2020(02)

■サプライズとワガママ

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「さあ朝霞クン、二次会だよ~」
「お~」

 店ですでにちょっといい感じになりつつあった朝霞クンと、彼の部屋に帰る。今日は元々朝霞クンの部屋でも飲む予定だったし、ちょっとぐだぐだになるのも予定通りだから、何の問題もなし。いつも通りで助かるよね。

「そうだ山口、飲み直すんだったら、台所に枝豆があるんだ、茹でてくれ」
「これのこと? 葉っぱとか付いたままだけど随分野性的な――って、メグちゃんもとい、日野ちゃんの野菜だね?」
「そうだな。お前と一緒に飲みながら食べようと思って、いっぱいキープしといたんだ。他の野菜は彩人とみちると分けたんだけど」
「そっか、彩人クンお隣さんだっけ」
「今日お前が来ることは言ってあるから、多少の話し声くらいなら問題ない」
「それじゃあ遠慮なく。でも、ステージ前のプロデューサーがそれされたら、朝霞クンだったら怒ってるよね?」
「いや、ステージ前に隣人とか気にしないだろ」
「そうでした」

 日野ちゃんが育てすぎて分配された枝豆を下拵えしつつ、他の野菜はどんな感じかなと見繕う。店だとやっぱり濃い味の物がメインになるし、あっさりと野菜もちょっと食べたいかなと。一応じゃこたまごかけごはんで閉めてはあるんだけど。
 ひと月振りくらいに来た朝霞クンの部屋は、相変わらず物でごちゃごちゃしている。片付けてもらった結果のこれだから、やっぱり基本的に物が多いんだよね。それから、部屋も微妙に模様替えされてる。大きく変わったのはパソコンの位置。

「そう言えば朝霞クン、ギターは上手になった?」
「まだまだ全然。ちょこちょこ弾くのは出来るようになってきてるけど」

 それから、朝霞クンの大きな変化と言ったら、やっぱりこれ。ギター。カンノ君がギターをやれって言ってきて無理矢理始めさせられた練習だけど、それでも真面目に取り組んでる辺りが朝霞クンだなって。
 俺は音楽のコトはあんまりよくわかんないけど、対策委員時代に議長サンがレフティのギタリストとかベーシストを見ると「おっ」て思うって言ってたし、朝霞クンも結構珍しい部類のギタリストになるんだね~って。

「はい、枝豆で~す。それじゃあ改めて、かんぱーい」
「乾杯。……っあー、美味い!」
「そうだ朝霞クン」
「ん?」
「プレゼント贈呈の時間で~す」
「えっ、さっきの皮の串じゃなくてか」
「ちゃんとしたのも用意してます~。はい、これ」
「開けていいか?」
「もちろん」

 俺の誕生日には、朝霞クンからキッチンで使うガラス容器のセットをもらった。俺が前々からこういうのがあったら家での料理練習も捗るだろうな~って言ってたのを反映してもらった形で。だから俺も、俺だからわかる朝霞クンの欲しい物を突こうって。

「うわあ……お前これ、高かったんじゃないのか」
「朝霞クンが俺にくれたのと同じくらいのだよ。本当にいいのだったら何万もするけど、そんなのはまだ買えないし。でも、これをとっかかりにしてもらって、朝霞クンにはよりいい物を書いてもらえればと」
「そうか。うん、ありがとう。大事に使います。試し書きしよう」

 俺が朝霞クンにあげたのは、万年筆とインク。俺がもらったガラス容器のセットが6000円くらいだったから、俺も同じくらいの値段の物を探して、買ったよね。朝霞クンと言ったらやっぱり書く人だから、絶対使ってもらえるかなって。
 それに朝霞クンは文房具とか筆記具とか大好きなんだよね。万年筆に憧れてたのも知ってる。1000円くらいで買えるカジュアルなのもあるけど、でも俺が朝霞クンにはもうちょっといいのを使って欲しいなって思って。

「……おい山口」
「なに?」
「この万年筆、何気に左利き用なんじゃないのか。めちゃくちゃ書きやすいぞ」
「おー、さぁっすが朝霞クン、違いのわかる男~。一瞬でバレちゃったね。たまたまネサフしてたらさ、万年筆にも左利き用のがあるって見つけてさ。即ポチったよね」
「マジか。俺も知らなかった。……ふふっ」
「どしたの」
「いや、嬉しいなと思って。どうしよう、にやにやが止まらない。今度からこれを見る度お前のことを思い出して、俺も頑張らないとって、精が出るな」
「朝霞クン、そーゆーのは俺にじゃなくて、あずさチャンにとっといてあげるの」
「アイツとはまた別日に会うことになってるからいいんだよ。それにお前は将来を誓い合った誰より大事な親友だ。誰かと比較出来る存在じゃない」
「あの、すご~く嬉しいけど、酔ってます? シラフでそういうことを言う人じゃない、よね~…?」
「あ、野菜はどれをどんだけ使っても良いけど、ジャガイモとトマトは、残しといてな。今度、伏見がポテトパイを作ってくれるんだ。誕生日のワガママなんだよ。ジャガイモとトマトは残しといてな。ポテトパイの材料だから。誕生日だからな。ジャガイモと、トマトな。アイツ、優しいからな。俺のワガママ聞いてくれるんだよ」

 普段は素っ気ないように見えるけど、お酒を飲むとやっぱり暴かれるね、朝霞クン。何だかんだ言ってもそれなりにあずさチャンのことは好きなんだね~。ただ、普段がああだからあずさチャン本人には全っ然! 伝わんないけど。

「アイツは料理出来て、優しくて、映画と読書が趣味で、書く物も良いんだぞ。最近は自信もついてきて、芯が出てきたって言うか」
「そうなんだね~。朝霞クン、あずさチャンが好きなんだね~」
「好きか嫌いかで言えば、好きだぞ」
「またまた~、照れ隠しでしょ~?」

 ……今度俺から大石クンにリークしよっか、連絡先知らないけど。議長サンか伊東クンに聞こっか。


end.


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やまよだからこそここまでぐだっぐだになるPさん。暴かれてますね、ふしみん本人には全然伝わらないけど。
やっぱり、お酒が入ってるとPさんは普段よりも緩みますねいろいろ。将来お酒で失敗しないように気を付けましょうね
そういややまよとちーちゃんて確かにあんまり絡みがないですね。接点もそんなにないしそんなモンよね。飲み会など星大さんへの連絡は兄さん経由か。

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