2020(02)
■一番長い夏の一日
++++
「それじゃあ2日間、お疲れっした! 次にこの班で何か作るのは作品出展かな?」
「です! 9月が星ヶ丘の順番です」
「っつーことだから、時期が来たらマリンから招集がかかると思うんでよろしく。以上、解散!」
「お疲れさまでしたー」
2日間に亘る丸の池ステージが終わった。公園から機材やテントなどの道具を完全に撤収して、現在は大学にいる。2日間、俺はカメラ番としてステージを見るという仕事をしていた。ステージを知った上で、次こそやってやるぞっていう気持ちが強くなった。
戸田さんとみちるはこのまま飲みに行くらしい。2年生の先輩とお疲れモードの海月は直帰。俺は……戸田さんについてこうかなと、ひとまずスマホをチェックしたときだ。目に飛び込んで来た通知に、これは直帰せざるを得ないと方針を完全に転換した。リクから連絡が入っていたんだ。
「リク!」
「もしかして、結構急いで来てくれた感じ?」
「競輪選手かってくらいにはチャリ漕いでた」
「急がなくていいって言ったのに」
「お前は良くても俺は良くねーんだよ」
うちの近くの“髭”にいますと連絡があって、それを見た瞬間バーッと走り出してた。大学から自転車で一直線。ケーサツがいたら指導されるレベルの運転だっただろう。真面目に事故らなくてよかった。歩行者にぶつかってたら相手を殺してたかもしれない。
「せっかくだし、何か飲んだら? ステージお疲れさまって意味で、ごちそうさせて」
「……それじゃあ、お言葉に甘えて。たっぷりアイスコーヒーでも」
「そこで躊躇なくたっぷりを頼むところが好きだな、やっぱり」
「もう俺はお前のそのナチュラル口説きにはいちいち反応しない。いくら心臓があっても足りねーよ」
押し鈴で店員を呼びアイスコーヒーを注文して、しばしの間。話によれば、リクは俺たちのステージを見に丸の池公園に来ていたらしい。それでこの辺にいたのかと少し納得したんだけど、俺はカメラ番しかしてないのになと、もやもやしていて。
「1人でずっとステージ見てたのか? このクソ暑い中」
「シノと一緒に来てたんだ。合宿のペアの子がどんな風にステージに立ってるのかを見たいって言ってて」
「おー、シノも来てくれてたのか!」
「でも、アイツ熱中症とかで着くなりグロッキーになってさ。普通に焦った」
「え、大丈夫だったんか」
「親切な人が経口補水液と凍ったパウチのアクエリをくれて、それで何とか。ずっと見たかったけど、シノのことを考えて目当てだけ見てすぐ帰ったよ」
「へえ、親切な人がいたモンだな」
親切な人がくれた経口補水液と、冷却材代わりのアクエリで太い血管のある場所を冷やしながらの休憩でシノは何とか元気になったそうだ。暑いだろうとは思ってたけど、そこまでガツガツとした対策はしてなかったそうだから、完全にナメてたなと。
「若い男の人で、その人、友達みたいな人とステージを見ながらすげー分析してるみたいだったから、専門の人かって思ってちょっと引いた」
「あ!? それ、もしかして朝霞さんじゃね!? 背は俺よりちょっと小さいくらいで、今日の服装は白のポロシャツ。髪の色素とかちょっと薄い感じで」
「あー、言われたらそんな感じだったかも」
「隣の部屋に住んでる先輩だよ! 俺たちに差し入れでスポドリとかくれたんだけど、もうそこで熱中症の人いたからお前たちも気を付けろーって」
シノを介抱しながらわたわたしていたリクに助け舟を出してくれたのが多分朝霞さんだったんだろうなって思ったら、何かちょっと嬉しくなってくるな。リクはステージそのものよりもステージを見てる人の方を見ていたかもしれないと振り返っている。
「彩人、アイスコーヒー」
「どーも」
「それじゃあ改めまして、お疲れさまでした」
「あざーす」
「で、本題」
「……本題な。俺たちの関係の話な」
「ですね」
「でも、ここで出来るかって言ったら、ぶっちゃけちょっと。多分俺ヒートアップするし。コーヒー飲んだらうちに来ないか? 本題はそこで、ってことで」
「じゃあ、そうしようか。でも、ただ今をもって、交際関係に入ったことにはしていい?」
「それは、いいです。はい」
こないだリクから告られて、付き合うか付き合わないかの話は「ステージが終わったら付き合う」と先送りにしてたんだよな。で、ステージが終わって至る今だ。何とか式の開会宣言みたいな感じでリクとの付き合いが始まったっぽいんだけど、家でちゃんと話はまとめておかないと。
「晩飯どうしよう。ちょっと豪勢にしたいなー。肉か? ビール飲みてーなー! え、飲みに行く? 行っちゃう?」
「俺は何でも」
「何でもが一番困る。ちなみに今日の俺は作る気力なんかないとは言っとくぞ!」
「じゃあ、飲みに行くか。でも、店は彩人に任せる。俺、土地勘ないし」
「……じゃあ、焼き鳥だ! 焼き鳥にるーびー!」
「るーびー?」
「あ、えと、ビール。班長の言い方がうつった」
「今日に至るまでの話も聞きたいな。彩人の奮闘記とか。カメラ番以外にも役割はあったんだろ?」
「後でな! それは飲みながら」
end.
++++
朝霞班当時の打ち上げってどうしてたのかなと考えた結果、朝霞Pが死んでたので多分やってないか後日開催だったんですね。
みちるはとにかくつばちゃんの後ろについてその行動様式を学習している様子。名ディレクターへの道は厳しい。まずはる~び~から。
サササイのあれこれ。ササが結構オープンと言うか、一刻も早く関係を確かな物だと確かめたかったのか。おうちまで待て
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「それじゃあ2日間、お疲れっした! 次にこの班で何か作るのは作品出展かな?」
「です! 9月が星ヶ丘の順番です」
「っつーことだから、時期が来たらマリンから招集がかかると思うんでよろしく。以上、解散!」
「お疲れさまでしたー」
2日間に亘る丸の池ステージが終わった。公園から機材やテントなどの道具を完全に撤収して、現在は大学にいる。2日間、俺はカメラ番としてステージを見るという仕事をしていた。ステージを知った上で、次こそやってやるぞっていう気持ちが強くなった。
戸田さんとみちるはこのまま飲みに行くらしい。2年生の先輩とお疲れモードの海月は直帰。俺は……戸田さんについてこうかなと、ひとまずスマホをチェックしたときだ。目に飛び込んで来た通知に、これは直帰せざるを得ないと方針を完全に転換した。リクから連絡が入っていたんだ。
「リク!」
「もしかして、結構急いで来てくれた感じ?」
「競輪選手かってくらいにはチャリ漕いでた」
「急がなくていいって言ったのに」
「お前は良くても俺は良くねーんだよ」
うちの近くの“髭”にいますと連絡があって、それを見た瞬間バーッと走り出してた。大学から自転車で一直線。ケーサツがいたら指導されるレベルの運転だっただろう。真面目に事故らなくてよかった。歩行者にぶつかってたら相手を殺してたかもしれない。
「せっかくだし、何か飲んだら? ステージお疲れさまって意味で、ごちそうさせて」
「……それじゃあ、お言葉に甘えて。たっぷりアイスコーヒーでも」
「そこで躊躇なくたっぷりを頼むところが好きだな、やっぱり」
「もう俺はお前のそのナチュラル口説きにはいちいち反応しない。いくら心臓があっても足りねーよ」
押し鈴で店員を呼びアイスコーヒーを注文して、しばしの間。話によれば、リクは俺たちのステージを見に丸の池公園に来ていたらしい。それでこの辺にいたのかと少し納得したんだけど、俺はカメラ番しかしてないのになと、もやもやしていて。
「1人でずっとステージ見てたのか? このクソ暑い中」
「シノと一緒に来てたんだ。合宿のペアの子がどんな風にステージに立ってるのかを見たいって言ってて」
「おー、シノも来てくれてたのか!」
「でも、アイツ熱中症とかで着くなりグロッキーになってさ。普通に焦った」
「え、大丈夫だったんか」
「親切な人が経口補水液と凍ったパウチのアクエリをくれて、それで何とか。ずっと見たかったけど、シノのことを考えて目当てだけ見てすぐ帰ったよ」
「へえ、親切な人がいたモンだな」
親切な人がくれた経口補水液と、冷却材代わりのアクエリで太い血管のある場所を冷やしながらの休憩でシノは何とか元気になったそうだ。暑いだろうとは思ってたけど、そこまでガツガツとした対策はしてなかったそうだから、完全にナメてたなと。
「若い男の人で、その人、友達みたいな人とステージを見ながらすげー分析してるみたいだったから、専門の人かって思ってちょっと引いた」
「あ!? それ、もしかして朝霞さんじゃね!? 背は俺よりちょっと小さいくらいで、今日の服装は白のポロシャツ。髪の色素とかちょっと薄い感じで」
「あー、言われたらそんな感じだったかも」
「隣の部屋に住んでる先輩だよ! 俺たちに差し入れでスポドリとかくれたんだけど、もうそこで熱中症の人いたからお前たちも気を付けろーって」
シノを介抱しながらわたわたしていたリクに助け舟を出してくれたのが多分朝霞さんだったんだろうなって思ったら、何かちょっと嬉しくなってくるな。リクはステージそのものよりもステージを見てる人の方を見ていたかもしれないと振り返っている。
「彩人、アイスコーヒー」
「どーも」
「それじゃあ改めまして、お疲れさまでした」
「あざーす」
「で、本題」
「……本題な。俺たちの関係の話な」
「ですね」
「でも、ここで出来るかって言ったら、ぶっちゃけちょっと。多分俺ヒートアップするし。コーヒー飲んだらうちに来ないか? 本題はそこで、ってことで」
「じゃあ、そうしようか。でも、ただ今をもって、交際関係に入ったことにはしていい?」
「それは、いいです。はい」
こないだリクから告られて、付き合うか付き合わないかの話は「ステージが終わったら付き合う」と先送りにしてたんだよな。で、ステージが終わって至る今だ。何とか式の開会宣言みたいな感じでリクとの付き合いが始まったっぽいんだけど、家でちゃんと話はまとめておかないと。
「晩飯どうしよう。ちょっと豪勢にしたいなー。肉か? ビール飲みてーなー! え、飲みに行く? 行っちゃう?」
「俺は何でも」
「何でもが一番困る。ちなみに今日の俺は作る気力なんかないとは言っとくぞ!」
「じゃあ、飲みに行くか。でも、店は彩人に任せる。俺、土地勘ないし」
「……じゃあ、焼き鳥だ! 焼き鳥にるーびー!」
「るーびー?」
「あ、えと、ビール。班長の言い方がうつった」
「今日に至るまでの話も聞きたいな。彩人の奮闘記とか。カメラ番以外にも役割はあったんだろ?」
「後でな! それは飲みながら」
end.
++++
朝霞班当時の打ち上げってどうしてたのかなと考えた結果、朝霞Pが死んでたので多分やってないか後日開催だったんですね。
みちるはとにかくつばちゃんの後ろについてその行動様式を学習している様子。名ディレクターへの道は厳しい。まずはる~び~から。
サササイのあれこれ。ササが結構オープンと言うか、一刻も早く関係を確かな物だと確かめたかったのか。おうちまで待て
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