2020(02)

■知恵熱が出るほどに

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「あ~…! うがー! 頭いてー……もームリー……」
「……シノ、大丈夫か?」
「彩人~! 俺もームリだよー…!」

 シノが、バタバタと騒がしくしている。頭が痛いと言って頭を掻きむしったり机に突っ伏したり、とにかく尋常じゃない様子。今日からインターフェイス夏合宿が始まった。1日目の午前はオリエンテーションと全体講習があって、昼飯を食ってからはアナミキ別の講習に入った。
 全体の講師は向島のOBで今はフリーのラジオパーソナリティーをしている水沢さんという人だけど、ミキサー講習には講師補佐という形で同じく向島OBの村井さんという人が来てくれている。そして行われているのが、何故かペーパーテストだ。
 そのテストが終わって、ミキサー講習は10分間の休憩に入った。テストの内容はそれこそミキサーについてどれだけわかっているかを確認するような内容で、初心者講習会で習ったことが出題範囲になっているようだった。

「マジで大丈夫か」
「もームリ。マジでムリ。頭痛い」
「頭痛いんだったら高木さんとか対策委員の人に言って休ませてもらうか?」
「シノ、いい加減にしないと彩人が困ってるよ」

 頭が痛い、もう無理だと喚くシノに釘を刺したのは、サキ君。緑大ササキトリオの大人しいサキ君だ。初心者講習会で挨拶をして以来俺が一方的に気にしてて、この合宿で話したいと思ってたんだよなー。

「だってよーサキ~」
「彩人、シノがごめんね」
「いや、俺は全然。でもサキ君、シノをほっといて大丈夫? 頭痛いって」
「シノのそれは「何で合宿でまでテストなんだー」っていうだけだから、ほっといて大丈夫だよ」
「あ、さてはお前、勉強嫌いなタイプか」
「いや、だってそうじゃね!? 俺はこの合宿で実践的なことをどんどん練習すると思ってたんだよ。それがテスト!? しかも緑ヶ丘1年は合格ボーダー高いとか頭おかしくね!? 差別じゃんな!」
「シノ、ササはいないんだよ。ミキサーのテストくらい自力で頑張りなよ」
「あー、そういやリク、言ってたなあ。春学期のテストでシノのお世話してたとかなんとか」
「はー!? アイツ、他校の奴にまで俺がバカとかアホとか抜かしてるのかー!」
「いや、さすがにそこまでは言ってないけど。今お前が自分で言ったぞ」
「はーっ……ホント、ごめんね彩人」
「いや、全然」

 サキ君によれば、シノは勉強が苦手なタイプで春学期のテストもなかなか苦戦していたらしい。だけど、リクと一緒のゼミに入って一緒にラジオをやりたいとかで、そのゼミを担当する教授のテストだけはメチャクチャ頑張ったそうだ。
 で、このペーパーテストだ。実は俺もシノの気持ちがちょっとわかる。ペーパーテストをやりますって言われた瞬間、その時間で新しい技術の話とかを聞きたかったなって気持ちがちょっと。だけど、自分が何をわかってないかわかってないと新しいことをやろうとしても躓くぞって言われてちょっと納得した。

「それでシノ、テストの出来栄えはどうだった?」
「一応、記憶の奥底から言葉を引っ張り出して埋めるだけ埋めたよ。空欄が一番ダサいし」
「なら合ってるかもしれないじゃん。頭痛いって知恵熱的な?」
「かもしんね」
「彩人はどうだった?」
「合ってるかどうかはともかく一応書くだけ書いたけど、テストがあると思わなくて初心者講習会のレジュメとか全然見返してなかったし、普段からミキサーやってるワケじゃないから不安で仕方ない」

 合格のボーダーに届かなかった奴には楽しい楽しいアクティビティがあるぞ~と村井さんが言ってたけど、平たく言えば罰ゲームだよな。インターフェイス的にはミキサーとして出てるんだから、普段はプロデューサーなんです~とか言ったところでボーダーが下がるワケでもない。
 問題を作ったのが緑ヶ丘の4年生だからか、緑ヶ丘の1年生は合格ラインも俺たちその他の1年生より高めに設定されている。しかも、高木さんは問題制作者の先輩直々に95点以上を取ってのトップ通過を命じられているとか。エリート校ってのはこうなのか。緑ヶ丘怖すぎか。

「サキはいつも隅っこでノート読んでるからこういう知識系は得意かもだけどさ、俺って実技系じゃん?」
「まあ、そうだね」
「実技テストだったら余裕でトップ通過出来るんだって俺なら~!」
「ふーん。高木先輩を倒す宣言だね」
「あ、それはさすがにちょっと早かった。5位以内には入れるんだよ俺なら~!」
「謙虚なんだか傲慢なんだか。ねえサキ君」

 ペーパーテストの得手不得手は措いといて、実戦ではやれるぞっていう自信があるのはいいなって思う。ミキサーとしてはともかく、プロデューサーとしてはシノの姿勢を見習って行きたいと素直に思う。

「でも、実技なら本人が言うように、そこそこいい線行くとは思う。それだけシノはいつも練習してるから」
「あ、意外に口だけじゃないんだ」
「うん。実技だったら、俺やくるみよりは全然上手いよ」
「ペーパーは?」
「ペーパーでシノに負ける気はしないね」
「うるせー! サキの頭でっかち!」

 そんな風に話しているうちに休憩時間は光の速さで過ぎていた。はいお前ら続きやるぞ~と村井さんがパンパン手を叩きながら部屋に入って来れば、本格的な講習開始だ。さて、俺はここでプロデューサー修行に繋がる何を得られるか。案外アクティビティも捨てたモンじゃないか!? いや、やりたくねーけど!


end.


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ミキサーテストのあれやこれや。シノがぎゃあぎゃあ喚いてるのを戒めに行くサキである。ササがいないからね、仕方ないね。
そしてしれっと村井のおじちゃんが特別出演してますけど、きっとおじちゃんはダイさんから声を掛けられて手伝いに来たって感じなのかな。
果たして結果やいかに。そしてトップ通過を命じられたタカちゃんの運命はどうなる。もしダメだったらいち氏は厳しいぞ~。

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