2017(02)
■味覚のスウィートスポット
++++
「おはようございまーす」
「おっ、来たか川北」
「これ、地元のお土産ですー。よかったらどうぞー」
川北が帰省土産のアップルパイを携えて戻って来た。川北や春山さんといった帰省組が戻ってくると、普段通りのシフトに戻っていくのだという実感が湧いて来る。閑散期とは言え、常にセンターに張り付いているのは精神衛生上よろしくない。
今日は久々にアクティブなスタッフが全員揃うことになっている。自分も帰省したかったスわァーと文句を垂れていた土田もいる。ちなみに、土田は実家からでも大学に通えん距離ではないという事情で帰省シフトを組ませなかったとは春山さん談。たまにはいい仕事をする。
「そうだ、私が買ってきた北辰の土産もあるから好きなの持ってっていいぞ」
「わー、ありがとうございますー。どこにあるんですかー?」
春山さんの土産を探してきょろきょろしていた川北の動きが止まった。段ボール箱に築かれた山を前に肩が強張り、硬直している。何を隠そうその段ボール箱こそが未だ消化しきれていない春山さんの土産の山で、それは川北の帰還を待っていたのだ。
「え、えーと……これは?」
「土産だ。好きなのを好きなだけ持ってけ。改めて仕入れたバターサンドもあるぞ」
「バターサンドは興味があったので一切れいただきますけど、好きなだけって言われてもこれは」
「一切れと言わずどんだけでも持ってっていいんだぞ」
「川北、空港での買い物はこの人の趣味かストレス発散か衝動かは知らんが定期イベントだ。くれると言うのだからもらっておけ。このおかきは美味いぞ」
「とりあえず、バターサンド食べていいですか! 他のお土産のことは後で考えますから!」
「うーい、食え食え」
銀色の包み紙を破り、川北はバターサンドを口に運んだ。するとどうだ、今度は別の硬直が襲っているではないか。見ていて飽きん奴だ。
「う、うわーっ……おいしー! ふわーってして、きゅーってして、わー、どれだけでも食べれちゃいますー!」
「だから、好きなだけ食っていいんだぞ」
「え、えーと、今日はもうひとつだけ……あんまり一気に食べると美味しさにビックリして体に悪そうだし」
「春山さん、川北はバターサンドにハマったみたいですね」
「そうかそうか、ならもっと買ってくれば良かったな」
「春山さん、良かったらりんごキャラメルもどうぞ!」
「キャラメルと言えば、白い紙袋にメロンキャラメルがあるぞ」
甘い物を食べたんだからしょっぱい物を食えと、勧められるがままにカップのおかきを食べさせられている川北だ。半ば強制的に食べさせられているものの、手の動きとおかきを噛む音がやめられない止まらないと語っている。オレも最初の頃はこうだった。
土産物に埋もれる川北が飽きんからここに集合させられている本題をすっかり忘れていたが、今日の本題はまだか。春山さんは川北に空港での土産物話をしている。オレは何十回聞いたかわからんいつもの話だ。川北は初めてだからかちゃんと聞いているようだ。
「おはようございまーす。あれっ、知らない子がいる」
「来たかダイチ」
「烏丸、1年がいると言っていただろう」
「あっそっか。俺は生物3年の烏丸大地。9月から新しいスタッフになったんだ、よろしくー」
「あっ、理工建築1年の川北碧です。よろしくお願いします。烏丸さんもよかったらお土産にアップルパイどうぞ」
「ユースケ、アップルパイって?」
「砂糖煮にしたリンゴを詰めてオーブンで焼いたパイ菓子だ。アメリカの家庭料理に分類される」
「砂糖煮ってことは甘いんだね。大丈夫かなあ」
「あっ、もしかして烏丸さん甘いのダメでしたか…!?」
「いや、烏丸は甘い物は贅沢だと言って一度に多く食うことを躊躇するようでな」
「あー、でもちょっとわかります。俺もバターサンドが贅沢で一度に多く食べられませんでした」
川北のそれと烏丸のそれは少々違うような気もするが。恐る恐るアップルパイを口に運んだ烏丸の表情は、また未知の発見をしたのだと鐘を鳴らしたかのようだ。何にせよ、土産をきっかけに川北と烏丸の間に会話が生まれた。今日この場所に全員集合した目的は顔合わせが主なのだ。
「よーしお前ら今日の本題だ!」
「ん?」
「拒否権なし! 芋を食らえ!」
end.
++++
ミドリにバターサンドを食べさせたかっただけのヤツというワケでもなかったのですが、お土産の応酬。
リン様は顔合わせが主題だと思っていたようですが、真の主題は芋のようでした……またダイチがわーってなってんだろうなあ
しかし、ダイチに物事を説明するリン様のペディアっぷりよ。リンペディアもなかなかアリだけど、個人的にはノサペディアの方が語感が好き
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「おはようございまーす」
「おっ、来たか川北」
「これ、地元のお土産ですー。よかったらどうぞー」
川北が帰省土産のアップルパイを携えて戻って来た。川北や春山さんといった帰省組が戻ってくると、普段通りのシフトに戻っていくのだという実感が湧いて来る。閑散期とは言え、常にセンターに張り付いているのは精神衛生上よろしくない。
今日は久々にアクティブなスタッフが全員揃うことになっている。自分も帰省したかったスわァーと文句を垂れていた土田もいる。ちなみに、土田は実家からでも大学に通えん距離ではないという事情で帰省シフトを組ませなかったとは春山さん談。たまにはいい仕事をする。
「そうだ、私が買ってきた北辰の土産もあるから好きなの持ってっていいぞ」
「わー、ありがとうございますー。どこにあるんですかー?」
春山さんの土産を探してきょろきょろしていた川北の動きが止まった。段ボール箱に築かれた山を前に肩が強張り、硬直している。何を隠そうその段ボール箱こそが未だ消化しきれていない春山さんの土産の山で、それは川北の帰還を待っていたのだ。
「え、えーと……これは?」
「土産だ。好きなのを好きなだけ持ってけ。改めて仕入れたバターサンドもあるぞ」
「バターサンドは興味があったので一切れいただきますけど、好きなだけって言われてもこれは」
「一切れと言わずどんだけでも持ってっていいんだぞ」
「川北、空港での買い物はこの人の趣味かストレス発散か衝動かは知らんが定期イベントだ。くれると言うのだからもらっておけ。このおかきは美味いぞ」
「とりあえず、バターサンド食べていいですか! 他のお土産のことは後で考えますから!」
「うーい、食え食え」
銀色の包み紙を破り、川北はバターサンドを口に運んだ。するとどうだ、今度は別の硬直が襲っているではないか。見ていて飽きん奴だ。
「う、うわーっ……おいしー! ふわーってして、きゅーってして、わー、どれだけでも食べれちゃいますー!」
「だから、好きなだけ食っていいんだぞ」
「え、えーと、今日はもうひとつだけ……あんまり一気に食べると美味しさにビックリして体に悪そうだし」
「春山さん、川北はバターサンドにハマったみたいですね」
「そうかそうか、ならもっと買ってくれば良かったな」
「春山さん、良かったらりんごキャラメルもどうぞ!」
「キャラメルと言えば、白い紙袋にメロンキャラメルがあるぞ」
甘い物を食べたんだからしょっぱい物を食えと、勧められるがままにカップのおかきを食べさせられている川北だ。半ば強制的に食べさせられているものの、手の動きとおかきを噛む音がやめられない止まらないと語っている。オレも最初の頃はこうだった。
土産物に埋もれる川北が飽きんからここに集合させられている本題をすっかり忘れていたが、今日の本題はまだか。春山さんは川北に空港での土産物話をしている。オレは何十回聞いたかわからんいつもの話だ。川北は初めてだからかちゃんと聞いているようだ。
「おはようございまーす。あれっ、知らない子がいる」
「来たかダイチ」
「烏丸、1年がいると言っていただろう」
「あっそっか。俺は生物3年の烏丸大地。9月から新しいスタッフになったんだ、よろしくー」
「あっ、理工建築1年の川北碧です。よろしくお願いします。烏丸さんもよかったらお土産にアップルパイどうぞ」
「ユースケ、アップルパイって?」
「砂糖煮にしたリンゴを詰めてオーブンで焼いたパイ菓子だ。アメリカの家庭料理に分類される」
「砂糖煮ってことは甘いんだね。大丈夫かなあ」
「あっ、もしかして烏丸さん甘いのダメでしたか…!?」
「いや、烏丸は甘い物は贅沢だと言って一度に多く食うことを躊躇するようでな」
「あー、でもちょっとわかります。俺もバターサンドが贅沢で一度に多く食べられませんでした」
川北のそれと烏丸のそれは少々違うような気もするが。恐る恐るアップルパイを口に運んだ烏丸の表情は、また未知の発見をしたのだと鐘を鳴らしたかのようだ。何にせよ、土産をきっかけに川北と烏丸の間に会話が生まれた。今日この場所に全員集合した目的は顔合わせが主なのだ。
「よーしお前ら今日の本題だ!」
「ん?」
「拒否権なし! 芋を食らえ!」
end.
++++
ミドリにバターサンドを食べさせたかっただけのヤツというワケでもなかったのですが、お土産の応酬。
リン様は顔合わせが主題だと思っていたようですが、真の主題は芋のようでした……またダイチがわーってなってんだろうなあ
しかし、ダイチに物事を説明するリン様のペディアっぷりよ。リンペディアもなかなかアリだけど、個人的にはノサペディアの方が語感が好き
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