2020(02)
■酷暑の水遊び
++++
「ねえエイジ、何で今この作業が始まったのかな」
「それはほっといたらいつまで経ってもやらないからっていう。思い立ったときにやらねーと」
「うう……めんどくさい……」
「お前がこまめにやってたら、ここまでめんどくさくならなかったべ」
台所で唐突に始まったのは、溜まりに溜まったペットボトルの片付け作業。玄関先にある傘立て代わりのバケツに空いたペットボトルを入れてたんだけど、それが溢れて他の場所に侵食し始めてしばし、とうとうエイジの堪忍袋の緒が切れた。
ペットボトルの片付けを命じられた俺は、ラベルを剥がして中をゆすぐという作業を開始したところ。だけど台所がとにかく暑い。一応玄関のドアはチェーンをかけてちょっと開けてあるんだけど、そもそもの気温が高すぎて入って来るのは熱風だ。
部屋には扇風機はあるけど、エアコンは冷房の風が好きじゃないし光熱費にかかってくるから正直あんまり使いたくない。酷暑が当たり前の今はクーラーが生命維持装置だとも言われてるけど、それでも使わなくていいなら使わずに乗り切りたい。
「うう、暑い~」
「っつってもお前、それ以上脱ぎようがねーべ。もうタンクトップにハーパンだっていう」
「だよね~……」
「あっ、そしたら今水用意してやっから、せめてそこに足でも浸けたらどうだべ」
そう言ってエイジは風呂場から水を張った洗面器を持って来てくれた。そこに足を浸けると、確かに気持ち涼しいと言うか、気持ちいい。でもそれも一瞬のことで、すぐにその水もぬるくなってしまう。
「って言うか、何でこんなにペットボトルがあるの」
「お前が捨てんからだっていう」
「エイジのも混ざってない?」
「言っとくけど、俺は自分で持ち込んだボトルは帰る時にもうボックスに放り込んでるっていう」
「ええ~、俺のも一緒に捨ててくれればいいのに」
「大体、マンションの敷地内にいつでも捨てれるゴミ回収ボックスがあるのに何でこんなに溜めるんだっていう。逐一捨てろ! 習慣づけろ!」
そう、俺の住むマンションには敷地内にゴミ回収ボックスがある。燃えるゴミとか資源ごみとか、ビンとかペットボトルとかっていろいろ分かれてるそこに、いつでも捨てていいっていうことになってるんだよね。これが本当に物凄くラク。
だけど、俺はあんまり片付けが出来ないし、ペットボトルや空き缶を溜めちゃう方だから悲惨なことになっちゃってる。いつでも出来るからこそ逆に全然取り掛かれないっていう罠に完全に陥っちゃってて。今だってエイジに言われなかったら絶対やってない。
「エイジ、手伝ってくれる気はない?」
「ない。俺は俺で洗濯機のメンテナンスに忙しいっていう」
「ええ~」
エイジは俺がサボらないか見張りながら、洗濯機の掃除をしている。何か、網で洗濯機に張った水の中からゴミとかを掬ってるみたい。適度にこれをやっておかないと、汚い水で洗濯をすることになって、せっかく洗った物が結局不衛生だからとか何とか。俺はあんまり気にしないんだけど。
「ほら見ろこれ」
「うわっ、すごい」
「これ全部洗濯槽に溜まったゴミとかカビの塊だっていう。こんなトコで洗濯するとかあり得んべ」
「でも、よくやるねエイジ。自分で調べたの?」
「自分で調べもしたしカズ先輩にも聞いた。あの人は洗濯関係めちゃ強いべ」
「ああ、そうだよね」
「L先輩でも良かったけど、L先輩が強いのは普通の掃除じゃんな。洗濯槽の掃除だったら洗濯カテゴリになるかなーっつって」
「すごいねえ。俺だったら絶対4年間で1回も掃除しないと思う」
「だろうな。ほら、手ぇ止めんな」
「はい」
じゃぶじゃぶと洗ったペットボトルは逆さまにしてバケツに刺していく。そのまま捨てたっていいんだろうけど、ちょっとでも水気を取っておきたいってエイジが言うからそのようにしている。って言うかこの暑さだし、口を上にしてそのままほっといても勝手に乾きそうだけど。
「でも、洗濯機が回ってる音がなかなかいいBGMになってるね」
「確かに。水の音はちょうどいい。あー、プールとか行きてー」
「プール? 泳ぐの?」
「程よい温度の水に浸かりたい」
「ああ、なるほどね。そしたら水風呂張る? 水道代は定額だし」
「いや、水風呂はさすがに冷たいべ。温めのお湯とか混ぜてそれなりの温度にしないと」
「そしたらベランダにペットボトルの水置いてあっためるとか」
「お前、とことん光熱費をケチる気か」
「でも、この猛暑だし案外すぐじゃない? いくら水が熱しにくい物質だって言っても。あっ、ちょうどここに4リットルのペットボトルがあるけど」
「お前これブラックニッカのヤツか」
「そうだね」
「これに水入れてみる?」
「いや、すぐ捨てろ。ひとつ残らず捨てないとまーたすぐに次が生えて来るっていう」
「手厳しい」
あっついなー、なんてぼやきながらの片付けは続く。星港は夜になったって全然涼しくならないし、その中でいかに生き延びるかということがテーマになっているようにも思う。水分補給のために買う飲み物の容器が溜まるのは仕方なくないかなあ、なんて言っても怒られるだけだ。
「ねえエイジ」
「んー?」
「後でこれ捨てるついでにコンビニでアイス買わない?」
「それは大賛成だべ。あ、ついでに枝豆とビールも買おう」
「いいね。俺もチューハイ買おう」
「そうやってまた空き缶も溜まるっていうな」
end.
++++
ただただタカエイが片付けをしているだけのお話。ペットボトルってうっかりすると溜まりがち。
エイジという監督がいるので何とかやれているTKGですが、もしこれでエイジがいなかったらと考えると部屋がすごい惨状になってそうですね
ペットボトルだけじゃなくて空き缶や瓶も一緒に片付けさせられたんだろうなあ。部屋が広くなったんじゃないかな!
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「ねえエイジ、何で今この作業が始まったのかな」
「それはほっといたらいつまで経ってもやらないからっていう。思い立ったときにやらねーと」
「うう……めんどくさい……」
「お前がこまめにやってたら、ここまでめんどくさくならなかったべ」
台所で唐突に始まったのは、溜まりに溜まったペットボトルの片付け作業。玄関先にある傘立て代わりのバケツに空いたペットボトルを入れてたんだけど、それが溢れて他の場所に侵食し始めてしばし、とうとうエイジの堪忍袋の緒が切れた。
ペットボトルの片付けを命じられた俺は、ラベルを剥がして中をゆすぐという作業を開始したところ。だけど台所がとにかく暑い。一応玄関のドアはチェーンをかけてちょっと開けてあるんだけど、そもそもの気温が高すぎて入って来るのは熱風だ。
部屋には扇風機はあるけど、エアコンは冷房の風が好きじゃないし光熱費にかかってくるから正直あんまり使いたくない。酷暑が当たり前の今はクーラーが生命維持装置だとも言われてるけど、それでも使わなくていいなら使わずに乗り切りたい。
「うう、暑い~」
「っつってもお前、それ以上脱ぎようがねーべ。もうタンクトップにハーパンだっていう」
「だよね~……」
「あっ、そしたら今水用意してやっから、せめてそこに足でも浸けたらどうだべ」
そう言ってエイジは風呂場から水を張った洗面器を持って来てくれた。そこに足を浸けると、確かに気持ち涼しいと言うか、気持ちいい。でもそれも一瞬のことで、すぐにその水もぬるくなってしまう。
「って言うか、何でこんなにペットボトルがあるの」
「お前が捨てんからだっていう」
「エイジのも混ざってない?」
「言っとくけど、俺は自分で持ち込んだボトルは帰る時にもうボックスに放り込んでるっていう」
「ええ~、俺のも一緒に捨ててくれればいいのに」
「大体、マンションの敷地内にいつでも捨てれるゴミ回収ボックスがあるのに何でこんなに溜めるんだっていう。逐一捨てろ! 習慣づけろ!」
そう、俺の住むマンションには敷地内にゴミ回収ボックスがある。燃えるゴミとか資源ごみとか、ビンとかペットボトルとかっていろいろ分かれてるそこに、いつでも捨てていいっていうことになってるんだよね。これが本当に物凄くラク。
だけど、俺はあんまり片付けが出来ないし、ペットボトルや空き缶を溜めちゃう方だから悲惨なことになっちゃってる。いつでも出来るからこそ逆に全然取り掛かれないっていう罠に完全に陥っちゃってて。今だってエイジに言われなかったら絶対やってない。
「エイジ、手伝ってくれる気はない?」
「ない。俺は俺で洗濯機のメンテナンスに忙しいっていう」
「ええ~」
エイジは俺がサボらないか見張りながら、洗濯機の掃除をしている。何か、網で洗濯機に張った水の中からゴミとかを掬ってるみたい。適度にこれをやっておかないと、汚い水で洗濯をすることになって、せっかく洗った物が結局不衛生だからとか何とか。俺はあんまり気にしないんだけど。
「ほら見ろこれ」
「うわっ、すごい」
「これ全部洗濯槽に溜まったゴミとかカビの塊だっていう。こんなトコで洗濯するとかあり得んべ」
「でも、よくやるねエイジ。自分で調べたの?」
「自分で調べもしたしカズ先輩にも聞いた。あの人は洗濯関係めちゃ強いべ」
「ああ、そうだよね」
「L先輩でも良かったけど、L先輩が強いのは普通の掃除じゃんな。洗濯槽の掃除だったら洗濯カテゴリになるかなーっつって」
「すごいねえ。俺だったら絶対4年間で1回も掃除しないと思う」
「だろうな。ほら、手ぇ止めんな」
「はい」
じゃぶじゃぶと洗ったペットボトルは逆さまにしてバケツに刺していく。そのまま捨てたっていいんだろうけど、ちょっとでも水気を取っておきたいってエイジが言うからそのようにしている。って言うかこの暑さだし、口を上にしてそのままほっといても勝手に乾きそうだけど。
「でも、洗濯機が回ってる音がなかなかいいBGMになってるね」
「確かに。水の音はちょうどいい。あー、プールとか行きてー」
「プール? 泳ぐの?」
「程よい温度の水に浸かりたい」
「ああ、なるほどね。そしたら水風呂張る? 水道代は定額だし」
「いや、水風呂はさすがに冷たいべ。温めのお湯とか混ぜてそれなりの温度にしないと」
「そしたらベランダにペットボトルの水置いてあっためるとか」
「お前、とことん光熱費をケチる気か」
「でも、この猛暑だし案外すぐじゃない? いくら水が熱しにくい物質だって言っても。あっ、ちょうどここに4リットルのペットボトルがあるけど」
「お前これブラックニッカのヤツか」
「そうだね」
「これに水入れてみる?」
「いや、すぐ捨てろ。ひとつ残らず捨てないとまーたすぐに次が生えて来るっていう」
「手厳しい」
あっついなー、なんてぼやきながらの片付けは続く。星港は夜になったって全然涼しくならないし、その中でいかに生き延びるかということがテーマになっているようにも思う。水分補給のために買う飲み物の容器が溜まるのは仕方なくないかなあ、なんて言っても怒られるだけだ。
「ねえエイジ」
「んー?」
「後でこれ捨てるついでにコンビニでアイス買わない?」
「それは大賛成だべ。あ、ついでに枝豆とビールも買おう」
「いいね。俺もチューハイ買おう」
「そうやってまた空き缶も溜まるっていうな」
end.
++++
ただただタカエイが片付けをしているだけのお話。ペットボトルってうっかりすると溜まりがち。
エイジという監督がいるので何とかやれているTKGですが、もしこれでエイジがいなかったらと考えると部屋がすごい惨状になってそうですね
ペットボトルだけじゃなくて空き缶や瓶も一緒に片付けさせられたんだろうなあ。部屋が広くなったんじゃないかな!
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