2020(03)
■努力と感覚のハーモニー
++++
「お~い朝霞~、見てるぜ~!」
「うわっ。菅野、急に何だ」
「最近サブチャンでやってるギター練習放送? ソーマがお前のためにギター練習曲を書いてくれたんだろ?」
「ああ。初心者用に作られてるっつっても曲としての流れみたいなモンはちゃんと魅せられるようになってるだろ。俺の技量じゃそれをソツなくやるにはまだまだだ」
菅野から「ギターを始めろ」という指令が出されて以来、俺はUSDXの予算から補助をもらって買ったレフティ仕様のギターを日々かき鳴らしている。いや、かき鳴らすという表現が出来るほど自らの意思でジャカジャカとスムーズに音を鳴らせるワケではないのだけれども。
その間にUSDXでは菅野扮するチータが曲を書きまくり、実際に歌物の曲まで動画として公開されてしまった。その中の曲もUSDXメンバー6人で演奏出来る仕様に作られていて、ギターを担当している体のレイこと俺にはさらにプレッシャーがかかっていた。菅野の作る曲はカッコいいけど難しいんだ。
しかしある日、山口のツテで知り合った現役のギタリストが俺のためだけにわざわざ初心者用のギター練習曲を書いてくれるという話になったんだ。冗談かと思ったけど2日後にはもうその曲のデータが送られてきたし、練習の様子はたまにUSDXのサブチャンネルで配信している。
「つかピアノとかキーボードってどっち利きでも楽器自体変わんないし譜面も変わんないけど、ギターって右利き左利きで変わって来るんだろ?」
「その辺は壮馬からも言われてたんだよ。レフティだったらその辺の変換大変じゃないかって。確かに譜面は読むの難しいけど右利きだろうと左利きだろうと初心者だから当たり前だろっつー話で」
「確かにな。お前案外その辺さっぱりしてんのな。でも教本とかお手本動画とか見てても大体右利きの人を対象にしてるじゃん?」
「そんなモンは別にギターに限った話じゃないからな。生活におけるあらゆることが右利き優位に成り立ってる以上、慣れっこだ。あと俺は厳密には両利きだからな」
どうあっても左手では不便な物と言えばスープをよそうために先が少し尖ったあのお玉だ。最近ではあれも両方に注ぎ口が作られている物があるそうだけど、それでも大体は右利き仕様に作られていて面倒な思いをすることも多々。ただ、俺は両利きだから、純正の左利きの人よりその辺の苦労は少ない。
「ところであの曲って詞とか付けた?」
「一応」
「お~、見せてくれよ」
「ん」
ギター練習曲(仮)というタイトルで送られて来たこの曲に詞はついていなかった。演奏の練習だけを目的とした曲なんだなと思っていたら、壮馬は「詞は薫君が付けて返してくださいね、俺もライブでやりたいんで」と。いやいやお前、仮にも音楽で飯食ってるバンドマンだろお前はと。俺はド素人でだな。
一応書くだけ書いたけど俺はまだまだ演奏するだけでいっぱいいっぱいだし、それを弾き語ることなどもうしばらく叶わない。一応練習動画の中では少し口ずさんでいるけれど、どっちかに集中するとどっちかがおぼつかなくなってしまうのが現状だ。
「やっぱお前の詞って曲によって全然違うよな。ほら、ナユ曲の5曲も全部が全部違ったけど、それらのどれともこれはまた違う。どーやってんだマジで」
「俺の中にいる誰かの断片を書き殴ってるだけだから、どうやってるとかは特に。この曲はUSDX全員でぐだぐだと生放送をやった後のあのだるくて緩い感じをイメージして書いた」
「あの惨状がこんな言葉で表現されるとかお前どういう感覚してんだ」
「いや、もちろん使う言葉はある程度選んでるぞ!? あとなっちの曲は本人からヒアリングした要素からどのキーワードを使おうかなーって連想ゲームみたいな感じで書いてた」
どうやらUSDXメンバーも知らないうちに菅野はなっちを捕まえて5曲もレコーディングをしてしまったというのだからそのスピード感に驚きだ。夏に行ったカラオケの後で詞を書けとノルマを出されていくらか書いてたんだけど、まさかそれが本当に曲になるとは思わないだろ。
「いやでもこのフレーズは好きだわ、「怠惰な空気は紫煙と混ざって 十数インチの枠に幕を張る」ってさ」
「放送終わりに通話してても絶対京川さんとリン君は煙草吸ってるってわかるじゃん。それがあのだる~い感じに拍車をかけるなって」
「「眠れなくて手をかける壁際のギター 聞こえてるかい」もいい。あと大体ナユ曲の詞はすげー好きなんだよな、一番好きなのは「表裏一体」だけど」
「それはどうもありがとうございます。サンプル聞いたけど、あれがあんなすげー速い曲になって疾走感がすごいなと思って。曲も凄い好き」
「だろ!? 心の友よ~! あと、菜月がヤバい。あんな上んトコであんなパワー出るか!? みたいな」
「確かになっちはヤバい。どうなってるのか聞くのが楽しみだ」
「俺もお前のギター練習曲をUSDX版でアレンジすんのも楽しみだなあ~朝霞クン!」
「……あっはい、頑張ります」
お前が生音でやるなら全員やれるようになってもらわないとなあと菅野は鼻息を荒くする。ただ、そうなるとバイオリンが問題になると。まだまだ時間はかかると思うけど、来月中には出来るようになってたいなあ。それも俺次第か。
「ちなみにナユ曲は1ヶ月に1曲ペースで上がるように計算してるんでよろしく」
「何をどうよろしくするんだ?」
end.
++++
例によってギターの練習をしているレイ君こと朝霞P、初心者用の曲になってこれまでよりは捗っているのかな?
そしてレコーディングに巻き込まれたことは明らかになっている菜月さんの件。どうやらカンDはその出来にほくほくしている様子。
何と言うかカンDが心の友よ~って結構簡単に言うんだけど、やっぱり褒められることに飢えてるし、対面で褒めてくれるPさんには懐いてますね
.
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「お~い朝霞~、見てるぜ~!」
「うわっ。菅野、急に何だ」
「最近サブチャンでやってるギター練習放送? ソーマがお前のためにギター練習曲を書いてくれたんだろ?」
「ああ。初心者用に作られてるっつっても曲としての流れみたいなモンはちゃんと魅せられるようになってるだろ。俺の技量じゃそれをソツなくやるにはまだまだだ」
菅野から「ギターを始めろ」という指令が出されて以来、俺はUSDXの予算から補助をもらって買ったレフティ仕様のギターを日々かき鳴らしている。いや、かき鳴らすという表現が出来るほど自らの意思でジャカジャカとスムーズに音を鳴らせるワケではないのだけれども。
その間にUSDXでは菅野扮するチータが曲を書きまくり、実際に歌物の曲まで動画として公開されてしまった。その中の曲もUSDXメンバー6人で演奏出来る仕様に作られていて、ギターを担当している体のレイこと俺にはさらにプレッシャーがかかっていた。菅野の作る曲はカッコいいけど難しいんだ。
しかしある日、山口のツテで知り合った現役のギタリストが俺のためだけにわざわざ初心者用のギター練習曲を書いてくれるという話になったんだ。冗談かと思ったけど2日後にはもうその曲のデータが送られてきたし、練習の様子はたまにUSDXのサブチャンネルで配信している。
「つかピアノとかキーボードってどっち利きでも楽器自体変わんないし譜面も変わんないけど、ギターって右利き左利きで変わって来るんだろ?」
「その辺は壮馬からも言われてたんだよ。レフティだったらその辺の変換大変じゃないかって。確かに譜面は読むの難しいけど右利きだろうと左利きだろうと初心者だから当たり前だろっつー話で」
「確かにな。お前案外その辺さっぱりしてんのな。でも教本とかお手本動画とか見てても大体右利きの人を対象にしてるじゃん?」
「そんなモンは別にギターに限った話じゃないからな。生活におけるあらゆることが右利き優位に成り立ってる以上、慣れっこだ。あと俺は厳密には両利きだからな」
どうあっても左手では不便な物と言えばスープをよそうために先が少し尖ったあのお玉だ。最近ではあれも両方に注ぎ口が作られている物があるそうだけど、それでも大体は右利き仕様に作られていて面倒な思いをすることも多々。ただ、俺は両利きだから、純正の左利きの人よりその辺の苦労は少ない。
「ところであの曲って詞とか付けた?」
「一応」
「お~、見せてくれよ」
「ん」
ギター練習曲(仮)というタイトルで送られて来たこの曲に詞はついていなかった。演奏の練習だけを目的とした曲なんだなと思っていたら、壮馬は「詞は薫君が付けて返してくださいね、俺もライブでやりたいんで」と。いやいやお前、仮にも音楽で飯食ってるバンドマンだろお前はと。俺はド素人でだな。
一応書くだけ書いたけど俺はまだまだ演奏するだけでいっぱいいっぱいだし、それを弾き語ることなどもうしばらく叶わない。一応練習動画の中では少し口ずさんでいるけれど、どっちかに集中するとどっちかがおぼつかなくなってしまうのが現状だ。
「やっぱお前の詞って曲によって全然違うよな。ほら、ナユ曲の5曲も全部が全部違ったけど、それらのどれともこれはまた違う。どーやってんだマジで」
「俺の中にいる誰かの断片を書き殴ってるだけだから、どうやってるとかは特に。この曲はUSDX全員でぐだぐだと生放送をやった後のあのだるくて緩い感じをイメージして書いた」
「あの惨状がこんな言葉で表現されるとかお前どういう感覚してんだ」
「いや、もちろん使う言葉はある程度選んでるぞ!? あとなっちの曲は本人からヒアリングした要素からどのキーワードを使おうかなーって連想ゲームみたいな感じで書いてた」
どうやらUSDXメンバーも知らないうちに菅野はなっちを捕まえて5曲もレコーディングをしてしまったというのだからそのスピード感に驚きだ。夏に行ったカラオケの後で詞を書けとノルマを出されていくらか書いてたんだけど、まさかそれが本当に曲になるとは思わないだろ。
「いやでもこのフレーズは好きだわ、「怠惰な空気は紫煙と混ざって 十数インチの枠に幕を張る」ってさ」
「放送終わりに通話してても絶対京川さんとリン君は煙草吸ってるってわかるじゃん。それがあのだる~い感じに拍車をかけるなって」
「「眠れなくて手をかける壁際のギター 聞こえてるかい」もいい。あと大体ナユ曲の詞はすげー好きなんだよな、一番好きなのは「表裏一体」だけど」
「それはどうもありがとうございます。サンプル聞いたけど、あれがあんなすげー速い曲になって疾走感がすごいなと思って。曲も凄い好き」
「だろ!? 心の友よ~! あと、菜月がヤバい。あんな上んトコであんなパワー出るか!? みたいな」
「確かになっちはヤバい。どうなってるのか聞くのが楽しみだ」
「俺もお前のギター練習曲をUSDX版でアレンジすんのも楽しみだなあ~朝霞クン!」
「……あっはい、頑張ります」
お前が生音でやるなら全員やれるようになってもらわないとなあと菅野は鼻息を荒くする。ただ、そうなるとバイオリンが問題になると。まだまだ時間はかかると思うけど、来月中には出来るようになってたいなあ。それも俺次第か。
「ちなみにナユ曲は1ヶ月に1曲ペースで上がるように計算してるんでよろしく」
「何をどうよろしくするんだ?」
end.
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例によってギターの練習をしているレイ君こと朝霞P、初心者用の曲になってこれまでよりは捗っているのかな?
そしてレコーディングに巻き込まれたことは明らかになっている菜月さんの件。どうやらカンDはその出来にほくほくしている様子。
何と言うかカンDが心の友よ~って結構簡単に言うんだけど、やっぱり褒められることに飢えてるし、対面で褒めてくれるPさんには懐いてますね
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