模擬店とかはやらない感じ?」
「そんなヒマも余裕もねーな。学祭はステージ一色っつー感じ。緑ヶ丘は?」
「ウチはDJブースと食品ブースを出して、それを3日間ぶっ通しで。俺個人としては企画番組とリクエスト番組を1時間ずつやるっていう感じ」
「まあ、言って緑ヶ丘も十分ガツガツやってるよな」
緑大では代々1年生が中心となってブース運営をしているとか。食品ブースではくるみがリーダーとなって焼きそばを売るそうだ。DJブースはシノがリーダーで、リクはその補佐をしているとか。思った以上にシノがしっかりやってくれていて、今のところ出番がないとも。
「大学祭が終わるまでしばらく会えないのは納得するしかないとして、俺が時間を作って星ヶ丘に行くしかないっぽいな」
「え、来る気か!?」
「彩人と一緒に学祭めぐりとかもしたいし、ステージも見たいし」
「あー……まあ、確かに俺は大学構内から出れなさそうだもんな。でも、お前だって番組とかあるんだろ」
「番組も焼きそばの当番もあるけど、予定があるなら調整はしてもらえるから。なんなら番組のタイムテーブルに関しての権限は俺たちにある」
「うーわ、職権濫用って言うんだぜ、そーゆーの」
「彩人は俺と学祭回りたくない?」
「そーゆーコトじゃねーの」
大学の学祭は高校までのそれとは規模も全然違うし、憧れは確かにある。リクと回りたくないってワケじゃないけど、俺にもリクにもやることがある以上、回れないのは仕方ない。自分だけ良ければいいってワケにも行かないのが社会生活ってモンだろう。
ぶっちゃけ、リクは俺がステージに打ち込んでる学祭明けまでの期間、あまり会えないことを理解はしていても納得はしてないんじゃないかなと思う。何と言うか、どんな手段を使ってでも会う時間を捻出しようとするんじゃないかと。俺の欲目かもしれないけど、リクってのはそーゆートコのあるヤツだ。
「いいかリク。俺と居たいがためだけに全体の予定を動かしたりすんな。遅くなってもLINEはちゃんと返すし」
「うん」
「あーもう、そんなにしょぼくれんなよ。学祭が終わったら時間も出来るしな?」
「……彩人、こっち見て」
「ん? ――……んん~!? ちょっ、おまっ、いきなり何すんだ!」
「何って、キスだけど。これくらいさせてもらわないと会えない期間の割に合わない」
「……あの、怒ってます?」
「怒ってはない」
「そーだよ! つか俺が半ギレだったんだよ! 何淡々と「キスだけど」とか言ってんだよ! いきなりすんなよバカじゃねーの!?」
「するって宣言しても彩人は絶対させてくれないから。付き合って2ヶ月経ってるのにここまで何も手を出さなかったのを褒められて然るべきだ」
「……そーだ、お前って本来メチャクチャ手が早いんだったな」
レナによればリクは本当に慣れてるし手が早いっていうことだから……付き合って2ヶ月経ってるのに何も手を出されてないというのは、もしかしたらリクなりに俺に気を遣ってくれて――……って、でも、それっくらいが一般的じゃねーのかなあ。
「別に初めてでもないだろ?」
「はあ~!? 初めてなんだけど!? それを、はあ~!? えー、マジかよ。いや、別にいいんだけどさ」
「え、ウソだろ。彩人くらいカッコよければ恋愛経験くらいいくらでも」
「ねーよ! 外見は大学デビューだし、高校は文芸部で地味~に過ごしながら普通に学校行事を楽しんでた一般市民だぞ! 恋愛経験なんかあるワケねーだろ!」
「まあ、急にしたのは悪かった。学祭が終わったら、じっくり……な」
「それはそれで何されるかわかんなくて怖いけど」
「俺はキス以上のこともしたいけど、嫌なら拒否ってくれれば。それでなくても彩人はトラウマ持ちだし。嫌がることはしたくない」
「お気遣いどうも。まあ、それは……心の準備をさせてもらえれば」
とりあえず、学祭が終わるまでは今のキス1回で辛抱するとリクはこの話を閉じた。お互いやることをやって、時々連絡を取りながら、再びゆっくりと過ごせるその日までの辛抱ということで。
end.
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ステージの準備期間はそれにしっかりと集中したい派の彩人と、理解しつつもお預けを食らうササのあれこれ。
そういや彩人はPさんと同じ高校の文芸部だったんか。でもいろいろ書くと言うよりは隅っこで本とか過去の部誌とか読んでそうなタイプかな。
彩人がササの取説をちょっと理解してきている様子。目的のためには手段を選ばない方なのかもしれないね
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