2020(02)
■あの子は元気印
++++
2泊3日にわたるインターフェイス夏合宿が終わり、会場の青年の家から行きと同じ中型タクシーに押し込められながら帰る。俺は雨竜や北星といった同じ青敬の仲間と固まって乗車して、車内では合宿は思った以上に楽しかったなと話していた。
だけども駅についてタクシーから降りるなり、電車が発車してしまった。この暑い中待つのかよーとか、なんだよーと3人で……主に俺と雨竜が文句を垂れながらホームに立つ。しばらくはダラダラと駄弁りながら次の電車を待つことになるのだろう。
「……あれ。くるちゃん」
「あ、ホントだ」
ベンチに腰掛けているのは、緑ヶ丘のくるちゃん。彼女は北星と同じ班で、結構仲良くしていたように思う。彼女の姿を見つけるなり雨竜は北星に話しかけに行けだの何だのと冷やかしている。だけど北星を見ると、彼女の様子が普通じゃないように映っているようだ。
「なら逆に話しかけに行けよ。元気ないけどどーした的な感じでさ」
「う~ん。でも、そっとしておいて欲しい時って、あると思うよ~」
「北星の言うこともわかるけど、くるちゃんて元気印みたいな子じゃん。その子が人前でああなってるって結構しんどいんじゃないか? ホームに飛び込まなきゃいいけど」
「え~!? 当麻~! やめてよ~!」
「ちょっ、当麻お前、言っていい冗談とダメな冗談があるぞ!」
「ごめん、つい。でもただ疲れてるって感じでもなさそうだし」
「……俺~、ちょっと話して来る」
そう言って北星はくるちゃんの側に歩み寄り、ベンチに腰掛ける。やっぱり、同じ班だっただけあって話しかけに行くのも不自然ではないし、何なら北星らしからぬスムーズさだ。くるちゃんと特別親しいワケではない俺と雨竜も大丈夫かなあと北星の応援をする始末。……だけど、突如北星が立ち上がり、慌てた様子でこっちに走って来る。
「あれっ、北星お前、くるちゃんはいいのか!?」
「ごめ~ん、急にトイレ行きたくなっちゃって~! 2人で繋いどいて~!」
「はあ!?」
何か、そういうところでいまいちカッコつかないところが北星らしいと言うか。まあ、急に放置されてもアレだし、俺たちもくるちゃんの側に寄る。
「くるちゃん、お疲れ」
「お疲れーす」
「あっ、当麻と」
「雨竜ね」
「そうだ、雨竜だ! ごめんね、当麻はミキサー講習で一緒だったから知ってたんだけど」
「いーっていーって。俺も合宿にいた人全員覚えたワケじゃないし。つか北星なー。話の途中でトイレとか空気読めっていうな!」
「でも、合宿の途中だとなかなかタイミングつかめないし、しょうがないよ」
こうして話している分には、ちょっと落ち着いてはいるけどごくごく普通という感じだ。ほっとくとホームに飛び込みそうな影は何だったんだ。聞いてみるか。
「くるちゃん、さっきちょっと元気なかったみたいだけど」
「うん、ちょっと。あの子に言われたことを考えててさ」
「あー、向島の。萌香だっけ。気にしなくていいのに」
「でも、実際あたし、みんなと仲良くなりたくて後先考えずに話しかけに行く方だから、もうちょっと考えて動いた方がいいのかなーとか」
「確かに、こういう場ではいろんな人がいるから一旦様子見はした方がいいかもね。でも、あの時も別に変な話し方でもなかったと思うけど」
「そうやって同じ班の人とかMBCCの人とかがフォローしてくれたけど、やっぱりちょっと。考えちゃうよね」
合宿2日目のミキサー講習で、くるちゃんは向島の萌香という子に話しかけた結果「アンタみたいな女が一番嫌い」と言われていた。その後萌香と、萌香の態度に切れた星ヶ丘のみちるの乱闘に発展して一悶着あったんだ。
「北星は? 何か言ってた?」
「うん。あたしと友達になれて良かった、これからも仲良くしてねって。北星にはあたしが結構グイグイ行ってたし、元々が大人しそうだからウザがられてても仕方ないかなって。本当だったら嬉しいけど、どこかでこう……ね」
「くるちゃん、北星の気持ちを信じてやって」
「そーそー。アイツが人に対してそんだけ言えるとか、相当ガチだ」
「そうなの?」
「アイツはホント動画制作にしか興味なくて、たまたま俺らは友達として気に入られたっぽいからインターフェイスの活動にも一緒に出てるんだけどさ。でも基本他人とかどうでもいいって奴なんだよ。でも、くるちゃんと友達になってからのアイツは人の気持ちを考えることをするようにもなったし、ブログのスイーツ動画に刺激されて動画制作にも今までより熱が入ってるんだ」
「俺らがどんだけ撮影で残ったコンビニスイーツ食わされたか」
「くるちゃんのおかげで北星は一皮むけたって言うか」
「くるちゃんといるときの北星を見てるのは俺らも楽しい」
「あの子とは合わなかったかもしれないけど、少なくとも北星にはハマってるから。これからもアイツと仲良くしてあげて」
「そーそー。アイツ、お世辞とかフォローが出来るほど器用じゃねーからさ。本音しか言えねーんだよ」
そんなことを話していると、スッキリした様子の北星がただいま~と帰って来た。そして、間もなく次の電車が参りますというアナウンス。立ち上がったくるちゃんが元気印の笑顔で北星を迎えると、案の定奴は挙動不審になる。それを眺めるのが面白く感じる俺と雨竜は等しく性格が悪い。
「そうだ。くるちゃんこの後時間ある?」
「うん、大丈夫だよー」
「良かったら俺らと何か食べに行かない? お昼時だし」
「いいね! 行こう行こう! 北星、何食べたい?」
「え~!? きゅ、急に言われても、困るな~。俺は、くるちゃんの好きな物がいいな~」
「だってよ当麻。言い出しっぺが店調べんだぞ」
end.
++++
萌香との悶着後、くるちゃんはみんなにフォローされながらもいろいろ考えていたようです。反省なのか、後悔なのか。
くるちゃんは北星の大事な友達なので、当麻と雨竜にとっても気になる子だし、くるちゃんが元気ないと自分たちもしょんぼりしちゃう。
当麻がこないだから何かちょこちょこそれとな~くグレーなことをかまして来るなあと気付きました。今後はそういう方向性か?
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2泊3日にわたるインターフェイス夏合宿が終わり、会場の青年の家から行きと同じ中型タクシーに押し込められながら帰る。俺は雨竜や北星といった同じ青敬の仲間と固まって乗車して、車内では合宿は思った以上に楽しかったなと話していた。
だけども駅についてタクシーから降りるなり、電車が発車してしまった。この暑い中待つのかよーとか、なんだよーと3人で……主に俺と雨竜が文句を垂れながらホームに立つ。しばらくはダラダラと駄弁りながら次の電車を待つことになるのだろう。
「……あれ。くるちゃん」
「あ、ホントだ」
ベンチに腰掛けているのは、緑ヶ丘のくるちゃん。彼女は北星と同じ班で、結構仲良くしていたように思う。彼女の姿を見つけるなり雨竜は北星に話しかけに行けだの何だのと冷やかしている。だけど北星を見ると、彼女の様子が普通じゃないように映っているようだ。
「なら逆に話しかけに行けよ。元気ないけどどーした的な感じでさ」
「う~ん。でも、そっとしておいて欲しい時って、あると思うよ~」
「北星の言うこともわかるけど、くるちゃんて元気印みたいな子じゃん。その子が人前でああなってるって結構しんどいんじゃないか? ホームに飛び込まなきゃいいけど」
「え~!? 当麻~! やめてよ~!」
「ちょっ、当麻お前、言っていい冗談とダメな冗談があるぞ!」
「ごめん、つい。でもただ疲れてるって感じでもなさそうだし」
「……俺~、ちょっと話して来る」
そう言って北星はくるちゃんの側に歩み寄り、ベンチに腰掛ける。やっぱり、同じ班だっただけあって話しかけに行くのも不自然ではないし、何なら北星らしからぬスムーズさだ。くるちゃんと特別親しいワケではない俺と雨竜も大丈夫かなあと北星の応援をする始末。……だけど、突如北星が立ち上がり、慌てた様子でこっちに走って来る。
「あれっ、北星お前、くるちゃんはいいのか!?」
「ごめ~ん、急にトイレ行きたくなっちゃって~! 2人で繋いどいて~!」
「はあ!?」
何か、そういうところでいまいちカッコつかないところが北星らしいと言うか。まあ、急に放置されてもアレだし、俺たちもくるちゃんの側に寄る。
「くるちゃん、お疲れ」
「お疲れーす」
「あっ、当麻と」
「雨竜ね」
「そうだ、雨竜だ! ごめんね、当麻はミキサー講習で一緒だったから知ってたんだけど」
「いーっていーって。俺も合宿にいた人全員覚えたワケじゃないし。つか北星なー。話の途中でトイレとか空気読めっていうな!」
「でも、合宿の途中だとなかなかタイミングつかめないし、しょうがないよ」
こうして話している分には、ちょっと落ち着いてはいるけどごくごく普通という感じだ。ほっとくとホームに飛び込みそうな影は何だったんだ。聞いてみるか。
「くるちゃん、さっきちょっと元気なかったみたいだけど」
「うん、ちょっと。あの子に言われたことを考えててさ」
「あー、向島の。萌香だっけ。気にしなくていいのに」
「でも、実際あたし、みんなと仲良くなりたくて後先考えずに話しかけに行く方だから、もうちょっと考えて動いた方がいいのかなーとか」
「確かに、こういう場ではいろんな人がいるから一旦様子見はした方がいいかもね。でも、あの時も別に変な話し方でもなかったと思うけど」
「そうやって同じ班の人とかMBCCの人とかがフォローしてくれたけど、やっぱりちょっと。考えちゃうよね」
合宿2日目のミキサー講習で、くるちゃんは向島の萌香という子に話しかけた結果「アンタみたいな女が一番嫌い」と言われていた。その後萌香と、萌香の態度に切れた星ヶ丘のみちるの乱闘に発展して一悶着あったんだ。
「北星は? 何か言ってた?」
「うん。あたしと友達になれて良かった、これからも仲良くしてねって。北星にはあたしが結構グイグイ行ってたし、元々が大人しそうだからウザがられてても仕方ないかなって。本当だったら嬉しいけど、どこかでこう……ね」
「くるちゃん、北星の気持ちを信じてやって」
「そーそー。アイツが人に対してそんだけ言えるとか、相当ガチだ」
「そうなの?」
「アイツはホント動画制作にしか興味なくて、たまたま俺らは友達として気に入られたっぽいからインターフェイスの活動にも一緒に出てるんだけどさ。でも基本他人とかどうでもいいって奴なんだよ。でも、くるちゃんと友達になってからのアイツは人の気持ちを考えることをするようにもなったし、ブログのスイーツ動画に刺激されて動画制作にも今までより熱が入ってるんだ」
「俺らがどんだけ撮影で残ったコンビニスイーツ食わされたか」
「くるちゃんのおかげで北星は一皮むけたって言うか」
「くるちゃんといるときの北星を見てるのは俺らも楽しい」
「あの子とは合わなかったかもしれないけど、少なくとも北星にはハマってるから。これからもアイツと仲良くしてあげて」
「そーそー。アイツ、お世辞とかフォローが出来るほど器用じゃねーからさ。本音しか言えねーんだよ」
そんなことを話していると、スッキリした様子の北星がただいま~と帰って来た。そして、間もなく次の電車が参りますというアナウンス。立ち上がったくるちゃんが元気印の笑顔で北星を迎えると、案の定奴は挙動不審になる。それを眺めるのが面白く感じる俺と雨竜は等しく性格が悪い。
「そうだ。くるちゃんこの後時間ある?」
「うん、大丈夫だよー」
「良かったら俺らと何か食べに行かない? お昼時だし」
「いいね! 行こう行こう! 北星、何食べたい?」
「え~!? きゅ、急に言われても、困るな~。俺は、くるちゃんの好きな物がいいな~」
「だってよ当麻。言い出しっぺが店調べんだぞ」
end.
++++
萌香との悶着後、くるちゃんはみんなにフォローされながらもいろいろ考えていたようです。反省なのか、後悔なのか。
くるちゃんは北星の大事な友達なので、当麻と雨竜にとっても気になる子だし、くるちゃんが元気ないと自分たちもしょんぼりしちゃう。
当麻がこないだから何かちょこちょこそれとな~くグレーなことをかまして来るなあと気付きました。今後はそういう方向性か?
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