2017(02)
■無言の飯テロ戦争
++++
バイトから帰って、さて今日の夕飯はどうしたモンか。そんなようなことを考えていると、突然スマホに通知が入る。荷物や上着を床に軽く放り、座椅子に背中を預けてそれを確認すれば。
「あの野郎」
突然送られてきたのはカリカリに焼かれたベーコンと缶ビールの写真。最近は写真を撮るにもSNS映えがどうしたってやたらうるせえが、今送られてきたこの写真はSNS映えもクソもないベーコンとビール。
確かに映えはない。だが、いかにも「今やってます」と自慢したげなそれには生活感やリアルさがある。よく見ると、画像の上の方には撮影者とは違う奴の手が写り込んでいる。わざわざ画像に入れ込むように作ったピースサイン。
伊東が誰かとベーコンを焼いて晩酌をしているというところまでは分かったし、こんちくしょうとか羨ましいという気持ちはある。やってるから来なよと言ってる可能性もあるが、バイト上がりではそれもめんどい。
そして俺がやるのは、冷蔵庫の中身を確認することだ。ビールはある。あとはハムとチーズとサラダチキン。卵もあるけどロクなモンじゃねえ。明日は買い物に行かなきゃいけねえな、この感じだと。
「ん?」
今日はやたら通知が入る日だなと思う。それを確認すれば、送り主は真上に住んでいるLだ。しかも話題がタイムリー。夕飯への誘い。これはありがたいと返信よりも先に缶ビールを持って外の階段を上る。
「うーす、来たぞ」
「あ、お疲れっす。外、それっぽい音したんで帰って来たのかなーと思って」
「丁度今帰って来たところだ。で、やんのか」
「やります。やりましょう」
台所を抜けて、奴の部屋にはカセットコンロがセットされていた。ここでこれから行われるのは餃子大会だ。
Lはラーメン屋でバイトをしている。餃子を作る技術はそこで培った。たまに自分で餃子を作って食べたくなったときに、少しだけ作るのが逆に難しいということで俺を招いて食わせてくれるのだ。
俺もたまにまかないのピザを作ってLの部屋に持ってくこともあるが、コイツはとことん食わねえ。よくそんだけしか食わねえで生命を維持出来ているなと思うくらいには食が細い。だから体も細いのだろう。
「ビール持って来たぞ」
「あざっす」
「何かさっき伊東がベーコンとビールの画像を送って来やがったんだよな」
「高崎先輩を殺す気満々すね」
「伊東の事だから誘ってくれてた可能性もあるが、上の方に写ってた手は多分女だしアイツが部屋で一緒に飯を食う女なんざ限りなく絞られるからな」
「あー、察するヤツっすね」
フライパン一面に敷き詰めた餃子がカセットコンロの上に乗る。これをLが焼いてくれるのをしばし待つ。もちろん、白い飯も欠かせない。飯と、餃子と、ビール。絶対に美味いヤツだし、幸せとはこういうことを言うのだ、少なくとも俺の中では。
ジュウジュウと、餃子の焼ける音や匂いが食欲を刺激する。唾で口の中が潤ってきた。俺はそのタイミングを今か今かと待つのだ。餃子の焼き加減に関して言えば、Lに任せておくのが間違いないヤツだ。俺が口を出すのはお門違い。
「はい! 焼けたっす!」
「ちょっと写真撮らせてくれ」
フライパンの上には餃子がひとつひとつ花びらのように並べられている。その様子を1枚。そして、餃子を6コ乗せた皿と白い飯、それから缶ビールを入れた写真を1枚。もちろん、普段は飯時に写真なんざ撮らねえ。今日は仕返しのための撮影だ。
左手でビールを煽り、右手で反撃用のメッセージを作る。それを送信して、ようやく箸を握る。うん、やっぱ俺は写真を撮るより目の前の飯だ。特にSNSをやってないから必要性を感じないのかもしれないが。飯ブログやレビューを書く奴なんかは記録という意味でも撮るのだろうか。
「L、いつも通りうめえ」
「あざっす。どんどん食ってください」
「お前も食えよ」
「俺はほどほどでいいんすよ」
end.
++++
このお話の主題は飯テロのはずだったのだけど、何かそれっぽくならないのは高崎だからかなあ……
単にいつも通り高崎とLがわちゃわちゃと餃子焼いてるだけの話になってしまったけどまあいいや。テッパンよテッパン
いち氏ならその気になれば餃子だって作れるからな、俺もやったよーって写真送って来たっておかしくない
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バイトから帰って、さて今日の夕飯はどうしたモンか。そんなようなことを考えていると、突然スマホに通知が入る。荷物や上着を床に軽く放り、座椅子に背中を預けてそれを確認すれば。
「あの野郎」
突然送られてきたのはカリカリに焼かれたベーコンと缶ビールの写真。最近は写真を撮るにもSNS映えがどうしたってやたらうるせえが、今送られてきたこの写真はSNS映えもクソもないベーコンとビール。
確かに映えはない。だが、いかにも「今やってます」と自慢したげなそれには生活感やリアルさがある。よく見ると、画像の上の方には撮影者とは違う奴の手が写り込んでいる。わざわざ画像に入れ込むように作ったピースサイン。
伊東が誰かとベーコンを焼いて晩酌をしているというところまでは分かったし、こんちくしょうとか羨ましいという気持ちはある。やってるから来なよと言ってる可能性もあるが、バイト上がりではそれもめんどい。
そして俺がやるのは、冷蔵庫の中身を確認することだ。ビールはある。あとはハムとチーズとサラダチキン。卵もあるけどロクなモンじゃねえ。明日は買い物に行かなきゃいけねえな、この感じだと。
「ん?」
今日はやたら通知が入る日だなと思う。それを確認すれば、送り主は真上に住んでいるLだ。しかも話題がタイムリー。夕飯への誘い。これはありがたいと返信よりも先に缶ビールを持って外の階段を上る。
「うーす、来たぞ」
「あ、お疲れっす。外、それっぽい音したんで帰って来たのかなーと思って」
「丁度今帰って来たところだ。で、やんのか」
「やります。やりましょう」
台所を抜けて、奴の部屋にはカセットコンロがセットされていた。ここでこれから行われるのは餃子大会だ。
Lはラーメン屋でバイトをしている。餃子を作る技術はそこで培った。たまに自分で餃子を作って食べたくなったときに、少しだけ作るのが逆に難しいということで俺を招いて食わせてくれるのだ。
俺もたまにまかないのピザを作ってLの部屋に持ってくこともあるが、コイツはとことん食わねえ。よくそんだけしか食わねえで生命を維持出来ているなと思うくらいには食が細い。だから体も細いのだろう。
「ビール持って来たぞ」
「あざっす」
「何かさっき伊東がベーコンとビールの画像を送って来やがったんだよな」
「高崎先輩を殺す気満々すね」
「伊東の事だから誘ってくれてた可能性もあるが、上の方に写ってた手は多分女だしアイツが部屋で一緒に飯を食う女なんざ限りなく絞られるからな」
「あー、察するヤツっすね」
フライパン一面に敷き詰めた餃子がカセットコンロの上に乗る。これをLが焼いてくれるのをしばし待つ。もちろん、白い飯も欠かせない。飯と、餃子と、ビール。絶対に美味いヤツだし、幸せとはこういうことを言うのだ、少なくとも俺の中では。
ジュウジュウと、餃子の焼ける音や匂いが食欲を刺激する。唾で口の中が潤ってきた。俺はそのタイミングを今か今かと待つのだ。餃子の焼き加減に関して言えば、Lに任せておくのが間違いないヤツだ。俺が口を出すのはお門違い。
「はい! 焼けたっす!」
「ちょっと写真撮らせてくれ」
フライパンの上には餃子がひとつひとつ花びらのように並べられている。その様子を1枚。そして、餃子を6コ乗せた皿と白い飯、それから缶ビールを入れた写真を1枚。もちろん、普段は飯時に写真なんざ撮らねえ。今日は仕返しのための撮影だ。
左手でビールを煽り、右手で反撃用のメッセージを作る。それを送信して、ようやく箸を握る。うん、やっぱ俺は写真を撮るより目の前の飯だ。特にSNSをやってないから必要性を感じないのかもしれないが。飯ブログやレビューを書く奴なんかは記録という意味でも撮るのだろうか。
「L、いつも通りうめえ」
「あざっす。どんどん食ってください」
「お前も食えよ」
「俺はほどほどでいいんすよ」
end.
++++
このお話の主題は飯テロのはずだったのだけど、何かそれっぽくならないのは高崎だからかなあ……
単にいつも通り高崎とLがわちゃわちゃと餃子焼いてるだけの話になってしまったけどまあいいや。テッパンよテッパン
いち氏ならその気になれば餃子だって作れるからな、俺もやったよーって写真送って来たっておかしくない
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