2020(02)
■その時やりたいことの価値
++++
朝霞から宅配便で荷物が届いた。中身は、山羽と光洋の土産物。USDXのメンバーで分けてくれと一筆あったので、単身キョージュ宅へ乗り込むことに。朝霞は山羽の実家に帰省中で、USDXの動画収録や生配信も現在は欠席中だ。山羽土産はわかるが、光洋は……プライベートで行ったのか?
キュージュの住むマンションは向島大学の学生街にある。だからか、大学が夏季休暇の今は普段よりも若干静かな気がする。駐車場には塩見さんの車が確認出来た。盆明けからは絵に描いたような社畜になると聞いていたが、その社畜がまさかド平日の真昼間にこんなところにいるのか。
「キュージュ、来たぞ」
「あっ、来たね」
「塩見さんもいるのか」
「拓馬は今日休みなんだって」
「会社の仕組みが変わってよ、完全週休2日制が確保されてんだ。土日か、土曜出勤のある週は日曜とどこか1日休みだ」
「働き方改革というヤツですか」
「そうだな」
「ところで、朝霞から土産物が届きました。USDXメンバーで分けてくれとのことなので、ここに持って来ました」
「へー、レイ君は律儀だねえ」
「アイツはもうしばらく実家にいるのか?」
「そのようですね」
スガノとカンノにも一応これこれこういう……と声は掛けてあるが、今日集合する保証はない。それを見越してあるのか、朝霞からの土産も生ものではないので連中の分は避けておくことに。山羽土産の方はバウムクーヘン、光洋土産の方は有名な鳥サブレだ。
「そう言えばチータから聞いたけど、何か女の子のボーカリストを見つけたんだって? 今後USDXの歌物の曲にもゲストとして来てほしいとか何とか」
「はーっ……アイツはすぐ話を大きくしたがるからな……」
「あ、何か知ってる? 七色の歌声を持つ子なんでしょ?」
「歌唱力は確かに高いし、曲調に合わせて様々な声色を使いこなすのは事実だが」
「それでチータが暴走して作曲しまくってるってところか」
「そうですね。ついでに朝霞も巻き込まれて作詞をさせられてます」
「USDXの最初の歌物もまだ公開してないのにね」
ちなみに、USDXのチャンネルで歌物の曲を公開するのは来月1日という予定になっている。「SWEEP!」という曲と「ULTIMATE,SUPREME,DELUXE!」という曲だ。曲自体は打ち込みだが、バンドマンたちは実際に弾けるようになれというノルマが課せられている。
余談だが、ギターを担当している体の朝霞とバイオリンを担当している体のキョージュにはこのノルマは課せられていない。……というのも、カンノの作った曲に当人たちのレベルが追い付かないというのが最大の理由だ。
「大体、その歌物がコケたらどーするの?」
「そんなことは気にせずやりたいことをやるのがUSDXのスタンスではなかったか」
「まあね。どうせ、いつもと同じことをしてても飽きたって叩かれるし、変わったことをしても変なことすんなって叩かれるし。メンバー増える度に通り過ぎてるから正直そういう叩きも飽きたよね。関係ない」
「その流れで行くと、チータが惚れ込んでるボーカリストというのを呼ぶ流れか」
「塩見さん、菜月の事はご存知ですよね」
「ああ。ウチの会社に朝霞と一緒に短期でバイトしに来て以来、ツミツミ友達みたいな感じで。……まさか、チータが惚れ込んだボーカリストっつーのは菜月のことか」
「そうです。カンノから聞いていませんか。塩見さんと菜月のツミツミプレイ動画を背景にデュエット曲を歌わせるとか何とかという妄想は」
その話も水面下でしっかりと根回しをしていたらしいカンノは、塩見さんと菜月にそれぞれ課題曲と称して歌えるようになれと指示しているらしい。そもそも、菜月の連絡先などいつの間に入手していたのか。目的のためなら行動の早い男だ。
キョージュが淹れてくれていた紅茶が入り、朝霞からの土産であるバウムクーヘンをつまむ。うん、滑らかで美味い。バウムクーヘンと言えば水分を取られるという印象だったが、これはそのようなこともなく、スムーズに喉を下りていく。
「何だったか、菜月の中でUSDXと言えば俺のツミツミ動画だったとかいうヤツだろ?」
「それです」
「あっはっはっは! 何それ!」
「いや……樹理、ウケ過ぎだろ」
「はー、バカうけ。バカうけ。ひー、バカうけ」
「ダメだこりゃ」
「ひー。だって、社畜の生存確認用動画が俺たちの象徴って! ウケる~! ちなみに、その子ってツミツミ上手いの?」
「まあ、スコアで言えば最高5千万、週平均3千万って感じだな」
「スコアで言われてもわかんないんだけど」
「上級者と言うにはまだもうちょっとかなって感じだけど、並の中級者よりは上手いんじゃねえかとは」
「ふーん。じゃあ、拓馬のツミツミ動画と並べても遜色ない感じ?」
「それは大丈夫だ。社畜やってる時の俺はいろいろ鈍ってるからな」
「その「いろいろ鈍ってる」プレイ内容でも菜月は「無駄がない」って褒めちぎってたんだが」
ツミツミのプレイも上手いんだったらデュエット動画も上げたらいいんじゃないのとキョージュは乗り気だ。尤も、音楽動画の作業をやるのはカンノなのでオレは大してやることもなく、どんな出来になったのだろうと動画がアップされるのを待つだけだ。
「ちょっと、面白いことになりそうだね。へー、その子、コンちゃんの彼女さん宅に呼びたいね!」
「……まあ、呼べば引きずり込める距離ではあるが」
end.
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須賀邸と菜月さん宅マンションは目と鼻の先だもんね! 確かに呼べば引きずり込める距離ですね!
というワケでリン様がキョージュ宅でPS組とお話をしています。しかしキョージュがものっそいバカうけしてますね。バカうけの表現は個人的時事ネタ。
何かこの感じで行くと本当に菜月さん、巻き込まれそうですね……果たして歌物は公開されるのか!
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朝霞から宅配便で荷物が届いた。中身は、山羽と光洋の土産物。USDXのメンバーで分けてくれと一筆あったので、単身キョージュ宅へ乗り込むことに。朝霞は山羽の実家に帰省中で、USDXの動画収録や生配信も現在は欠席中だ。山羽土産はわかるが、光洋は……プライベートで行ったのか?
キュージュの住むマンションは向島大学の学生街にある。だからか、大学が夏季休暇の今は普段よりも若干静かな気がする。駐車場には塩見さんの車が確認出来た。盆明けからは絵に描いたような社畜になると聞いていたが、その社畜がまさかド平日の真昼間にこんなところにいるのか。
「キュージュ、来たぞ」
「あっ、来たね」
「塩見さんもいるのか」
「拓馬は今日休みなんだって」
「会社の仕組みが変わってよ、完全週休2日制が確保されてんだ。土日か、土曜出勤のある週は日曜とどこか1日休みだ」
「働き方改革というヤツですか」
「そうだな」
「ところで、朝霞から土産物が届きました。USDXメンバーで分けてくれとのことなので、ここに持って来ました」
「へー、レイ君は律儀だねえ」
「アイツはもうしばらく実家にいるのか?」
「そのようですね」
スガノとカンノにも一応これこれこういう……と声は掛けてあるが、今日集合する保証はない。それを見越してあるのか、朝霞からの土産も生ものではないので連中の分は避けておくことに。山羽土産の方はバウムクーヘン、光洋土産の方は有名な鳥サブレだ。
「そう言えばチータから聞いたけど、何か女の子のボーカリストを見つけたんだって? 今後USDXの歌物の曲にもゲストとして来てほしいとか何とか」
「はーっ……アイツはすぐ話を大きくしたがるからな……」
「あ、何か知ってる? 七色の歌声を持つ子なんでしょ?」
「歌唱力は確かに高いし、曲調に合わせて様々な声色を使いこなすのは事実だが」
「それでチータが暴走して作曲しまくってるってところか」
「そうですね。ついでに朝霞も巻き込まれて作詞をさせられてます」
「USDXの最初の歌物もまだ公開してないのにね」
ちなみに、USDXのチャンネルで歌物の曲を公開するのは来月1日という予定になっている。「SWEEP!」という曲と「ULTIMATE,SUPREME,DELUXE!」という曲だ。曲自体は打ち込みだが、バンドマンたちは実際に弾けるようになれというノルマが課せられている。
余談だが、ギターを担当している体の朝霞とバイオリンを担当している体のキョージュにはこのノルマは課せられていない。……というのも、カンノの作った曲に当人たちのレベルが追い付かないというのが最大の理由だ。
「大体、その歌物がコケたらどーするの?」
「そんなことは気にせずやりたいことをやるのがUSDXのスタンスではなかったか」
「まあね。どうせ、いつもと同じことをしてても飽きたって叩かれるし、変わったことをしても変なことすんなって叩かれるし。メンバー増える度に通り過ぎてるから正直そういう叩きも飽きたよね。関係ない」
「その流れで行くと、チータが惚れ込んでるボーカリストというのを呼ぶ流れか」
「塩見さん、菜月の事はご存知ですよね」
「ああ。ウチの会社に朝霞と一緒に短期でバイトしに来て以来、ツミツミ友達みたいな感じで。……まさか、チータが惚れ込んだボーカリストっつーのは菜月のことか」
「そうです。カンノから聞いていませんか。塩見さんと菜月のツミツミプレイ動画を背景にデュエット曲を歌わせるとか何とかという妄想は」
その話も水面下でしっかりと根回しをしていたらしいカンノは、塩見さんと菜月にそれぞれ課題曲と称して歌えるようになれと指示しているらしい。そもそも、菜月の連絡先などいつの間に入手していたのか。目的のためなら行動の早い男だ。
キョージュが淹れてくれていた紅茶が入り、朝霞からの土産であるバウムクーヘンをつまむ。うん、滑らかで美味い。バウムクーヘンと言えば水分を取られるという印象だったが、これはそのようなこともなく、スムーズに喉を下りていく。
「何だったか、菜月の中でUSDXと言えば俺のツミツミ動画だったとかいうヤツだろ?」
「それです」
「あっはっはっは! 何それ!」
「いや……樹理、ウケ過ぎだろ」
「はー、バカうけ。バカうけ。ひー、バカうけ」
「ダメだこりゃ」
「ひー。だって、社畜の生存確認用動画が俺たちの象徴って! ウケる~! ちなみに、その子ってツミツミ上手いの?」
「まあ、スコアで言えば最高5千万、週平均3千万って感じだな」
「スコアで言われてもわかんないんだけど」
「上級者と言うにはまだもうちょっとかなって感じだけど、並の中級者よりは上手いんじゃねえかとは」
「ふーん。じゃあ、拓馬のツミツミ動画と並べても遜色ない感じ?」
「それは大丈夫だ。社畜やってる時の俺はいろいろ鈍ってるからな」
「その「いろいろ鈍ってる」プレイ内容でも菜月は「無駄がない」って褒めちぎってたんだが」
ツミツミのプレイも上手いんだったらデュエット動画も上げたらいいんじゃないのとキョージュは乗り気だ。尤も、音楽動画の作業をやるのはカンノなのでオレは大してやることもなく、どんな出来になったのだろうと動画がアップされるのを待つだけだ。
「ちょっと、面白いことになりそうだね。へー、その子、コンちゃんの彼女さん宅に呼びたいね!」
「……まあ、呼べば引きずり込める距離ではあるが」
end.
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須賀邸と菜月さん宅マンションは目と鼻の先だもんね! 確かに呼べば引きずり込める距離ですね!
というワケでリン様がキョージュ宅でPS組とお話をしています。しかしキョージュがものっそいバカうけしてますね。バカうけの表現は個人的時事ネタ。
何かこの感じで行くと本当に菜月さん、巻き込まれそうですね……果たして歌物は公開されるのか!
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