2020(02)
■2年後の今日までに
++++
「はーっ……はーっ……」
「海月、大丈夫か」
「何も、覚えて、ない。終わった? 問題は? 私、やれてた?」
「やれてた。お前はちゃんと、やれてたよ」
目を見開き、肩で呼吸をする海月の様子は、戦いを終えた後も興奮が尾を引いているように見える。星ヶ丘放送部の一大イベント、丸の池ステージの自分たちの枠をやり終えて、ステージから降りた途端こうだ。
腰が抜けたのか、自力で歩くこともままならない海月を木陰に連れて行き、飲み物を与える。いくらグレイトフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズを自称していても、所詮は初ステージの1年生、ド素人のMCだ。今日に至るまで、海月がどれだけの緊張感と戦っていただろうか。俺には想像もつかない。
俺は駆け出しのプロデューサーとして、ステージを見るということが一番大事な仕事だとマリンさんから説かれていた。全体を広く捉える視野を持つこと、特に俺の場合はステージというものを知ることが今後に繋がるのだと。そしてその一環としてカメラ番をしていた。
カメラの画角越し、それから自分の目で見たステージ。凄かった。想像だけは過去の台本を読んで一丁前に膨らませていたのだけど、そんなモンは優に越えて行きやがった。大迫力の音響に、舞台装置。これらが加わることによる臨場感。俺はまだまだプロデューサーとしては頭が固いようだ。
「ステージの上に、立つと、下が、全部見えて。見られてる、と思ったら、頭の毛穴がゾワッとして。暑いのに、寒くて。喋ること、一瞬飛んで」
「一瞬飛んだっつっても、そんな目立つブランクにはなってなかったし、大丈夫大丈夫」
「なんか、今も、心霊体験したみたいな、ゾワゾワ、してて」
「体は大丈夫か? 熱中症とか。緊張も多分体調には影響するし」
「それは、多分、大丈夫。ステージが終わって、ちょっとずつ、落ち着いてる。でも、本当に何も、覚えてない」
戸田さんとみちる、それからゴローさんは自分たちの使った小道具などを片付けていて、もうしばらく忙しいようだった。マリンさんはまた別の仕事をしているとか。後で反省会があるみたいだけど、海月はこの調子で大丈夫かって思う。まだ明日もあるんだぞ。吹っ切れてくれればいいけど。
「なあ海月」
「なに?」
「下から見てると、お前はホントに凄かった。お前は何も覚えてないかもしれないけど、フツーにステージ回してる先輩たちと比べても全然負けてねーよ」
「……彩人に、そんな風に言われるとか。……気持ち悪っ」
「フツーに2年生とか3年生の人らと同等のことをこなしてるお前と、まだまだ駆け出しのPとしてカメラ番くらいしかすることのない俺だろ? お前はすげーなと思う。でも、正直俺は悔しいし、お前には負けてられないとも思ってる」
1年だからカメラ番くらいしか仕事がなくても当然と言えば当然なのかもしれない。だけど、1年生もガツガツ動かなければステージが回らないと言われていたのに、カメラの前に座ってるだけで終わってしまった。確かに頭脳労働はしていたけど、すげー物足りない。やったっていう実感がないんだ。
朝霞さんに師事を受けながら密かに書いていたステージの台本は、結局まだ戸田さんに見せていない。出してないんだから俺がどれだけ出来るのかっていうのを理解されなくても当然だ。やらずに後悔するってのはこのことかと。知らないなりにやってみたんですけど、と言えていたなら。
「でも、彩人は、普段から、ステージのこと、自分でちゃんと考えてるよね。私は、まだ、与えられた物を、そのままやるしか出来ないし」
「海月、お前が強がらなくても、ちゃんと素でグレイトフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズであれるような本は、俺が書く。俺がお前を真の意味でちゃんと、自己もありつつ人を立てられる、そんなMCにしてみせる。2年後の今日までには、必ずだ」
「うん。ありがとう。……頑張る」
「ま、その前に俺も成長しなきゃな。ステージやるなら一番努力しなきゃいけないのはプロデューサーだし。まずはPとしての信頼を勝ち得ないと」
プロデューサーが死ぬほど努力してやれることを増やさないと、他のパートの人の能力を殺してしまうし、ステージを見てくれる人を最大限楽しませることが出来なくなってしまう。そう教わる前からそのようにありたいとは思っていた。だから、まずは俺が頑張る。
「実際のステージを見た以上、知らないってのはもう言い訳に出来ないんだ。明日からがガチな勝負だ」
「でも、明日はまだカメラ番でしょ?」
「うるせえよ! パッと見はカメラ番でも俺の頭の中ではどういう企画をやろうかっていうのをフル回転して考えててだな」
「おーい、彩人、海月、反省会やるよー」
「はーい! ほら海月、行くぞ。立てるか」
「ん。はー、急に立ったらふらふらする」
「おい、冗談じゃねーぞ。大丈夫か」
「平気! 今行きまーす!」
end.
++++
戸田班の初めてのステージが終わり、最前線、ステージ上で頑張っていた海月と駆け出しPでカメラ番、彩人のお話。
グレミューとしてのキャラを結構頑張って維持してる海月は、無我夢中で何とかステージをこなしたという感じ。いつ崩れてもおかしくない状態で。
そんな彼女をプロデューサーとして、あと2年、支え、引っ張っていくのは自分だと彩人は思ったわけですね。いいコンビになるといいね。
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「はーっ……はーっ……」
「海月、大丈夫か」
「何も、覚えて、ない。終わった? 問題は? 私、やれてた?」
「やれてた。お前はちゃんと、やれてたよ」
目を見開き、肩で呼吸をする海月の様子は、戦いを終えた後も興奮が尾を引いているように見える。星ヶ丘放送部の一大イベント、丸の池ステージの自分たちの枠をやり終えて、ステージから降りた途端こうだ。
腰が抜けたのか、自力で歩くこともままならない海月を木陰に連れて行き、飲み物を与える。いくらグレイトフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズを自称していても、所詮は初ステージの1年生、ド素人のMCだ。今日に至るまで、海月がどれだけの緊張感と戦っていただろうか。俺には想像もつかない。
俺は駆け出しのプロデューサーとして、ステージを見るということが一番大事な仕事だとマリンさんから説かれていた。全体を広く捉える視野を持つこと、特に俺の場合はステージというものを知ることが今後に繋がるのだと。そしてその一環としてカメラ番をしていた。
カメラの画角越し、それから自分の目で見たステージ。凄かった。想像だけは過去の台本を読んで一丁前に膨らませていたのだけど、そんなモンは優に越えて行きやがった。大迫力の音響に、舞台装置。これらが加わることによる臨場感。俺はまだまだプロデューサーとしては頭が固いようだ。
「ステージの上に、立つと、下が、全部見えて。見られてる、と思ったら、頭の毛穴がゾワッとして。暑いのに、寒くて。喋ること、一瞬飛んで」
「一瞬飛んだっつっても、そんな目立つブランクにはなってなかったし、大丈夫大丈夫」
「なんか、今も、心霊体験したみたいな、ゾワゾワ、してて」
「体は大丈夫か? 熱中症とか。緊張も多分体調には影響するし」
「それは、多分、大丈夫。ステージが終わって、ちょっとずつ、落ち着いてる。でも、本当に何も、覚えてない」
戸田さんとみちる、それからゴローさんは自分たちの使った小道具などを片付けていて、もうしばらく忙しいようだった。マリンさんはまた別の仕事をしているとか。後で反省会があるみたいだけど、海月はこの調子で大丈夫かって思う。まだ明日もあるんだぞ。吹っ切れてくれればいいけど。
「なあ海月」
「なに?」
「下から見てると、お前はホントに凄かった。お前は何も覚えてないかもしれないけど、フツーにステージ回してる先輩たちと比べても全然負けてねーよ」
「……彩人に、そんな風に言われるとか。……気持ち悪っ」
「フツーに2年生とか3年生の人らと同等のことをこなしてるお前と、まだまだ駆け出しのPとしてカメラ番くらいしかすることのない俺だろ? お前はすげーなと思う。でも、正直俺は悔しいし、お前には負けてられないとも思ってる」
1年だからカメラ番くらいしか仕事がなくても当然と言えば当然なのかもしれない。だけど、1年生もガツガツ動かなければステージが回らないと言われていたのに、カメラの前に座ってるだけで終わってしまった。確かに頭脳労働はしていたけど、すげー物足りない。やったっていう実感がないんだ。
朝霞さんに師事を受けながら密かに書いていたステージの台本は、結局まだ戸田さんに見せていない。出してないんだから俺がどれだけ出来るのかっていうのを理解されなくても当然だ。やらずに後悔するってのはこのことかと。知らないなりにやってみたんですけど、と言えていたなら。
「でも、彩人は、普段から、ステージのこと、自分でちゃんと考えてるよね。私は、まだ、与えられた物を、そのままやるしか出来ないし」
「海月、お前が強がらなくても、ちゃんと素でグレイトフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズであれるような本は、俺が書く。俺がお前を真の意味でちゃんと、自己もありつつ人を立てられる、そんなMCにしてみせる。2年後の今日までには、必ずだ」
「うん。ありがとう。……頑張る」
「ま、その前に俺も成長しなきゃな。ステージやるなら一番努力しなきゃいけないのはプロデューサーだし。まずはPとしての信頼を勝ち得ないと」
プロデューサーが死ぬほど努力してやれることを増やさないと、他のパートの人の能力を殺してしまうし、ステージを見てくれる人を最大限楽しませることが出来なくなってしまう。そう教わる前からそのようにありたいとは思っていた。だから、まずは俺が頑張る。
「実際のステージを見た以上、知らないってのはもう言い訳に出来ないんだ。明日からがガチな勝負だ」
「でも、明日はまだカメラ番でしょ?」
「うるせえよ! パッと見はカメラ番でも俺の頭の中ではどういう企画をやろうかっていうのをフル回転して考えててだな」
「おーい、彩人、海月、反省会やるよー」
「はーい! ほら海月、行くぞ。立てるか」
「ん。はー、急に立ったらふらふらする」
「おい、冗談じゃねーぞ。大丈夫か」
「平気! 今行きまーす!」
end.
++++
戸田班の初めてのステージが終わり、最前線、ステージ上で頑張っていた海月と駆け出しPでカメラ番、彩人のお話。
グレミューとしてのキャラを結構頑張って維持してる海月は、無我夢中で何とかステージをこなしたという感じ。いつ崩れてもおかしくない状態で。
そんな彼女をプロデューサーとして、あと2年、支え、引っ張っていくのは自分だと彩人は思ったわけですね。いいコンビになるといいね。
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