2020(02)
■食べ継ぐ思い出の味
++++
「ちーいー、いるー?」
「はーい。あっ、あずさ。上がってー」
「ハルちゃんは?」
「寝てる」
お盆の間はバイトも休みだし市民プールもお休み。だから正直やることがなくて困ってるんだけど、暑さが引いた頃に行きたい温泉について調べるのには良い期間かなって。9月ごろがいいかなと思うけど、忙しいんだよね。連休もらえるかな。
あずさがタッパーを持って遊びに来た。この季節には、野菜をそのままくれたりあげたり、作った物をお裾分けしたりされたり。夏野菜って、ちょっと育ててるだけでも結構いっぱい採れちゃうみたくて。家庭菜園が簡単に出来るんだったらやってみる価値はありそうだけど。
「これ、作ったんだけどちょっと食べてみて」
「何か、あずさの作る物にしては簡素と言うか、素朴だね。これ、キュウリの漬け物?」
「キュウリの浅漬けと、ほうれん草のおひたし。ほら、こないだあたしが合宿でひーひー言ってる時に!? ちーたち海でバーベキューしてたじゃん!」
「そ、そうだね……。お疲れさまでした」
「ほんとに。その時なんか珍しいお醤油について言ってなかった?」
「うん。緑風の醤油の話はしてたよ。朝霞とアニが送ってくれーってなっちに言ってて」
「それが朝霞クンの部屋にもう届いたって招集されて、一緒に使い方を模索してたんだよ」
「あ、そうなんだ。なっち、仕事が早いなあ」
多分、なっちが実家に帰ってすぐにその醤油を発送したんだろうね。そうじゃないとこんなに早く届かないと思うし。それが朝霞の帰省前だったから、あずさを招集して一緒に研究してたのか。確かに、料理関係のことだったらあずさがいてくれると心強いもんね。
箱の中には、醤油と一緒になっちからの簡単なメモが入っていたそうだ。キュウリを醤油に漬けるのは本当に短い時間でいいことや、あんまり長く漬けすぎると逆に味が濃くなって美味しくなくなってしまうから、タイミングが命であることなんかが書かれてたって。
「うどんに良し、玉子焼きに良しで昨日食べ過ぎちゃって」
「そんなに美味しいんだね。あずさ、これつまんでいい?」
「いいよ。食べて食べて」
まずはキュウリの浅漬け。うん。美味しい。切って漬けるだけだからこれは本当に簡単に出来るそうだ。それから、ほうれん草のおひたし。普段おひたしは普通の醤油で作ってるけど、この浅漬けを踏まえてどんな味なのかが楽しみだ。
うちでおひたしって言ったら、付け合わせもだけど、三食丼の具っていう印象が強い。うちの三食丼の具は卵と肉とおひたし。伊東さんの家ではおひたしじゃなくて鮭だって言ってたから、家によって具が違うんだろうね。それに倣って自分でおひたしを作るけど、なかなか母さんの味にはならなくって。
「じゃ、いただきまーす。……ん?」
「美味しくなかった?」
「ううん。……ん?」
無意識に、ご飯をよそいに行っていた。ごはんの上におひたしを乗っけて、一緒に一口。そのまま食べかけのお茶椀と箸を置いて、兄さんの部屋に走る。寝てる兄さんを叩き起こして、台所まで引き摺って来て。何が何だかわかっていない兄さんにとにかく食べてと強く勧める。
「ねえ兄さん、俺、これだと思う! 母さんのおひたしの味なんだよ」
「それじゃあ、いただくわね」
「どう…?」
「ちょっと濃いけど、多分アタシたちが知ってる物の中では一番近いわ」
「だよね!」
自分1人だけの記憶と味覚だけじゃ、こうだって思っても確証が持てなかったから兄さんにも味を見てもらった。兄さんも自分たちの知ってる中では一番近いって言ってるから、きっと俺の直感は間違ってなかったんだと思う。
「ちー?」
「あずさ、ありがとう。多分これが母さんが使ってた調味料に一番近い物だと思う。兄さん、このおひたし、こないだのバーベキューでなっちが言ってた緑風の醤油で作ったんだって」
「緑風。それは本当に盲点だったわね。本当にローカルな醤油だって言ってたものね菜月ちゃん」
「おばさん、緑風に何か縁があったっけ。親戚がいるとか」
「緑風の花まつりに毎年観光で行ってたんだよ。庭先のチューリップもそこで買った球根で」
「じゃあ、花まつりのついでにお醤油買って帰ってたのかな」
「観光で行ったご当地のスーパーに行くのが好きだったもの。可能性は十分にあるわ」
母さんの使っていた物がこれだっていう候補が絞れたけど、結局それが何なのかまではわかっていない。俺の手元にはないワケだから。うーん、俺もなっちに送ってもらう? でも、それだったらあの時言っとけばよかったかなー、何回も送らせるのは申し訳ない。
「あずさ」
「はいはい?」
「うどんにも玉子焼きにも使えたんだよね?」
「うん。美味しかったよ」
「お取り寄せって出来ないのかな。調べてみたいけど、あずさ、商品名とかわかる?」
「あー、ちゃんと見て来なかったー! ゴメン!」
「大丈夫大丈夫。なっちに聞けばいいし」
通販が無ければ、温泉旅行の行き先を緑風にして、そのついでにスーパーに行って来ればいいだけのことだからね。そうとなったら緑風の温泉を調べないと。
end.
++++
○年前にちーちゃんのバイト話で母のおひたしの話があったんですね。なかなか再現できないなーって。フェーズ2で回収。
あと何気に朝霞Pはちょっと帰省が遅めだったのかしら。学生だしあんま関係ないけど。もしかしたらUSDXの方でもいろいろやってたのかも。
混浴温泉サークルの方も何気に次の話が進んでたのね。9月くらいにヒビちーの緑風出張編があるかしら。
.
++++
「ちーいー、いるー?」
「はーい。あっ、あずさ。上がってー」
「ハルちゃんは?」
「寝てる」
お盆の間はバイトも休みだし市民プールもお休み。だから正直やることがなくて困ってるんだけど、暑さが引いた頃に行きたい温泉について調べるのには良い期間かなって。9月ごろがいいかなと思うけど、忙しいんだよね。連休もらえるかな。
あずさがタッパーを持って遊びに来た。この季節には、野菜をそのままくれたりあげたり、作った物をお裾分けしたりされたり。夏野菜って、ちょっと育ててるだけでも結構いっぱい採れちゃうみたくて。家庭菜園が簡単に出来るんだったらやってみる価値はありそうだけど。
「これ、作ったんだけどちょっと食べてみて」
「何か、あずさの作る物にしては簡素と言うか、素朴だね。これ、キュウリの漬け物?」
「キュウリの浅漬けと、ほうれん草のおひたし。ほら、こないだあたしが合宿でひーひー言ってる時に!? ちーたち海でバーベキューしてたじゃん!」
「そ、そうだね……。お疲れさまでした」
「ほんとに。その時なんか珍しいお醤油について言ってなかった?」
「うん。緑風の醤油の話はしてたよ。朝霞とアニが送ってくれーってなっちに言ってて」
「それが朝霞クンの部屋にもう届いたって招集されて、一緒に使い方を模索してたんだよ」
「あ、そうなんだ。なっち、仕事が早いなあ」
多分、なっちが実家に帰ってすぐにその醤油を発送したんだろうね。そうじゃないとこんなに早く届かないと思うし。それが朝霞の帰省前だったから、あずさを招集して一緒に研究してたのか。確かに、料理関係のことだったらあずさがいてくれると心強いもんね。
箱の中には、醤油と一緒になっちからの簡単なメモが入っていたそうだ。キュウリを醤油に漬けるのは本当に短い時間でいいことや、あんまり長く漬けすぎると逆に味が濃くなって美味しくなくなってしまうから、タイミングが命であることなんかが書かれてたって。
「うどんに良し、玉子焼きに良しで昨日食べ過ぎちゃって」
「そんなに美味しいんだね。あずさ、これつまんでいい?」
「いいよ。食べて食べて」
まずはキュウリの浅漬け。うん。美味しい。切って漬けるだけだからこれは本当に簡単に出来るそうだ。それから、ほうれん草のおひたし。普段おひたしは普通の醤油で作ってるけど、この浅漬けを踏まえてどんな味なのかが楽しみだ。
うちでおひたしって言ったら、付け合わせもだけど、三食丼の具っていう印象が強い。うちの三食丼の具は卵と肉とおひたし。伊東さんの家ではおひたしじゃなくて鮭だって言ってたから、家によって具が違うんだろうね。それに倣って自分でおひたしを作るけど、なかなか母さんの味にはならなくって。
「じゃ、いただきまーす。……ん?」
「美味しくなかった?」
「ううん。……ん?」
無意識に、ご飯をよそいに行っていた。ごはんの上におひたしを乗っけて、一緒に一口。そのまま食べかけのお茶椀と箸を置いて、兄さんの部屋に走る。寝てる兄さんを叩き起こして、台所まで引き摺って来て。何が何だかわかっていない兄さんにとにかく食べてと強く勧める。
「ねえ兄さん、俺、これだと思う! 母さんのおひたしの味なんだよ」
「それじゃあ、いただくわね」
「どう…?」
「ちょっと濃いけど、多分アタシたちが知ってる物の中では一番近いわ」
「だよね!」
自分1人だけの記憶と味覚だけじゃ、こうだって思っても確証が持てなかったから兄さんにも味を見てもらった。兄さんも自分たちの知ってる中では一番近いって言ってるから、きっと俺の直感は間違ってなかったんだと思う。
「ちー?」
「あずさ、ありがとう。多分これが母さんが使ってた調味料に一番近い物だと思う。兄さん、このおひたし、こないだのバーベキューでなっちが言ってた緑風の醤油で作ったんだって」
「緑風。それは本当に盲点だったわね。本当にローカルな醤油だって言ってたものね菜月ちゃん」
「おばさん、緑風に何か縁があったっけ。親戚がいるとか」
「緑風の花まつりに毎年観光で行ってたんだよ。庭先のチューリップもそこで買った球根で」
「じゃあ、花まつりのついでにお醤油買って帰ってたのかな」
「観光で行ったご当地のスーパーに行くのが好きだったもの。可能性は十分にあるわ」
母さんの使っていた物がこれだっていう候補が絞れたけど、結局それが何なのかまではわかっていない。俺の手元にはないワケだから。うーん、俺もなっちに送ってもらう? でも、それだったらあの時言っとけばよかったかなー、何回も送らせるのは申し訳ない。
「あずさ」
「はいはい?」
「うどんにも玉子焼きにも使えたんだよね?」
「うん。美味しかったよ」
「お取り寄せって出来ないのかな。調べてみたいけど、あずさ、商品名とかわかる?」
「あー、ちゃんと見て来なかったー! ゴメン!」
「大丈夫大丈夫。なっちに聞けばいいし」
通販が無ければ、温泉旅行の行き先を緑風にして、そのついでにスーパーに行って来ればいいだけのことだからね。そうとなったら緑風の温泉を調べないと。
end.
++++
○年前にちーちゃんのバイト話で母のおひたしの話があったんですね。なかなか再現できないなーって。フェーズ2で回収。
あと何気に朝霞Pはちょっと帰省が遅めだったのかしら。学生だしあんま関係ないけど。もしかしたらUSDXの方でもいろいろやってたのかも。
混浴温泉サークルの方も何気に次の話が進んでたのね。9月くらいにヒビちーの緑風出張編があるかしら。
.