2020(02)
■1人の自由を謳歌する
++++
「ねえみちる、そう言えば何で実家に帰らなかったの? 夏のお盆時って、地方から来てる子は帰るのが普通だと思ってた。彩人も帰ってたしね」
「律儀に墓参りをするような家でもないし、墓参り以外に帰る理由もないからね。向島の方が過ごしやすいし」
「ふーん、そうなんだ」
みちるから一緒にご飯を食べようと連絡が入って、大学近くにあるみちるのマンションの部屋にお呼ばれする。みちるの住んでいるマンションは広さ6畳なんだけどバストイレ別で、お風呂場が1人暮らしの部屋とは思えないくらいに広い! あと、部屋と同じ6畳分のロフトがあって。
下の部屋にテレビがあったりパソコンがあったりって感じでリビングとして使ってて、ロフトは寝室とか、リラックスできる空間にしてるみたい。そういう使い分けが出来るっていいよね。それで家賃は5万5千円だって。ちなみに、この辺じゃちょっと高い方みたい。
「でも、あっついねえ」
「ちょっと待ってて。今冷たいの持って来る」
「あっ、お構いなくー」
「クーラー入れていいよー」
飲み物でも出してもらえるのかな、と待っていると、奥からみちるが持って来たのは昔のバラエティー番組でよく上から降って来てた金ダライ。よくあるああいう、本当にああいうタライの中に、ちゃぷちゃぷと水が入っていて。
「えっと、みちる?」
「この中に足を浸けると気持ちいいよ」
「……それはわかるけど、お風呂場とかでやった方が良かったんじゃ。あと、何で金ダライ?」
「部屋でやった方が開放感があるよ。金ダライは洗濯用。ブラジャーとか染み抜きとか、手でやるときにあると便利。あと、野菜冷やしたりとか」
「へー、マメだね。私ブラなんてネットに入れてぐるぐる回してるよ」
「それでいいとは思うんだけど、ブラジャーって高いし、ちょっとの手間をかけてでも長持ちさせた方が、後々お金に困らなくなるかと思って」
「そっか、みちるバイクの免許でお金ないんだっけ」
「私も戸田さんに負けない機動力を身につけるには、原付に乗った方がいいからね。あ、足浸けていいよ。ロフトの階段のトコが浸けやすいから」
「それじゃあ失礼して」
ロフトに上る階段に腰掛けて、恐る恐るタライに足を浸ける。普通に電化製品もある部屋だから、うっかり倒しちゃったりでもしたら大変だし。でも、気持ちいいなあ。この感じだと、みちるは普段からこうやってるのかな。
って言うか、この階段が何気にカラーボックスみたいな収納になってて、ここに何でも綺麗に収納してあるんだよね。みちるのイメージ通り、しっかりちゃんとまとまってる。彩人の部屋も結構綺麗だし、私も夏休みの間に部屋を片付けないと。
「本当は車の方が便利なんだろうけどね。今免許取っても2人乗りが出来るのは来年の秋からだし、丸の池には間に合わないか。彩人が原付でも乗れば私が海月を後ろに乗せてどこでも行けるんだけど」
「そう言えば彩人って自転車だよね」
「まあ、それで生活が間に合うからね。私も本来は間に合うし」
「戸田さんの真似っ子のためにバイクの免許取るとかよくやるよね」
「地下鉄と自転車だけでも生活は出来るけど、微妙なところに行くにはもうちょっとパワーがあって小回りの利くのがあると便利なんだよ。重い物買った時とか」
「あっ、お米とか」
「そうだね。あと、アイスとか冷凍食品買った時も、溶かさなくて済む」
「そっか。みちる、免許頑張れ!」
「ありがとう。何か冷たいの食べる?」
「食べる!」
この話の流れ、もしやアイスか何か出てきてしまうのかなと思ったら。奥からみちるが持って来たのはキュウリと、小分けにされた何個かの器。器の中にはソースみたいな物が入っている。まさかの夏野菜……でも、野菜冷やしたりとかって言ってたもんね。え、よく考えたら食べ物入れるタライに洗ってない足浸けてよかったのかな。
「キュウリ食べる?」
「これは? マヨネーズ?」
「マヨネーズと、こっちが味噌。これは私が作った梅しそソース」
「えっすごーい。これ、そのまま齧るの?」
「そのまま行って」
せっかくだから、みちる特製梅しそソースをディップして一口。
「いただきまーす。ん! ソース美味しい! キュウリもみずみずしくて美味しい! 新鮮!」
「これ、文化会の宇部さんの友達が作ってる野菜を譲ってもらってるんだよ。たくさん出来るし、この時期はみんな帰ってて引き取り手もなかなかいないしって」
「へー、すごいね! 宇部さんって確か農学部だったっけ?」
「そうだね。学部でやってる畑じゃなくて、プライベートでやってるとか。トマトとか、他にもいろいろあるから最近スーパーで夏野菜なんて全然買ってないな」
「いいね、ナイス節約」
「本当に」
暑くて食欲がない時も、こうやってキュウリやトマトをそのまま齧れば一食になるし、枝豆をもらえたときはそれを茹でて晩酌をしているそうだ。みちるはなかなか1人暮らしを謳歌している様子。でもいいなあ。こうやって見てると、1人暮らしがちょっと羨ましい。
「私、今日の夜はみちるの作ったご飯が食べたいなー」
「そしたら、麻婆ナスとゆでトウモロコシで一杯やろうか。せっかくだし、泊まってく?」
「いいの!? やったあ!」
end.
++++
みちるは1人暮らしをなかなか楽しんでいるようですね。引き取り手のない野菜も貰えて食費の節約もバッチリだね!
あんまり料理が得意じゃなくて簡単なことしかやらない的なことを言っていたように思うのですが、ディップソースを自分で作ったりもするのでちゃんとやってる方。
つばちゃんの真似っ子で原付2種に乗ろうとする行動力よ。真似っ子じゃないけど機動力を上げるための原付2種はもう1人いたな……
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「ねえみちる、そう言えば何で実家に帰らなかったの? 夏のお盆時って、地方から来てる子は帰るのが普通だと思ってた。彩人も帰ってたしね」
「律儀に墓参りをするような家でもないし、墓参り以外に帰る理由もないからね。向島の方が過ごしやすいし」
「ふーん、そうなんだ」
みちるから一緒にご飯を食べようと連絡が入って、大学近くにあるみちるのマンションの部屋にお呼ばれする。みちるの住んでいるマンションは広さ6畳なんだけどバストイレ別で、お風呂場が1人暮らしの部屋とは思えないくらいに広い! あと、部屋と同じ6畳分のロフトがあって。
下の部屋にテレビがあったりパソコンがあったりって感じでリビングとして使ってて、ロフトは寝室とか、リラックスできる空間にしてるみたい。そういう使い分けが出来るっていいよね。それで家賃は5万5千円だって。ちなみに、この辺じゃちょっと高い方みたい。
「でも、あっついねえ」
「ちょっと待ってて。今冷たいの持って来る」
「あっ、お構いなくー」
「クーラー入れていいよー」
飲み物でも出してもらえるのかな、と待っていると、奥からみちるが持って来たのは昔のバラエティー番組でよく上から降って来てた金ダライ。よくあるああいう、本当にああいうタライの中に、ちゃぷちゃぷと水が入っていて。
「えっと、みちる?」
「この中に足を浸けると気持ちいいよ」
「……それはわかるけど、お風呂場とかでやった方が良かったんじゃ。あと、何で金ダライ?」
「部屋でやった方が開放感があるよ。金ダライは洗濯用。ブラジャーとか染み抜きとか、手でやるときにあると便利。あと、野菜冷やしたりとか」
「へー、マメだね。私ブラなんてネットに入れてぐるぐる回してるよ」
「それでいいとは思うんだけど、ブラジャーって高いし、ちょっとの手間をかけてでも長持ちさせた方が、後々お金に困らなくなるかと思って」
「そっか、みちるバイクの免許でお金ないんだっけ」
「私も戸田さんに負けない機動力を身につけるには、原付に乗った方がいいからね。あ、足浸けていいよ。ロフトの階段のトコが浸けやすいから」
「それじゃあ失礼して」
ロフトに上る階段に腰掛けて、恐る恐るタライに足を浸ける。普通に電化製品もある部屋だから、うっかり倒しちゃったりでもしたら大変だし。でも、気持ちいいなあ。この感じだと、みちるは普段からこうやってるのかな。
って言うか、この階段が何気にカラーボックスみたいな収納になってて、ここに何でも綺麗に収納してあるんだよね。みちるのイメージ通り、しっかりちゃんとまとまってる。彩人の部屋も結構綺麗だし、私も夏休みの間に部屋を片付けないと。
「本当は車の方が便利なんだろうけどね。今免許取っても2人乗りが出来るのは来年の秋からだし、丸の池には間に合わないか。彩人が原付でも乗れば私が海月を後ろに乗せてどこでも行けるんだけど」
「そう言えば彩人って自転車だよね」
「まあ、それで生活が間に合うからね。私も本来は間に合うし」
「戸田さんの真似っ子のためにバイクの免許取るとかよくやるよね」
「地下鉄と自転車だけでも生活は出来るけど、微妙なところに行くにはもうちょっとパワーがあって小回りの利くのがあると便利なんだよ。重い物買った時とか」
「あっ、お米とか」
「そうだね。あと、アイスとか冷凍食品買った時も、溶かさなくて済む」
「そっか。みちる、免許頑張れ!」
「ありがとう。何か冷たいの食べる?」
「食べる!」
この話の流れ、もしやアイスか何か出てきてしまうのかなと思ったら。奥からみちるが持って来たのはキュウリと、小分けにされた何個かの器。器の中にはソースみたいな物が入っている。まさかの夏野菜……でも、野菜冷やしたりとかって言ってたもんね。え、よく考えたら食べ物入れるタライに洗ってない足浸けてよかったのかな。
「キュウリ食べる?」
「これは? マヨネーズ?」
「マヨネーズと、こっちが味噌。これは私が作った梅しそソース」
「えっすごーい。これ、そのまま齧るの?」
「そのまま行って」
せっかくだから、みちる特製梅しそソースをディップして一口。
「いただきまーす。ん! ソース美味しい! キュウリもみずみずしくて美味しい! 新鮮!」
「これ、文化会の宇部さんの友達が作ってる野菜を譲ってもらってるんだよ。たくさん出来るし、この時期はみんな帰ってて引き取り手もなかなかいないしって」
「へー、すごいね! 宇部さんって確か農学部だったっけ?」
「そうだね。学部でやってる畑じゃなくて、プライベートでやってるとか。トマトとか、他にもいろいろあるから最近スーパーで夏野菜なんて全然買ってないな」
「いいね、ナイス節約」
「本当に」
暑くて食欲がない時も、こうやってキュウリやトマトをそのまま齧れば一食になるし、枝豆をもらえたときはそれを茹でて晩酌をしているそうだ。みちるはなかなか1人暮らしを謳歌している様子。でもいいなあ。こうやって見てると、1人暮らしがちょっと羨ましい。
「私、今日の夜はみちるの作ったご飯が食べたいなー」
「そしたら、麻婆ナスとゆでトウモロコシで一杯やろうか。せっかくだし、泊まってく?」
「いいの!? やったあ!」
end.
++++
みちるは1人暮らしをなかなか楽しんでいるようですね。引き取り手のない野菜も貰えて食費の節約もバッチリだね!
あんまり料理が得意じゃなくて簡単なことしかやらない的なことを言っていたように思うのですが、ディップソースを自分で作ったりもするのでちゃんとやってる方。
つばちゃんの真似っ子で原付2種に乗ろうとする行動力よ。真似っ子じゃないけど機動力を上げるための原付2種はもう1人いたな……
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