2020(02)
■偏差値の項目
++++
「1人じゃ秋学期の履修考えられないから付き合え」とシノから大学に呼び出され、パソコン自習室に入る。今はまだ夏休みで、本格的な履修登録の期間でもないからか、自習室の利用者は俺たち以外にいないような感じで隣り合って座る。
学内システムのエムシスにログインして、シラバスを開く。紙のシラバスも希望すればもらえるらしいけど、角で殴られたら死にかねない分厚さのそれを持ち帰る気にはなれず、WEBシラバスを選んでいる。検索条件を絞ってどんな講義があるのかを抽出してからが本番。
「って言うかシノ、春学期の成績はどうだったんだ?」
「あ、見てないわ。いつ発表されてた?」
「合宿の前の週」
「えっ、そんな早かったんか。全然知らないし見てもない。今見ようかな。どこから見るの?」
「ここ」
「ん」
シノがカチッカチッとたどたどしく成績開示ページに飛ぶリンクをクリックしていくと、春学期の成績がパッと表示される。つい俺も普通に見てたけど、見るなとも言われてないからまあいいか。そう言えば佐藤先生の講義は何判定だったんだろう。
「あ~、BとCメインって感じかな~」
「佐藤先生は? マスコミ論」
「あ~、え~っと?」
「……シノ?」
ディスプレイには、マスコミ論の成績がSだと表示されている。パソコン自習室だから黙っているとかではなく、思ったよりもいい成績だったから放心状態になってしまったらしかった。何かちょっと前にも見たぞこんなの。そうだ、夏合宿のミキサーテストだ。
俺がひらひらとシノの目の前で手をかざすと「はっ」という声と共に現実に戻って来たようだけど、まだ実感が湧かないらしい。BとかCメインの成績の中燦然と輝くSの文字。ちなみに比較的Sが取りやすいと言われる体育とかも出席の関係でAだったから、シノ唯一のS評価になる。
「ササ、俺これ頑張ったって言っていいよな?」
「うん、お前は頑張った」
「これで佐藤ゼミに入れる可能性ちょっと上がったかな?」
「トータルの成績はともかく、Sが1個あることで上がってると思う」
「トータルとか言うなよ」
「いやでもゼミの選考ではトータルの成績を見られるし、トータルの成績は大事だろ」
「つかお前はどうだったんだよ成績」
「まあ、それはそこそこの成績を取らせていただいて」
「だよな! ちくしょう!」
俺の成績はAとSがベースになっていて、ゼミの選考という意味ではまあ大丈夫だろうとは思っている。ただ、俺の課題は趣味が物凄く普通で面白みがないということと、MBCCはMBCCでもミキサーではなくアナウンサーであるということだ。
シノとは大学入学直後からずっと「一緒に佐藤ゼミに入ってあのラジオブースで番組をやりたいな」と話している。2人で佐藤ゼミに入るのが第一。シノが本人比でとは言え勉強も頑張ってるところを見ると、案外俺の方が危ないんじゃないかと思わずにはいられない。ちょっと焦って来た。
「はーっ……俺、佐藤ゼミに入れるか心配になってきた」
「いや、お前が心配するとか俺に対する嫌味かよ」
「俺は真面目に心配してんだぞ。サブカルに精通してるワケでもないし、趣味はただの読書だろ。MBCCはMBCCでもアナウンサーだから合格特約があるワケでもない。シノは確かに学業面ではちょっと不安かもだけど、逆に言えばそれ以外は全然心配しなくていいだろ。モータースポーツが好きっていう趣味の特色もあるし、MBCCのミキサーだし。それで勉強まで頑張り始めたとなると落ちる要素が見当たらない」
「ササ、顔で売ってけ!?」
「顔? それは、顔の広さとかそういう意味で?」
「まあ、先輩たちを利用するって言ったら言い方は悪いけど、それもありつつ、使うのはお前の顔面だ!」
「顔面」
シノの言っていることの意味が全く分からなかった。佐藤ゼミ生である果林先輩と高木先輩にお願いして俺を売り込んでもらうという意味かと思ったら、俺自身の顔面で売れと言われても。どこにでもいるようなごく普通の顔をした俺の何をどう売れと言うのか。
「この俺が独自に仕入れた情報によると、ヒゲさんは男女問わず顔のいい奴が好きなんだと。目の保養のためとして毎年何人かそういう美男美女枠があるとかないとか」
「何だそれ……そんなことがあっていいのか……」
「まあ、大学教授なんて変人だし、佐藤ゼミならむしろアリなんじゃね? で、お前が狙うべきはイケメン枠だ。お前のその端正な顔を使えばヒゲさんもオチる!」
「それはそれで何か複雑だなー……俺の顔で落ちるか?」
「彩人が「リクの顔が良過ぎて打ち合わせで直視できなかった」って言ってたぞ。イケメンはイケメンを知るって言うじゃんか。彩人が言うならお前はイケメンだ」
いや、つかシノお前いつの間に彩人とそういう話をしてるんだ。いやまあ彩人に褒められたのは嬉しいけどだな。……じゃなくて。
「使える物は使えっつーのがMBCCイズムだぞ! サキ曰く!」
「え、サキ?」
「書記ノートの学祭のページに書いてたって」
「あ、食品チームはもう準備してんだな」
「いや、現段階ではまだサキが情報収集してるだけらしい。じゃなくて! 面談に行くまでにお前はヒゲさんも唸る社会学的な視点を身に着けりゃ、顔と頭脳の合わせ技で最初の難関をパス出来んだよ」
テストの時は俺がシノを応援してたのに、今じゃすっかり立場が逆転して俺がシノに励まされている。だけど、根拠はどうあれシノから励まされると「そうなのかもしれない」って思って頑張れそうな気がする。そうだ。一緒にゼミに入るって言ってるのに、俺がこんなに弱気でどうする。
「そういうことだから、秋学期もよろしく」
「あれだけ強気なこと言っといて、俺に頼る気マンマンかよ」
「お前に助けてもらわなきゃテスト前とかしんどいし」
「仕方ないな。で、本題は履修登録な」
end.
++++
緑大では成績が発表されていたらしいですが、そこをピンポイントで目掛けてチェックしに行くキャラが果たして何人いるかという話で。
どうやら得意なことにはそれなりに結果も出せるらしいシノですが、そうでもないことには残念だからこそタカちゃんと似たタイプって感じで
顔を売って行くとかそんな情報先輩たち……と言ってもタカちゃんじゃなくて果林じゃないとなかなか言えないんじゃないかしら。
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「1人じゃ秋学期の履修考えられないから付き合え」とシノから大学に呼び出され、パソコン自習室に入る。今はまだ夏休みで、本格的な履修登録の期間でもないからか、自習室の利用者は俺たち以外にいないような感じで隣り合って座る。
学内システムのエムシスにログインして、シラバスを開く。紙のシラバスも希望すればもらえるらしいけど、角で殴られたら死にかねない分厚さのそれを持ち帰る気にはなれず、WEBシラバスを選んでいる。検索条件を絞ってどんな講義があるのかを抽出してからが本番。
「って言うかシノ、春学期の成績はどうだったんだ?」
「あ、見てないわ。いつ発表されてた?」
「合宿の前の週」
「えっ、そんな早かったんか。全然知らないし見てもない。今見ようかな。どこから見るの?」
「ここ」
「ん」
シノがカチッカチッとたどたどしく成績開示ページに飛ぶリンクをクリックしていくと、春学期の成績がパッと表示される。つい俺も普通に見てたけど、見るなとも言われてないからまあいいか。そう言えば佐藤先生の講義は何判定だったんだろう。
「あ~、BとCメインって感じかな~」
「佐藤先生は? マスコミ論」
「あ~、え~っと?」
「……シノ?」
ディスプレイには、マスコミ論の成績がSだと表示されている。パソコン自習室だから黙っているとかではなく、思ったよりもいい成績だったから放心状態になってしまったらしかった。何かちょっと前にも見たぞこんなの。そうだ、夏合宿のミキサーテストだ。
俺がひらひらとシノの目の前で手をかざすと「はっ」という声と共に現実に戻って来たようだけど、まだ実感が湧かないらしい。BとかCメインの成績の中燦然と輝くSの文字。ちなみに比較的Sが取りやすいと言われる体育とかも出席の関係でAだったから、シノ唯一のS評価になる。
「ササ、俺これ頑張ったって言っていいよな?」
「うん、お前は頑張った」
「これで佐藤ゼミに入れる可能性ちょっと上がったかな?」
「トータルの成績はともかく、Sが1個あることで上がってると思う」
「トータルとか言うなよ」
「いやでもゼミの選考ではトータルの成績を見られるし、トータルの成績は大事だろ」
「つかお前はどうだったんだよ成績」
「まあ、それはそこそこの成績を取らせていただいて」
「だよな! ちくしょう!」
俺の成績はAとSがベースになっていて、ゼミの選考という意味ではまあ大丈夫だろうとは思っている。ただ、俺の課題は趣味が物凄く普通で面白みがないということと、MBCCはMBCCでもミキサーではなくアナウンサーであるということだ。
シノとは大学入学直後からずっと「一緒に佐藤ゼミに入ってあのラジオブースで番組をやりたいな」と話している。2人で佐藤ゼミに入るのが第一。シノが本人比でとは言え勉強も頑張ってるところを見ると、案外俺の方が危ないんじゃないかと思わずにはいられない。ちょっと焦って来た。
「はーっ……俺、佐藤ゼミに入れるか心配になってきた」
「いや、お前が心配するとか俺に対する嫌味かよ」
「俺は真面目に心配してんだぞ。サブカルに精通してるワケでもないし、趣味はただの読書だろ。MBCCはMBCCでもアナウンサーだから合格特約があるワケでもない。シノは確かに学業面ではちょっと不安かもだけど、逆に言えばそれ以外は全然心配しなくていいだろ。モータースポーツが好きっていう趣味の特色もあるし、MBCCのミキサーだし。それで勉強まで頑張り始めたとなると落ちる要素が見当たらない」
「ササ、顔で売ってけ!?」
「顔? それは、顔の広さとかそういう意味で?」
「まあ、先輩たちを利用するって言ったら言い方は悪いけど、それもありつつ、使うのはお前の顔面だ!」
「顔面」
シノの言っていることの意味が全く分からなかった。佐藤ゼミ生である果林先輩と高木先輩にお願いして俺を売り込んでもらうという意味かと思ったら、俺自身の顔面で売れと言われても。どこにでもいるようなごく普通の顔をした俺の何をどう売れと言うのか。
「この俺が独自に仕入れた情報によると、ヒゲさんは男女問わず顔のいい奴が好きなんだと。目の保養のためとして毎年何人かそういう美男美女枠があるとかないとか」
「何だそれ……そんなことがあっていいのか……」
「まあ、大学教授なんて変人だし、佐藤ゼミならむしろアリなんじゃね? で、お前が狙うべきはイケメン枠だ。お前のその端正な顔を使えばヒゲさんもオチる!」
「それはそれで何か複雑だなー……俺の顔で落ちるか?」
「彩人が「リクの顔が良過ぎて打ち合わせで直視できなかった」って言ってたぞ。イケメンはイケメンを知るって言うじゃんか。彩人が言うならお前はイケメンだ」
いや、つかシノお前いつの間に彩人とそういう話をしてるんだ。いやまあ彩人に褒められたのは嬉しいけどだな。……じゃなくて。
「使える物は使えっつーのがMBCCイズムだぞ! サキ曰く!」
「え、サキ?」
「書記ノートの学祭のページに書いてたって」
「あ、食品チームはもう準備してんだな」
「いや、現段階ではまだサキが情報収集してるだけらしい。じゃなくて! 面談に行くまでにお前はヒゲさんも唸る社会学的な視点を身に着けりゃ、顔と頭脳の合わせ技で最初の難関をパス出来んだよ」
テストの時は俺がシノを応援してたのに、今じゃすっかり立場が逆転して俺がシノに励まされている。だけど、根拠はどうあれシノから励まされると「そうなのかもしれない」って思って頑張れそうな気がする。そうだ。一緒にゼミに入るって言ってるのに、俺がこんなに弱気でどうする。
「そういうことだから、秋学期もよろしく」
「あれだけ強気なこと言っといて、俺に頼る気マンマンかよ」
「お前に助けてもらわなきゃテスト前とかしんどいし」
「仕方ないな。で、本題は履修登録な」
end.
++++
緑大では成績が発表されていたらしいですが、そこをピンポイントで目掛けてチェックしに行くキャラが果たして何人いるかという話で。
どうやら得意なことにはそれなりに結果も出せるらしいシノですが、そうでもないことには残念だからこそタカちゃんと似たタイプって感じで
顔を売って行くとかそんな情報先輩たち……と言ってもタカちゃんじゃなくて果林じゃないとなかなか言えないんじゃないかしら。
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