2020(02)

■意思を伝えるリクエスト

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 インターフェイス夏合宿を前に、MBCCでは毎年1年生を対象としたリク番&インフォ講習が開講されていた。その年の対策委員が立ち会って、3年生の先輩に1年生を鍛えてもらうっていう感じなのかな。去年も俺たちは高崎先輩と伊東先輩の講習をみ~っちり受けていた。
 今年は果林先輩とL先輩が講師を担当してくれるということで、それこそ初心者講習会の延長みたいな感じになっている。初心者講習会と夏合宿の間くらいのレベルの話をするにはちょうどいい感じかもしれない。対策委員の俺とエイジは細かい雑務担当。

「まず、リクエストね。これがこれまでに溜まってるストックリスト。この冊子から好きな曲を選んでもらってリクエストをしてもらう感じ」
「そーいやストックリストってちゃんと見たことなかったっす」
「じゃあ、ストックリストの見方から。曲名、アーティスト名って基本的な情報が載ってて、ミキサーが必要な情報はこれ。曲のトータルタイムとイントロ、または中トロアウトロがどこからどこまでっていう時間の情報。それからアナウンサーが使えるのはタイアップ情報などかな」
「へー、結構細かく載ってるんすね」

 年々分厚くなるストックリストは、それを持ち上げるだけでも軽い筋トレをやっている気分だ。分厚いそれをじーっと眺めながら、サキには何か思うことがある様子。シノはこれをちゃんと見るのが初めてらしいけど、サキは例によって隅っこでこれを読んでたみたいだし。

「正直、ここまで分厚いとこれもデジタル化した方が楽ですよね。高木先輩、先輩のゼミからタブレットなんかは降りてこないんですか?」
「うーん、タブレットはさすがに降りてこないと思うなあ。俺もあったら便利だとは思うよ」
「ですよね。電器街に行った方が早そうですね」
「えっと……サキ? まさかこれをデジタル化する気?」
「昔のノートを読んでて、電子書籍化されてたらいいなとはちょっと。保管するにも場所を取りますし、データ化したら読む場所を選ばなくなるかなって」

 古いノートを読みながら、サキがそんな風に思っていたとは。だけど膨大な量のノートを自炊するにもなかなかな手間だな。でも確か伊東先輩が雑誌をそうやって片付けてたはずだから、聞いてみるだけ聞いてみたらいいのかもしれない。
 で、本題のリクエスト番組についてだ。俺個人の見解だけど、これはミキサーのセンスが問われてくる物だと思う。番組の最中でいきなり差し込まれるそれを、どう番組構成への影響を最小限に抑えながらスムーズに進められるようにするかという咄嗟の判断が求められる。
 夏合宿だと基本1曲だから何となくでも十分だけど、これが大学祭なんかで1時間を回すことになると本格的に個人のセンスが求められる。どう音を繋ぐかとか、どこまで曲を流してどこでどんな風にコメントを読んでもらうのかなんかも二手三手先まで読んで考えなきゃいけない。難しいけど楽しい。

「タカちゃん、リク番の話に戻っていい?」
「あっはい、すみません。どうぞ」

 リクエスト番組の大まかな説明が終わり、アナミキに分かれた細かい話に入って行く。アナウンサーさんの方では、各自ペンを持って差し込まれたそれをどう捌いて行くのかという話がされている様子。ミキサーの方では、PFLを駆使した番組構成の変更の仕方の話になっている。
 ストックリストに曲の情報が載っているとは言え、自分の耳でもそれを裏で確かめなければならない。そしてリストの情報が合っているか確かめて、どういう構成で行くかをアナさんに伝えなきゃいけない。例えば1コーラス流してBGMレベルまで下げた2コーラス目でコメントを読むとかそんな感じで。

「急に飛んできて番組の構成が変わっちゃうのが難しいなー。高木先輩、ズレた構成はどうやって戻せばいいんですか?」
「その後の曲やトークを少しずつ短くして調整するって感じだね」
「アナウンサーはトークを準備してるのに、短くしてもらうんですか」
「それが出来るように考えてるはず。一言一句決まった台本は原則NGだし。あー……でも、星ヶ丘さんとか、ラジオあんまりやってない子だとその辺が微妙なのか」
「……俺のペア、星ヶ丘なんですけど大丈夫ですかその辺」
「あー、えーっと」
「サキ、急な構成変更もあるからって言えばいい話じゃんか。俺のペアだって星ヶ丘だけど、俺がちゃんと見てるし一言一句なんて練ってねーぞ。伝えてけ伝えてけ。話したらわかってもらえるって」
「――と、いうことです」

 この件だけを見ていても、シノが意外とって言ったら失礼かもだけど、頑張ってるんだなって感じ。ほっとくとちょっと心配だからエイジに面倒見てもらえるようにお願いしたんだけど、慣れない子をリードしながら番組を作るっていうのが適性にハマってるのかも。
 サキは人をリードしたり主張するのがちょっと苦手っぽいから、アナさんがトークするときに見るメモ帳の中身についてもあまり言及出来てないのかな。くるみはいつも一生懸命なんだけど、それで空回らないかがちょっと心配。もうちょっと力を抜いてもいいかもしれない。

「じゃ、そろそろ実技に入って行くぞ」
「まずはAD作業ですかねL先輩」
「だな。今回はパソコンじゃなくてMDを使うから。最低1人5枚から」


end.


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リク番とインフォ講習が始まらなかった! でも、隅っこでノートを読みながらサキが密かにこれまでのノート類のデジタル化についても考えてたのね
サキのペアになってる星ヶ丘の子のデータはまだ決まってないので、いつかは決めたい。男子とか女子とかどこの班とかも全然決まってないもんなあ
パソコンを扱うことになれているMBCCの面々は、逆にMDのAD作業なんかがたどたどしくなるのかしら。それともMDでもガッツリやれるのかしら。

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