2020(03)
■心のカレーは人の数だけ
++++
「あ! 星のイヤーカフなんだ! 菜月さんなんだ!?」
「……えーと…? どちらさまで…?」
「ボクはそこの家に住んでる須賀星羅っていうんだ! 先日は妹のきららがお世話になったそうなんだ!」
「いやはや。妹さんにはあんなに綺麗な絵を描いてもらってありがとうございます」
買い物から帰るといきなり小さな女の子から声をかけられたものだから、どうしたら良いやらわからずきょとんとする。話を聞くと、うちのマンションの前に立つ豪邸に住んでる娘さんで、星ヶ丘大学の4年生だそうだ。例の、USDXなるゲーム実況グループの中に彼氏がいるらしい。
そしてさらに話を聞いていると、圭斗のバイト先の同僚であることも発覚した。あの男はどこででもやってることは大差ないようで、圭斗の胡散臭さのおかげで星羅さんと少し話が通じるようになった。やっぱり共通の話題っていうのは人と話す上では重要なのかもしれない。
「と言うか……家にあんなスタジオがあるなんて、身内に音楽関係者がいらっしゃるんですか」
「ボクのお父さんがサックス奏者なんだ! ちょっとだけ有名なんだ」
「ああ、それで。……でも、その、有名なサックス奏者さんのスタジオを学生たちが遊び場みたいにして使ってるってことですよね?」
「お父さんの趣味でもあるんだ、だから問題ないんだ」
豪邸の主、須賀誠司氏が結構な変人らしく、娘の彼氏が音楽をやっていると聞くと「音楽やってる子なら連れておいでよ!」と家に招き、彼氏のバンドごと豪邸のスタジオで面倒を見ているような状態なんだそうだ。で、その延長でUSDXの音楽拠点にもなっている、と。
そして妹のきららさんは家に引きこもりながらフリーのイラストレーターとして絵の仕事でご飯を食べているとのこと。マスク姿で結構謎めいていたけど、カンノと話している様子は仲良しのいとこ同士が話しているような雰囲気があった。
「菜月さん、お買物帰りなんだ? エコバッグを提げてるんだ」
「あ、そうそう。スーパーに行って帰って来たところで」
「引き留めてゴメンなんだ、生ものもあるんだ?」
「いや、今回はそんなでも。カレーのルーとかお菓子とかお酒とか」
「そう言えば圭斗から聞いたことがあるんだ。菜月さんはカレーを作るのが上手なんだ?」
「そこまで上手ってほどでもないけど、まあ、美味しいとは褒められるかな」
「食べてみたいんだ! 肉じゃがの味がするって聞いたことがあるんだ!」
圭斗が外で何をどう喋っているのかわからないけど、MMPの外の人にまでうちのカレーの話が伝わってるだなんて恥ずかしすぎておちおち外も歩けないじゃないか。ただ、カレーであればまあ、まだ人にも食べてもらえる料理かなと。
「えっと、今日はこれからカレーのつもりだけど、家でのご飯に支障がないなら、食べに来てもいいんじゃないかな」
「行くんだ! 今日はご飯は要らないんだーって言って来るんだ! ちょっと待つんだ!」
家に一瞬戻った星羅さんは、こっちに聞こえるほどの声で「今日はご飯要らないんだー」と報告してまたこっちに戻ってきた。食べに来たらいいんじゃないっていうのは冗談のつもりで適当に言ったんだけど、まさか本当にカレーをごちそうするのか…!?
「ついでだし、圭斗にも声かけてみようか」
「圭斗なんだ! 今日はシフトに入ってないはずなんだ」
「あ、もしもし」
『ん、僕だよ。どうしたんだい、菜月さんから電話だなんて。何かあったのかな』
「いや、今日はこれから夕飯にカレーを作るんだけど、うちの向かいに住んでる星羅さん? 彼女が成り行きでうちに来ることになって。良かったら圭斗も来ないか?」
『人見知りの君の事だ、星羅と2人だと間が持たないと見た。いいよ、僕もごちそうになろうかな。それで、どのタイミングで行けばいいかな?』
「……なる早」
『了解。何か買い足す物などはあるかな?』
「あー、あ~……それは、お任せで。あっ、やっぱ温玉!」
『温玉ね。それじゃあ、また後で』
無事に圭斗が捕まり、温玉を買って来てくれることにもなった。カレーにはやっぱり温玉だよなあ。相変わらず駐車場で立ち話をしていると、豪邸の駐車場に1台の車が止まる。降りて来たのは、あの地獄のようなカラオケにいたスガノだ。
「あれ、星羅。何やってんだ?」
「菜月さんと立ち話なんだ! これからカレーを作ってもらうんだ!」
「へえ。あ、菜月さん、その節はどうも」
「どーも」
「でも、星羅がカレーを作るんじゃなくて作ってもらうなんて、珍しいな」
「ボクだって人の作るカレーを食べたいんだ! 菜月さんのカレーは肉じゃがみたくて美味しいそうなんだ!」
「ん? スガノ、星羅さんはいつもカレーを振る舞う側なのか?」
「俺が言うと惚気だって言われるかもだけど、星羅のカレーは本当に美味しい」
「泰稚は大袈裟なんだ」
「……はっ、もしや彼氏!?」
「彼氏なんだ」
「よ~し、圭斗にいろいろ突っついてもらうぞ~! よかったらスガノもカレー食べるか?」
ワケのわからないカレーパーティーになりそうだけど、うちの仕事はきっちりと果たさないと。場を繋ぐためのMCは温玉を用意して来てくれることだろう。でも、ハードルが爆上げされてる感じがするんだよなあ……大丈夫かな、普通のカレーなんだけど。
end.
++++
菜月さんが須賀家でレコーディングをしたことで、須賀姉妹との繋がりが出来ないこともないかなと。人見知りなので基本他人仕様の丁寧語です。
星羅は圭斗さんと知り合いだけど、菜月さんとは全く関わりがなく共通の友人がいるというだけの関係。ナノスパあるあるのヤツ。
だったらまだスガPの方が件のカラオケで顔を合わせていた分恨みも込めて普通に話せるのかな。
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「あ! 星のイヤーカフなんだ! 菜月さんなんだ!?」
「……えーと…? どちらさまで…?」
「ボクはそこの家に住んでる須賀星羅っていうんだ! 先日は妹のきららがお世話になったそうなんだ!」
「いやはや。妹さんにはあんなに綺麗な絵を描いてもらってありがとうございます」
買い物から帰るといきなり小さな女の子から声をかけられたものだから、どうしたら良いやらわからずきょとんとする。話を聞くと、うちのマンションの前に立つ豪邸に住んでる娘さんで、星ヶ丘大学の4年生だそうだ。例の、USDXなるゲーム実況グループの中に彼氏がいるらしい。
そしてさらに話を聞いていると、圭斗のバイト先の同僚であることも発覚した。あの男はどこででもやってることは大差ないようで、圭斗の胡散臭さのおかげで星羅さんと少し話が通じるようになった。やっぱり共通の話題っていうのは人と話す上では重要なのかもしれない。
「と言うか……家にあんなスタジオがあるなんて、身内に音楽関係者がいらっしゃるんですか」
「ボクのお父さんがサックス奏者なんだ! ちょっとだけ有名なんだ」
「ああ、それで。……でも、その、有名なサックス奏者さんのスタジオを学生たちが遊び場みたいにして使ってるってことですよね?」
「お父さんの趣味でもあるんだ、だから問題ないんだ」
豪邸の主、須賀誠司氏が結構な変人らしく、娘の彼氏が音楽をやっていると聞くと「音楽やってる子なら連れておいでよ!」と家に招き、彼氏のバンドごと豪邸のスタジオで面倒を見ているような状態なんだそうだ。で、その延長でUSDXの音楽拠点にもなっている、と。
そして妹のきららさんは家に引きこもりながらフリーのイラストレーターとして絵の仕事でご飯を食べているとのこと。マスク姿で結構謎めいていたけど、カンノと話している様子は仲良しのいとこ同士が話しているような雰囲気があった。
「菜月さん、お買物帰りなんだ? エコバッグを提げてるんだ」
「あ、そうそう。スーパーに行って帰って来たところで」
「引き留めてゴメンなんだ、生ものもあるんだ?」
「いや、今回はそんなでも。カレーのルーとかお菓子とかお酒とか」
「そう言えば圭斗から聞いたことがあるんだ。菜月さんはカレーを作るのが上手なんだ?」
「そこまで上手ってほどでもないけど、まあ、美味しいとは褒められるかな」
「食べてみたいんだ! 肉じゃがの味がするって聞いたことがあるんだ!」
圭斗が外で何をどう喋っているのかわからないけど、MMPの外の人にまでうちのカレーの話が伝わってるだなんて恥ずかしすぎておちおち外も歩けないじゃないか。ただ、カレーであればまあ、まだ人にも食べてもらえる料理かなと。
「えっと、今日はこれからカレーのつもりだけど、家でのご飯に支障がないなら、食べに来てもいいんじゃないかな」
「行くんだ! 今日はご飯は要らないんだーって言って来るんだ! ちょっと待つんだ!」
家に一瞬戻った星羅さんは、こっちに聞こえるほどの声で「今日はご飯要らないんだー」と報告してまたこっちに戻ってきた。食べに来たらいいんじゃないっていうのは冗談のつもりで適当に言ったんだけど、まさか本当にカレーをごちそうするのか…!?
「ついでだし、圭斗にも声かけてみようか」
「圭斗なんだ! 今日はシフトに入ってないはずなんだ」
「あ、もしもし」
『ん、僕だよ。どうしたんだい、菜月さんから電話だなんて。何かあったのかな』
「いや、今日はこれから夕飯にカレーを作るんだけど、うちの向かいに住んでる星羅さん? 彼女が成り行きでうちに来ることになって。良かったら圭斗も来ないか?」
『人見知りの君の事だ、星羅と2人だと間が持たないと見た。いいよ、僕もごちそうになろうかな。それで、どのタイミングで行けばいいかな?』
「……なる早」
『了解。何か買い足す物などはあるかな?』
「あー、あ~……それは、お任せで。あっ、やっぱ温玉!」
『温玉ね。それじゃあ、また後で』
無事に圭斗が捕まり、温玉を買って来てくれることにもなった。カレーにはやっぱり温玉だよなあ。相変わらず駐車場で立ち話をしていると、豪邸の駐車場に1台の車が止まる。降りて来たのは、あの地獄のようなカラオケにいたスガノだ。
「あれ、星羅。何やってんだ?」
「菜月さんと立ち話なんだ! これからカレーを作ってもらうんだ!」
「へえ。あ、菜月さん、その節はどうも」
「どーも」
「でも、星羅がカレーを作るんじゃなくて作ってもらうなんて、珍しいな」
「ボクだって人の作るカレーを食べたいんだ! 菜月さんのカレーは肉じゃがみたくて美味しいそうなんだ!」
「ん? スガノ、星羅さんはいつもカレーを振る舞う側なのか?」
「俺が言うと惚気だって言われるかもだけど、星羅のカレーは本当に美味しい」
「泰稚は大袈裟なんだ」
「……はっ、もしや彼氏!?」
「彼氏なんだ」
「よ~し、圭斗にいろいろ突っついてもらうぞ~! よかったらスガノもカレー食べるか?」
ワケのわからないカレーパーティーになりそうだけど、うちの仕事はきっちりと果たさないと。場を繋ぐためのMCは温玉を用意して来てくれることだろう。でも、ハードルが爆上げされてる感じがするんだよなあ……大丈夫かな、普通のカレーなんだけど。
end.
++++
菜月さんが須賀家でレコーディングをしたことで、須賀姉妹との繋がりが出来ないこともないかなと。人見知りなので基本他人仕様の丁寧語です。
星羅は圭斗さんと知り合いだけど、菜月さんとは全く関わりがなく共通の友人がいるというだけの関係。ナノスパあるあるのヤツ。
だったらまだスガPの方が件のカラオケで顔を合わせていた分恨みも込めて普通に話せるのかな。
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