2020(03)
■人脈とスキマの攻防
++++
「は、林原さん大変です…!」
「どうした有馬」
「これを見てください」
「……芋だな」
今日も今日とてセンターのバイト、何事もなくやり過ごすはずだった。しかし、オレが事務所に出勤してみると、事務所前で有馬がおろおろとしているではないか。これを見ろと言われて目をやった先には、「北辰のじゃがいも」の壁が出来ていた。
確かに春山さんから青山さん宛に芋を送ったという予告はされていたが、オレがシフトに入っていた一昨日の時点ではこのような惨状にはなっていなかった。……となると、昨日いた奴が何らかの事情を知っていると見るべきか。
「とりあえず、事務所に入るぞ」
「は、はい、そうですね」
「えーと、昨日シフトに入っていたのは……」
「烏丸さんと綾瀬さんですね」
「はーっ……そうか」
よりにもよって想定し得る最悪の組み合わせだったかと。オレがいれば青山さん発と思われる芋の侵入など許さなかったし、今回は高山にもあの人から連絡があっても無視しろと指示していた。しかし、烏丸と綾瀬となれば話が変わってくる。
よくよく考えれば綾瀬も青山さんとの繋がりがあると言うか、そもそもアイツをここに連れてきたのも青山さんだ。オレとしたことがそのことをすっかり忘れていたし、烏丸も烏丸で芋の山にはきゃっきゃとはしゃぐ性質だ。
「わあ、すごくいいジャガイモですね」
「暢気なことを言っている場合か。ここに投棄された以上、青山さんはもうこれをどうこうするつもりはないのだろう」
「毎年こんな感じなんですか?」
「春山さんとかいう畜生がいた年はな。……今のうちに川北を押さえておくか」
大量の芋の山は、去年や前回は川北の人脈を使うことで何とかした。しかし今現在川北は帰省中で、すぐにどうこうしてもらうことも出来ない。しかし、お前の人脈でこれをどうにか出来んかという相談だけはしておこう。
オレもダメ元でUSDXのグループLINEに「大量の北辰産ジャガイモがある。1ケースから引き取り手を募集する」と流してみたものの、しばし後にスガノからは「同じ芋がこちらにもあります」と返信が来た。わかってはいたが、やはりか。
「お前が入所の面談を受けに来た時に、出身地が北辰と聞いてオレと川北が身構えたのはこの所為だ。理解してもらえれば幸いだ」
「……確かに、これだけの芋はスーパーなどのお店ならともかく、関係のない事務所や個人に押し寄せるとなると……もはや災害ですね」
「物がいいにはいいのだがな。加減という物を知らんのだ、あの人は」
「僕もこれをもらう権利がありますか?」
「持って行ってくれるなら助かるが」
「一人暮らしなので、当面の食料に出来ればなと。でも、これをどうやって運搬しましょう。人並みの力はありますが、重いですよね」
「持って帰るなら家までオレが車で運んでやろう」
「ありがとうございます、助かります」
運搬で思い出したが、宮ちゃんにも話してみるか。あの女ならまた大学祭のブース運営などで使ってもらえないだろうか。宮ちゃんに話が行くというのは伊東に話が行くというのにも同義だし、また芋の会などを開催して大量消費してくれればいいのだが。
「お。はいもしもし」
『もしもし。塩見だ』
「おはようございます。塩見さん、ど平日ですがお仕事は」
『休みだ。芋の件だが、俺の知り合いで欲しいっつってる人がいるから2ケースほど頼めるか』
「はい、ありがとうございます。どこまで持って行けばいいですか?」
『プチメゾンに頼む。千晴く……ベティさんに話は通してある』
「了解しました。では今晩にでも届けに行きますので」
『了解した』
「では失礼します。……ふーっ、何とか2ケースだな」
こうやって、少しずつ捌けさせないと大変なことになる。烏丸と綾瀬にも芋の侵入を許した連帯責任で2ケースずつくらいは持って行かせるとして、10ケースほどは何とかなりそうか。それでもまだまだ山の一角。
やはりこうなるとサークルなどの人脈がある川北に期待がかかる。奴には実績もある。連絡は済んでいるし、早急に何らかのアクションを起こしてくればこちらとしても助かるのだが。しかし、繁忙期直前に事務所を埋め尽くすなど、言語道断だ。
「林原さん、鳴ってますよ」
「何だ、忙しいな。はいもしもし」
『あっ、林原さーん! また芋が来ちゃったんですか!?』
「川北か。そうだ。連絡した通り、こちらは例によって芋に押し潰されて大変なことになっている」
『なる早で捌けるように連絡を回した方がいいですよねー……』
「そうだな。早い方が履修登録業務がスムーズに行くな」
『わかりました。俺が戻るのはもうちょっと後になりますけど、サークル関係の子にわーっと連絡を回してみまーす。何か動きがあったらお知らせするって感じでいいですかねー』
「ああ、頼む。お前だけが頼りだ」
『え、今回はどうして芋が来ちゃったんですか?』
「どうやら烏丸と綾瀬しかいなかった昨日の間にやられたらしい」
『あー、なるほど。……とりあえず、俺も当面の食料としてちょっともらっていきますんでー』
「わかった」
『では失礼しまーす』
何とか少しずつではあるが何とか出来そうな空気はあるが、何かこう、一気に大量に捌けさせることの出来る機会などはないものか。見ておけ、毎年長期間苦しみ続けるオレではないぞ。
end.
++++
毎年お馴染みの季節ですが、年度が変われば解決方法も多少は変わって来るようです。リン様も人脈を使うことを覚えたか
現行の情報センターでは、確かにダイチとカナコがガード緩めだけど、青山さんの犯行だとすれば計画的だったのかしら。それともたまたま? 謎は残ります
有馬のレンレンもセンターに馴染んで最初の頃のようなおどおど感は少なくなってきましたね。これからもっと出張って欲しい
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「は、林原さん大変です…!」
「どうした有馬」
「これを見てください」
「……芋だな」
今日も今日とてセンターのバイト、何事もなくやり過ごすはずだった。しかし、オレが事務所に出勤してみると、事務所前で有馬がおろおろとしているではないか。これを見ろと言われて目をやった先には、「北辰のじゃがいも」の壁が出来ていた。
確かに春山さんから青山さん宛に芋を送ったという予告はされていたが、オレがシフトに入っていた一昨日の時点ではこのような惨状にはなっていなかった。……となると、昨日いた奴が何らかの事情を知っていると見るべきか。
「とりあえず、事務所に入るぞ」
「は、はい、そうですね」
「えーと、昨日シフトに入っていたのは……」
「烏丸さんと綾瀬さんですね」
「はーっ……そうか」
よりにもよって想定し得る最悪の組み合わせだったかと。オレがいれば青山さん発と思われる芋の侵入など許さなかったし、今回は高山にもあの人から連絡があっても無視しろと指示していた。しかし、烏丸と綾瀬となれば話が変わってくる。
よくよく考えれば綾瀬も青山さんとの繋がりがあると言うか、そもそもアイツをここに連れてきたのも青山さんだ。オレとしたことがそのことをすっかり忘れていたし、烏丸も烏丸で芋の山にはきゃっきゃとはしゃぐ性質だ。
「わあ、すごくいいジャガイモですね」
「暢気なことを言っている場合か。ここに投棄された以上、青山さんはもうこれをどうこうするつもりはないのだろう」
「毎年こんな感じなんですか?」
「春山さんとかいう畜生がいた年はな。……今のうちに川北を押さえておくか」
大量の芋の山は、去年や前回は川北の人脈を使うことで何とかした。しかし今現在川北は帰省中で、すぐにどうこうしてもらうことも出来ない。しかし、お前の人脈でこれをどうにか出来んかという相談だけはしておこう。
オレもダメ元でUSDXのグループLINEに「大量の北辰産ジャガイモがある。1ケースから引き取り手を募集する」と流してみたものの、しばし後にスガノからは「同じ芋がこちらにもあります」と返信が来た。わかってはいたが、やはりか。
「お前が入所の面談を受けに来た時に、出身地が北辰と聞いてオレと川北が身構えたのはこの所為だ。理解してもらえれば幸いだ」
「……確かに、これだけの芋はスーパーなどのお店ならともかく、関係のない事務所や個人に押し寄せるとなると……もはや災害ですね」
「物がいいにはいいのだがな。加減という物を知らんのだ、あの人は」
「僕もこれをもらう権利がありますか?」
「持って行ってくれるなら助かるが」
「一人暮らしなので、当面の食料に出来ればなと。でも、これをどうやって運搬しましょう。人並みの力はありますが、重いですよね」
「持って帰るなら家までオレが車で運んでやろう」
「ありがとうございます、助かります」
運搬で思い出したが、宮ちゃんにも話してみるか。あの女ならまた大学祭のブース運営などで使ってもらえないだろうか。宮ちゃんに話が行くというのは伊東に話が行くというのにも同義だし、また芋の会などを開催して大量消費してくれればいいのだが。
「お。はいもしもし」
『もしもし。塩見だ』
「おはようございます。塩見さん、ど平日ですがお仕事は」
『休みだ。芋の件だが、俺の知り合いで欲しいっつってる人がいるから2ケースほど頼めるか』
「はい、ありがとうございます。どこまで持って行けばいいですか?」
『プチメゾンに頼む。千晴く……ベティさんに話は通してある』
「了解しました。では今晩にでも届けに行きますので」
『了解した』
「では失礼します。……ふーっ、何とか2ケースだな」
こうやって、少しずつ捌けさせないと大変なことになる。烏丸と綾瀬にも芋の侵入を許した連帯責任で2ケースずつくらいは持って行かせるとして、10ケースほどは何とかなりそうか。それでもまだまだ山の一角。
やはりこうなるとサークルなどの人脈がある川北に期待がかかる。奴には実績もある。連絡は済んでいるし、早急に何らかのアクションを起こしてくればこちらとしても助かるのだが。しかし、繁忙期直前に事務所を埋め尽くすなど、言語道断だ。
「林原さん、鳴ってますよ」
「何だ、忙しいな。はいもしもし」
『あっ、林原さーん! また芋が来ちゃったんですか!?』
「川北か。そうだ。連絡した通り、こちらは例によって芋に押し潰されて大変なことになっている」
『なる早で捌けるように連絡を回した方がいいですよねー……』
「そうだな。早い方が履修登録業務がスムーズに行くな」
『わかりました。俺が戻るのはもうちょっと後になりますけど、サークル関係の子にわーっと連絡を回してみまーす。何か動きがあったらお知らせするって感じでいいですかねー』
「ああ、頼む。お前だけが頼りだ」
『え、今回はどうして芋が来ちゃったんですか?』
「どうやら烏丸と綾瀬しかいなかった昨日の間にやられたらしい」
『あー、なるほど。……とりあえず、俺も当面の食料としてちょっともらっていきますんでー』
「わかった」
『では失礼しまーす』
何とか少しずつではあるが何とか出来そうな空気はあるが、何かこう、一気に大量に捌けさせることの出来る機会などはないものか。見ておけ、毎年長期間苦しみ続けるオレではないぞ。
end.
++++
毎年お馴染みの季節ですが、年度が変われば解決方法も多少は変わって来るようです。リン様も人脈を使うことを覚えたか
現行の情報センターでは、確かにダイチとカナコがガード緩めだけど、青山さんの犯行だとすれば計画的だったのかしら。それともたまたま? 謎は残ります
有馬のレンレンもセンターに馴染んで最初の頃のようなおどおど感は少なくなってきましたね。これからもっと出張って欲しい
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