2020(02)

■まさかのリザルト

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「はーいそれじゃあミキサー陣はお待ちどおさまでした。昨日やったミキサーテストの結果を発表するよー」

 水沢さんがこう切り出した瞬間、ワッと沸くのはミキサー陣だ。昨日の昼講習の時間に行われたミキサーのペーパーテストの採点が終了し、2日目の昼食の時間で結果を発表するという流れは去年と同じ。だけど去年との大きな違いはこの発表で受けるプレッシャーだ。

「あ~、緊張してきた」
「高木先輩でも緊張するんですね」
「俺を何だと思ってるのササ。緊張くらいするよ。だって伊東先輩直々に95点以上取って1位通過しろって言われてるんだよ?」

 ――という事情で、それが出来なかったらどうしようという重圧と戦いながらの受験だったんだ。ちなみに、去年の合宿では伊東先輩も城戸先輩直々に同じことを言われていたそうだから、緑ヶ丘のミキサーは通る道かと思ったけどL先輩が何気に回避したんじゃないかな。率直にズルい。
 班ごとに囲んだテーブルでは、どこの班でもミキサーがそわそわしている。それは俺たちも例外じゃなくて、結果発表って言われた瞬間、雑談をしていた俺と彩人、それから当麻の声が止まったもんね。特に彩人と当麻は普段からラジオ番組を作るためにミキサーを触るワケじゃないからさらに不安らしい。

「今回のテストは、初心者講習会でやったことのレジュメから出題されました。パソコンの扱いは試験範囲外です。合格ラインは1年生が55点、緑ヶ丘の1年生は65点、2年生が75点です」
「ササ、アイス持って来て」
「この空気の中で席を立つんですか?」
「アナだから出来る」
「わかりました。何味にしますか」
「チョコ」
「リク、俺もアイス欲しい。レモンシャーベットで」
「ゴメンササ、俺も欲しい。俺はイチゴで」

 ミキサー3人がとにかく気持ちを落ち着かせたくて、ササにアイスをおつかいしてもらうことに。水沢さんの話は聞いているようで頭にはなかなか入って来ない。それだけ緊張してるんだ。ササがアイスを持って来てくれて、それを食べてちょっとだけリラックス。

「そしたら発表するよー。何と今年は満点が出ましたー。1位は緑ヶ丘のタカティ。満点でーす、おめでとうございまーす。拍手ー」
「え!?」
「高木先輩おめでとうございます!」
「えー! 高木さんすげー!」
「え、あ、ありがとうございます」

 何かもう、ワケがわからないよね。満点って言われてみんなから拍手されている。採点に不備があったんじゃないかって思っちゃうよね。一通り会釈を終えて、改めてアイスを一口。……そうか、満点か。とりあえずノルマはひとつクリアできたんだ。よかったぁ。

「2位は星大のアオちゃん、98点ー」
「でも、高木先輩凄いですね満点なんて」
「もう、必死だよ。何としても95点以上取らなきゃいけなかったし。ああいう時の伊東先輩って本当に怖いんだよ」
「伊東さんて優しい印象の方が強いですけど、怖い一面もあるんですね」
「でも、俺は満点だったけど俺だけが良くてもダメなんだよ。ウチの1年3人に対する責任もちょっと付いて来るから」
「3位ー、向島の奈々ー、92点ー」
「あ、普段からちゃんとやってるか的なですか」
「そう。ペーパーテストっていうのがね……サキとくるみは心配してないんだけど。後はお察しください」
「あー……シノ…!」
「でも、アイツテスト終わった後知恵熱出すくらい一生懸命だったし、報われてて欲しい。実技テストだったら余裕でトップ通過だーって言えるくらいだし」
「えっ、アイツ実技だったら2年生の先輩に勝つつもりだったのか」
「サキ君に高木さんを倒す宣言かって突っ込まれて5位以内にはーって言い直してたけど」
「4位ー、ここで1年生ー。緑ヶ丘のシノー。89点。1年生で89点、全体4位は凄いよ!」
「えっ!?」

 えっ、と心の奥底から出た声が、俺とササと彩人の3人分が揃った。聞き間違いでなければ、シノが89点で全体4位。シノがいるエイジの班のテーブルの方を見てみると、シノ本人も何が何だかわかってなくて、エイジが目の前で手をひらひらさせてる。放心状態って感じだね。
 他の2年生でもサキでもなくて、まさかのシノ。……って言うか俺と同じタイプなのかな、やっぱり。得意なことにはしっかりと能力が発揮出来るタイプって言うか。大学のテストとミキサーテストだったら、そりゃあ引き出しの数もその開きやすさも段違いですよ。

「5位、同じく緑ヶ丘のサキ。87点。うーん、凄いねえ。今年の1年生はレベル高いね」
「サキ君大丈夫かな。ペーパーテストでシノに負ける気はしないって言ってたけど」
「大丈夫でしょ。サキは黙々と自分の答案を見直して次に繋げるタイプだろうし」
「ですよね。つか俺はサキ君の心配してる場合じゃないんだって~、自分だよ~…!」

 頑張れ。そうササが彩人の肩を叩く。結果から言えばウチの班はみんな合格出来てたし、くるみも合格してたから緑ヶ丘としてもみんなクリア。本っ当に良かったよね…! これで心置きなく午後の講習を受けられるよね。


end.


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毎年お馴染みのミキサーテストです。ノサカには満点を取らせなかったダイさんですが、今年のタカちゃんは減点ポイントがなかったのかな?
そしてまさかのシノですが、やっぱシノはタカちゃんと同じ系統らしいのでミキサーテストに関しては問題なかった様子。がんばった。
ミキサー陣にパシられたササだけど、3人分のアイスを運ぶのはなかなか大変だったに違いない。おつかれちゃん

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