2020(03)

■目標の裏道

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「あー……マリンさん、生きてます?」
「何とか……彩人、アンタも随分とボコボコですよ」
「つか、戸田さんがマジで鬼すぎる……夏はここまでじゃなくなかったすか?」
「今回はつばめ先輩にとって最後のステージですよ、気合は入って当たり前です。けど、想像の域を越えてたです…!」

 さて、戸田班ブースで打ちひしがれているプロデューサー2人だ。大学祭ステージの枠が発表され、俺とマリンさんにはそれぞれ1時間枠のステージの台本を書いてくるよう課題が出されていた。本を戸田さんに提出しては直し、書いては直しの繰り返し。
 何度目かの修正版を戸田さんに提出したまでは良かった。戸田さんがいつものように俺の本とマリンさんの本の穴を指摘し始めたのだけど、今回は特にボコボコにされたのだ。いいところも褒めてはもらってるけど、何度目だよっていう果てしなさがしんどい。

「でも、方向性は見えたですよ」
「そうっすね」
「私の本と彩人の本の、採用したい点をそれぞれもらったです。それらを上手く合わせて1つの本にするです。リミットは2日です」
「俺とマリンさんの本にはそれぞれ現実性が足りないって言われたっすよね。ステージ上でそれを実現するためには具体的に何を準備しなきゃいけないか、みたいなあれっていう認識でいいんすよね」
「それでいいと思うですよ。ゲンゴローに頼んで何とか出来るものならいいですけど、ゲンゴローでも厳しい物はさすがに無理です」

 戸田班では、必要な衣装や小道具に関しては基本ゴローさんに相談する感じだ。ゴローさんは演劇部の出かつ現役のコスプレイヤー(衣装作りや写真撮影が主)ということで、それらを作るのがかなり得意なんだそうだ。実際に見せてもらった去年の小道具は凄かった。
 ただ、ゴローさんで無理ならそれを一般の市場で探すのは厳しい。いや、探せばあるのかもしれないけど、予算に限りがあるからいくらでも際限なく積めるワケでもない。これとこれは必須で、という物をマリンさんと絞り込みつつ、ゴローさんに持ち込むメモを作る。

「ひとつ聞くですよ」
「何すか」
「彩人、アンタ朝霞の下で修行してたですか」
「せっかく隣に住んでるんで、教えてもらえる物は教えてもらった方がいいじゃないすか」
「まあね。それ目的で部屋に乗り込んだです?」
「あ、いや。最初に朝霞さんの部屋を訪ねたのは、あー……例の、俺が襲われた件の後、戸田さんに送ってもらって帰ったじゃないすか。その時に隣が朝霞さんの部屋だって聞いて、そーなんすねって戸田さんと別れたんす。でも、あんなことがあった後で1人でいたくないじゃないすか。フラッシュバックするっつーか。そんで、実質知り合いの知り合いみたいなもんだし部活の先輩ならちょっと一緒にいてもらえないかなーみたいなアレっす」
「……ごめん。蒸し返しちゃったですよ」
「いや、いいっすよ。そう言えば、マリンさんの師匠って文化会の宇部さんなんすよね」
「そうですよ!」
「宇部さんってどういうPだったんすか? すげー仕事が出来る人だっつーのは知ってるんすけど、部活での姿は知らないんで、ちょっと興味があります」
「宇部さんはですね、実質的に部を切り盛りしながら班の仕事にも学業にも隙がなかったですよ。それに、去年は幹部の班からインターフェイスの行事に出るっていうのはなかなかないことだったです。私は当時対策委員だったつばめ先輩とお近付きになるために夏合宿に出ることにしたですけど、それを言った時も「いろいろ勉強して来なさい」って快く送り出してくれたです。そのおかげで私は野坂先輩の班に入れてもらって、いろいろ勉強させてもらったです」

 感謝してるですよ、とマリンさんは穏やかな顔で言う。部長にケンカを売っていなければマリンさんは今頃幹部コースまっしぐらだったとはゴローさんが言っていた。だけど、それを捨ててでも守りたい物があったらしい。

「朝霞が班員にガーガー言うのが単純に人をボロクソに扱ってるだけってワケでもなかったっぽいってのは、つばめ先輩にガーガー言われることでちょっとは理解したですよ。アイツはこだわりを譲らないクソ頑固です。つばめ先輩はとことん妥協を許さない、貫き通す心の表れです」
「……一緒じゃねーかなあ」
「何か言ったです?」
「いや、何も」
「宇部さんみたいなPになるとは言ったものの、そもそも宇部さんはアナウンサー兼プロデューサーの形をとってないのでどう足掻いても違う物にしかなれないですよ」
「俺も、現状やってることが結局朝霞さんの劣化コピーだって、痛いトコ突かれちまったんで、どうにか自分のやり方を模索しねーとなーって」
「……それが多分「2人でやること」なんじゃないです? 宇部さんも、朝霞もやってこなかったプロデューサーとしてのあり方です」
「なるほど、一理あります。マリンさん、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いするですよ」
「あの、よかったら今日俺の部屋で飯でも食いながら会議しません?」
「えっと、家に連絡が必要です。その返事次第でいいですか」
「いいっすよ。何かすいません」


end.


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協力体制が必要不可欠だと言われたプロデューサーの2人ですが、共につばちゃんにボコボコにされたようです。
そういやマリンは宇部PみたいなPになるのが目標で、それまでカンDを待たせてたんでしたね。でも、元が全然違ったのでどうしようと。
マリンは育ちがいいと言うか、晩ご飯とかも基本的におうちで食べてるのでご飯が要らない時はちゃんと連絡するいい子です

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