2020(02)
■未知の凪の中で
++++
「穏やかですねえ」
「穏やかだねえ。多分、これが普通なんだろうけど、穏やかだねえ」
「穏やかですねえ」
今日はテストが終わったら、明後日にあるステージ前最後のリハーサルというのが行われる。そのリハーサルもリハとは名ばかりで軽く流れを押さえるだけらしいんだけど。テスト期間の週末にステージが被ってると、どうしてもガッツリと準備が出来ないらしい。
戸田さんと、ゴローさんがしみじみとしている。星ヶ丘大学では絶賛テスト期間中で、マリンさんや海月、みちるは現在テスト中。今日のテストが終わっているこの3人で準備や確認をしているのだけど、先輩たちの顔がどこか緩いと言うか。
「穏やか、っすか? 周りの班とかめっちゃバタバタしてますけど」
「懐古厨みたいな発言するけどさ、朝霞班の時ってこんなモンじゃなかったのよ、慌ただしさが」
「そうですねえ。この段階でまだ台本に手直しが入りますからねえ」
「いやー、それくらいがちょうどいいよ。直前まで足掻いてるあの感じ。こうやって悠々と構えてると、やることがなさ過ぎて落ち着かない」
「それはちょっとわかります。本来はこうやって構えてるべきなんでしょうけど、実は俺も落ち着きません」
この班は、戸田班になる前は朝霞班という名前で活動していた。その朝霞班出身の2人が「やることがなさ過ぎて落ち着かない」と言っているようだった。戸田班でやる最初のステージの台本を書いたのは、宇部班出身のマリンさんだ。
マリンさんは台本を書き上げてからの修正が数えるくらいしかなく、準備や練習も淡々と進んでいた。使う音源や小道具の制作も、それはもうそつがなく。俺は準備段階ではゴローさんと一緒に小道具作りとかを主にやってたかな。
一方、朝霞さんは一応台本を書き上げはするけれど、そこから直前まで修正を加え続けていたそうだ。さすがに本番に近付くにつれ修正の幅は準備した物に影響が出ない程度になっていたそうだけど、3日前に大どんでん返しが来るとかもザラだったとか。
去年は1年生だったゴローさんに対する気遣いで朝霞さんのそれも比較的抑えめだったそうだ。戸田さんからすれば去年の感じでもちょっと物足りなかったそうだから、育って来た環境の違いって怖いなと思う。戸田さんは常にバタバタ走り回っていたいのかと。
「やっぱ直前まで準備に奔走してるモンなんすか?」
「いや、マリンのスタンスもこれはこれで正しいんだよ。慣れた人間だけならともかく班員の半分が1年3人だし。だけど、まだ何か見直せるところがあるような気がしちゃうんだよね」
「プロデューサーが違えばこんなにもやり方が変わるのかと思いますね」
「それでも班のカラーっていうのはあるんだよ。同じ班で育った人間だったらそこまで大きくは変わんないはずだ。朝霞班と宇部班って言っちゃえば正反対のカラーじゃん。そこはアタシらが順応すりゃいいだけのコトだからね、ゲンゴロー」
「そうですね。まあ、朝霞班の経験があれば何でも出来るとは思いますし、大丈夫ですよね」
朝霞さんからも「自分は班員の能力に甘えて直前まで平気でムチャ振りをしていた」という風には聞いていたけど、それは少しでもいいステージにしたいがためだったそうだ。本当にステージの直前まで思考を巡らせ、台本をずっと見直していた、と。
「戸田さん、質問いいすか」
「いいよ。何?」
「今回のステージを主に仕切ってるPはマリンさんだからマリンさんのカラーでやってる感じっすよね」
「そうだね」
「そしたら、仮に次のステージを俺が主に仕切るような感じになれば、俺のカラーでやれるってことすか」
「理論上そうなるわな。ただ、班長の指示には従ってもらうけどね」
「それはもちろんっす」
「彩人、狙ってんのか」
「……もちろん」
自分でもステージの台本のような物は書いてみている。朝霞さんに師事を仰ぎながら過去の台本を噛み砕き、自分なりに何とか。ただ、実際のステージを見たことがないというのはかなりのハンディで、まだ表には出せないなという感じ。海月をMCに据えること前提でアイツのいろんなデータを取ってはいるんだけど。
それでもまだ救いがあるなと思うのは、実際にステージでやるのはより良い本というスタンスだ。学年や経験に関係なく、競争によって採用する方が決まると戸田さんは明言した。大体の班では下の学年の人間は先輩の下に付いて修行するのが基本だったそうだけど、そうやって競争させてもらえることがありがたい。
「まあそうだわね。じゃなきゃわざわざ朝霞サンについて修行なんかしないっしょ。海月のデータを取ってみたり、やってることが完全に朝霞サンのそれだ」
「朝霞さんについて修行はしてますけど、もちろん俺は俺のやり方を模索します」
「じゃなきゃ困るよ」
「そうっすよね」
「とりあえず今回のステージではカメラ番しながらステージを広い視野で見て勉強して。台本を書く機会はステージの他にも作品出展とかワンチャンあるんだ。機会を逃すなよ」
「はい」
今回はカメラ番とか裏の仕事をするけど、今後の機会を虎視眈々と狙って行く。プロデューサーとしてステージの企画や演出をしたくて俺はこの部に入って、ガツガツ自分から動けそうだから戸田班に入ったんだ。ただ見ているだけじゃ終われない。
「さーて、そろそろテスト終わった連中が来始めるかな?」
end.
++++
つばちゃんとゲンゴローがステージ前なのにちょっとした物足りなさを覚えているようだけど、これが普通なんだぞ!
やっぱり彩人は虎視眈々と修行を続けているようで、台本を書いてみてはいるものの、まだまだ実際のステージのイメージが付いていない様子。
あれっ、とうとう戸田班はステージの映像を残すことになったのね! 人数が増えたからこそ出来るようになったのかな?
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「穏やかですねえ」
「穏やかだねえ。多分、これが普通なんだろうけど、穏やかだねえ」
「穏やかですねえ」
今日はテストが終わったら、明後日にあるステージ前最後のリハーサルというのが行われる。そのリハーサルもリハとは名ばかりで軽く流れを押さえるだけらしいんだけど。テスト期間の週末にステージが被ってると、どうしてもガッツリと準備が出来ないらしい。
戸田さんと、ゴローさんがしみじみとしている。星ヶ丘大学では絶賛テスト期間中で、マリンさんや海月、みちるは現在テスト中。今日のテストが終わっているこの3人で準備や確認をしているのだけど、先輩たちの顔がどこか緩いと言うか。
「穏やか、っすか? 周りの班とかめっちゃバタバタしてますけど」
「懐古厨みたいな発言するけどさ、朝霞班の時ってこんなモンじゃなかったのよ、慌ただしさが」
「そうですねえ。この段階でまだ台本に手直しが入りますからねえ」
「いやー、それくらいがちょうどいいよ。直前まで足掻いてるあの感じ。こうやって悠々と構えてると、やることがなさ過ぎて落ち着かない」
「それはちょっとわかります。本来はこうやって構えてるべきなんでしょうけど、実は俺も落ち着きません」
この班は、戸田班になる前は朝霞班という名前で活動していた。その朝霞班出身の2人が「やることがなさ過ぎて落ち着かない」と言っているようだった。戸田班でやる最初のステージの台本を書いたのは、宇部班出身のマリンさんだ。
マリンさんは台本を書き上げてからの修正が数えるくらいしかなく、準備や練習も淡々と進んでいた。使う音源や小道具の制作も、それはもうそつがなく。俺は準備段階ではゴローさんと一緒に小道具作りとかを主にやってたかな。
一方、朝霞さんは一応台本を書き上げはするけれど、そこから直前まで修正を加え続けていたそうだ。さすがに本番に近付くにつれ修正の幅は準備した物に影響が出ない程度になっていたそうだけど、3日前に大どんでん返しが来るとかもザラだったとか。
去年は1年生だったゴローさんに対する気遣いで朝霞さんのそれも比較的抑えめだったそうだ。戸田さんからすれば去年の感じでもちょっと物足りなかったそうだから、育って来た環境の違いって怖いなと思う。戸田さんは常にバタバタ走り回っていたいのかと。
「やっぱ直前まで準備に奔走してるモンなんすか?」
「いや、マリンのスタンスもこれはこれで正しいんだよ。慣れた人間だけならともかく班員の半分が1年3人だし。だけど、まだ何か見直せるところがあるような気がしちゃうんだよね」
「プロデューサーが違えばこんなにもやり方が変わるのかと思いますね」
「それでも班のカラーっていうのはあるんだよ。同じ班で育った人間だったらそこまで大きくは変わんないはずだ。朝霞班と宇部班って言っちゃえば正反対のカラーじゃん。そこはアタシらが順応すりゃいいだけのコトだからね、ゲンゴロー」
「そうですね。まあ、朝霞班の経験があれば何でも出来るとは思いますし、大丈夫ですよね」
朝霞さんからも「自分は班員の能力に甘えて直前まで平気でムチャ振りをしていた」という風には聞いていたけど、それは少しでもいいステージにしたいがためだったそうだ。本当にステージの直前まで思考を巡らせ、台本をずっと見直していた、と。
「戸田さん、質問いいすか」
「いいよ。何?」
「今回のステージを主に仕切ってるPはマリンさんだからマリンさんのカラーでやってる感じっすよね」
「そうだね」
「そしたら、仮に次のステージを俺が主に仕切るような感じになれば、俺のカラーでやれるってことすか」
「理論上そうなるわな。ただ、班長の指示には従ってもらうけどね」
「それはもちろんっす」
「彩人、狙ってんのか」
「……もちろん」
自分でもステージの台本のような物は書いてみている。朝霞さんに師事を仰ぎながら過去の台本を噛み砕き、自分なりに何とか。ただ、実際のステージを見たことがないというのはかなりのハンディで、まだ表には出せないなという感じ。海月をMCに据えること前提でアイツのいろんなデータを取ってはいるんだけど。
それでもまだ救いがあるなと思うのは、実際にステージでやるのはより良い本というスタンスだ。学年や経験に関係なく、競争によって採用する方が決まると戸田さんは明言した。大体の班では下の学年の人間は先輩の下に付いて修行するのが基本だったそうだけど、そうやって競争させてもらえることがありがたい。
「まあそうだわね。じゃなきゃわざわざ朝霞サンについて修行なんかしないっしょ。海月のデータを取ってみたり、やってることが完全に朝霞サンのそれだ」
「朝霞さんについて修行はしてますけど、もちろん俺は俺のやり方を模索します」
「じゃなきゃ困るよ」
「そうっすよね」
「とりあえず今回のステージではカメラ番しながらステージを広い視野で見て勉強して。台本を書く機会はステージの他にも作品出展とかワンチャンあるんだ。機会を逃すなよ」
「はい」
今回はカメラ番とか裏の仕事をするけど、今後の機会を虎視眈々と狙って行く。プロデューサーとしてステージの企画や演出をしたくて俺はこの部に入って、ガツガツ自分から動けそうだから戸田班に入ったんだ。ただ見ているだけじゃ終われない。
「さーて、そろそろテスト終わった連中が来始めるかな?」
end.
++++
つばちゃんとゲンゴローがステージ前なのにちょっとした物足りなさを覚えているようだけど、これが普通なんだぞ!
やっぱり彩人は虎視眈々と修行を続けているようで、台本を書いてみてはいるものの、まだまだ実際のステージのイメージが付いていない様子。
あれっ、とうとう戸田班はステージの映像を残すことになったのね! 人数が増えたからこそ出来るようになったのかな?
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