2020(03)
■読まぬ空気の進む圧
++++
「う~い~、戻ったぜ~」
「あ、前原くんお帰りー」
「あれっ、今日は磐田だけ?」
「ううん、そこに野坂くんがいるよ。そう言えば、何か前原くんに相談したいことがあるって言ってたよ。何かなあ」
「おーい野坂君、何か俺に用事だってー?」
「あっ、前原先輩! ご無沙汰してます!」
向島大学はまだ授業が始まらないけど、履修があったり大学祭の関係で大学に来ている人は来ている。俺は大した用事があったワケじゃないけどとりあえずゼミ室に顔を出し、磐田先輩から前原先輩がそろそろ実家から戻って来ると聞いたので待機していたんだ。
前原先輩は酒と煙草とパチスロっていうイメージがとても強い人だけど、バドミントンに対しては意外と真摯だし、プログラミング技術も実はかなり凄い。2年に1度、大学祭と同時開催される向島ロボット大戦では上位の常連でいらしたほどだ。で、俺の相談事というのもそれに関連する。
「あのですね、来年開催される向島ロボット大戦に参戦しようと考えていまして」
「おー、ついに出るか野坂君! で? 俺に聞きたいっていうのは勝ち抜いていける戦術とか?」
「それも聞いてはおきたいですが、まずは参戦するにあたり用意しておけばいい物や勉強しておけばいい言語などを教えてもらえればなと」
「まー、ぶっちゃけ募集要項に書いてある以外のことは特に必要ないっていう」
「え、それでいいんですか?」
「言語なんかはJavaでもCでも自分の得意なのを使えばいいし、機体はカスタムもするけど基本公式から配布されるヤツを使うからなあ。ぶっちゃけ戦術勝負よ」
「そうなのですね……それだけでも参考になりました、ありがとうございます」
俺は向島ロボット大戦に強い憧れを抱いている。大学のサークルも、MMPでなければロボット大戦に向けて活動しているロボット研究会に入ろうかと考えていた。去年はいろいろ忙しくてそんなこと考えられなかったけど、来年になれば自分でも参戦出来ないかと思って。
そこで、上位常連の前原先輩から何かアドバイスなどをいただけないかと思ったのだけど、募集要項以上のポイントはさほどないと聞いて少ししゅんとしてしまった。戦術か……前原先輩はパッと見卑怯なことでも「禁止されてないし」と堂々とやる印象がある。俺に必要なのはその思い切りか。
「あー、そーいやさー、春日井君? 俺が帰ってる間にウチのサークルやめちまったんだって?」
「あー……その件は、こちらの合宿でいろいろあったそうで……大変申し訳ございません」
「まあ、本人の決めたことだし別にいいんだけどさ。俺も真希から又聞きした程度だしあんま詳しいことは知らないけど、露崎さんに対してブチ切れしたって話じゃん」
「そうらしいですね。アイツの顔なんか二度と見たくないからバドサーを辞める、と。一応こっちではそこまでしなくてもと言ったんですけど、本人は頑なで」
「つか露崎さん? あの子何したん?」
「それこそ俺も報告で聞いた程度なのですが――」
カノンと萌香は前原先輩がいるバドサーでMMPを紹介してもらってやって来た。だからその関係でも少し話していたのだけど(萌香のイケメン狙いに関しても前原先輩から聞いた)、こんなことになればまあ、話のひとつくらいは振られるよなあ。
夏合宿であったらしい事の顛末を話すと、前原先輩は表情ひとつ変えずに「まあそんな感じの子だわなあ」と納得した様子。萌香がイケメンにグイグイ迫ったとか、嫌いな女に悪態を吐いて暴れたとか、そんなことが意外でも何でもなかったのか。
「最近は言動があからさま過ぎるっつってウチでも浮いてるらしいわ」
「そうですか」
「いやっほ~! マエトモ~、シケたツラしてんね~! あっ、S君もいる! おはよ~」
うわっ、出た。本能が深く関わるなと警鐘を鳴らす院生の京川さん!
「ちょっと、何すか京川さん真面目な話してんのに」
「えっ、マエトモが真面目な話? 台風でも来る? ナニナニ、先輩が相談に乗っちゃおうじゃない」
「あー、確かにめんどくさい女の扱いなら京川さんの管轄っすね。俺のサークルと野坂君のサークルを掛け持ちしてた1年の女子が、男関係でトラブル起こして暴れ散らかしたんですって。顔のいい彼氏が欲しいっていうタイプの女子っすよ。自分以外全員ブスってマウント取り始める感じの」
「あっそう。俺に躾けて欲しいとかそういうアレではない」
「確かに京川さん、顔はいいっすけど恋愛するタイプじゃあないっすよね」
「そうね。恋愛はしないね。顔はいいんだけどね。1回躾ければお金を出してでも続きをして欲しくなるんだけどね、残念。恋愛は管轄じゃないんだ」
確かに京川さんは顔がいいんだけど、話してる内容がとてつもなく如何わしく聞こえてくるのは気の所為だろうか。何でもかんでも下ネタに脳内変換するんじゃない。
「あっはは、京川さん女で食ってますもんね」
「表現が悪いなあ」
「え、女性を食っているという助詞の用法間違いではなく」
「女を食って飯を食ってんだよこの人。だから女で食ってる」
「女性の方々が俺とデートしたいって言うから交通費からホテル代まで全部出してもらってるだけだよ。それから、技術料とね。施術料って言う方が正しいかな?」
「はー、性質悪。やってることがただの風俗じゃないすか。野坂君、この人は俺なんかより数段クズだぞー」
「知ってます」
「えっ、酷い! Sく~ん!」
「磐田せんぱーい、助けてー」
「ごめーん、俺じゃムリかなー」
真面目な話をしてたはずなのに、この人が現れた瞬間こうだ! 話してる内容は気の所為じゃなくて如何わしかったし! いや、そんな話も嫌いじゃないけど京川さんの話は生々しすぎるんだ! 違う違う、ロボコンロボコン……。
end.
++++
前原さんもクズの部類ではあるけど、真面目な話が出来ないワケじゃないよ! 今回はロボコンの相談を持ち掛けられました。
やっぱり、樹理ちゃんが現れると残念なことになるんだろうなあ……そして樹理ちゃんがどうやって生活しているかも少し。
ノサカの口調を調整するのが何気に難しい……先輩は先輩でも尊敬度合いによって言葉の丁寧レベルも変わって来るのよね
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「う~い~、戻ったぜ~」
「あ、前原くんお帰りー」
「あれっ、今日は磐田だけ?」
「ううん、そこに野坂くんがいるよ。そう言えば、何か前原くんに相談したいことがあるって言ってたよ。何かなあ」
「おーい野坂君、何か俺に用事だってー?」
「あっ、前原先輩! ご無沙汰してます!」
向島大学はまだ授業が始まらないけど、履修があったり大学祭の関係で大学に来ている人は来ている。俺は大した用事があったワケじゃないけどとりあえずゼミ室に顔を出し、磐田先輩から前原先輩がそろそろ実家から戻って来ると聞いたので待機していたんだ。
前原先輩は酒と煙草とパチスロっていうイメージがとても強い人だけど、バドミントンに対しては意外と真摯だし、プログラミング技術も実はかなり凄い。2年に1度、大学祭と同時開催される向島ロボット大戦では上位の常連でいらしたほどだ。で、俺の相談事というのもそれに関連する。
「あのですね、来年開催される向島ロボット大戦に参戦しようと考えていまして」
「おー、ついに出るか野坂君! で? 俺に聞きたいっていうのは勝ち抜いていける戦術とか?」
「それも聞いてはおきたいですが、まずは参戦するにあたり用意しておけばいい物や勉強しておけばいい言語などを教えてもらえればなと」
「まー、ぶっちゃけ募集要項に書いてある以外のことは特に必要ないっていう」
「え、それでいいんですか?」
「言語なんかはJavaでもCでも自分の得意なのを使えばいいし、機体はカスタムもするけど基本公式から配布されるヤツを使うからなあ。ぶっちゃけ戦術勝負よ」
「そうなのですね……それだけでも参考になりました、ありがとうございます」
俺は向島ロボット大戦に強い憧れを抱いている。大学のサークルも、MMPでなければロボット大戦に向けて活動しているロボット研究会に入ろうかと考えていた。去年はいろいろ忙しくてそんなこと考えられなかったけど、来年になれば自分でも参戦出来ないかと思って。
そこで、上位常連の前原先輩から何かアドバイスなどをいただけないかと思ったのだけど、募集要項以上のポイントはさほどないと聞いて少ししゅんとしてしまった。戦術か……前原先輩はパッと見卑怯なことでも「禁止されてないし」と堂々とやる印象がある。俺に必要なのはその思い切りか。
「あー、そーいやさー、春日井君? 俺が帰ってる間にウチのサークルやめちまったんだって?」
「あー……その件は、こちらの合宿でいろいろあったそうで……大変申し訳ございません」
「まあ、本人の決めたことだし別にいいんだけどさ。俺も真希から又聞きした程度だしあんま詳しいことは知らないけど、露崎さんに対してブチ切れしたって話じゃん」
「そうらしいですね。アイツの顔なんか二度と見たくないからバドサーを辞める、と。一応こっちではそこまでしなくてもと言ったんですけど、本人は頑なで」
「つか露崎さん? あの子何したん?」
「それこそ俺も報告で聞いた程度なのですが――」
カノンと萌香は前原先輩がいるバドサーでMMPを紹介してもらってやって来た。だからその関係でも少し話していたのだけど(萌香のイケメン狙いに関しても前原先輩から聞いた)、こんなことになればまあ、話のひとつくらいは振られるよなあ。
夏合宿であったらしい事の顛末を話すと、前原先輩は表情ひとつ変えずに「まあそんな感じの子だわなあ」と納得した様子。萌香がイケメンにグイグイ迫ったとか、嫌いな女に悪態を吐いて暴れたとか、そんなことが意外でも何でもなかったのか。
「最近は言動があからさま過ぎるっつってウチでも浮いてるらしいわ」
「そうですか」
「いやっほ~! マエトモ~、シケたツラしてんね~! あっ、S君もいる! おはよ~」
うわっ、出た。本能が深く関わるなと警鐘を鳴らす院生の京川さん!
「ちょっと、何すか京川さん真面目な話してんのに」
「えっ、マエトモが真面目な話? 台風でも来る? ナニナニ、先輩が相談に乗っちゃおうじゃない」
「あー、確かにめんどくさい女の扱いなら京川さんの管轄っすね。俺のサークルと野坂君のサークルを掛け持ちしてた1年の女子が、男関係でトラブル起こして暴れ散らかしたんですって。顔のいい彼氏が欲しいっていうタイプの女子っすよ。自分以外全員ブスってマウント取り始める感じの」
「あっそう。俺に躾けて欲しいとかそういうアレではない」
「確かに京川さん、顔はいいっすけど恋愛するタイプじゃあないっすよね」
「そうね。恋愛はしないね。顔はいいんだけどね。1回躾ければお金を出してでも続きをして欲しくなるんだけどね、残念。恋愛は管轄じゃないんだ」
確かに京川さんは顔がいいんだけど、話してる内容がとてつもなく如何わしく聞こえてくるのは気の所為だろうか。何でもかんでも下ネタに脳内変換するんじゃない。
「あっはは、京川さん女で食ってますもんね」
「表現が悪いなあ」
「え、女性を食っているという助詞の用法間違いではなく」
「女を食って飯を食ってんだよこの人。だから女で食ってる」
「女性の方々が俺とデートしたいって言うから交通費からホテル代まで全部出してもらってるだけだよ。それから、技術料とね。施術料って言う方が正しいかな?」
「はー、性質悪。やってることがただの風俗じゃないすか。野坂君、この人は俺なんかより数段クズだぞー」
「知ってます」
「えっ、酷い! Sく~ん!」
「磐田せんぱーい、助けてー」
「ごめーん、俺じゃムリかなー」
真面目な話をしてたはずなのに、この人が現れた瞬間こうだ! 話してる内容は気の所為じゃなくて如何わしかったし! いや、そんな話も嫌いじゃないけど京川さんの話は生々しすぎるんだ! 違う違う、ロボコンロボコン……。
end.
++++
前原さんもクズの部類ではあるけど、真面目な話が出来ないワケじゃないよ! 今回はロボコンの相談を持ち掛けられました。
やっぱり、樹理ちゃんが現れると残念なことになるんだろうなあ……そして樹理ちゃんがどうやって生活しているかも少し。
ノサカの口調を調整するのが何気に難しい……先輩は先輩でも尊敬度合いによって言葉の丁寧レベルも変わって来るのよね
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