2020(02)
■涼しい部屋のテレビから
++++
厳密には昨日からだけど、この週末、星港中心街をはじめとした向島エリア一帯で向舞祭というお祭りが開かれている。チームを組んで、路上で踊るっていう、ヨサコイ系のお祭り。すごく盛り上がるけど、逆に他の用事で街にはなかなか出られない。
だけどお祭り気分はちょっと味わいたかったから、お盆休みに実家に帰らなかったみちるの部屋で向舞祭中継を見ていた。みちるは向舞祭自体を知らないみたいだったけど、様子を見るにはテレビを見てみようということでチャンネルを合わせた。
冷えたキュウリを梅しそソースにディップしながら、昨日各地のサテライト会場で行われていた予選の映像を見る。サテライト会場でも結構な人だから、花栄なんかとんでもないことになってるんだろうな。
「こういう人が集まってぎしぎしになるお祭り、みちるの地元にはなかった?」
「踊るタイプはあんまり覚えがないなあ。花火大会とか、コンサートとかなら。あと、オタク系のイベントの日はどこどこに行かない方がいいとかはあったな」
「って言うか、普通にスルーしてて今まで聞いたことなかったけど、みちるって出身どこ?」
「東都だよ。普通に区内」
「東都!? 何でそんな都会の人が星港なんかに来たの!?」
「東都にいたら大体のことは間に合うから、外になかなか出ないでしょ」
「そうだね。まあ、言ったら難だけど星港も一応都市だし大体間に合うよ」
「うん、そこまで派手に生活水準を落としたくなかった結果の星港だと今になって思う。本当の田舎に行く覚悟はなかった」
テレビには、歩くのもままならないほどの人がぎゅうぎゅう詰めになってお祭りを楽しんでいる様子が映し出されている。私はおしくらまんじゅうに勝つ自信がなかったから引きこもってるけど。満員電車も辛いもんなあ。
星港という街について、山羽から出て来た彩人は「やっぱこれが星港、都会だよなあ」と納得している感じだけど、本当の都会から出て来ているみちるには「これくらいなら歩きやすいなあ」という感覚なんだって。
『それでは、中継です。丸の池公園会場にいる、水鈴ちゃーん?』
『はーい! こちら向舞祭・丸の池公園サテライト会場です! 今日は昨日にも増して人出と熱気が凄いです! 皆さんこんにちは、リポーターの岡島水鈴です! 今日はここ、丸の池公園会場の司会進行を勤めさせていただきます』
向舞祭のテレビ中継は毎年地元局が交代でやってるんだけど、今年は水鈴ちゃんがレギュラー持ってる番組の局が担当だから、こうやって中継も水鈴ちゃんに飛ばしてもらえるんだよね! く~っ、水鈴ちゃん今日も可愛いなあ!
「みちる~っ! 水鈴ちゃんが今日もか~わ~い~い~! 水鈴ちゃんが同じ放送部の出身なんて、は~…頑張らなきゃ~…!」
「そうだね。そう言えばインターフェイスの定例会の人も各地にアシスタントとして飛ばされてるんだってね」
「あ、そうなんだ。全然知らなかった」
「朝霞さんが言ってたよ。定例会は毎年向舞祭を手伝ってるって。朝霞さんは去年水鈴さんのアシやってたんだって」
「えー! ズルい! 私も水鈴ちゃんのアシスタントやりた、ん?」
「海月?」
「――と思ったけど、私なんかが水鈴ちゃんの横に立つだなんてそんなの烏滸がましすぎない? 実力なさ過ぎじゃん。もっと頑張らなきゃ~…!」
「目標があるのは良いことだけどね。マリンさんに来年定例会にしてもらえるよう頼んだら?」
水鈴ちゃんと会うこと自体は6月にあった洋平さんの誕生会で叶ってるけど、やっぱりお仕事の姿がキラキラしてるなって思うワケで。普段の姿も憧れではあるけど、ああいう素敵なMCになりたくて私は放送部に入ったからね。
やっぱりね、MCとしての水鈴さんって憧れの的なんだよね。洋平さんも水鈴さんに憧れて同じ班に入って、班を変わってからも水鈴さんのようになりたくてイメージしながらやってたって言ってたもんね。気持ちが分かりすぎて辛い。
「そう言えば、インターフェイスに水鈴さんの妹さんがいるんだってね」
「えっそうなの!? って言うかみちるが知ってて何で私はそれを知らないの!?」
「……それは、海月が水鈴さんの熱狂的なファンだから言ってもらえてないんじゃないかな」
「あ、逆に」
「うん」
「水鈴ちゃんのSNSとか見てたらたまに妹さんの話とかあるんだよ。仲いいなーって思いながら見てたその人が!? インターフェイスに!? いるの!?」
「いるね」
「別に妹さんに詰め寄って水鈴ちゃんのプライベートを暴こうとかそんなこと考えてないのに。え、そんなに過激派に見えちゃってる?」
「見えてるね」
「って言うかそんな度胸あるなら水鈴ちゃんのいるところには全部押し掛けてると思うんだよ。今日だって丸の池公園の現地に行ってるよ」
「本当なら水鈴さんのいるいないに関わらず、ステージMCとしては生きたステージを見て勉強した方がいいんだろうけどねえ、海月さん」
「うっ。ちょっ、みちる誰の受け売り!? 戸田さん!?」
「戸田さんと朝霞さん」
「う~……明日、涼しかったらね! 責任取って付き合ってよみちる!」
「え、私も?」
テレビからは、人と音が繰り出す熱気が伝わってくる。確かに生きたステージのそれには敵わないのはわかるけど。この暑い中、外に? う~ん、対策をしないとなかなか厳しいよね~。暑い暑い。
end.
++++
彩人とみちるっていう組み合わせはちょこちょこやってましたが、最近は海月みちるが多め。彩人は実家に帰ってるからね。
今年度は向舞祭についてあんまり触れてなかったのですが、おまけ程度にちょっと。定例会サイドの話は来年以降ちょこちょこやりたい
水鈴さんの妹さんの件については逆にっていうのが正解。ファンの放置が一番危ないという事案が去年とかにあったからね
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厳密には昨日からだけど、この週末、星港中心街をはじめとした向島エリア一帯で向舞祭というお祭りが開かれている。チームを組んで、路上で踊るっていう、ヨサコイ系のお祭り。すごく盛り上がるけど、逆に他の用事で街にはなかなか出られない。
だけどお祭り気分はちょっと味わいたかったから、お盆休みに実家に帰らなかったみちるの部屋で向舞祭中継を見ていた。みちるは向舞祭自体を知らないみたいだったけど、様子を見るにはテレビを見てみようということでチャンネルを合わせた。
冷えたキュウリを梅しそソースにディップしながら、昨日各地のサテライト会場で行われていた予選の映像を見る。サテライト会場でも結構な人だから、花栄なんかとんでもないことになってるんだろうな。
「こういう人が集まってぎしぎしになるお祭り、みちるの地元にはなかった?」
「踊るタイプはあんまり覚えがないなあ。花火大会とか、コンサートとかなら。あと、オタク系のイベントの日はどこどこに行かない方がいいとかはあったな」
「って言うか、普通にスルーしてて今まで聞いたことなかったけど、みちるって出身どこ?」
「東都だよ。普通に区内」
「東都!? 何でそんな都会の人が星港なんかに来たの!?」
「東都にいたら大体のことは間に合うから、外になかなか出ないでしょ」
「そうだね。まあ、言ったら難だけど星港も一応都市だし大体間に合うよ」
「うん、そこまで派手に生活水準を落としたくなかった結果の星港だと今になって思う。本当の田舎に行く覚悟はなかった」
テレビには、歩くのもままならないほどの人がぎゅうぎゅう詰めになってお祭りを楽しんでいる様子が映し出されている。私はおしくらまんじゅうに勝つ自信がなかったから引きこもってるけど。満員電車も辛いもんなあ。
星港という街について、山羽から出て来た彩人は「やっぱこれが星港、都会だよなあ」と納得している感じだけど、本当の都会から出て来ているみちるには「これくらいなら歩きやすいなあ」という感覚なんだって。
『それでは、中継です。丸の池公園会場にいる、水鈴ちゃーん?』
『はーい! こちら向舞祭・丸の池公園サテライト会場です! 今日は昨日にも増して人出と熱気が凄いです! 皆さんこんにちは、リポーターの岡島水鈴です! 今日はここ、丸の池公園会場の司会進行を勤めさせていただきます』
向舞祭のテレビ中継は毎年地元局が交代でやってるんだけど、今年は水鈴ちゃんがレギュラー持ってる番組の局が担当だから、こうやって中継も水鈴ちゃんに飛ばしてもらえるんだよね! く~っ、水鈴ちゃん今日も可愛いなあ!
「みちる~っ! 水鈴ちゃんが今日もか~わ~い~い~! 水鈴ちゃんが同じ放送部の出身なんて、は~…頑張らなきゃ~…!」
「そうだね。そう言えばインターフェイスの定例会の人も各地にアシスタントとして飛ばされてるんだってね」
「あ、そうなんだ。全然知らなかった」
「朝霞さんが言ってたよ。定例会は毎年向舞祭を手伝ってるって。朝霞さんは去年水鈴さんのアシやってたんだって」
「えー! ズルい! 私も水鈴ちゃんのアシスタントやりた、ん?」
「海月?」
「――と思ったけど、私なんかが水鈴ちゃんの横に立つだなんてそんなの烏滸がましすぎない? 実力なさ過ぎじゃん。もっと頑張らなきゃ~…!」
「目標があるのは良いことだけどね。マリンさんに来年定例会にしてもらえるよう頼んだら?」
水鈴ちゃんと会うこと自体は6月にあった洋平さんの誕生会で叶ってるけど、やっぱりお仕事の姿がキラキラしてるなって思うワケで。普段の姿も憧れではあるけど、ああいう素敵なMCになりたくて私は放送部に入ったからね。
やっぱりね、MCとしての水鈴さんって憧れの的なんだよね。洋平さんも水鈴さんに憧れて同じ班に入って、班を変わってからも水鈴さんのようになりたくてイメージしながらやってたって言ってたもんね。気持ちが分かりすぎて辛い。
「そう言えば、インターフェイスに水鈴さんの妹さんがいるんだってね」
「えっそうなの!? って言うかみちるが知ってて何で私はそれを知らないの!?」
「……それは、海月が水鈴さんの熱狂的なファンだから言ってもらえてないんじゃないかな」
「あ、逆に」
「うん」
「水鈴ちゃんのSNSとか見てたらたまに妹さんの話とかあるんだよ。仲いいなーって思いながら見てたその人が!? インターフェイスに!? いるの!?」
「いるね」
「別に妹さんに詰め寄って水鈴ちゃんのプライベートを暴こうとかそんなこと考えてないのに。え、そんなに過激派に見えちゃってる?」
「見えてるね」
「って言うかそんな度胸あるなら水鈴ちゃんのいるところには全部押し掛けてると思うんだよ。今日だって丸の池公園の現地に行ってるよ」
「本当なら水鈴さんのいるいないに関わらず、ステージMCとしては生きたステージを見て勉強した方がいいんだろうけどねえ、海月さん」
「うっ。ちょっ、みちる誰の受け売り!? 戸田さん!?」
「戸田さんと朝霞さん」
「う~……明日、涼しかったらね! 責任取って付き合ってよみちる!」
「え、私も?」
テレビからは、人と音が繰り出す熱気が伝わってくる。確かに生きたステージのそれには敵わないのはわかるけど。この暑い中、外に? う~ん、対策をしないとなかなか厳しいよね~。暑い暑い。
end.
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彩人とみちるっていう組み合わせはちょこちょこやってましたが、最近は海月みちるが多め。彩人は実家に帰ってるからね。
今年度は向舞祭についてあんまり触れてなかったのですが、おまけ程度にちょっと。定例会サイドの話は来年以降ちょこちょこやりたい
水鈴さんの妹さんの件については逆にっていうのが正解。ファンの放置が一番危ないという事案が去年とかにあったからね
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