2020(02)

■なにも変わらない

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「そしたら、今後の予定を確認するね。合宿まであと3週間。だけど、お盆は俺とミドリ、あと、彩人かな。実家に帰るよね?」
「俺は向舞祭があるから帰らないよ」
「えっ、帰らないんだ。彩人はさすがに帰るよね?」
「俺は帰ります」
「その間の打ち合わせはペア間でやる感じで。対策委員から連絡があればまた俺から連絡するので。実戦練習をするなら今週、あとは最後の1週間半が肝になって来るのでよろしくお願いします」

 星ヶ丘放送部の一大イベント、丸の池ステージも無事に終わり、これからはインターフェイス夏合宿に本腰を入れていくことになる。まあ、さすがに最初から自分の書いた本が採用されるとも思ってなかったけど、今回は勉強するための回だと納得して次に向かってまた精進だ。
 朝霞さんからは、ミキサーとして構成の勉強をするのも大事だけど、アナウンサーのラジオ的アプローチも台本を書く上では非常に大事なので余力があればそれも勉強してくれと言われている。つか朝霞さんって同郷だし、帰省してる間もワンチャン修行出来るのでは? ハンバーグでも誘ってみよう。

「彩人、連絡する」
「あ、うん。待ってる」

 ステージが終わって、改めてリクと付き合うことになった。彼氏。……うん、彼氏か。連絡するっていうただの一言にもめちゃくちゃドキドキする。挙動不審になってないよな? ペア間の打ち合わせっていう体の話で通せばいいだけの話なんだから、動揺するな? つか待ってるって。俺からもしろ?

「そしたら今日はこの辺で。お疲れさまでした」
「お疲れさまでしたー」

 ここで班は解散。リクはこれからバイトだというので豊葦方面の電車に乗って行ってしまった。あとの5人で丸の池線の地下鉄に乗ってしばし、俺と高木さんがまず降りる。吹き抜けるホームの風が生温い。

「星ヶ丘はステージが終わって一息つきたかったと思うけど、週の前半に打ち合わせ入れてゴメンね」
「あ、いえ! 全然! 時間は有限なんで早い方がいいっす! と言うか、班編成の段階からいろいろ心配してもらってすみません」
「軽い女性恐怖とは聞いてたけど」
「戸田さんとかマリンさんとか、知ってる人は大丈夫なんすよ。知らない女、特に派手でケバくて臭い女にトラウマが出来たっつーか。すり寄って来られるとアウトで」
「そっか。ほら、俺なんかはただの人見知りで、知らない人と話すのが凄く苦手で黙っちゃうんだけど、彩人はそういうのとも違うって聞いてて。ペア決めとかどうしようかなーって考えて。どう? ササとは上手くやれてる?」
「それはもう。めちゃくちゃ上手くやってます」
「そうだよね。それは見ててわかるよ」

 見ててわかるって、どこまでわかられてるんだろうか。いや、でも普通に考えれば恋愛関係にあるとは思わないよな。だって、リクはレナって子とも付き合ってるし、緑ヶ丘の人だったらそれを知らないはずもない。水、水。落ち着けー、落ち着け俺ー。

「……と言うか、2人、付き合ってる?」
「げほっげほっ! ちょまっ!? 高木さん!? げほっげほっ。あー……」
「大丈夫? 入っちゃダメなトコに入ってない?」
「あー……大丈夫っす。つか、リクに彼女いるの緑ヶ丘の人が知らないはずないっしょ。大体俺は男で」
「あ、ササの恋愛の仕方については聞いてるから」
「言ってるのかよ!」
「佐藤ゼミの人間だからそういうのに偏見ないと思われたみたくて。でも、そういう人ばっかりじゃないから、話すのはちゃんと信頼出来る人だけにしようねとは」
「はは……でも実際高木さんて何話しても必要以上に聞かずに受け入れてくれそうな感じはあるっす。だからリクはちゃんと信頼した上で話したんだとは思いますよ」

 高木さんのゼミがどういうゼミなのかは知らないけど、実際リクがちゃんと選んだ結果の高木さんなんだと思う。のほほんとした感じが今はいい風に働いているし、何を言っても「ああ、そうなんだね」って特別視しなさそうなイメージ。

「あー、まあ、実際付き合い始めたんすけど、俺、そんなに分かりやすかったすかね」
「ううん、ササがわかりやすかった」
「えっ、リクすか? 全然普通だと思ってたけど」
「彩人を見る目がね。何か違うなーって。ああいう話をしてきた後だし、何かあるのかなと思って。班の番組は私情を挟まずちゃんとやるんでって言われたら、ねえ」
「そんなの、俺と何かあるって言ってるようなモンじゃねーか! アイツ、実は相当バカなのか!?」
「バカではないと思うけどね。何と言うか……恋愛が絡むと実直さの制御が出来なくなるのかもしれないね」
「あー……言い得て妙っす。でも、高木さん引かないんすね、男同士で付き合ってるって話聞いても」
「まあ、そういう人もいるんだねっていう、それだけ。中高でもいたし」

 「そういう人もいるんだねっていう、それだけ」という言葉に物凄くホッとしている自分がいる。誰にでも受け入れてもらえる話ではないだろうから、そうやって流してくれる人の存在のありがたみをひしひしと感じている。

「でも、今はオリしか女子がいないけど、合宿本番はいっぱい女子がいるからどうにか対策しないとね。班員は基本的に同じ行動をするけど、ミキサー講習とか」
「ミキサー講習は当麻がいますし、ゴローさんとみちるもいるんで」
「そっか、そうだね」
「つか高木さんもいるじゃないすか! お願いしますよ!」
「ゴメン、素で自分のこと忘れてた」


end.


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ササの根回し(?)が周到なようで、どうも空回ってる部分もありそうですね。タカちゃんの表現が腑に落ちた様子。実直さの制御。
しかしどうやらフェーズ2に入ってからのタカちゃんはちょっと人の様子にも敏感になってますね。さすが先輩だ!
サササイってササの天然ボケを彩人が突っ込んでっていう感じになりそうですね……普段はあんなにしっかりしているというのにササよ


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