2020(02)

■確認するほど増す不安

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「ったくよー、合宿前の荷造りぐらい1人でやれよなー」
「そう言いながら付き合ってやってる雨竜はやさしいなあ」
「はー、出た出た。腹黒当麻の棒読みがよ」
「誰が腹黒だって?」
「おめーだよ」
「ケンカはやめてよ~、荷物の確認だってば~」

 インターフェイス夏合宿が目前に迫っている。その中で、俺と雨竜は北星に呼び出され、アイツの家に招かれていた。入れてもらった北星の部屋は動画制作に特化してますって感じで、機材やらパソコン周りが凄まじい。映像制作の他には寝るだけって感じの部屋。
 まともにカバンを広げられる場所がベッドの上しかなくて、座った俺と雨竜、それから北星の荷物でぎちぎちになった場所で荷物の確認をする。雨竜がさっき言ったように、荷造りくらい大学生にもなれば1人でやればいいんだろうけど、どうやら北星は何か忘れるんじゃないかと不安だったらしい。

「番組が出来なくなったら大変だからな。番組に関係するものは完璧にしてけ」
「えっと~、音源が~、これと~、これと~」
「ちゃんとCDケースの中身合ってるか見とけよ」
「あ~、違ってた~。どこに入れてるんだろ~」
「テレコになってるとかじゃなくてか」
「え~っと、あ、ホントだ~。危なかった~」

 如何せんこんな調子だから本人が自分で自分を不安に思ったんだろう。動画制作とかではこれ以上ないほど段取りから何からしっかりしてるんだけど、合宿の荷造りはそういう制作のカテゴリには含まれないのだろうか。含まれないんだろうな。
 番組制作に必要なのはまず音源。あとあればポータブルのCDプレイヤーがあるといいとは高木さんから聞いている。音源チェックが出来ればMP3プレイヤーとか、最悪スマホでもいいそうだけど、スマホを直でミキサーに繋ぐことはやめておけと言われた。

「それから~、筆記用具と~」
「おい北星、ストップウォッチ。まあ、これくらいならぶっちゃけ忘れてもワンチャン借りればまあ」
「いや要るだろ。当麻お前何そそのかしてんだ」
「アナウンサーには絶対必要だけど、ミキサーはまああってもいいって感覚だしな」
「え、そーなん?」
「そうだよ~。使いたい人は使って~って感じ~」
「ふーん。それなら別に置いてってもまあって感じだな。はっ…! 北星お前! それでくるちゃんと話すムーブで行けよ! 忘れたから貸して~ってさ」
「え~、それはカッコ悪いよ~」
「そしたら逆のシチュエーションを狙って行けよ。くるちゃんにストップウォッチを貸してあげて好感度アップ!」
「いや……雨竜、現実的に考えて、緑ヶ丘のミキサーが番組に使う物を忘れると思うか?」
「あー……ねーわ。うん」

 ストップウォッチを敢えて置いて行くことで北星が片想いをしている(?)くるちゃんと話す話題になるかと思ったけど、やっぱりそういうのを合宿の場に持ち込むのはよろしくないということで、ちゃんと荷物の中にまとめることに。
 それに、ストップウォッチはあったらあったで絶対「10秒ピッタリで止められるか」とか言って遊び始めたり、互いのストップウォッチのデザイン差やフィット性などを比べ始める。だからないよりあった方が話す材料にはなるような気がする。

「あ」
「どうした北星」
「お菓子買って来なきゃ~」
「え、お菓子? お前そんな間食するような奴だったか?」
「青年の家の周り~、コンビニも何もない山なんだって~」
「ああ、それは聞いた。薬とか、普段使ってる物があれば用意して来いとは言われてる」
「飴でも持って行ったらいいかな~。班の皆さんに差し入れ~的な~。甘い物があった方が、頭は回るし~」
「とか言って、どーせくるちゃんのことしか考えてねーだろ。くるちゃんは甘いモン好きだって知ってるもんなあ北星」
「お菓子でくるちゃんを餌付けするのか」
「当麻~、餌付けじゃないから~」

 それには平謝りしつつ、雨竜と目で交わすことはひとつ。「北星が他の人への差し入れを考えている、だと…!?」というそれに尽きる。基本動画制作と凄いクリエーターにしか興味なくて、他人はどうでもいいってスタンスの北星の口から差し入れって単語が出て来るとは思わないじゃんな。

「飴は後で買いに行くとして~、あとは何かな~」
「北星、2泊3日だぞ。着替えを忘れんな」
「寝間着もいるぞ」
「高校の体操服でいいかな~」
「ハーパンはともかく上は適当なTシャツとかにしとけよ」
「そ~だね~」

 服や下着類、タオルなんかをカバンの底に詰めて、上の方には番組に使う物と筆記用具。北星は、ちょっと残ってるスペースに差し入れのお菓子を入れたいらしい。スマホの充電器は当日の朝入れなきゃいけないけど、忘れそうだから連絡して~と2人ともが頼まれる。

「つーかよ当麻」
「ん?」
「人の荷造り手伝っといて、自分が忘れ物とかしたらお笑いじゃね」
「と言うか、俺はもうほとんど荷造り終わってるからな」
「は!? 抜け駆けかよ当麻! やっぱお前腹黒いわ~、え~っ!?」
「それは別に腹黒さとは関係なくないか…?」
「そしたら~、雨竜も一緒に買い物しよ~」


end.


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どこの箱かに問わず3人衆というのが大好きで、こうやってわちゃわちゃさせがち。今回は青敬の3人衆が荷造りをしています。
もしかしたら北星はこういう行事でぐだぐだになって大変な目に遭ったことがあるのかもしれないですね。だからこその対策。
あとやっぱ青敬勢は隙あらば北星をくるちゃんと急接近させようとしがち。面白がっているのか、純粋な応援なのか。

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