2020(02)

■飛躍のためのアシストを

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「いらっしゃいま……あれっ、水鈴さん!」
「あっ、洋平いたー。バイトお疲れー」
「水鈴さんこそ向舞祭お疲れさまでした~。お仕事はもう終わりですか?」
「そう。それでセルフプチ打ち上げをね。マリンちゃんと」
「あっ、マリンちゃんもいらっしゃい。お疲れさま~」
「お疲れさまですよ」

 向島的には向舞祭で盛り上がりを見せたこの週末、お祭りムードも手伝って店の方もちょっとばかり忙しかった。そして明日からまた頑張りましょうという日曜夜、一仕事終えたお二人様のご来店。でもマリンちゃんなんて珍しいでしょ。
 マリンちゃんと言えば、朝霞クンに対しては粗暴な態度で物騒で発言も多々あるけど根は物凄く真面目で育ちのいいお嬢さんっていう感じ。プロデューサーとしてはメグちゃんを目標にしてて、つばちゃんにも心酔してるんだよね。

「とりあえず5種盛り2つと、アタシ生中。マリンちゃん何飲む?」
「マリンちゃん、最初はウーロン茶にする~?」
「あっ、えっと、今日は大胆に……えっと、甘いめのお酒はあるですか」
「果実酒のソーダ割とかにしとく? 林檎酒とかだと飲みやすいよ」
「じゃあ、それでお願いするです」
「は~い。しばしお待ちを~」

 お酒もあんまり飲み慣れてないんだよねこの子。その辺はメグちゃんとつばちゃん(あとカンノ君)の影響なんか全然受けてないって感じ。同じつばちゃんに憧れてるみちるちゃんはお酒も大好きみたいだけど。店にもたまに来てくれてるし。

「でも、水鈴さんとマリンちゃんなんてなかなか珍しい取り合わせですね~」
「そう? 向舞祭の会場の中だったら全然珍しくないけどね。同じ星ヶ丘の放送部って共通点があるだけでも」
「本当に、水鈴さんにいてもらえて良かったですよ。私はプロデューサーで、普段から人前で喋るワケじゃないですよ。所詮はアシスタントですけど、メインMCが知った人ってだけで全然違いましたですよ」
「去年のアシスタントの子からも全く同じことを聞いたなあ」
「この感じだと、しばらく水鈴さんのアシスタントは星ヶ丘が続きますかね~」
「キーッ! 今のはナシですよ! 朝霞なんかと同じ感想を抱いただなんて! 奴と同じ次元だとか! 私はアナウンサー兼プロデューサー、APとしてアナウンサーの仕事も完璧にこなすですよ!」

 何を隠そう、去年水鈴さんのアシスタントをしていたのは朝霞クンで、朝霞クンも自分が付くのが水鈴さんで良かったって言ってたんだよね。尤も、朝霞クンは水鈴さんだからこその緊張感も抱いてたみたいだけど。
 朝霞クンを目の敵にしてるマリンちゃんだから、向舞祭MCを終えて抱いた感想が朝霞クンと一緒だったっていうのですらイヤみたい。いくら自分は違うタイプのPになりたくっても、それくらいは別にいいと思うんだけどね~。

「はい、ご注文の品で~す」
「ありがと。はいかんぱーい」
「乾杯です」
「あー、一仕事終えた後の一杯は最高だー。そうだマリンちゃん、洋平に用事があったんでしょ?」
「えっ、俺に? 何か怒られるようなコトしたっけ」
「違うですよ。えっ、と……ステージMCとしての技量の話ですよ。丸の池の後、つばめ先輩から指摘されたですよ。APの看板を下ろしてないならアナウンサーとしての自分の使い方を考えろって。でも、私には圧倒的にアナとしての技量が足りてないです」
「まあ、そうだよね。なかなか片手間で出来ることじゃないし」
「これからアナウンサーとして海月がやるべきことを、洋平さんがつばめ先輩に伝えたって聞いたです。なので、私も聞きたいですよ。アナのことはアナに聞けですよ」

 言ってしまえば俺も朝霞クンの一派の扱いだから、直接殴り込むにはなかなか勇気が要ったらしい。そこで、中継役としての水鈴さんだったみたい。でも、こうやって聞きに来るってことは、やる気はあるんだよね。さて、どうした物か。

「そもそもマリンちゃんはPだから、海月ちゃんと全く同じってワケにいかないのはわかる?」
「それはわかりますです」
「あくまでメインMCは海月ちゃんとして、マリンちゃんがやるのは今日と同じ。アシスタントでいいんだよ。1人MCって何気にめっちゃしんどいの。メインMCからしても、ここぞと言うときにアシさんがいてくれるとかなり心強い。ですよね水鈴さん」
「だね。うん」
「それで何が必要になるかって言ったら、アナウンサーとしての技量もだけど、AP……このAはアナウンサーじゃなくてアシスタント、2番手のPとの連携」
「2番手のP」
「彩人クンとの連携と意志疎通が絶対不可欠。もし自分がアナウンサーとして壇上にいても、彩人クンが回せるようにしとかなきゃいけない。確かにPとしてはライバルかもだけど、ステージやるときに内輪で潰し合ってちゃお笑いでしょ」
「です」
「彩人クンにプロデューサーとしてのサポートをしてもらっちゃおう。アシスタントがいてくれるから、マリンちゃんがもっといろんなことを出来るようになるんだよ」

 アシスタントっていうのはなかなか朝霞班にはない概念だけど、人数の増えた戸田班だからこその競争や協力の仕方があるんだろうね。みんなやる気があってよろしいでしょでしょ。

「サポートです?」
「つばちゃんも、Dの仕事をみちるちゃんにサポートしてもらってるから班長業に手が回ってる、ああいう感じだよ」
「なるほどです! よくわかったです! まずは彩人ともっとコミュニケーションを取るですよ!」
「うんうん。そういうところから始めて~」


end.


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丸の池が終わった当日、ディレクターズが打ち上げに来ていた玄ですが、向舞祭後のMCさんたちもプチ打ち上げにやって来たようです。
どうやらマリンもアナウンサーとしての自分の使い方というのに悩んでいた様子。中途半端な状態でステージには上がれないとも考えていそう。真面目だから逆に。
秋学期からの戸田班にも注目ですね。プロデューサーたちはどんな風にステージを作り上げていくんでしょうか

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