2020(02)
■Happy, fun, but frustrated
++++
「やァー、例の季節スよ」
例の季節、というのはオープンキャンパスのこと。向島大学のオープンキャンパスは毎年9月の連休頃にあって、MMPはその日の学食で公開生放送をやらせてもらっている。ちなみに大学非公認の活動だ。今年も例によってやるそうなので、こうしてメンバーが招集されている。
「とりあえずカノンにはアナウンサーでやってもらう計算で行くと、アナが2人にミキが4人なンで、アナが1時間ずつ回しやしょーか、ミキは30分ずつで」
「えー、1時間とか長ない!? ボクそんな長い番組のつもりじゃなかってんけど!」
「頭数の都合スわ。問答無用ス」
「1時間!?」
「ね。カノンも1時間なんかやれんよね?」
「1時間もやらせてもらえるんすか!?」
「ほら見ろヒロ。カノンはお前と違ってやる気満々だぞ」
「若いって凄いわ」
「いや、お前のやる気のなさは別に学年関係ない。2年半見て来た俺が言うんだから間違いない」
「何やのノサカのクセに」
「さ、御託はいーンでクジやりヤすよ」
――というワケで毎度お馴染みペア決めのあみだクジを引いた結果、俺は無事にカノン(1)というところに当たった。ヒロじゃなくて本当に良かったと思う。ちなみにカノン(2)というところを引いたのはこーただ。こーたはミキサーが久し振りで上手く出来るやら、と不安がっている。
如何せんMMPは人数不足で昼放送を1期回すのにもメチャクチャ苦労していた。春学期はアナがヒロしかいなかったという都合上、こーたが急遽アナウンサーとして番組をやっていたということもある。秋はさすがにやりませんよとは律に念押ししたらしい。
「無事にペアっつーか班も決まったンで、別の業務連絡スわ」
「別の?」
「秋学期から、ウチで緑ヶ丘からの留学生を受け入れることになりヤした」
「留学生!? 土田さん、それはどういうことです?」
「緑ヶ丘は人数が多くて全員に昼放送をやってもらうことが出来ないそーなンす? で、同じく昼放送の枠を埋めたいウチとの利害が一致したって感じスね。それから、文化交流の意味もありヤすね」
「それで、誰が来るんですか?」
「すがやんっつー1年生のアナウンサーすね。Lによれば協調性のあるいい子らしーンで、イジメないように」
「おー! すがやん!」
「カノン、知り合いスか」
「夏合宿で一緒の班だったっす!」
「じゃ一安心スね。そーゆーコトで業務連絡は終わりなンで、オープンキャンパスの番組の打ち合わせに入ってくーださい」
この留学制度についての話はLと果林から相談を受けてて俺が律に通したんだけども、どうやら緑ヶ丘の方で本格的に話がまとまったようだ。確かに緑ヶ丘の1年6人だったら、ウチの空気にも馴染んでくれそうなのはすがやんかなと。次点でくるみとシノ。
オープンキャンパスの話し合いという体だけど、留学生の話ばかりをしていた。カノンとすがやんが合宿の期間中どういう話をしていたのかとか、すがやんを知らないこーたにどういう子なのかを伝えたりとか。
「へえ、MMPにはいない感じのいい子ですねえ。来てくれるのが楽しみですね。これで一応アナウンサー3人編成でやれそうですし」
「すがやんはウチの活動って言うか、こーた先輩がミキサーなのにアナとして番組やってるとか、そういう自由な活動の仕方にもすごい興味あるような感じだったんですよ」
「よかったなこーた、興味を持たれてるぞ」
「ええ……私など何の参考にもなりませんよ」
「でもこーた先輩、10人のパーソナリティーを見事に演じきったじゃないすか! あれは凄かったっすよ!」
「最後の方は本当にネタ切れだったんですからね!」
「……でも、正直俺としては悔しさもあります」
「悔しさ? どうしたカノン、俺でよかったら聞くけど」
カノンの抱く悔しさというのは、こーたの昼放送に対してなのか、留学生制度に対してなのか。だけども、何に対してどう思っているか聞いてあげることで、次に繋がって来るかもしれない。誰かが相談出来る位置にいてあげなければ。
「言葉は悪いんすけど、アナが足りないからってすがやんを借りて来てるワケじゃないすか」
「まあ、そうだな」
「例えばなんすけど、ヒロ先輩がやってない曜日を全部俺が埋めて帯番組に、みたいなこともやろうと思えば出来るワケじゃないすか」
「まあ、出来なくはないな。ただ、毎日の帯番組なんてのは、よっぽど1日5分10分の短い番組でもないと、やっぱ生の方が向いてるとは思う」
「うーん、やっぱ収録で毎日30分ってのはキツいすか?」
「やったことがないからわからない。ただ、4日分2時間の番組をいつ収録するのかっていう物理的な問題は出て来るよな」
「あー、そうすね。その辺のことを全然考えてなかったっす。そうか、収録する日の問題があった」
カノンが抱いていたのは、足りないアナウンサーを他校から借りて来る前に自分が全部埋められるくらいの気概があったなら、という悔しさだったようだ。自分の力不足を嘆くその気持ちは痛いほどわかる。だから、カノンには出来る限りいろいろなことを伝えて教えて行きたい。
菜月先輩が先日電話で仰った、思いついたことは大体やれる土壌。カノンがきちんと成長すれば、それが自ずといい風に働いてくるはずだ。帯番組をやるなんて発想、今まで誰も言ってこなかったんだ。これからも、やるやらないはともかく思いついたことをどんどん発して欲しい。
「でも、自分でやってやるっていう心意気自体はいいと思う。これからもその調子で頑張ってくれ」
「まずはこの1時間からっすね! 先輩たちお願いします!」
end.
++++
毎年恒例、向島のオープンキャンパスの時期になりました。アナウンサーの人数が少なくても枠は2時間を維持するようです。
そして留学生の話もチラリと。この短い間でLはすがやんに話をしてたのね。その辺のことは来年度以降に見れるかな。
アナミキ二刀流にしてもそうだけど、カノンの発想はなかなかこれまでの常識からは外れてるけど、それを否定しないMMPであってほしい
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「やァー、例の季節スよ」
例の季節、というのはオープンキャンパスのこと。向島大学のオープンキャンパスは毎年9月の連休頃にあって、MMPはその日の学食で公開生放送をやらせてもらっている。ちなみに大学非公認の活動だ。今年も例によってやるそうなので、こうしてメンバーが招集されている。
「とりあえずカノンにはアナウンサーでやってもらう計算で行くと、アナが2人にミキが4人なンで、アナが1時間ずつ回しやしょーか、ミキは30分ずつで」
「えー、1時間とか長ない!? ボクそんな長い番組のつもりじゃなかってんけど!」
「頭数の都合スわ。問答無用ス」
「1時間!?」
「ね。カノンも1時間なんかやれんよね?」
「1時間もやらせてもらえるんすか!?」
「ほら見ろヒロ。カノンはお前と違ってやる気満々だぞ」
「若いって凄いわ」
「いや、お前のやる気のなさは別に学年関係ない。2年半見て来た俺が言うんだから間違いない」
「何やのノサカのクセに」
「さ、御託はいーンでクジやりヤすよ」
――というワケで毎度お馴染みペア決めのあみだクジを引いた結果、俺は無事にカノン(1)というところに当たった。ヒロじゃなくて本当に良かったと思う。ちなみにカノン(2)というところを引いたのはこーただ。こーたはミキサーが久し振りで上手く出来るやら、と不安がっている。
如何せんMMPは人数不足で昼放送を1期回すのにもメチャクチャ苦労していた。春学期はアナがヒロしかいなかったという都合上、こーたが急遽アナウンサーとして番組をやっていたということもある。秋はさすがにやりませんよとは律に念押ししたらしい。
「無事にペアっつーか班も決まったンで、別の業務連絡スわ」
「別の?」
「秋学期から、ウチで緑ヶ丘からの留学生を受け入れることになりヤした」
「留学生!? 土田さん、それはどういうことです?」
「緑ヶ丘は人数が多くて全員に昼放送をやってもらうことが出来ないそーなンす? で、同じく昼放送の枠を埋めたいウチとの利害が一致したって感じスね。それから、文化交流の意味もありヤすね」
「それで、誰が来るんですか?」
「すがやんっつー1年生のアナウンサーすね。Lによれば協調性のあるいい子らしーンで、イジメないように」
「おー! すがやん!」
「カノン、知り合いスか」
「夏合宿で一緒の班だったっす!」
「じゃ一安心スね。そーゆーコトで業務連絡は終わりなンで、オープンキャンパスの番組の打ち合わせに入ってくーださい」
この留学制度についての話はLと果林から相談を受けてて俺が律に通したんだけども、どうやら緑ヶ丘の方で本格的に話がまとまったようだ。確かに緑ヶ丘の1年6人だったら、ウチの空気にも馴染んでくれそうなのはすがやんかなと。次点でくるみとシノ。
オープンキャンパスの話し合いという体だけど、留学生の話ばかりをしていた。カノンとすがやんが合宿の期間中どういう話をしていたのかとか、すがやんを知らないこーたにどういう子なのかを伝えたりとか。
「へえ、MMPにはいない感じのいい子ですねえ。来てくれるのが楽しみですね。これで一応アナウンサー3人編成でやれそうですし」
「すがやんはウチの活動って言うか、こーた先輩がミキサーなのにアナとして番組やってるとか、そういう自由な活動の仕方にもすごい興味あるような感じだったんですよ」
「よかったなこーた、興味を持たれてるぞ」
「ええ……私など何の参考にもなりませんよ」
「でもこーた先輩、10人のパーソナリティーを見事に演じきったじゃないすか! あれは凄かったっすよ!」
「最後の方は本当にネタ切れだったんですからね!」
「……でも、正直俺としては悔しさもあります」
「悔しさ? どうしたカノン、俺でよかったら聞くけど」
カノンの抱く悔しさというのは、こーたの昼放送に対してなのか、留学生制度に対してなのか。だけども、何に対してどう思っているか聞いてあげることで、次に繋がって来るかもしれない。誰かが相談出来る位置にいてあげなければ。
「言葉は悪いんすけど、アナが足りないからってすがやんを借りて来てるワケじゃないすか」
「まあ、そうだな」
「例えばなんすけど、ヒロ先輩がやってない曜日を全部俺が埋めて帯番組に、みたいなこともやろうと思えば出来るワケじゃないすか」
「まあ、出来なくはないな。ただ、毎日の帯番組なんてのは、よっぽど1日5分10分の短い番組でもないと、やっぱ生の方が向いてるとは思う」
「うーん、やっぱ収録で毎日30分ってのはキツいすか?」
「やったことがないからわからない。ただ、4日分2時間の番組をいつ収録するのかっていう物理的な問題は出て来るよな」
「あー、そうすね。その辺のことを全然考えてなかったっす。そうか、収録する日の問題があった」
カノンが抱いていたのは、足りないアナウンサーを他校から借りて来る前に自分が全部埋められるくらいの気概があったなら、という悔しさだったようだ。自分の力不足を嘆くその気持ちは痛いほどわかる。だから、カノンには出来る限りいろいろなことを伝えて教えて行きたい。
菜月先輩が先日電話で仰った、思いついたことは大体やれる土壌。カノンがきちんと成長すれば、それが自ずといい風に働いてくるはずだ。帯番組をやるなんて発想、今まで誰も言ってこなかったんだ。これからも、やるやらないはともかく思いついたことをどんどん発して欲しい。
「でも、自分でやってやるっていう心意気自体はいいと思う。これからもその調子で頑張ってくれ」
「まずはこの1時間からっすね! 先輩たちお願いします!」
end.
++++
毎年恒例、向島のオープンキャンパスの時期になりました。アナウンサーの人数が少なくても枠は2時間を維持するようです。
そして留学生の話もチラリと。この短い間でLはすがやんに話をしてたのね。その辺のことは来年度以降に見れるかな。
アナミキ二刀流にしてもそうだけど、カノンの発想はなかなかこれまでの常識からは外れてるけど、それを否定しないMMPであってほしい
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