2020(03)
■妄想を叶える手段
++++
「あれっ」
「ん? どしたササ」
「あのっ、すみません。失礼ですけど、朝霞さんですか?」
彩人から聞いた話が本当だったら、この人は本来こんなところにいるはずのない人だ。だけど、あの時助けてもらったその人の顔を忘れるはずもないし、紛れもなく本人だろう。ここは緑ヶ丘大学の図書館へと続く道。だけど彼は星ヶ丘大学の学生のはずだ。かなり距離のあるここに、なぜ?
「朝霞ですけど、どちらさまですか? どこかでお会いしましたっけ」
「8月頭に丸の池公園で。星ヶ丘放送部のステージを見に行ったときに助けてもらった者で、緑大1年の佐々木陸っていいます。その節は大変お世話になりました」
「あー、あの時の! そういや彩人が言ってたな。連れの子は大丈夫だった?」
「はい。ご覧の通りピンピンしてます」
俺も彩人からシノを助けてくれたのが自分の先輩なんだーっていう風に聞いてたけど、朝霞さんの方も彩人から話を聞いてたんだな。まあ、そのおかげでここでは話が早く済んでるけど。確か、彩人によく本を貸してて、本人も読書家なんだよな。
「ササ、知り合い?」
「シノ、お前が丸の池公園で熱中症やったときに助けてくれた人。星ヶ丘の朝霞さんっていう、4年生の先輩」
「えー! 篠木智也っていいます! その節はありがとうございました!」
「いえいえ。元気そうでよかった。俺は星ヶ丘の4年で、朝霞薫っていうんだ」
「その朝霞さんが、どうして緑ヶ丘大学に?」
そう、それがわからないんだ。そもそも4年生にもなればほとんど大学には出て来なくなる物だという風に聞いているし。仮に大学に来ても、朝霞さんは星ヶ丘の人で、緑ヶ丘大学にいる理由って何だろうと。緑ヶ丘に何か特別な用事でもあるのかな。
「単位交換制度って知ってる?」
「知らないです」
「向島エリアにある大学の中でその制度に参加してる大学の授業なら、申請すれば履修して自分の単位として認定してもらえるっていう仕組み」
「へー、そんな制度があるんすね」
「緑大の授業を受けに来られてるんですか?」
「うん。イベントプロデュースっていう社会学部の授業になるのかな。隔週金曜の3、4限のヤツ。面白そうだと思ってさ」
「へー、ウチの社学ってそんな授業があんのかー。面白そー! 俺も取ればよかったかなー」
「いや、シノ、俺たちはまだ取れなかったはずだ。学年が上がらないと取れない授業なんかいくらでもあるぞ」
「ちぇー、なんだよせっかく面白そうだと思ったのにー」
「俺も去年青敬の友達が緑大の授業受けに行ってるって聞いてこの制度のことを知って、調べたらそんな面白そうな授業があるだろ。これはと思ってすぐ申し込んだよな。これ、受けるのが秋学期でも申し込みは春休みのうちにやっとかなきゃいけないのがネックでさ」
「そうなんですね。もしかして、俺が星ヶ丘の授業を受けるっていうことも出来るんですか?」
「出来るんじゃないかな。興味があれば調べてみるといいよ。でも、現地に知り合いがいないと歩きにくくてしゃーないわ。緑大広すぎ」
現地の知り合い、そして余所の学校の授業を受けるという行為に、俺は彩人と肩を並べて授業を受けるという妄想を一瞬のうちに広げてしまったワケで。俺がこの制度を利用して星ヶ丘の授業を彩人と示し合わせて受ければ、と。
大きな教室の中で恋人と一緒の授業を受けるというのも大学を舞台にしたフィクションの中ではいくらか見た風景だけど、玲那とは文理の壁があってなかなか実現しそうにない。そもそも理系はほとんど情報棟って呼ばれる大きな建物から出て来ないし。
「あっちに行こうとしてましたけど、図書館に用事ですか?」
「せっかくだから余所の大学の図書館も散策しようと思ってさ。一応星ヶ丘の学生証でも通行許可はもらえたし」
「へえ、その辺の融通は利く感じなんですね。朝霞さん的に、どうですか、緑大の図書館は」
「星ヶ丘よか断然デカイ。最高。贅沢」
「そうなんですね」
「それから、AVコーナーがずっと居れる。何だあそこ、タダであんないいソファに座っていいヘッドホンで映画見れてって、世界に没頭出来るじゃんな。あれが星ヶ丘になくてよかった。あんなのあったら絶対授業に出るの忘れる」
俺もあのAVコーナーは憧れてたけど、1年生のキツキツの履修だとあそこにずっといられるだけの時間がなくて。学年が上がったらあそこでゆっくり映画を見ようと思っている。たまにマイヘッドホンでくつろいでる人もいるもんな。
「朝霞さんは映画がお好きなんですか?」
「そうだね。映画も本も本当にジャンル問わず、濫読派って感じで」
「彩人から聞いてます。朝霞さんから本を借りていろいろ読ませてもらってるとは」
「あ、彩人と仲良いんだっけ。そっか、君がリク君か。だから俺の名前知ってたんだな。何でかなーとは思ってたんだけど」
「そうです。聞いてましたか」
「朝霞さん、他に緑大と星ヶ丘の違いって何かあったっすか?」
「学食が寒くない」
そうこう話してるうちに休み時間が終わりそうになっていた。単位交換制度の話は純粋に参考になったし、今後はそういう制度を使うことも(不純な動機を抜きにしても)考えてもいいかもしれない。あと、緑大の図書館はやっぱり規模が大きいみたいだから、俺も在学中には積極的に使って行こう。
end.
++++
フェーズ1の長野っちに引き続き、フェーズ2ではPさんが緑大遠征に来ています。ちなイベプロの授業、慧梨夏は既に履修済み。
行く場所が図書館なのもPさんらしさがあるし、オーディオビジュアルコーナーとかあったなと思い出しました。浅浦雅弘がマイヘッドホンでくつろいでたはず。
そういやササシノと朝霞Pって本当にあれ以来になるし、その節はっていうヤツなのね。「ご覧の通りピンピンしてます」が地味に好き
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「あれっ」
「ん? どしたササ」
「あのっ、すみません。失礼ですけど、朝霞さんですか?」
彩人から聞いた話が本当だったら、この人は本来こんなところにいるはずのない人だ。だけど、あの時助けてもらったその人の顔を忘れるはずもないし、紛れもなく本人だろう。ここは緑ヶ丘大学の図書館へと続く道。だけど彼は星ヶ丘大学の学生のはずだ。かなり距離のあるここに、なぜ?
「朝霞ですけど、どちらさまですか? どこかでお会いしましたっけ」
「8月頭に丸の池公園で。星ヶ丘放送部のステージを見に行ったときに助けてもらった者で、緑大1年の佐々木陸っていいます。その節は大変お世話になりました」
「あー、あの時の! そういや彩人が言ってたな。連れの子は大丈夫だった?」
「はい。ご覧の通りピンピンしてます」
俺も彩人からシノを助けてくれたのが自分の先輩なんだーっていう風に聞いてたけど、朝霞さんの方も彩人から話を聞いてたんだな。まあ、そのおかげでここでは話が早く済んでるけど。確か、彩人によく本を貸してて、本人も読書家なんだよな。
「ササ、知り合い?」
「シノ、お前が丸の池公園で熱中症やったときに助けてくれた人。星ヶ丘の朝霞さんっていう、4年生の先輩」
「えー! 篠木智也っていいます! その節はありがとうございました!」
「いえいえ。元気そうでよかった。俺は星ヶ丘の4年で、朝霞薫っていうんだ」
「その朝霞さんが、どうして緑ヶ丘大学に?」
そう、それがわからないんだ。そもそも4年生にもなればほとんど大学には出て来なくなる物だという風に聞いているし。仮に大学に来ても、朝霞さんは星ヶ丘の人で、緑ヶ丘大学にいる理由って何だろうと。緑ヶ丘に何か特別な用事でもあるのかな。
「単位交換制度って知ってる?」
「知らないです」
「向島エリアにある大学の中でその制度に参加してる大学の授業なら、申請すれば履修して自分の単位として認定してもらえるっていう仕組み」
「へー、そんな制度があるんすね」
「緑大の授業を受けに来られてるんですか?」
「うん。イベントプロデュースっていう社会学部の授業になるのかな。隔週金曜の3、4限のヤツ。面白そうだと思ってさ」
「へー、ウチの社学ってそんな授業があんのかー。面白そー! 俺も取ればよかったかなー」
「いや、シノ、俺たちはまだ取れなかったはずだ。学年が上がらないと取れない授業なんかいくらでもあるぞ」
「ちぇー、なんだよせっかく面白そうだと思ったのにー」
「俺も去年青敬の友達が緑大の授業受けに行ってるって聞いてこの制度のことを知って、調べたらそんな面白そうな授業があるだろ。これはと思ってすぐ申し込んだよな。これ、受けるのが秋学期でも申し込みは春休みのうちにやっとかなきゃいけないのがネックでさ」
「そうなんですね。もしかして、俺が星ヶ丘の授業を受けるっていうことも出来るんですか?」
「出来るんじゃないかな。興味があれば調べてみるといいよ。でも、現地に知り合いがいないと歩きにくくてしゃーないわ。緑大広すぎ」
現地の知り合い、そして余所の学校の授業を受けるという行為に、俺は彩人と肩を並べて授業を受けるという妄想を一瞬のうちに広げてしまったワケで。俺がこの制度を利用して星ヶ丘の授業を彩人と示し合わせて受ければ、と。
大きな教室の中で恋人と一緒の授業を受けるというのも大学を舞台にしたフィクションの中ではいくらか見た風景だけど、玲那とは文理の壁があってなかなか実現しそうにない。そもそも理系はほとんど情報棟って呼ばれる大きな建物から出て来ないし。
「あっちに行こうとしてましたけど、図書館に用事ですか?」
「せっかくだから余所の大学の図書館も散策しようと思ってさ。一応星ヶ丘の学生証でも通行許可はもらえたし」
「へえ、その辺の融通は利く感じなんですね。朝霞さん的に、どうですか、緑大の図書館は」
「星ヶ丘よか断然デカイ。最高。贅沢」
「そうなんですね」
「それから、AVコーナーがずっと居れる。何だあそこ、タダであんないいソファに座っていいヘッドホンで映画見れてって、世界に没頭出来るじゃんな。あれが星ヶ丘になくてよかった。あんなのあったら絶対授業に出るの忘れる」
俺もあのAVコーナーは憧れてたけど、1年生のキツキツの履修だとあそこにずっといられるだけの時間がなくて。学年が上がったらあそこでゆっくり映画を見ようと思っている。たまにマイヘッドホンでくつろいでる人もいるもんな。
「朝霞さんは映画がお好きなんですか?」
「そうだね。映画も本も本当にジャンル問わず、濫読派って感じで」
「彩人から聞いてます。朝霞さんから本を借りていろいろ読ませてもらってるとは」
「あ、彩人と仲良いんだっけ。そっか、君がリク君か。だから俺の名前知ってたんだな。何でかなーとは思ってたんだけど」
「そうです。聞いてましたか」
「朝霞さん、他に緑大と星ヶ丘の違いって何かあったっすか?」
「学食が寒くない」
そうこう話してるうちに休み時間が終わりそうになっていた。単位交換制度の話は純粋に参考になったし、今後はそういう制度を使うことも(不純な動機を抜きにしても)考えてもいいかもしれない。あと、緑大の図書館はやっぱり規模が大きいみたいだから、俺も在学中には積極的に使って行こう。
end.
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フェーズ1の長野っちに引き続き、フェーズ2ではPさんが緑大遠征に来ています。ちなイベプロの授業、慧梨夏は既に履修済み。
行く場所が図書館なのもPさんらしさがあるし、オーディオビジュアルコーナーとかあったなと思い出しました。浅浦雅弘がマイヘッドホンでくつろいでたはず。
そういやササシノと朝霞Pって本当にあれ以来になるし、その節はっていうヤツなのね。「ご覧の通りピンピンしてます」が地味に好き
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