2020(02)

■広げるスケール

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「おっす。いやー、あっちいわ」
「暑いよねー。早くどこかカフェとかに入ろう」
「そうだな」

 班によっては地元に帰省する人が多くて合宿の打ち合わせがままならなくなるところもあるらしいけど、エージ先輩率いる2班にはそんなことは関係ない。世間では盆休み真っ只中だけど、ここで差をつけるべく今日はくららと打ち合わせだ。しかしあっつい。また熱中症になりそうだ。

「あっ、せっかくだしかき氷とか食いに行く? 花栄だったら専門店もあるだろうし」
「いいけど、かき氷食べながら打ち合わせって出来なくない?」
「……じゃあ、先に打ち合わせ! それが終わったらかき氷! それでいいだろ!」
「うん、いいよ」

 まずは適当なカフェに入って、それぞれの飲み物と、俺はハンバーガーを頼む。普通に腹減ってんだよな。家から花栄までは電車で1時間。大学に行くよりは早いけど、それでも1時間ってのは長い。腹減るんだよな。でもってそんなときに限って向かいのヤツがハンバーガー食ってたりするから。

「そう言えばシノ、こないだウチのステージ見に来てくれてたんだってね」
「あれ、誰から聞いた?」
「彩人から。緑ヶ丘の友達と来てくれてたって」
「そうなんだよ。せっかくだし見とくかーって。ほら、お前がステージ上でどういう喋りをすんのか見たかったし、ステージならではの音の使い方とか勉強したいなと思って」
「シノって意外に真面目だよね」
「意外って何だよ。つか、お忍びのつもりだったんだよ。まさかバレてるとは思わなかった」

 ステージならではの音の使い方とかを勉強したいと口では言ったものの、実際は熱中症でしんどくて勉強どころじゃなかったっていうな。親切な人(後から聞いたらそれはくららたちの先輩だったらしい)がくれた経口補水液と凍ったアクエリで何とか耐えたって感じで。
 こっそり見に行って、くららを分析して。それでこうやってまたくららがラジオに戻って来た時にその分析結果を踏まえてリードしたかったんだ。でも、バレてるなら仕方ない。熱中症で死んでたっつってもくららがステージをやってた時はちゃんと見てたんだ。

「それで、見ててどうだった?」
「ステージならではのスケールがすげーなって思った」
「それはそうだけど、私のことだよ。アナウンサーとして、ちゃんとやれてたかなって。ステージ終わった時ね、本当に何も覚えてなくて、立ってるだけで精一杯だったんだよ。後から映像を見直しても、こんなことやってたっけって」
「あー、確かに余裕はなさそうだったわな」
「あ、やっぱり」
「や、ゴメン。偉そうに」
「いいって、私がどうだったか教えてって頼んでるんだから。率直に言ってもらった方が助かる」
「それじゃあ、遠慮なく」

 ステージの内容は、まあ、こんな感じなんだって感じでそれが基準。だからいいも悪いもない。だけどラジオやステージっていうのを度外視しても、アナウンサーの技量でこれはちょっと気になるなっていう部分はあるにはあった。
 見ていて気になったのは、ステージの広さの割にくらら自身が凄く小さかったなということ。それっていうのは、視線だとか、動きだとか。せっかく遠くまで見える壇上にいるのに手元の台本を見ている時間がちょっと長いなとか、広い屋外なのに、動きが小さいなとか。

「台本を見てる時間が長いってのは反省会でも言われたよ。もうちょっと覚えれば台本見なくても大丈夫だからって」
「いや、それもそうかもしれないけど、俺はちょっと違うと思う」
「どういうこと?」
「場数が足りないっていうのは措いといて、そもそも、自分の喋ることを人任せにしてるから台本が手放せなくなるんだ」
「でも、ステージの台本を書くのはプロデューサーで」
「そうかもだけど、実際喋るのはお前じゃん。ステージの上で、一般のお客さんも呼んで企画やってんだろ? そんな中で一言一句台本通りになんか進まねーよ。結局のところ、壇上にいるアナウンサーが自分の判断と言葉で回せるようにならなきゃいけないっつーことじゃんな」
「は~…! 難しい! シノの言ってることはわかるよ。でもやれるかなあ」
「それをやれるように、インターフェイスのラジオで練習するんだよ。自分のトークは自分で考える。公開生放送っつーライブの場で、途中で何が飛んでくるかわかんない番組を回すんだ。でも、それをお前ひとりで背負わなくていい。何をやりたいか教えてくれたら、それが実現出来るように俺も考えるし、練習する。俺たちですげーのぶちかまそうぜ」

 こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、インターフェイス夏合宿は、いつかすげーのぶちかますための経験を積む場所であって、所詮は練習だ。練習の場だから、やってみたいことを試験的にやって、どんどん実験していくべきだと思うんだ。いつか来る本番に、ガツーンとぶちかます。これだろ。

「トークなぁー! 難しいなぁー!」
「とりあえず、かき氷食いながら考えようぜ」
「戻って来たなあ。それで、どこの店行く?」


end.


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やりたいやりたいと思っていたシノくら。この話の中では全然かき氷食べてないけど、シノは頭痛くなってそう。
シノが合宿以前と合宿後ではミキサーの技術的なことだけじゃなくて視野の広さとかでいろいろ成長するといいなあと。
そして意図せず話が出て来たのはアナウンサーのラジオ的アプローチ。彩人にも師匠からそういう話がされるんでしょうか

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