2020(03)
■派遣留学生の悩み
＋＋＋＋
MBCCでやる昼放送の枠が足りなくなったらしく、俺は秋学期から向島大学のサークルに週１回くらいのペースで留学することになった。アナウンサーで足があって、かつ向島で技術や番組制作の手法なんかをいろいろ吸収してくれそうだからとＬ先輩から人選の理由が伝えられた。
向島は緑ヶ丘大学より秋学期が始まるのが１週遅い。緑ヶ丘はこの連休明けの週から授業が始まるけど、向島は遅いから俺も最初の週はMBCCでの活動にフル参加出来そうだ。そして、留学期間は向島の活動期間と同じ年内までという風にも決まっている。
「すっがやんおっはよー！」
「おーすくるみ」
「あれっ、すがやん留学したんじゃなかったの」
「サキお前、わかってて言ってるだろ。向島は始まるの１週遅いから今週はずっといるっつーの」
「うん、知ってた。おはよう」
俺が向島に留学するという話はサークルの人みんなにも告知されているらしい。MBCCと向島、双方の昼放送の枠のことだとか、単純に大学間交流をもっとやってもいいのかもねという空気のことだとか。カノンによれば、向島でも俺を受け入れるのにいろいろ準備をしてくれているそうだ。
「でも、留学かー、響きが凄いよね」
「響きはいいかもだけど、MBCCの昼放送の選考からは漏れましたって思っちまうんだよやっぱ」
「そんなことないよ！ 元気出して！」
「いや、いいんだけどさ。先輩たちが何とかして俺にも経験を積ませてくれようとしてるのはわかるから」
「実際、すがやんが向島に派遣されるのって、ササとレナより協調性が高いと言うか、対人スキル的な意味で良かったんでしょ」
「そんな風には言われたよな。夏合宿でカノンと同じ班だったし、知ってる子がいるならやりやすいだろーって」
「あと、雨が降っても車だから二輪組より安全だし」
「それな」
「でも、向島ってどんな感じで番組やってるんだろう。奈々先輩にもっとお話聞いとけばよかったー！」
「収録とは聞いたことがあるけど、確かにどんな感じでやってるのかは興味深いね」
それを知ってないと怖いなと思って、この連休にやっていた向島のオープンキャンパスに潜入してきた。食堂にDJブースを設置して、２時間の公開生放送をやってたんだ。それを見た感じだと、ウチと特に何が違うってワケでもなさそうだったし技術的にはまあやれそうだなって。
ただ、不気味だと思ったのは、ごくごく普通の番組すぎて、話に聞いてるようなぶっ飛んだ番組っていう様子が全然わからなかったということだ。ウチと比べて向島の番組はいろいろはっちゃけてるらしいんだけど、さすがにオープンキャンパスでやるような番組では抑えてたのかなあ。
「だったら調べてみる？ アーカイブの中から向島の人が絡んでそうな番組を探してみたら向島の実態がわかるかもしれない」
「サキナイス！ 調べようぜ！」
「でも、どうやって？ パソコンに入れた番組に誰が参加してますーって書いてあるの？」
「夏合宿とか、ファンフェスとか、その辺りかな。これを、こうして……」
サキがパソコンで検索を始めると、向島の人が絡んでる番組はこれだけあるみたいだね、とあっさり探し出してしまった。つーかそれをファイル化した時に検索出来るようにしてたのって高木先輩かＬ先輩だよな。つかあの２人ヤバない？ マメ過ぎだ。
「あれっ、おはよう。みんな何してるの？」
「あっ、高木先輩おはようございまーす！ あたしたち、今、すがやんの予習用に向島の人が絡んでる番組を聞こうとしてるんですけど、向島らしさって何ですか？」
「向島らしさかあ……思い切りとか、自由とか……そんな感じ？ あと悪ふざけかな」
「悪ふざけ」
「サキ、そこだけ拾うな。どの番組を聞いたらわかりやすいっすかね？」
「引退した先輩よりも、今いる人の特色が出てる方がいいよね？」
「そうっすね」
「去年の夏合宿で言えば４班と７班。あと、作品出展のラジドラ。内容も向島らしいけど悪ふざけの方だから、技術的には編集の方を聞けばわかるよ。順当に向島らしい人って言ったら今は土田先輩になるのかな。りっちゃん先輩って言われてるね」
「野坂先輩じゃないんですねー、初心者講習会で講師やるくらいだから凄い人ですよね？」
「野坂先輩も上手いけど、あの人はウチのミキサーより緑ヶ丘っぽい超正統派だから。まあ、緑ヶ丘っぽくないって言われる俺が言うのも難だけどね」
やっぱり、ある程度知ってる先輩に聞くのが早かった。言われた通り去年の夏合宿の番組から聞いてみることに。夏合宿の番組は１つにつき45分だから、倍速再生を使った上で飛ばせるところは飛ばしていく。４班の番組は変わった構成だったし、７班は中継を飛ばす異色の手法を採用してたことがわかる。
高木先輩によれば、こういうちょっと変わった番組をやるところには大体向島の人が絡んでいて、その人たちが不思議な力で班をまとめて動かして、いつの間にかみんな何となく「出来るんじゃないか」っていう風に思ってしまってるんだそうだ。「これをやれたら絶対楽しい！」と言い切るのが向島らしさでもある、と。
「すがやん、向島でいろいろ勉強してきてね。俺は、すがやんだからこそ安心して送り出せると思ってるから」
「はい、頑張ります」
「すがやんがんばれー！」
「面白いことがあったら教えてね」
end.
＋＋＋＋
いよいよ緑大では秋学期が始まりすがやんの留学が本格的に始まるのですが、向島がまだなので今週はとりあえず緑ヶ丘から。
サキがちょこちょこ冗談なんかも挟む感じになってますね。隅っこで大人しく本を読んでるような子なんだけども。
そしてTKGの思う向島らしさよ。悪ふざけっていうのはやっぱり外せませんね。でも向島らしい人っていうのはりっちゃんなんだね。何か意外。
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MBCCでやる昼放送の枠が足りなくなったらしく、俺は秋学期から向島大学のサークルに週１回くらいのペースで留学することになった。アナウンサーで足があって、かつ向島で技術や番組制作の手法なんかをいろいろ吸収してくれそうだからとＬ先輩から人選の理由が伝えられた。
向島は緑ヶ丘大学より秋学期が始まるのが１週遅い。緑ヶ丘はこの連休明けの週から授業が始まるけど、向島は遅いから俺も最初の週はMBCCでの活動にフル参加出来そうだ。そして、留学期間は向島の活動期間と同じ年内までという風にも決まっている。
「すっがやんおっはよー！」
「おーすくるみ」
「あれっ、すがやん留学したんじゃなかったの」
「サキお前、わかってて言ってるだろ。向島は始まるの１週遅いから今週はずっといるっつーの」
「うん、知ってた。おはよう」
俺が向島に留学するという話はサークルの人みんなにも告知されているらしい。MBCCと向島、双方の昼放送の枠のことだとか、単純に大学間交流をもっとやってもいいのかもねという空気のことだとか。カノンによれば、向島でも俺を受け入れるのにいろいろ準備をしてくれているそうだ。
「でも、留学かー、響きが凄いよね」
「響きはいいかもだけど、MBCCの昼放送の選考からは漏れましたって思っちまうんだよやっぱ」
「そんなことないよ！ 元気出して！」
「いや、いいんだけどさ。先輩たちが何とかして俺にも経験を積ませてくれようとしてるのはわかるから」
「実際、すがやんが向島に派遣されるのって、ササとレナより協調性が高いと言うか、対人スキル的な意味で良かったんでしょ」
「そんな風には言われたよな。夏合宿でカノンと同じ班だったし、知ってる子がいるならやりやすいだろーって」
「あと、雨が降っても車だから二輪組より安全だし」
「それな」
「でも、向島ってどんな感じで番組やってるんだろう。奈々先輩にもっとお話聞いとけばよかったー！」
「収録とは聞いたことがあるけど、確かにどんな感じでやってるのかは興味深いね」
それを知ってないと怖いなと思って、この連休にやっていた向島のオープンキャンパスに潜入してきた。食堂にDJブースを設置して、２時間の公開生放送をやってたんだ。それを見た感じだと、ウチと特に何が違うってワケでもなさそうだったし技術的にはまあやれそうだなって。
ただ、不気味だと思ったのは、ごくごく普通の番組すぎて、話に聞いてるようなぶっ飛んだ番組っていう様子が全然わからなかったということだ。ウチと比べて向島の番組はいろいろはっちゃけてるらしいんだけど、さすがにオープンキャンパスでやるような番組では抑えてたのかなあ。
「だったら調べてみる？ アーカイブの中から向島の人が絡んでそうな番組を探してみたら向島の実態がわかるかもしれない」
「サキナイス！ 調べようぜ！」
「でも、どうやって？ パソコンに入れた番組に誰が参加してますーって書いてあるの？」
「夏合宿とか、ファンフェスとか、その辺りかな。これを、こうして……」
サキがパソコンで検索を始めると、向島の人が絡んでる番組はこれだけあるみたいだね、とあっさり探し出してしまった。つーかそれをファイル化した時に検索出来るようにしてたのって高木先輩かＬ先輩だよな。つかあの２人ヤバない？ マメ過ぎだ。
「あれっ、おはよう。みんな何してるの？」
「あっ、高木先輩おはようございまーす！ あたしたち、今、すがやんの予習用に向島の人が絡んでる番組を聞こうとしてるんですけど、向島らしさって何ですか？」
「向島らしさかあ……思い切りとか、自由とか……そんな感じ？ あと悪ふざけかな」
「悪ふざけ」
「サキ、そこだけ拾うな。どの番組を聞いたらわかりやすいっすかね？」
「引退した先輩よりも、今いる人の特色が出てる方がいいよね？」
「そうっすね」
「去年の夏合宿で言えば４班と７班。あと、作品出展のラジドラ。内容も向島らしいけど悪ふざけの方だから、技術的には編集の方を聞けばわかるよ。順当に向島らしい人って言ったら今は土田先輩になるのかな。りっちゃん先輩って言われてるね」
「野坂先輩じゃないんですねー、初心者講習会で講師やるくらいだから凄い人ですよね？」
「野坂先輩も上手いけど、あの人はウチのミキサーより緑ヶ丘っぽい超正統派だから。まあ、緑ヶ丘っぽくないって言われる俺が言うのも難だけどね」
やっぱり、ある程度知ってる先輩に聞くのが早かった。言われた通り去年の夏合宿の番組から聞いてみることに。夏合宿の番組は１つにつき45分だから、倍速再生を使った上で飛ばせるところは飛ばしていく。４班の番組は変わった構成だったし、７班は中継を飛ばす異色の手法を採用してたことがわかる。
高木先輩によれば、こういうちょっと変わった番組をやるところには大体向島の人が絡んでいて、その人たちが不思議な力で班をまとめて動かして、いつの間にかみんな何となく「出来るんじゃないか」っていう風に思ってしまってるんだそうだ。「これをやれたら絶対楽しい！」と言い切るのが向島らしさでもある、と。
「すがやん、向島でいろいろ勉強してきてね。俺は、すがやんだからこそ安心して送り出せると思ってるから」
「はい、頑張ります」
「すがやんがんばれー！」
「面白いことがあったら教えてね」
end.
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いよいよ緑大では秋学期が始まりすがやんの留学が本格的に始まるのですが、向島がまだなので今週はとりあえず緑ヶ丘から。
サキがちょこちょこ冗談なんかも挟む感じになってますね。隅っこで大人しく本を読んでるような子なんだけども。
そしてTKGの思う向島らしさよ。悪ふざけっていうのはやっぱり外せませんね。でも向島らしい人っていうのはりっちゃんなんだね。何か意外。
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