2020(02)
■合格の特殊条件
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実家の紅社から星港に舞い戻り、家に荷物を置いてそのまま夏合宿の打ち合わせへ。この打ち合わせは班の打ち合わせじゃなくて、対策委員関係の集まり。それも全員じゃなくて、参加するのは俺と議長のアオ、それから奈々だ。
「みんな来たね。おはよー」
「おはようございます」
「すみません、俺の時間に合わせてもらって」
「いいのいいの。むしろ戻ってきたばっかりでよくやるねえ。若いっていいわ。ねえカズ」
「ホントですよね。でも、ダイさんも十分若いですよ。いくつも仕事やるバイタリティが凄いです」
そう、今日の打ち合わせは夏合宿講師をお願いした向島の水沢さんと、それから伊東先輩に来てもらっている。伊東先輩は講師ってワケじゃないんだけど、合宿に参加する半数の人間の運命を左右する例のアレにまつわるお願いのために来てもらった。
「あの、よかったらこれ。お土産です」
「わざわざありがとね。へー、レモンパイ。夏っぽくていいね」
「タカシサンキュ。紅社だったらまんじゅうかと思ったけど」
「最近はレモン推しですね。それで、伊東先輩には例のアレを作ってもらいたいんですね」
「今年もアレ、やっぱやるんだ」
「やりますね。恒例行事なので」
「今年は何人が合格するかなー」
アレというのは、夏合宿恒例のミキサーテストのこと。最初のミキサー講習で、現段階でどれくらいミキサーのことを理解しているかというペーパーテストを受けることになっているんだ。ちなみにアナウンサーにはそういう試験はなし。
合格のボーダーも設定されていて、それに届かなければ罰ゲームが用意されている。ちなみにこのテスト自体が罰ゲームを楽しみたいがための茶番とか余興めいた性質が主だったとは今春卒業した城戸先輩が言っていたように思う。
去年のテストは城戸先輩が作ってくれた「伊東先輩がギリギリ満点を取れないレベル」のものだった。今年は伊東先輩にテストを作ってもらうことになったんだけど……怖いよね。みんなは「カズ先輩優しいしテストも簡単にしてくれるかな」って言ってたけど。そうじゃないんだよ伊東先輩は。
「一応これが今年の初心者講習会でやった講習内容です。今回パソコンの扱いについては試験範囲外ということでお願いします」
「オッケー了解。パソコンは試験範囲外っと。で、難易度だけど。アオ、簡単すぎてもつまんないっしょ?」
「そうですね。簡単すぎず、難しすぎない範囲でお願い出来ればと」
「そしたら、野坂がギリ満点取れないくらいのレベルにしとこうか」
「そうですね、それくらいで」
「――ってカズ先輩ッ!? 野坂先輩が基準のペーパーテストとか鬼畜の所業っす! うっすうっす」
「でも、去年も俺がギリ満点取れないレベルに設定されてたし、その年のミキサーでそこそこ力ある奴に満点を取らせないくらいがちょうどいいかなって」
MBCCの人間だけが知る伊東先輩の鬼っぷりは、リクエスト番組やインフォメーション練習の時に現れる。突如投げられるその紙の中身は実際に起こり得る事象を例にしながらも、とにかく要求される内容がアナ泣かせだったりミキ泣かせだったりする。
それはミキサーテストでも現れるんだろうなと思っているから、みんなが「優しい先輩ならテストも易しく」とか言ってるのにも遠い目をするしか出来なかったワケで。しかも基準が野坂先輩ときた。野坂先輩と言えば、去年のミキサーテストを98点でトップ通過した実績がある。
「去年野坂はPre Fader Listeningのスペル間違いだけで実質満点だったよね。俺がバツにしたから98点だったけど」
「そーなんすよ! しかもケアレスとかダイさん他の子には甘めにつけてたんですよね?」
「そーね。絶対満点取らせたくねーって思って野坂だけバツにしたのよ。ま、向島の子だし許されるでしょ的なノリでね」
「まあ、実際野坂を基準にしたペーパーテストなんか作る俺の力量が追い付かないっていうね。タカシにギリ満点取らせないレベルにしとくか」
「えっ、俺ですか!?」
「咲良さんが作った鬼畜仕様のテストで1年が85点の5位通過ってのは何気に衝撃だったからな。今年はもっと取って当たり前、95点以上取って1位通過出来なかったらその時はわかってるよな?」
「ですよねー」
「あっ、もちろん1年生の子の合格ラインは低めにしとくし安心してもらって」
そうなると俺の得意分野であるパソコンが試験範囲外なのがちょっと辛い。まあでも、今年は3年生の参加者がいないし2年生がしっかりしないといけないから、俺がやんないといけないんだろうなあ。でもペーパーテストだとアオの方が取りそうだけどなあ。言って星大だし。
「あ。そういや去年緑ヶ丘の1年生の合格ラインって他の大学さんより高めだったよね」
「そう言えばそうでしたね。まあ、タカティは通常の合格ラインも余裕で通過してましたけど」
「タカシ~、今年もMBCCは上げてくか!」
「えっちょっ、伊東先輩…? えーと……ボーダーを上げられると不安な子が若干1名……」
「それをお前とLがどうにかするんだよ」
end.
++++
毎年恒例ミキサーテストの話が出始めました。今年の問題制作者はいち氏です! それはそうと、次の年の制作者ってノサカとかになるんじゃねーのこれ
去年の思い出なんかもちょこちょこ語られつつ、そういやいち氏は去年トップ通過を命じられてたのにできなかったなあと思い出す。
で、その八つ当たりかパワハラか知らんけど今度はタカちゃんに矛先が向いた様子。ミキサーは実践……もとい現場で鍛えなきゃだからなあ
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実家の紅社から星港に舞い戻り、家に荷物を置いてそのまま夏合宿の打ち合わせへ。この打ち合わせは班の打ち合わせじゃなくて、対策委員関係の集まり。それも全員じゃなくて、参加するのは俺と議長のアオ、それから奈々だ。
「みんな来たね。おはよー」
「おはようございます」
「すみません、俺の時間に合わせてもらって」
「いいのいいの。むしろ戻ってきたばっかりでよくやるねえ。若いっていいわ。ねえカズ」
「ホントですよね。でも、ダイさんも十分若いですよ。いくつも仕事やるバイタリティが凄いです」
そう、今日の打ち合わせは夏合宿講師をお願いした向島の水沢さんと、それから伊東先輩に来てもらっている。伊東先輩は講師ってワケじゃないんだけど、合宿に参加する半数の人間の運命を左右する例のアレにまつわるお願いのために来てもらった。
「あの、よかったらこれ。お土産です」
「わざわざありがとね。へー、レモンパイ。夏っぽくていいね」
「タカシサンキュ。紅社だったらまんじゅうかと思ったけど」
「最近はレモン推しですね。それで、伊東先輩には例のアレを作ってもらいたいんですね」
「今年もアレ、やっぱやるんだ」
「やりますね。恒例行事なので」
「今年は何人が合格するかなー」
アレというのは、夏合宿恒例のミキサーテストのこと。最初のミキサー講習で、現段階でどれくらいミキサーのことを理解しているかというペーパーテストを受けることになっているんだ。ちなみにアナウンサーにはそういう試験はなし。
合格のボーダーも設定されていて、それに届かなければ罰ゲームが用意されている。ちなみにこのテスト自体が罰ゲームを楽しみたいがための茶番とか余興めいた性質が主だったとは今春卒業した城戸先輩が言っていたように思う。
去年のテストは城戸先輩が作ってくれた「伊東先輩がギリギリ満点を取れないレベル」のものだった。今年は伊東先輩にテストを作ってもらうことになったんだけど……怖いよね。みんなは「カズ先輩優しいしテストも簡単にしてくれるかな」って言ってたけど。そうじゃないんだよ伊東先輩は。
「一応これが今年の初心者講習会でやった講習内容です。今回パソコンの扱いについては試験範囲外ということでお願いします」
「オッケー了解。パソコンは試験範囲外っと。で、難易度だけど。アオ、簡単すぎてもつまんないっしょ?」
「そうですね。簡単すぎず、難しすぎない範囲でお願い出来ればと」
「そしたら、野坂がギリ満点取れないくらいのレベルにしとこうか」
「そうですね、それくらいで」
「――ってカズ先輩ッ!? 野坂先輩が基準のペーパーテストとか鬼畜の所業っす! うっすうっす」
「でも、去年も俺がギリ満点取れないレベルに設定されてたし、その年のミキサーでそこそこ力ある奴に満点を取らせないくらいがちょうどいいかなって」
MBCCの人間だけが知る伊東先輩の鬼っぷりは、リクエスト番組やインフォメーション練習の時に現れる。突如投げられるその紙の中身は実際に起こり得る事象を例にしながらも、とにかく要求される内容がアナ泣かせだったりミキ泣かせだったりする。
それはミキサーテストでも現れるんだろうなと思っているから、みんなが「優しい先輩ならテストも易しく」とか言ってるのにも遠い目をするしか出来なかったワケで。しかも基準が野坂先輩ときた。野坂先輩と言えば、去年のミキサーテストを98点でトップ通過した実績がある。
「去年野坂はPre Fader Listeningのスペル間違いだけで実質満点だったよね。俺がバツにしたから98点だったけど」
「そーなんすよ! しかもケアレスとかダイさん他の子には甘めにつけてたんですよね?」
「そーね。絶対満点取らせたくねーって思って野坂だけバツにしたのよ。ま、向島の子だし許されるでしょ的なノリでね」
「まあ、実際野坂を基準にしたペーパーテストなんか作る俺の力量が追い付かないっていうね。タカシにギリ満点取らせないレベルにしとくか」
「えっ、俺ですか!?」
「咲良さんが作った鬼畜仕様のテストで1年が85点の5位通過ってのは何気に衝撃だったからな。今年はもっと取って当たり前、95点以上取って1位通過出来なかったらその時はわかってるよな?」
「ですよねー」
「あっ、もちろん1年生の子の合格ラインは低めにしとくし安心してもらって」
そうなると俺の得意分野であるパソコンが試験範囲外なのがちょっと辛い。まあでも、今年は3年生の参加者がいないし2年生がしっかりしないといけないから、俺がやんないといけないんだろうなあ。でもペーパーテストだとアオの方が取りそうだけどなあ。言って星大だし。
「あ。そういや去年緑ヶ丘の1年生の合格ラインって他の大学さんより高めだったよね」
「そう言えばそうでしたね。まあ、タカティは通常の合格ラインも余裕で通過してましたけど」
「タカシ~、今年もMBCCは上げてくか!」
「えっちょっ、伊東先輩…? えーと……ボーダーを上げられると不安な子が若干1名……」
「それをお前とLがどうにかするんだよ」
end.
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毎年恒例ミキサーテストの話が出始めました。今年の問題制作者はいち氏です! それはそうと、次の年の制作者ってノサカとかになるんじゃねーのこれ
去年の思い出なんかもちょこちょこ語られつつ、そういやいち氏は去年トップ通過を命じられてたのにできなかったなあと思い出す。
で、その八つ当たりかパワハラか知らんけど今度はタカちゃんに矛先が向いた様子。ミキサーは実践……もとい現場で鍛えなきゃだからなあ
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