2020(03)

■エース兼問題児と特殊枠

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「えー、今年もそろそろゼミ説明会の時期になるし、1年生が面談に来るだろうからね。もし君たちの後輩で佐藤ゼミを受けたいっていう子がいたら情報をちょうだいね。はい、それじゃあ班ごとに分かれて番組制作に入ってね」

 もうそんな時期になったんだなあと思う。でも、今年は去年よりちょっと早いのかな。ゼミ説明会は2、3日くらいの日程で行われて、4限の授業が終わった後にいくつかのゼミごとに分けて行われる。そこでの説明を参考にどのゼミに行きたいかを決めるんだ。
 説明だけ聞いて社会学部棟に希望届を提出するゼミもあれば、佐藤ゼミのように個別面談に加えて専用のエントリーシートを添付しなきゃいけないゼミもあったりして、本当にゼミによって採用の仕方は様々。で、佐藤ゼミはラジオをやってて目立つから、毎年倍率が高い傾向にある。

「もう面談なんだね。懐かしいね」
「ホントじゃん? 思えば、去年の今頃は俺らも同じ授業を受けてるだけで知り合いでも何でもなかったもんな」
「そうだよねえ」
「高木くんと鵠沼くんて元々友達じゃなかったんだね」
「そうだね。ゼミの個別面談に行くくらいの頃に知り合って」
「一緒に面談に来たって聞いてたから元々友達なんだと思ってた」
「違うんだなこれが」
「それが今じゃ高木は1限の授業に間に合わないからって鵠沼の家に泊まり込む間柄だし。夜型なのに2年にもなって何でわざわざ1限取るかね」
「火曜1限にどうしても取りたい授業があったんだよ」

 鵠さんは、月曜は何回か泊めて欲しいという俺のムチャなお願いにも仕方ないなと言いながらも快く受け入れてくれている。ただ、俺は夜型で鵠さんは完全な朝型。お邪魔するワケだし生活リズムは合わせてる。それに鵠さんの家は俺の部屋よりパソコン周りの環境が整ってないから必然的にデジタルデトックス状態になる。
 何より大きいのは、俺のマンションは郊外とは言え星港市内だから真夜中でも外はそれなりに明るいし街の音が聞こえる。鵠さんの住むコムギハイツは緑大前の山の中だから、明かりは外灯くらいしかないし虫の声がリンリン鳴いているのがよく聞こえる。自然の中にあるなあって。

「大体、鵠沼も鵠沼で、完全な夜型人間をよく受け入れたし!」
「確かに多少コイツの方が寝るのは遅いけど、それでも1時2時くらいには寝てないか?」
「そうだね。俺比で大分早寝。それにコムギハイツだから起きる時間も遅くて済んでるんだよ。本当によく眠れてるし真っ当な人間をやってるっていう感じだね」
「高木君は、その調子で生活リズムを整えてもらって秋学期の成績をね!」
「ひっ」

 俺たちの班が陣取るテーブルに先生の影が近付いたのを感じ、思わず身震いをする。先生は俺たちの学年からゼミ生の採用基準に「成績」という項目を付け加えた。どれだけ佐藤ゼミ的な嗜好をしていても、成績が悪ければ弾かれてしまうようになってしまったのだ。ただ、俺は特例で拾われて。

「君ぃ、春学期の成績は何なのあれ! とても見られる物じゃないじゃない」
「あ、えーと……」
「君の話からすれば今までは真っ当な人間をやっていなかったってことでしょ。鵠沼君の家に住み込んだらどう」
「えーと、それはさすがに迷惑がかかるので、今の家で生活を頑張ります」
「君はゼミのエースなんだから、その自覚を持ちなさいね。ところで高木君、君に聞きたいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「君の後輩の中に佐藤ゼミを希望してる子なんかはいないの」

 まあ、そうなるよねって。サブカル・メディアゼミの佐藤ゼミはそういう嗜好がある人が集まりやすいんだけど、先生が毎年強く求めているのはラジオの機材を扱えるMBCCのミキサーだ。成績に多少難があっても俺が拾われたのは、まさにMBCCのミキサーだったからだ。

「2人いますね。アナウンサーの子と、ミキサーの子の」
「いいじゃない、ミキサーの子はぜひとも連れて来なさいよ。一応聞くけど、成績は。優秀だとなおいいんだけど」
「ええと……お世辞にもいいとは。でも、先生の授業はSを取れたって」
「全部悪いよりいいけど、私の授業だけ良くてもダメなんだよ君ぃ。ちなみに、アナウンサーの子の成績は?」
「そっちはとてもいいです」
「あっそう。サブカルの趣味は」
「2人ともなかったと思いますね」
「えっ、それじゃあ普通の子?」
「あー……面白い子ではあるんですよ?」
「ちなみにミキサーの子は機材の扱いはどうなの」
「それは全く問題ないです。理解もいいですし向上心が強いです」
「ああそう~、そのミキサーの子に面談に来るように言っといてね。男の子? 女の子?」
「2人とも男子ですね」
「ああそう。どうせアナウンサーなら可愛い女の子が良かったよねえ」

 わかってたけどやっぱりミキサーの方に興味が強い感じなんだよなあ。なるほど、俺もこうやって拾われたのかって理解したよね。先生の様子を見てるとササの方がちょっと不利そうな感じがするなあ。成績だけなら圧倒的に有利なんだけど、興味が完全にシノに持ってかれちゃってる。そうか、俺が推してあげなきゃいけないんだ。

「先生は、カッコいい男子は受け付けない感じで」
「イケメンはいいよ~、目の保養で。学年に2、3人は欲しいよね」
「アナウンサーの子は背も高くてすごいイケメンですよ」


end.


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こうしてTKGが俗っぽいやり方を覚えていくのであった。というワケで佐藤ゼミのあれこれ。後輩を推していくぞ!
ちなみに、エイジに起こしてもらう以外にも鵠さんの部屋に泊まるという手段を使い始めたTKG、デジタルデトックスの効果やいかに
こう考えると鵠さんは本当に体育会系っていう物珍しさで即採用って感じだったのね。あとヒゲさんお気に入りの風情のある町出身なのもよかった

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