2020(02)

■Play music and games!

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「はー……いいわー、ちょっ、もう1曲お願いします! 出来れば女性ボーカルの曲で!」
「ええー……わかったけど」

 どうしてこんなことになっているのやら。うちは今、朝霞に声を掛けられて近所のカラオケに来ている。そもそも何で豊葦に朝霞がいるのかという話になってくるのだけど、話せば長くなるらしい。朝霞、それから美奈の友達のリンさんがいて、後は星ヶ丘の男が2人いる。
 カラオケにやってきたまではよかった。朝霞に勧められるがままに1曲歌うと、カンノという小さくてウルサイ方の男がやたらぐいぐい食い付いてきた。どこまで声が出るんだとか、違う感じの曲も歌えるかとか。周りの連中が奴を一応止める素振りを見せたけど、カンノはこうなると止まらない性質の男らしい。

「ちょっと休憩いいか? さっきからずっと歌いっぱなしだし」
「あーね。それじゃあ歌ってもらってるしドリバー何か持ってこよか?」
「それじゃあ、リアルゴールドで頼む」
「あいよー! あ、ついでにキョージュに連絡してくるわ」

 ――と、カンノが部屋を出ていけば、部屋の緊張感がぷつんと途切れる。完全に巻き込まれた形になっているうちに対し、朝霞とリンさんは労いとか哀れみの目を向ける。カンノの相棒であるスガノは、カンが申し訳ないと相方の不躾な行動を詫びている。

「朝霞、何なんだこれは。と言うか、お前たち4人のカラオケだったはずなのに、何でうちばっかり歌わされてるんだ」
「菅野は音楽を作るのが趣味で、あらゆるものからインスピレーションを得るんだよ。最近は歌物の曲も作り始めたんだけど、そこになっちっていう女性ボーカルが彗星のごとく現れてテンション爆上げしてるって感じかと。ちなみに俺もこないだ無限に歌わされてる」
「ええー……音楽を作る趣味なのはいいけど、何でうちの歌でテンション爆上げになるんだ」
「菜月、この調子で行くとお前がレコーディングに巻き込まれる日もさほど遠くないぞ」
「えっ、ちょっ、リンさん!? レコーディングって何の話ですか!?」
「この件は口外しないで欲しいのだが、オレたちはUSDXというゲーム実況グループをやっている」
「USDX? 聞いたことあるな。あー……えーと…? あっ! ツミツミ動画のUSDX!?」
「ソルツミで認知されてるだと…!?」

 ノサカから紹介されたツミツミ動画を上げているゲーム実況グループ、USDX。6人いるうちの4人が今このカラオケに来ている面々だそうだ。実況動画で使っているBGMや効果音などはカンノが作っていて、その一環で最近アルバムを出したそうだ。
 一連の企画で、歌物のアルバムを出すことも決まっている。グループのメインボーカルを務めるのはツミツミ動画を上げているソルさんと朝霞になる予定だとか。音楽活動の拠点は、何とうちの住むマンションの向かいに建つ大きな一軒家。
 今日も歌物アルバムの話をするためにあの家に集合していたところ、うちが通りかかってカラオケに誘われたと。何かとんでもないことに巻き込まれたんじゃないかと思うけど、周りには話したところでめんどくさくなりそうな奴しかいないし黙っておくほかない。

「ただいま! ほら菜月、リアルゴールド!」
「どうも」
「あれ、どーした? 何か変な空気だけど」
「いや、菜月さんに今USDXのことを説明してたら、まさかのソルツミで認知してたらしくて」
「は!? USDXと言えばソルツミみたいなこと!? はー、捨てたモンじゃねーんだなソルツミも」
「あの人のツミツミには本当に無駄がないし、上手いんだ。あの再生リストをBGMにしてただただ自分もツミツミをするっていう、最近はそんな休日の過ごし方をしてて」
「あの再生リストにそんな需要があったとは……」

 USDXのツミツミ動画はソルさんという人がただただ何の編集をするでもなく上げているプレイ動画なんだけど、うちはあの人の動画を参考にずっとツミツミの練習をしていたんだ。余計なことを話すでもなく、プレイが上手いからずっと流していられて。

「なっちってLINEやってたんだな」
「繋がってる人数はそんなに多くないんだ。ノサカと圭斗、美奈、あと大石と塩見さんくらいで」
「前半はわかるけど、後半の2人が何か意外だな」
「それこそ2人ともツミツミ友達って感じで繋がってる」
「えっ、菜月ってソルのこと知ってんの?」
「ん?」
「あ、えっと、なっちが見てるツミツミ動画のソルさんの中の人って、塩見さんなんだよ」
「ナ、ナンダッテー!? 塩見さんも塩見さんで雲の上の存在だと思ってたけど、まさかの同一人物!?」
「菅野、ちなみになっちも俺と一緒に塩見さんの会社でバイトしてた経験があるんだ。だから塩見さんとは普通に顔見知りで」
「はっ…! 降って来たぞ!」
「カン、何が降って来た」
「ソルと菜月のツミツミプレイ動画を流しつつ、何か歌おう! A Whole New WorldとかBeauty and the Beastとか! そうと決まれば練習だ! 菜月~、A Whole New World入れて~、ソルがいねーから朝霞~、お前が歌え~」
「何か巻き込まれた……」

 4人の打ち合わせ時間になるまで本当に延々と歌わされ続けたし、不穏な話もちょっとありつつ、まさかなという気持ちが大きい。でも、そうか。あの中の人が塩見さんなのか。そりゃ上手いワケだ。……レコーディング…? まさかな。


end.


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カラオケでカンDが好き勝手するシリーズの第2弾です。第1弾はフェーズ1でやってました。
Pさんと菜月さんはインターフェイスのカラオケでも一緒にいろいろ歌ってたので、誘われたときに「いいね」ってなったのかしら。
で、きっとリン様の予言が当たりそうな気がするんだよなあ、家の場所も割れちゃってるし。頑張れ菜月さん。

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