2020(02)

■山あり谷ありボリューミー

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 テストが終わって夏休みに突入。大学の夏休みは10月の手前ぐらいまでだから、その間何をしようか凄く悩む。とりあえず、8月末まではインターフェイスの夏合宿もあるしーとは当麻や北星と言っていた。その合間に映像作品を作ったり素材を撮ったりしたいよなって話はしてたんだけど。
 で、今日はペアでの打ち合わせが入っている。俺のペアの相手は青女のわかばさん。この人はおどおどしてる小心者タイプで、パッと見大丈夫かなって不安になる。でも、班の打ち合わせで班長のエージさんから「お前らがうるさいからわかばが引いてんだ」って1年4人まとめて怒られた。それはさすがに言いがかりじゃんなあ。

「雨竜さん、お待たせしました」
「あっ、わかばさんおざっす!」
「あ、あの、ちゃんと聞こえてますよ。もう少し小さな声でも大丈夫です」

 1年生相手なのに普通に丁寧語だもんなあ。まつりに聞いたら青女でもこんな感じだって。さすがに2年生の同期の人たちとはタメ語で喋ってるみたいだけど、インターフェイスの人とは同じ2年生でも丁寧語だもんな。エージさんに対してもそうだし。

「どんなことを話したい、とかは決まりましたか?」
「何となく考えてたんすけど、こんな感じっす!」
「……細かいですね。少し、時間を下さい」

 そう言ってわかばさんは俺が書いてきた番組進行計画という名の台本的な物をまじまじと見始めた。2班のトークテーマは祭りとかそんなようなことで、お前ら派手好きだしちょうどいいだろとエージさんが半ば呆れながら設定したテーマだ。
 1年生4人はやっていいならとことん派手にぶちかますぞと気合を入れてたんだけど、俺もラジオ番組で考え得る最大の効果を使って派手派手にしていきたいなと考えてた。もちろん、ミキサーはわかばさんなので、俺のやりたいことにわかばさんの技量が追いつくかの問題はあるけど。

「なかなか、凄いですね」
「これ、出来ますか?」
「出来ますよ」
「マジすか!」
「あの……もちろん、音を集めるところから始めて、練習をすれば、です」
「でも凄いっすよ! 俺、正直わかばさんのことナメてたっす、すいません!」

 やっぱ、人は印象だけで判断しちゃダメなんだって。まあでも、北星なんかがまさにそうだもんな。普段のふにゃふにゃした様子を見てたらとてもあんなすげーの作るような風には見えねーし。

「あ、SEはAKBCにある効果音集みたいなのも多分使えるんで、それ今度持って来ます」
「ありがとうございます。ですが、このキューシート? 台本を見て、気になることはあります。あの、言っていいですか?」
「あっ、言ってください」
「いろいろな効果を使って番組を盛り上げたいという気持ちはわかりました。ですが、これでは番組の最高潮をどこに持って来たいのかが、わかりません。音の波を書きますね」

 そう言って、わかばさんはペンをとって線を書き始めた。中心に0、それを挟むように引かれたHIGH、LOWという3本の横線の上に俺の番組進行計画を見ながら書き上げられる波は、HIGHのところでペン先がずっと止まっているようにも見える。パッと見、波と言うよりただの棒だ。

「メリハリ、緩急はわかりますか?」
「かんきゅう」
「雨竜さん、スポーツは見ますか?」
「スポーツっすか? ああ、野球とかならちょっと見ます」
「雨竜さんを野球のピッチャーに例えるなら、160キロのストレートを武器に27個の空振り三振を取るタイプに見えます。一球ごとに歓声が上がり、盛り上がって」
「おおー、いいっすねー!」
「ですが、実際プロのピッチャーは、ストレートだけでなくいろいろな球種を使いますよね。カーブに、フォーク、シンカーなど。球の速度もそれぞれです」
「あー、真っすぐを見せた後に落としたりしますもんね」
「この番組進行計画では、ずっと160キロのストレートを投げ込んでる感じなんです。派手なように見えて、単調なんですよね。効果というのは、ここという場所を際立たせるためのものです。ずっと使っていては、何も目立たなくなってしまうんです。160キロのストレートも、ずっと投げていれば目が慣れて、打ち込まれ始めます」
「それじゃあ、基本140キロのストレートを投げてて、ここというところで」
「160キロ。それか、変化球です。攻めのバリエーションを増やしましょう。そのために、何が一番言いたいか、どの効果なら削れるかを一緒に考えましょう」

 俺はわかばさんの言うことに身を委ねて、効果の取捨選択を始めた。あんまりずっとうるさいと派手で楽しいどころか人の脳でノイズ認定されちまうとか、いろいろなことを教えてもらいながら。派手にするために音を削るっていう発想にはならなかったもんなあ。

「でも、わかばさん野球見るんすね。何か意外でした」
「あまり詳しくはないんです。でも、見る分には好きで」
「やっぱポケッツすか?」
「そうですね。たまにドームにも行くんです」
「せっかくっすし、わかばさんに乗ってもらえるトークにしよーっと。野球のお祭りっつったらやっぱオールスターっすか」
「え、その……私の事は、いいので……あと、オールスターは時期的に終わってしまっているので……」


end.


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エイジ班の1年生たちはみんなそれぞれ派手好きでうるさいという感じの子ですが、どうやら大きく成長するチャンスも掴んでいる様子。
そして大人しくておどおどしてる感じのなっちゃんですが、野球をちょっと見てるという新しい一面も出てきました。青女でも語られていいかもね。
人は印象だけで判断できないっていう実例が身内にあるのでスッと納得できた様子の雨竜。北星は確かに凄いもんなあ。

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