2017(02)

■もちもちの夢と現実

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「あっ野坂さん、そこでお茶をしていきませんか」
「いいけど、俺が食うモンがねーんだよ」
「何を言いますか、ういろうがあるじゃないですか。さっ行きますよっ!」
「あ~れ~」

 今日は久々に外に遊びに出た。星港市の中心街・花栄からちょっと歩いたところにある商店街だ。この商店街のごちゃっとした感じや何とも言えないカオスな雰囲気は独特だ。それと、俺の用事がほとんど済むところがありがたい。
 こーたとはゲーセンに行ったり食べ歩きをしたりする。まあ、主にゲーセンかな。電気街も近いからそういう店に行ったりもする。なるほど、そういうことばっかりやってるから俺たちは彼女が出来ないんだ。
 半ば無理矢理引き摺られて入ったのは、ういろうを主力商品とする老舗。こーたはういろうをポッキー食いするほど好きで、その他和菓子も大好きだ。あんこが嫌いな俺にはとても理解が出来ない。

「あっ野坂さん、ケロちゃんまんじゅうに秋の新作が出てますよ」
「でもあんこはあんこだろ」
「おいもあんですって。あずきの餡子じゃないですし、ド偏食の野坂さんにも食べられるんじゃないですか?」
「お前ド偏食って。言うほど好き嫌いはないぞ」
「何を言ってるんですか。餡子にキノコ類に魚介類。“類”で束ねられる時点で相当ですよ」

 これに関しては反論しようがない。こーたは実際辛い物以外なら大体食べてる印象があるし、MMPじゃ俺が偏食をどうこう言えるのは菜月先輩くらいだろう。菜月先輩の偏食は俺以上だ。

「生クリームが恋しい……」
「何を言ってるんですか。たまには和菓子であっさりとした間食というのも悪くないでしょう」
「あっさり? お前を見てると和菓子があっさりっていう概念がどっか吹っ飛ぶ」
「和菓子はいいですよ。見た目にも美しく季節を感じられますよ。それに品のようなものですか? それを感じられるのが、この国に生まれてよかったと思いますね」
「洋菓子にだって品はあるだろ」
「黙らっしゃい。今は別に和菓子洋菓子論争をやってるんじゃないんです。私はどちらも好きなんですから」
「だからメタボなんだな」
「お黙りっ!」

 ういろうをもちもちと食べながら、俺は恨み節のようにネチネチと呟き続けるのだ。はあ、生クリームが食べたい。どうせお茶をするならケーキとか、洋菓子系がよかった。それか唐揚げだな。
 大体、ういろうは一口サイズをちびちびと食べる物だと思っていたけどこーたは丸一本をそのまま齧るから品もクソもない。カジュアルにも程がある。

「ういろうと言えば発声練習の外郎売ってありますよね」
「ああ、アレだろ。拙者親方と申すは以下略ってヤツ」
「よく覚えてますね」
「一時期三井先輩がやたら発声で推してただろ」
「そんなこともありましたねえ」
「発声練習自体やらなくなるのはMMPあるあるだしなあ」
「ですねえ」

 ずずー、とお茶を。
 外郎売の現代語訳とか外郎とは何ぞやということを調べてみたこともあるけど、ここでは割愛。菜月先輩曰く、授業で外郎売をやってから急に熱が入ったとのことで、いずれ過ぎ去る波だった。とのこと。

「ああ、そう言えば。自宅用のケロちゃんまんじゅうを買おうと思ったんでした。おいもあんですしね。野坂さんもお母さんに買って行ったらどうです?」
「職場近いし欲しかったら自分で買うだろ」
「まあ、あなたってそういう人ですよね」
「うるせえウザドル。あー、唐揚げ食いてー」
「食べたらいいんじゃないですか? そんなことを言っていたら私も食べたくなってきましたね」
「食欲の秋かよ。いや、お前は年中だったな」
「野坂さんには言われたくありませんよ」

 ずずーとお茶を片付けて、立ち上がる。なるほど、色気もクソもない。こんなことをやっているから俺たちには彼女もなくむさい男二人でお茶をすることになるんだ。

「タピオカもいいですね」
「やめろ、タピオカを汚すな」
「はあ!? 突然何なんですかあなたは!」
「俺は未だ見ぬ彼女とタピオカミルクティーを飲むと決めてるんだ」
「はいはい、野坂さんはイケメンですけど所詮詐欺ですからね、夢のままで終わりますよ」


end.


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無駄にノサ神がきゃっきゃしてるだけの回。この2人はたまに遊んでいます。
ノサカはアンコダメだし神崎はアンコ大好き。ノサカがやたら和菓子に残念な感じだけど、ういろうの好き嫌いはどうなのかしら。嫌いではないんだろうけど。
未だ見ぬ彼女=菜月さんとデートをしながらタピオカミルクティーを飲むという妄想か……いつか叶うとイイネー

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