2020(02)
■寸前の危機管理
++++
「おい! 高山はいるか!」
「高山さんだったらついさっき台車を持って下に降りて行きましたね」
「クソ、遅かったか! そもそも自習室はどうした!」
「人がいないので少しの間なら僕1人いれば大丈夫だろうと」
物騒な人から物騒な連絡が届き、恐れている事態が現実のものとなっていないか確認をする。情報センターの事務所は今のところ至って普通の状態で、何の箱に圧迫されているということはない。ただ、有馬の言うことが確かなら、早く高山を止めねば面倒なことになるだろう。
台車はコピー用紙などの備品類を運搬するためにあるのだが、そのような物は事務所前まで配送されることになっている。実質事務所と自習室の往復にだけ使う道具であって、それを持って階層移動をすることはほぼほぼないのだ。
「それより、どうしたんですか? 只事ではなさそうですけど」
「早く高山を止めねば只事どころの騒ぎでは済まん。電話でいいか」
通話を試みるものの、高山が応答する気配はない。やはり物理的に止めねばならんのか。ついさっきと言うのがどれくらいさっきのことなのかが問題になってくるが、有馬が言うにはほんの5分前とかその程度のことらしい。
「只事では済まないって、何が起こるんですか?」
「このままでは、事務所が芋の箱で埋もれるぞ…!」
「芋って。もしかして、こないだみたいなことですか?」
「北辰の芋の季節になった今、あんなものでは済まんぞ」
春山さんから届いたのは「例の季節になったしいつものヤツを和泉に送った」という物騒な文言だ。大量のジャガイモを情報センターに直接運び込むことをしなくなったのはいいのだが、芋の送付先である青山さんが、高山を使って大量の芋を情報センターに投棄するのだ。
もちろん、春山さんがいなくなってまで芋の処理に苦しむなど言語道断であるし、そもそも何十ケースもの芋を春山さんに送り付ける芋農園の親戚とやらが非常識極まりない。が、春山さんの関係筋に常識を求める方がおかしいので、被害を軽減させるには青山さんと高山のルートを塞がなければならんのだ。
「そういうことがあったんですね」
「情報センターは履修登録の期間とテスト期間の1週前ほどから繁忙期になるのだが、その時に事務所が芋で埋もれていると何かと不都合で敵わん。そもそも学内の学習支援教室の事務所にジャガイモのケースが大量に積まれているというのがあり得ん」
「一般的にはそうですよね」
「まったく。どうせ山のように送って来るなら芋でなく北辰土産にしろと何度言ったと思っている」
闇雲に高山を探しに歩いてこれ以上の擦れ違いを起こす方が事態を悪化させると判断。チャチな台車で運べる芋の量は精々5ケース程だろう。その程度であれば運び込まれても何とか出来る。まずは高山が帰って来るのを待つことに。
ちなみに、夏に送られて来た遠方の芋は例によって川北の人脈で何とかしたのだが、例年の経験から言うと秋は夏の比でない量だ。いくら川北の人脈でもすぐには捌き切れんだろう。青山さんのことだからスガノルートも既に塞いでいるだろう。
「あ。台車の音がしますね」
「戻って来たか」
「はー、疲れた。あ、林原さんお疲れさまです」
「高山、どこへ行っていた」
「先日コピー用紙を発注したのは良かったんですが、配送先が学生課の方になってたみたくて。学生課から問い合わせがあったので気付いて、引き取りに行ってきたところです」
「……そうか、それならいい。ところで高山、青山さんから連絡などは入っていないか」
「今のところまだですね。それが何か」
「いや、春山さんから縁起でもない文面で連絡が入ってな。もし青山さんから芋がどうこうと連絡があっても無視をしろ。いいな」
「わかりました。また大量の芋が来るんですね」
「そのようなことらしい」
今回はコピー用紙の配送先指定ミス程度のことで済んで良かったが、もしこれで本当に芋を運んでいたのならとんでもないことになっていただろう。春山さんのやることだ、毎年エスカレートさせて来るに違いない。例年通りの対策で済むとも思えない。
「ところで林原さん、もし高山さんが押されに押されて芋が押し寄せてきたらどうするんですか?」
「まず高山には青山さんを殺す勢いで止めてもらわねば困るのだが、仮に芋が押し寄せて来た場合には青山さんに返送するか、川北がいれば例によって奴の人脈で細々と捌くしかなかろう」
「夏も思いましたけどミドリは本当に芋を捌くのが上手かったですよね」
「アイツの帰省はいつまでだったか」
「連休頃じゃなかったかと」
「そうか」
何も起こらんに越したことはないが、そう簡単に行くはずもないだろう。最悪の事態を想定して対策を講じておかねばならんのだが、どちらにしても川北が戻って来んことには始まらん。ただ、春山さんも一応センターの事はわかっているはずだから、やるとしても繁忙期に重ねて来ることはないはずだ。
「ところで林原さん」
「どうした有馬」
「どうせ送って来るなら北辰のお土産って言ってましたけど、僕も何か日持ちのするお土産を買って来てた方が良かったんでしょうか」
「いや、お前は気にしなくていい」
end.
++++
リン様がちょっと冷や冷やしてる回。忘れられがちですが、蒼希にはドジっ子設定があります。今回はコピー用紙の配送先を間違えちゃったようです。
夏合宿が終わってミドリは帰省中。ミドリがいればインターフェイスルートでわーっと大量のジャガイモも捌けそうだけど、今年はどうかな?
春山さんのちょっとだけ良心的なところは、芋などの荷物を繁忙期に重ねてこないところですかね。一応閑散期を選んで運び込んでました。
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「おい! 高山はいるか!」
「高山さんだったらついさっき台車を持って下に降りて行きましたね」
「クソ、遅かったか! そもそも自習室はどうした!」
「人がいないので少しの間なら僕1人いれば大丈夫だろうと」
物騒な人から物騒な連絡が届き、恐れている事態が現実のものとなっていないか確認をする。情報センターの事務所は今のところ至って普通の状態で、何の箱に圧迫されているということはない。ただ、有馬の言うことが確かなら、早く高山を止めねば面倒なことになるだろう。
台車はコピー用紙などの備品類を運搬するためにあるのだが、そのような物は事務所前まで配送されることになっている。実質事務所と自習室の往復にだけ使う道具であって、それを持って階層移動をすることはほぼほぼないのだ。
「それより、どうしたんですか? 只事ではなさそうですけど」
「早く高山を止めねば只事どころの騒ぎでは済まん。電話でいいか」
通話を試みるものの、高山が応答する気配はない。やはり物理的に止めねばならんのか。ついさっきと言うのがどれくらいさっきのことなのかが問題になってくるが、有馬が言うにはほんの5分前とかその程度のことらしい。
「只事では済まないって、何が起こるんですか?」
「このままでは、事務所が芋の箱で埋もれるぞ…!」
「芋って。もしかして、こないだみたいなことですか?」
「北辰の芋の季節になった今、あんなものでは済まんぞ」
春山さんから届いたのは「例の季節になったしいつものヤツを和泉に送った」という物騒な文言だ。大量のジャガイモを情報センターに直接運び込むことをしなくなったのはいいのだが、芋の送付先である青山さんが、高山を使って大量の芋を情報センターに投棄するのだ。
もちろん、春山さんがいなくなってまで芋の処理に苦しむなど言語道断であるし、そもそも何十ケースもの芋を春山さんに送り付ける芋農園の親戚とやらが非常識極まりない。が、春山さんの関係筋に常識を求める方がおかしいので、被害を軽減させるには青山さんと高山のルートを塞がなければならんのだ。
「そういうことがあったんですね」
「情報センターは履修登録の期間とテスト期間の1週前ほどから繁忙期になるのだが、その時に事務所が芋で埋もれていると何かと不都合で敵わん。そもそも学内の学習支援教室の事務所にジャガイモのケースが大量に積まれているというのがあり得ん」
「一般的にはそうですよね」
「まったく。どうせ山のように送って来るなら芋でなく北辰土産にしろと何度言ったと思っている」
闇雲に高山を探しに歩いてこれ以上の擦れ違いを起こす方が事態を悪化させると判断。チャチな台車で運べる芋の量は精々5ケース程だろう。その程度であれば運び込まれても何とか出来る。まずは高山が帰って来るのを待つことに。
ちなみに、夏に送られて来た遠方の芋は例によって川北の人脈で何とかしたのだが、例年の経験から言うと秋は夏の比でない量だ。いくら川北の人脈でもすぐには捌き切れんだろう。青山さんのことだからスガノルートも既に塞いでいるだろう。
「あ。台車の音がしますね」
「戻って来たか」
「はー、疲れた。あ、林原さんお疲れさまです」
「高山、どこへ行っていた」
「先日コピー用紙を発注したのは良かったんですが、配送先が学生課の方になってたみたくて。学生課から問い合わせがあったので気付いて、引き取りに行ってきたところです」
「……そうか、それならいい。ところで高山、青山さんから連絡などは入っていないか」
「今のところまだですね。それが何か」
「いや、春山さんから縁起でもない文面で連絡が入ってな。もし青山さんから芋がどうこうと連絡があっても無視をしろ。いいな」
「わかりました。また大量の芋が来るんですね」
「そのようなことらしい」
今回はコピー用紙の配送先指定ミス程度のことで済んで良かったが、もしこれで本当に芋を運んでいたのならとんでもないことになっていただろう。春山さんのやることだ、毎年エスカレートさせて来るに違いない。例年通りの対策で済むとも思えない。
「ところで林原さん、もし高山さんが押されに押されて芋が押し寄せてきたらどうするんですか?」
「まず高山には青山さんを殺す勢いで止めてもらわねば困るのだが、仮に芋が押し寄せて来た場合には青山さんに返送するか、川北がいれば例によって奴の人脈で細々と捌くしかなかろう」
「夏も思いましたけどミドリは本当に芋を捌くのが上手かったですよね」
「アイツの帰省はいつまでだったか」
「連休頃じゃなかったかと」
「そうか」
何も起こらんに越したことはないが、そう簡単に行くはずもないだろう。最悪の事態を想定して対策を講じておかねばならんのだが、どちらにしても川北が戻って来んことには始まらん。ただ、春山さんも一応センターの事はわかっているはずだから、やるとしても繁忙期に重ねて来ることはないはずだ。
「ところで林原さん」
「どうした有馬」
「どうせ送って来るなら北辰のお土産って言ってましたけど、僕も何か日持ちのするお土産を買って来てた方が良かったんでしょうか」
「いや、お前は気にしなくていい」
end.
++++
リン様がちょっと冷や冷やしてる回。忘れられがちですが、蒼希にはドジっ子設定があります。今回はコピー用紙の配送先を間違えちゃったようです。
夏合宿が終わってミドリは帰省中。ミドリがいればインターフェイスルートでわーっと大量のジャガイモも捌けそうだけど、今年はどうかな?
春山さんのちょっとだけ良心的なところは、芋などの荷物を繁忙期に重ねてこないところですかね。一応閑散期を選んで運び込んでました。
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