2020(03)
■Pure Realism
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向島大学のオープンキャンパスは、今年も結構な人の入りだ。学ランにセーラー服、ブレザーなどなど制服姿から私服姿までいろんな高校生が歩いていて、それを迎える側の在学生やらも各所に散ってそれぞれの仕事をしているようだ。
俺たちMMPは毎年食堂の一角を借りて公開生放送をやっている。大学非公認でやってることだけど、他にもそういう団体やゼミはあるし、特に俺たちだけが黙認されているというワケでもないようだ。まあ、オープンキャンパスが賑わって、向島大学にいいイメージを持たせるに越したことはないもんな。
そして今は12時半過ぎ。11時半からやっていたカノンの枠が終わり、ヒロへとバトンタッチしたところだ。今年はアナウンサー1人が1時間トークをし、それを2人のミキサーで回すという編成になっている。番組を終えた俺とこーた、そしてカノンは少しだけ離れたところからDJブースを見守っている。
「ヒロさんのトークは相変わらずの緩さですねえ」
「そればっかりは仕方ない。先輩方も「それがヒロの味だから」って特に何も仰らなかったんだから。何なら技術的にはカノンの方が上まで全然あるぞ」
「さすがに3年生の先輩より上ってことはないと思うんすけど」
「それが全然あるんだよ、ヒロ相手だったら。いや、カノンの頑張りも見て来てるしな俺は。カノンの日々の成長が俺の癒しでもある」
3年生になり繰り上がりでアナウンス部長となったヒロだったけど、本人のスタンスが急に変わるワケでもなく相変わらずゆる~いキャラクターを前面に押し出した番組になっていた。それがいいって言う人もいるんだろうけど、どうにもこうにも緩すぎる。
「大体アイツは、カノンが入る前までは平気で「飽きた」とか「話すことない」とか言って1分半とかで逆キューを投げやってたんだぞ! 3分の枠で!? 半分投げ返すって何だ!? 1分半って! それを取り戻すミキサーの事を考えろと!」
「今は短くても2分半くらいにはなりましたよねえ。土田さんも泣いて喜んでますよ」
「本当に、よくぞここまで……」
「でも正直2分半でも短いっすよね、3分の枠だと」
「ヒロの基準で言えば劇的な進歩なんだ」
「菜月先輩に言わせれば、野坂さんの遅刻が15分程度で済んだようなものですね」
「こーたお前、そこでその例えを出して来るとか嫌がらせか!?」
「よくぞ気付きましたね。嫌がらせですよ」
――とか何とか話していると、カノンは「3年生の先輩ってみんなちょっとおかしいっすよね」と笑っている。親しみを込めてそう思われているならいいんだけど、侮蔑的な意味で言われているならショック極まりない。
「そう言えば、オープンキャンパスの会場設営してて思い出したことが1コあったんす」
「思い出した? 何を」
「俺がMMPに入りたいなって思った理由っす」
「そう言えば、最初はバドミントンをやってましたものね。どうしてMMPのことを思い出したんです?」
「俺がMMPっていうサークルを知ったのが、まさに去年のオープンキャンパスだったんす。で、番組の転換の時間かな? その時にここで番組やってるアナウンサーさんとちょっと雑談したんす。今から思うと、それがヒロ先輩だったんすよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「確かにヒロ先輩って、技術的にめちゃくちゃ上手いかって言ったらそうじゃないんす。でも誰よりも自然体でトークをしてますし、ある意味で、どんなに上手いトークよりも耳に馴染んだんす。大学生の綺麗事だけじゃない、でも変に斜に構えて捻くれてもいない、純朴なリアルを見た気がしたんですよ。ああ、いいなあって思って。でも、バドサーに入ってしばらくは忘れてました」
物は言い様だなと思う。でも確かにヒロはいつだってワガママ放題で自然体極まりない。アナウンサーとしてのスタンスやトーク内容にしたってそうだ。でも、それが「どんな上手いトークよりも耳に馴染んだ」なんて言われる日が来るだなんて思ってもないじゃないか。純朴なリアル、か。
MMPというサークルのことを思い出したのは、最初に入ったバドミントンサークルで「どうして向島大学に入ったか」という話のときだったそうだ。その中で「そういやそんなサークルあったなー」と思い出し、そのサークルの先輩のツテでMMPを紹介してもらった、と。
「そう考えると、俺は今、大学生としての原点にいるワケっすね」
「確かに、そう言えるかもしれないな」
「野坂先輩こーた先輩、来年はちょっと厳しいかもっすけど、奈々先輩と踏ん張って、俺の代になる頃には必ず今より盛り上げますから!」
「いい心意気だけど、あんまり張り切り過ぎるとバテるぞ」
「そうですよ。いつも一生懸命なのはカノンのいいところですけど、適度に力を抜くことも覚えていきましょうねえ」
「ヒロ先輩みたくっすね!」
「いや、そこまでは行くな!? 律が発狂する!」
「圭斗先輩が引退されて、ミキサーとしてお守りするアナウンサーがヒロさん1人で済んでるのに……ああこわいこわい」
何て言うか、カノンとの出会いでこの公開生放送に意味があったのだと確認することが出来たんだろう。もしかしたら、今年の番組を聞いてまた来年誰かがMMPに来てくれるかもしれない。その可能性はゼロじゃない。でも来年は踏ん張り時、それをカノンも奈々もわかっている。
「ゆる~く、ゆる~く……難しいっすね」
「マジレスすると、脱力具合といい意味での適当さはヒロより律の方が参考になるから」
end.
++++
向島のオープンキャンパスでカノンが大事なことを思い出した様子。去年のこの時期にノサヒロでやった話のモブ高校生を拾いました。
だけどカノンって結構思ったことをはっきり言うのね、ヒロはそんな特別上手いってワケじゃないとかね。
圭斗さんが引退してお守りするのがヒロ1人になってるりっちゃんは、ミキサーとしては結構気苦労が少なくなってるのかしらw
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向島大学のオープンキャンパスは、今年も結構な人の入りだ。学ランにセーラー服、ブレザーなどなど制服姿から私服姿までいろんな高校生が歩いていて、それを迎える側の在学生やらも各所に散ってそれぞれの仕事をしているようだ。
俺たちMMPは毎年食堂の一角を借りて公開生放送をやっている。大学非公認でやってることだけど、他にもそういう団体やゼミはあるし、特に俺たちだけが黙認されているというワケでもないようだ。まあ、オープンキャンパスが賑わって、向島大学にいいイメージを持たせるに越したことはないもんな。
そして今は12時半過ぎ。11時半からやっていたカノンの枠が終わり、ヒロへとバトンタッチしたところだ。今年はアナウンサー1人が1時間トークをし、それを2人のミキサーで回すという編成になっている。番組を終えた俺とこーた、そしてカノンは少しだけ離れたところからDJブースを見守っている。
「ヒロさんのトークは相変わらずの緩さですねえ」
「そればっかりは仕方ない。先輩方も「それがヒロの味だから」って特に何も仰らなかったんだから。何なら技術的にはカノンの方が上まで全然あるぞ」
「さすがに3年生の先輩より上ってことはないと思うんすけど」
「それが全然あるんだよ、ヒロ相手だったら。いや、カノンの頑張りも見て来てるしな俺は。カノンの日々の成長が俺の癒しでもある」
3年生になり繰り上がりでアナウンス部長となったヒロだったけど、本人のスタンスが急に変わるワケでもなく相変わらずゆる~いキャラクターを前面に押し出した番組になっていた。それがいいって言う人もいるんだろうけど、どうにもこうにも緩すぎる。
「大体アイツは、カノンが入る前までは平気で「飽きた」とか「話すことない」とか言って1分半とかで逆キューを投げやってたんだぞ! 3分の枠で!? 半分投げ返すって何だ!? 1分半って! それを取り戻すミキサーの事を考えろと!」
「今は短くても2分半くらいにはなりましたよねえ。土田さんも泣いて喜んでますよ」
「本当に、よくぞここまで……」
「でも正直2分半でも短いっすよね、3分の枠だと」
「ヒロの基準で言えば劇的な進歩なんだ」
「菜月先輩に言わせれば、野坂さんの遅刻が15分程度で済んだようなものですね」
「こーたお前、そこでその例えを出して来るとか嫌がらせか!?」
「よくぞ気付きましたね。嫌がらせですよ」
――とか何とか話していると、カノンは「3年生の先輩ってみんなちょっとおかしいっすよね」と笑っている。親しみを込めてそう思われているならいいんだけど、侮蔑的な意味で言われているならショック極まりない。
「そう言えば、オープンキャンパスの会場設営してて思い出したことが1コあったんす」
「思い出した? 何を」
「俺がMMPに入りたいなって思った理由っす」
「そう言えば、最初はバドミントンをやってましたものね。どうしてMMPのことを思い出したんです?」
「俺がMMPっていうサークルを知ったのが、まさに去年のオープンキャンパスだったんす。で、番組の転換の時間かな? その時にここで番組やってるアナウンサーさんとちょっと雑談したんす。今から思うと、それがヒロ先輩だったんすよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「確かにヒロ先輩って、技術的にめちゃくちゃ上手いかって言ったらそうじゃないんす。でも誰よりも自然体でトークをしてますし、ある意味で、どんなに上手いトークよりも耳に馴染んだんす。大学生の綺麗事だけじゃない、でも変に斜に構えて捻くれてもいない、純朴なリアルを見た気がしたんですよ。ああ、いいなあって思って。でも、バドサーに入ってしばらくは忘れてました」
物は言い様だなと思う。でも確かにヒロはいつだってワガママ放題で自然体極まりない。アナウンサーとしてのスタンスやトーク内容にしたってそうだ。でも、それが「どんな上手いトークよりも耳に馴染んだ」なんて言われる日が来るだなんて思ってもないじゃないか。純朴なリアル、か。
MMPというサークルのことを思い出したのは、最初に入ったバドミントンサークルで「どうして向島大学に入ったか」という話のときだったそうだ。その中で「そういやそんなサークルあったなー」と思い出し、そのサークルの先輩のツテでMMPを紹介してもらった、と。
「そう考えると、俺は今、大学生としての原点にいるワケっすね」
「確かに、そう言えるかもしれないな」
「野坂先輩こーた先輩、来年はちょっと厳しいかもっすけど、奈々先輩と踏ん張って、俺の代になる頃には必ず今より盛り上げますから!」
「いい心意気だけど、あんまり張り切り過ぎるとバテるぞ」
「そうですよ。いつも一生懸命なのはカノンのいいところですけど、適度に力を抜くことも覚えていきましょうねえ」
「ヒロ先輩みたくっすね!」
「いや、そこまでは行くな!? 律が発狂する!」
「圭斗先輩が引退されて、ミキサーとしてお守りするアナウンサーがヒロさん1人で済んでるのに……ああこわいこわい」
何て言うか、カノンとの出会いでこの公開生放送に意味があったのだと確認することが出来たんだろう。もしかしたら、今年の番組を聞いてまた来年誰かがMMPに来てくれるかもしれない。その可能性はゼロじゃない。でも来年は踏ん張り時、それをカノンも奈々もわかっている。
「ゆる~く、ゆる~く……難しいっすね」
「マジレスすると、脱力具合といい意味での適当さはヒロより律の方が参考になるから」
end.
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向島のオープンキャンパスでカノンが大事なことを思い出した様子。去年のこの時期にノサヒロでやった話のモブ高校生を拾いました。
だけどカノンって結構思ったことをはっきり言うのね、ヒロはそんな特別上手いってワケじゃないとかね。
圭斗さんが引退してお守りするのがヒロ1人になってるりっちゃんは、ミキサーとしては結構気苦労が少なくなってるのかしらw
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